人類が初めて宇宙へ行って約55年。宇宙へ行くこと自体はもはや夢ではなくなった。ならば、宇宙をもっと身近に感じたい。エレベーターで宇宙に挑むチームを取材した。
滑らかに加速するエレベーター。昇っているのは高層ビルではない。窓から見えるのは、小さな地球。次第に重力の感じがなくなり、体が軽くなっていく。
2050年、エレベーターで宇宙を旅しよう──ゼネコン大手の大林組が季刊誌で「宇宙エレベーター建設構想」を発表したのは12年。同社が施工した東京スカイツリーを超える、究極のタワーとしてのアイデアだった。
当初は、構想だけでプロジェクトチームを解散させるつもりだった。しかし、国内外で反響が大きく、実現に向けて活動を継続することになった。昨年5月には建設材料になりうる素材を利用した実験を、国際宇宙ステーションで始めた。
宇宙エレベーターは、宇宙と地球を9万6千キロの長さのケーブルで結ぶモノレールのイメージだ。途中に設置する駅では、例えば重力が火星と同じ地点では火星移住のための研究開発をする。
「造って終わりではない。利用してこそ。建設によって、宇宙ビジネスが花開くのです」とチーム幹事の石川洋二さん(60)。
宇宙エレベーターは地球の自転と共に回転する。地球から離れた駅ほど回転スピードが速くなるため、ハンマー投げの要領で勢いをつければ、ロケットの推進力なしに遠くの小惑星に移動することも可能だ。
しかし、そんな高い「タワー」を一体どうやって建設するのか。
「地上の構造物と真逆の造り方をします。上から垂らすのです」(石川さん)
まず、高度3万6千キロの静止軌道にケーブルを打ち上げる。無重力状態にあるそこから重さ20トン分のケーブルを赤道に向けて垂らし、さらに上にも延ばしていく。
ケーブルの素材もポイント。地球に近づくにつれて生じる重力や、地球の自転による遠心力で引っ張られるため、細くても強度のあるカーボンナノチューブを使う。建設費
10兆円。
「ロケットで物を運ぶと1キロあたり100万円かかりますが、宇宙エレベーターなら1万円と試算しています。投資に見合う利益は得られる」
NASAで客員研究員として働いた宇宙生物学の専門家でもある石川さんは「今の技術レベルは、完成に必要な100のうちの1かもしれない。でも、飛行機でもリニア新幹線でも、すべてそういうレベルから積み上げて実現した。チャレンジする価値はある」と意気込む。
宇宙エレベーターの建設開始は30年の予定。「エレベーターが完成したら、次は微生物で火星の土壌を改良して人間が住めるようにしたい。宇宙最大の土木事業になるでしょう」(石川さん)
※AERA 2016年1月11日号より抜粋
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