ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

土地とクローンにこだわる「melville」のワインづくり

2017-06-05 16:13:38 | ワイン&酒
4カ月も前の話になりますが、1年で最も寒い時季に、アメリカはカリフォルニア州サンタ・バーバラのワイン生産者 melville- メルヴィル」からチャド・メルヴィル氏が来日し、セミナーを行ないました。


Chad Melville   from Santa Rita Hills

今でこそ、メルヴィルはサンタ・バーバラのサンタ・リタ・ヒルズを拠点とする優秀なワイン生産者としてよく知られていますが、チャドさんの父Ronさんがブドウ栽培を始めた土地は、ナパ・ヴァレーのカリストガでした。

同じカリフォルニア州とはいえ、カリストガからサンタ・リタ・ヒルズまでは、車で6時間もかかるそうです。

当然、気候も異なり、カリストガは昼は暑く、夜は寒く、ボルドー品種に最適な土地ですが、サンタ・リタ・ヒルズでは、夏の日中でも21度ほどで、夜は12、13℃まで下がります。

ナパ・ヴァレーと比べると、サンタ・リタ・ヒルズは、夏は昼も夜も涼しいのです。
涼しい気候は、ピノ・ノワールとシャルドネに適しているため、メルヴィルではシャルドネとピノ・ノワールを中心に栽培しています。

父はナパでカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、シャルドネを栽培し、35年。
チャドさんはそんな環境で育ちましたが、最初は家業を継ぐ気はなかったそうです。

ところが、チャドさんが大学を卒業して数年後、家族がサンタ・バーバラのサンタ・リタ・ヒルズに畑を購入したことで、チャドさんの人生が変わりました。

畑といっても、何もないところだったので、チャドさんも穴を掘り、ブドウの苗木を植えました。

「自分の土地でワインをつくるのは思い入れ深いこと」とチャドさんは言います。

だから、メルヴィルではどこからもブドウを買わず、100%自社ブドウでワインをつくっています。

現在、ワイナリーの代表者は、創設者である父のロンさんで、チャドさんは次期の代表者(二代目)になります。

「父がボス。自分はワインを育てるから“Wine grower”(ワイングローワー)。栽培家の血が流れているからね。そこにあるものはすべてワインに使うよ」と、チャドさん。



サンタ・リタ・ヒルズは冷涼な土地ですが、その理由はロケーションにあります。
アラスカからの海水が流れ込み、海岸近くに深い海溝があるため、冷たい海水が溜まり、1年中ずっと涼しくなります。

また、サンタ・リタ・ヒルズは、アメリカで唯一、東西に山脈が走っている場所です。
この山脈が、海からの冷たい風を西から東(内陸)に流します。
1マイル(1.6km)内陸に入ると、気温が0.5℃上がるので、20マイルで10℃も気温が違ってきます。

土壌は貧しくカバークロップとして、豆類や麦、クローバーをブドウ畑に植えています。それらは夏になると自然に枯れます。
豆類は空気中から窒素を取り込み、地上に放出する特性があるため、地上の植物が枯れると、根は地上のバクテリアにいい影響を及ぼします。
また、こうしたカバークロップはブドウのストレスを和らげてくれるため、周りのワイナリーも積極的にカバークロップを植えているそうです。




どんなところかを見ていただくために、以前、私がサンタ・バーバラから101号線を北上し、サンタ・リタ・ヒルズ付近を通った時に撮影した画像を紹介します。
想像していたよりもかなり山がちな場所でした。



とても乾燥して、土壌が貧しい様子でした。



サンタバーバラの海岸から北の方向を見ると、東西に山脈が走っているのがわかります。



この画像の左手奥の方向がサンタ・リタ・ヒルズになります。
海岸線からメルヴィルまでは20分少々、距離にして約30km程度でしょうか。

この時はメルヴィルを訪問しませんでしたが、近所のワイナリーにサンタ・バーバラ地区のワイナリーが集まってワインを紹介してくれた中に、メルヴィルのワインもありました。



8年前なりますが、ラベルデザインはほとんど変わっていないですね。



さて、チャドさんの話に戻しましょう。



チャドさんのセミナーでは、テイスティングがありました。
2016年ヴィンテージのバレルサンプルで、完成品のワインとは違うものですが、クローンの比較があり、非常に興味深い内容でした。

メルヴィルでは、シャルドネは7つのクローンを植え分けています。



画像を見てわかるように、まずはブドウの房の大きさが違います。
ブドウの性質も違い、出来上がるワインも違ってきます。

上の4つを左から見ると、

Clone 76 は房が小さく、熟成された酸と低い糖度が得られるクローンで、ディジョンクローンのひとつであり、寒い気候に適している、
メルヴィルセレクションはウェンテクローンが元になるクローンで、より熟成感を感じ、ソフトな雰囲気を出せる、
ハンゼルセレクションは酸が熟成しにくいクローン、
Clone 4のように大きな房は、3、4倍のエネルギーをブドウ樹が要する、

といった特徴があるといいます。

「どのクローンがいい、悪いはない。違いを表現したくて使っている」とチャドさん。



シャルドネは、クローンごとのバレルサンプル2016年の3つを試飲しました。
いずれのバレルサンプルもMLFをしておらず、SO2は少量添加するのみ。



Inox clone 76 Chardonnay
フランスのシャブリのキンメリジャン土壌に似た土壌とのこと。通常は3つのキュヴェをブレンドするところ 、ひとつのキュヴェのバレルサンプルです。カボスのような爽やかな酸があり、レモンの花 、とても繊細な海の香りがあり、酸が高い。

melville selection Chardonnay
秘密の畑から手に入れたクローンだそうです。
エステートシャルドネに入れるものを抜いてきた、と言っていました。
アロマが甘く、アタックはソフトですが、酸がしっかりありました。

Hanzell selection Chardonnay
カリフォルニアで最も古い歴史のあるソノマの畑でカットした枝をナーサリーで接木したものだそうです。
酸がキュッと引き締まり、果皮のタンニンを感じます。
3つの中では、骨格の太さを感じました。

7つのクローンすべてを使う「melville Estate Chardonnay 2013」も試飲しました。
MLFは行なわず、10~20年の古い樽のみを使って発酵、熟成されています。

「土地そのものをいかに表現するか?どうやって栽培されたか?を表現したい」のだそうです。




メルヴィルでは赤ワインも生産しています。

赤ワインで重要なことは 全房発酵 だとチャドさんは言います。
茎はユニークな風味、タンニンをワインに与え、ワインのアロマとテクスチャーを引き出します。

茎を取り除かないので、茎がしっかり成熟することが大事です。低収量です。
ただし、全房発酵気候条件次第で、茎が熟していない房は実だけを使います。

もう一つ大事なのはleafin-手で葉を落とすことで、風通しが良くなり、太陽がよく当たるようになります。


セミナーでは、2つのピノ・ノワールを試飲しました。



左)melville Estate Pinot Noir 2013
右)melville Block M Pinot Noir 2015

エステート・ピノ・ノワールはメルヴィル最大の生産量を誇るワインだそうです(6000ケース)。
冷涼で貧しい土壌の土地ですが、全房発酵を行なうことで、茎がフルーツを取り込み、紅茶、ドライハーブ、醬油、海苔といった、フルーツ以外の風味を与えるとか。
また、茎までよく熟しているため、全房発酵を行なうことで、ストラクチャーやタンニンを加えます。

熟した茎が、ワインのアロマとテクスチャーを引き出します。
「そこにあるものをすべて使う」という、チャドさんの言葉の通り。

飲んでみると、まず、色は薄めです。果皮から来ていると思われるニュアンスがあり、塩味、海苔といった風味もあります。果実味はキレイで、上品ですが、まだまだ若い状態にあると思いました。


ブロックM・ピノ・ノワールは、丘のトップにある5エーカーの畑で、粘土が多く、石灰が少ない土壌です。
2つのクローン(114、115)を植えています。
2015年は80%を全房発酵です。他の醸造工程はエステート・ピノ・ノワールと同様ですが、味やテクスチャーがまったく違うワインになるといいます。

味わいの違いの理由は、土壌と標高の高さにあります。
標高が高く、ブドウ樹にストレスがかかるため、房の大きさが1/2になり、ベリーの味がより凝縮するのだそうです。

飲んでみると、アロマが濃密で深みがあり、茎からと思われるスパイシーなニュアンスが味わいにもあります。
こちらの生産量は800~900ケース。



メルヴィルでは、ピノ・ノワールの収穫は夜の12時からスタートします。
収穫は約8週間続き、色が濃く、バラのアロマが高く、ザクロやダークチェリーのニュアンスがあり、酸が高いブドウが得られるといいます。

最後に収穫したブドウは茎を使います。
比率は、だいたい40%前後だそうです。

別々に収穫したブドウは別々に仕込まれ(178の発酵タンク)、10カ月の間に、ひとつずつ試飲しながら、オーケストラのようにまとめていくのだそうです。

数が多いので、大変なのでは?と思いきや、
「20年の経験で学んだので、個々の香り、味、畑の特性を感じることができるようになった」

「ワイングローイングは、土地やクローンを理解することが大事」とチャドさん。

クローンについては、プロはともかく、一般消費者ともなると、チンプンカンプンなことかもしれません。
クローンの種類や個性を覚えるなんて、なかなかできないですしね。

詳しくわからなくても、“つくり手が土地の適正に合ったクローンを選び抜き、そのブドウでつくったワイン”ですから、我々はただ安心して飲めばいいわけです(笑)



メルヴィルは以前からずっと好きな生産者でしたが、チャドさんに会い、話を聞き、ますます好きになりました。

次にサンタ・バーバラに行く機会があれば、ぜひともメルヴィルを訪問したいものです。

(輸入元:アイコニックワイン・ジャパン株式会社)



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