WALKER’S 

歩く男の日日

15日目 清水川荘(三原村)~民宿磯屋(愛南町)

2015-07-11 | 15年四国の旅

 清水川荘の同宿はオーストラリア人の男性と日本人男性3人、ご主人が車で迎えに行って遅れて到着した人は、村の家とさくらで同宿だった人でした。ぼくと同じペースだから40km歩いているのか、部分的に乗り物を使っているのか。外国の方と同宿になるのは今年3回目、昨年まで230泊以上して一度もなかったから、近年いかに外国人お遍路が増加しているかということでしょう。ぼくの向かいに座ったEさん(名前を聞かなかったので仮のイニシャルです)が英語が堪能でぼくたちが喋ったことをすぐ訳してオーストラリアの人に伝えてくれるので、ずいぶんなごやかな食卓になりました。彼は延光寺まで打って区切るそうです。また秋に来て伊予の国から始める、オーストラリアにはほとんど四季がないから日本の四季を十分味わいたいそうです。足摺の打ち戻りはバスに乗った、同じ道をまた歩くのは無意味な感じがする、と西欧人らしい合理主義です。
 Eさんの隣の人はぼくたちより少し年上でほとんど予備知識を持たずに四国に入った、遍路道沿いにこんなにたくさん宿があるとは思いもしなかったと言い、ぼくがこの先の良い宿を紹介しましょうかと言っても、それには及ばない、ぶっつけでハプニングを楽しみたいということでした。そう言う割にはこの宿の文句を言っていましたが。
 逆にEさんは積極的にアドバイスを求めてくれたので夕食のあとしばらくへんろ地図を見ながらいろいろお話ししました。彼は通夜堂や、宿坊や、善根宿などいろんな種類の宿に泊まりたい、明日は観自在寺の宿坊ではなく通夜堂に泊まるということでした。野宿の用意もしているけれど、あくまで宿がメイン、ここから観自在まで36.7kmだからかなりの健脚でもあります。
 Eさんは距離が長いので朝食のあとすぐ発たれました、ぶっつけの人もその後にすぐ続き、ぼくはゆっくりめで6時45分に出発です。


 8時18分、39番札所延光寺に到着、宿から87分30秒、ベストより2分遅れですが時速は6.65kmだから今までにない順調な立ち上がりではあります。ベストを出したときはかなり冷え込んだので、動きが自然と良くなった記憶があります。
 昨年はここで竹下さんと出会った、奇跡の札所ですが、今年は特に何もなく普通にお参りできました。納経所では、白衣がすごいことになっているのにびっくりされました。ザックが擦れる背中の部分に大きな穴が開いています。この白衣を着けて3巡していないのですが、来年は引退にするしかありません。

 延光寺では休憩はとらず8時35分に出発します。嶋屋旅館のすぐ先で国道に出る赤点線の近道の入口がよく判るようになっています。ぼくが初めて歩いたときはちょっと判りにくくてこの道を歩く人は少ないように思われたのですが、この感じだとこちらに入る人も少なくないかもしれません。昔の道の雰囲気はあったのですが、ぼくが歩いたときは少し荒れていて歩きにくい所もあったので、一度歩いたきりで、以後はもう一つ先の近道に入るようにしています。今回ももちろんそちらに入ります。二つ目の入口にはシールも何もないから初めて来た人は絶対入れないようになっています。ぼくが入れたのも3回目の時が初めてだったはずです。国道に出てしばらく行くと、点線の近道から来る人がいます、山門の写真に写っている同宿の方でした。彼はお遍路は初めて、やはり道しるべに従って点線の近道に入ったようです。
 宿毛の町の中にある岡本旅館がタイムチェックポイント、62分01秒、ベストより30秒だけ遅い、この区間も長い間ベストと同じタイムで歩けていないから、30秒なら早い方です。時速は6.48kmだから文句のないところです。動けるからといって動きすぎると後半が駄目になるかもしれないので、できるだけ無理をしないで感じでがんばります。
 岡本旅館を9時40分に出発。古い方の国道の交差点にある新しいローソンでブロックチョコと芋けんぴを買います。昼食はこのコンビが定番になりつつあります。
 峠に入る前の小さな三つの峠越えはしっかり対話することができました。昨年のように調子が悪いと歩かされることが多いのですが、自分でリードしながら道もよく見えている感じです。松尾峠の登り口にある(少し脇に入りますが)地蔵堂に到着したのは10時30分、岡本旅館から46分55秒、ここでようやくベストタイが出ました。山道が多かったのに時速6.06km。
 ここで本日初めての休憩をとります。多くの人は峠まで登ってから休憩するようですが、延光寺から10kmのこのポイントがぼくにはちょうどいい。
 (ここまで1枚も写真は撮りませんでした、それだけ歩きに集中できていたのかもしれません)

 地蔵堂では30分ほど休んで10時50分に出発です。
 松尾峠は、標高300m、登り口からの距離は1500m、ほかの山道峠道に比べると、時間が短いので苦しさ辛さは少ない。鶴林寺や柏坂、横峰寺の6割、雲辺寺の半分くらいだから本当にきつくなってくる頃に峠が見えてきます。
 手前の三つの山道同様、しっかり道と対話できていました。まだかまだかと焦らず、目の前の道を確実に押さえていく。急くことなく休むことなくペースをキープ。昨年と違って少し余裕もありました。国境の道標まで26分59秒、ベストタイ、昨年よりも50秒早いタイムでした。昨年はマメが少し痛んで、05年以来のベストより遅いタイムでした。国境の少し手前のベンチでEさんが休んで食事中でした。峠の四阿でも二人の男性が休憩中。ここでは毎回のように休憩中の人に出会います。ぼくは登り口で休んだので,Eさんと少し立ち話をしたあと携帯で写真を撮ってすぐ下り始めます。
 昨年は全体に不調な区間が多くて、きっちり歩き直しておきたいという思いがあったのですが、その中でもこの松尾峠の下りが一番です。この山道の下りほど楽しく気持ちよく歩ける所はないのに、昨年は初めて思うように歩けませんでした。一本松の手前のトイレまで、ベストより20秒遅かっただけですが、気分としては5分以上遅れたという感じでした。
 11時22分、峠を下り始めたのですが、いつものようないいときの感じで歩けています。うれしくていつも以上に調子に乗ってしまいました。ちょっとくらいがんばっても、地面が柔らかいのであまり負担になりません。トイレまで29分37秒、ベストより1分以上早く着いてしまいました。

 一本松の交差点の1300m手前にあるトイレが本日2回目の休憩ポイント、ベンチには屋根がないので雨が降れば休めませんが、幸いなことにここでは一度も降られたことがありません。降られた場合には、少し先に四阿があります。けんぴをかじりながら休んでいると,Eさんが追いついてきました。「気持のよい道だったでしょう」というと「かなりスピードは出せたけどね」、ぼくには離される一方だった、と言いたかったのかもしれません。腰を下ろさずぼくより先に発たれます。
 20分ほど休んで12時15分に出発です。交差点の100mほど手前で、Eさんが交差点を左折するのが見えました。もう少し早ければへんろみちは直進ですよと言えたのですが。でも国道を行く方が少し近道になるから、そのことが判っていて左折したのかもしれません。距離が長かったからへんろみちにこだわることもないでしょう。
 トイレから交差点まで12分22秒、秒差ですがベストより早かった。でも本当の勝負はここからです、昨年のタイムはここからが最悪だった。
 バイパスの方の交差点にあるコンビニに入るお遍路さんが二人見えました。向こうがぼくを全く認識していなくても、ぼくがはっきり歩きの人だと確認できれば出会ったことにしてカウントします。正確にいうと見かけた人ということです。
 そのあと、昨年いっぱい写真を撮った近道(旧街道)に入りますが、新しいへんろ地図を見せて貰うと、こちらにも赤点線が付いていました。でも、地図にない道がどこにあるのかを、自分で見当をつけていくというのも、おもしろい作業ではありました。渓流沿いの道から舗装道に出てもう一度山の中に入ってしばらく行くと、前を行く男性が見えました。舗装道に上がる手前で声をかけて抜かせてもらいます。
 満倉小学校の近くにある休憩所まで、交差点から39分17秒、ここまでのタイムはとっていないので40番札所まで比較はできません。13分ほど休んで13時20分に発ちます。ベストで行ければ観自在寺に着くのは14時10分、今日は15時までに宿に入れそうです。
 休憩所を出てしばらく行くとまた旧街道に入るのですが、ぼくはまだこちらの道は歩いていません。09年に4年ぶりに来たときに整備されていたのですが慣れているそれまでの道を歩いて、昨年もタイム比較のためいつもの道、今年も昨年のタイムが気に入らないので直進してそれまでの道を行きます。旧街道が合流してくるところで、先に追い抜いて、休憩所で追い抜かれた男性が来るのが見えました。あれだけの道しるべがあればだれでも入ります。今年納得いくタイムが出れば次からは歩きたいと思うのですが、でも来年も無理かもしれません。

 観自在寺の1500m手前にある松乃家旅館の間口全面にシャッターが下りていました。昨年初めてお世話になったのですが、やはり廃業ということなのでしょうか。女将も大部高齢のようでほかに手伝いの人もいなかったから、仕方のないところかもしれません。昨年思い切って泊まっておいて本当に良かったと思います。この前を通るたびに泊まりたいと思わせる雰囲気がありました。
 信号を右折、観自在寺の手前最後の直線60mに入って、さあタイムはどうかとラストスパートをかけようとしたら、急に呼び止められました、玄関の脇にいっぱい煮干しが並べられているお宅の奥さんです。「これ持っていって」とタッパにいっぱい入った煮干しを突き出します。に、にぼしって、と一瞬たじろいだのですが、せっかく言って貰ったので、じゃあということで手のひらに一杯分だけいただきました。お礼を言って煮干しを握りしめたまま40番札所の山門の前に立ちました。
 14時10分、入山する前に握りしめた煮干しをほおばります。意外やしっとりしていい味でした。


 本日2枚目の写真は観自在寺のお大師さんです。昨年は雨の朝でした、しかもマメが痛んでその後は一日中うまく歩けなかった。それに比べると今日の歩きは最高といってもいいくらい。一本松からここまで90分14秒、ベストタイでした。後半は無理にがんばったというところもありますが、頑張れるだけの力が残っていたということでもあります。
 お参り納経をつつがなく終えて、14時33分、出発です。ちょうど一本松のコンビニで見かけた男性二人が到着するところです。


 14時50分、観自在から17分03秒、ベストタイで本日の宿民宿磯屋に到着です。6年ぶり3回目の投宿、携帯で写真を撮っていたら、ちょうど女将さんが出てきて、「撮ってあげましょう」と無理矢理ぼくを被写体にしてしまいます。でも操作がうまくいかず写っていませんでした。ぼくの顔を見るなり過去に何回か来ていることは察知されていたようです。15時より前に宿に入るのは今年初めて、てっきり一番乗りだと思ったら、2階の部屋から女性が顔を覗かせていました。後で聞いたら、今日は宿毛の宿から、23kmほどなのでぼくよりも早かったということです。ぼくよりも一回りくらい若いのかなと思ったら、何と少しだけお姉さんでした。四国は何回か巡っているようで、この宿も2回目、今回は108ヶ所を60日かけて巡るそうです。余裕のあるゆたかなお遍路はいいなと正直思います。ぼくのような1日40km歩く速足遍路は、決して自慢できるものではないし、貧しいと思うこともあります。早ければいいというものではないと、いつも自分に言い聞かせながら歩いています。だから自分のことはできるだけ話さないようにします。訊かれたら正直に言うしかないけれど、できるだけ訊かれないようにしたい。ほとんどの人はびっくりするけれど、そのことすらも恥ずかしいと思うようになっています。
 もう一人の同宿の男性はしばらくして宿に入られました。国道を行き過ぎてしまって宿に電話をかけてきて場所を確認、当然この宿は初めてですが、4回くらい巡っているそうです。
 女将さんは明るくておしゃべりが大好き、いろんなお遍路さんのことをおもしろおかしく語ってくれるので聞き入ってしまいます。そしておしゃべり以上に得意なのがお料理、かごに入っているのはお手製のじゃこてんとたけのこの天ぷら。この筍が絶品でした。ぼくは筍は好きでも嫌いでもないけれど、この筍なら毎日出ても大歓迎です。もちろんほかのものも全部美味しくて、どれを食べようか迷ってしまうほどです。こういうもてなしをして貰うとほかの宿には行けなくなってしまいます。

 15日目の歩行距離  38.5km
      歩行時間  6時間12分  7日ぶりの絶好調
      平均時速  6.21km