goo

『アンジェラの灰』(読書メモ)

フランク・マコート著(土屋政雄訳)『アンジェラの灰』新潮社

自身のアイルランド少年時代を綴った回想録。ピューリッツァー賞を受賞し、映画化もされた名作である。なぜかブックオフの100円コーナーにあったので購入した。

たまたま、ジェイムズ・ジョイスの「ダブリナーズ」やネルソン・デミルの「ニューヨーク大聖堂」といったアイルランドもの(?)を読んでいたせいもあり、本書から、劣等感と誇りが複雑に混ざり合ったアイルランド人気質が伝わってきた。

誇り高いが飲んだくれのお父さんと、信仰深いお母さんのもと、たくましく生きていくフランク少年。極貧の生活の中で、兄弟姉妹が病気で次々と亡くなってしまうにもかかわらず、失業手当も飲んでしまうお父さん。それでもなぜか家庭は温かい

フランクの次の言葉が心に残った。

「パパは三位一体みたいだと思う。パパの中には三人のパパがいる。新聞を読んでいる朝のパパ、お話とお祈りをしてくれる夜のパパ、悪いことをして、ウイスキーの臭いをさせて帰り、アイルランドのために死ぬと約束させる真夜中のパパ。パパが悪いことをするのは悲しい。でも、ぼくはパパを見捨てられない。朝のパパがほんとうのパパだと思うから。」(p.322)

お父さんが失業手当も飲んでしまうので、お母さんのアンジェラは教会の貧民救済所で食べ物や衣服をめぐんでもらう。感動したのは次の場面。

「学校から家に帰ると、ママが暖炉の前にすわり、子供連れの女の人とおしゃべりしていることがある。ぼくたちの全然知らない人だけど、決まって子供連れの女の人だ。通りをうろついているのをママが見つける。何ペニーか恵んでいただけませんか、奥さん。乞われて、ママの心が痛む。ママにはお金なんかない。だから家に呼んで、お茶と揚げパン一かけらを振る舞う。天気の悪い夜には暖炉の前にぼろを敷き、そこに寝かせてやる。ぼくたちが文句をいうと、同じパンでも、お前たちとあの人たちでは必要度が違う、という。世の中には、うちよりもっと貧乏な人がいるんだよ。もってるものを少しくらい分けてやったって、うちは死にやしない。」(p422)

遠いアイルランドの話だし、これほどの貧困は少ない日本なのだけれど、なぜか身近なことが書かれているように感じた。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )