……夢の中で、私は世界の本当の姿を見た。世界は、つねに「三十分ほど前に主人が出かけた気配」がする大理石の大広間である。あらゆる人間がそのひんやりした床の上をさまよう。みな夢遊病で、目を覚ましている者はいない。広間には無数の柱が立っている。その根もとには小さな竜が、尾を巻いた上に直立し、床から一メートルぐらいのところで口を大きく開けたまま模型のようにじっとしている。柱の間隔はかなり狭いが、子どもや若者はまずぶつかることはない。夢が深いからだ。泥酔した人が無意識に危険から身を守るように彼らは柱をよけていく。しかし、老人たちはときどき柱にぶつかってしまう。夢が浅いから。老人たちは竜の姿にも気がつく。だが、初めはただ夢だと思うだけだ。夢の中で。やがて、老人の夢は終わり、目覚めると大理石の広間と大きく口を開けた竜がはっきり見える。「おまえはずっとそこにいたのか」「そうだ」竜は答えると同時に伸び上がり、老人を頭から食い殺す。
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