駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

佐藤賢一『かの名はポンパドール』(世界文化社)

2014年01月19日 | 乱読記/書名か行
 美がすべてを支配したロココの時代に、その人が虜にしたのは画家たちの審美眼だけではなかった。ときの王だけでも、ヴェルサイユ宮殿だけでもない、フランス中を、ヨーロッパ全土を、いや世界中を魅了した。かの名はポンパドール、それはポンパドール侯爵夫人の世紀だった。

 ファッション誌に連載されたものを加筆・修正したそうですが、この作家は『王妃の離婚』が小説としては最高峰で、あとは筆力が落ち続けているのではあるまいか…
 歴史ものとしてもフィクションとしても中途半端でおもしろくない。何よりタイトルロールたるヒロインがまったく描けていない。
 彼女がどんな女だったのか、この作家がどういう人間だったと考えていてどう書こうとしているのか、まったく見えませんでした。
 何より許しがたいのが、彼女の台詞が「……」で終わるものが多いということです。言い切ることがないの。そして他人に遮られてばかりいる。
 そういう、意外にも凡庸な女だったんですよ、と書きたいのか、いやいやとても非凡な女だったんですと書きたいのか、まったくわからない。
 ただ歴史的な事実と、あったかどうかもわからない会話の場面が流れるばかりで人物はまったく見えてこない。もちろん王との愛も見えない。
 雑誌のコラム的に短いページでエピソード的に読むならよかったかもしれないけれど…ううーん残念。


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日本フィルハーモニー交響楽団ミュージック・パートナーシリーズ

2014年01月19日 | 観劇記/クラシック・コンサート
 サントリーホール、2014年1月18日マチネ。

 指揮は西本智実、ゲスト・コンサートマスターは高木和弘、ソロ・チェロは菊地知也。
 アートディレクターは田村吾郎。壁面に映像を出して音楽とコラボする企画で、これが第二弾。プログラムはチャイコフスキーのバレエ音楽『白鳥の湖』。

 私の最愛のバレエにして最愛のバレエ音楽で、楽しく聴きました。日本フィルMPS版ということで編集もおもしろかったし。メリハリのある演奏でよかったです。
 ファンファーレがヨレたけどね! オディールのバイオリン・ソロのラスト、音が上がりきらなかったけどね!
 西本さんは燕尾服ではなく黒のフロックコートでキメていて、ロシアふうってこと?とか思いましたが。情熱的な振りでスコアをめくる手までカッコいい。いちいち髪を書き上げるのもカッコいい。
 しかし壁面の映像は見づらかったし、ただのイメージ絵を映すだけなら不必要だったんじゃないかなあ…
 舞台奥の席の方が、音はアレかもしれませんが、楽団と指揮者ナメの映像が見られて良かったのかもしれません。でもガーデンパーティーとか湖とか宮廷とかのイメージなんて音楽からつかむものでは…?
 不粋な者の意見です、すみません。

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矢崎存美『食堂つばめ』(ハルキ文庫)

2014年01月19日 | 乱読記/書名さ行
 謎の女性ノエに導かれ、あるはずのない食堂車でとびきり美味しい玉子サンドを食べるという奇妙な臨死体験をした柳井秀晴。自らの食い意地で命拾いした彼だったが、またあの玉子サンドを食べたい一心で、生と死の境目にある「街」に迷い込む…

 ちょっといい話系グルメもの、というのには一定の需要があると思うし、私もそれを求めて買った本ですが、なんというか…ライトだったな…
 主人公に強い魅力や個性が感じられないのもなんだかなあだったし、実際の人生のほうを疎かにしているような生き方・描かれ方がなんだかなあだったし、書き下ろし小説ですがシリーズ化を目論んでいるようで、でも「また行くから、『食堂つばめ』に」じゃないだろう!という気がしました。
 主人公とノエの血縁に関する因縁話は完結したんだから、主人公はもうここに入り浸る必要もなく、婚約者との結婚生活を邁進していくべきだろう、と思うのですが…
 単にこの作家とは人生観が合わないのかもしれません。難癖すみません。




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『愛の唄を歌おう』

2014年01月19日 | 観劇記/タイトルあ行
 シアターオーブ、2014年1月17日マチネ。

 正義感溢れる熱血高校教師、牧田ノリオ(山口智充)は生徒たちから「ウザい」と言われながらも全力で生徒と向き合っていた。だがある日ひとりの生徒が「体罰を受けた」と告発して大問題に。生徒の嘘だったその無実の罪を受け入れた牧田は懲戒免職となり、直後に命を落としてしまう。天国で10年、今でも元教え子たちのことを気にかけている牧田だったが…
 脚本/鈴木おさむ、演出/宮本亜門、音楽/槙原敬之。全2幕。

 真田幸村と十勇士、牧田先生と八人の元教え子、ホモソーシャルな群像劇…という意味では同じだったのに、前者の方が圧倒的におもしろくてこちらは退屈しました。
 席はこちらの方がおかげさまでよかったのです。でもだからこそ三層になった美術が見づらくてつらかった。『真田』は二階前方席で、全体が見やすくてよかったのかもしれません。
 『真田』はストレート・プレイでこちらはミュージカル、マッキーの楽曲はどれもとても舞台向けだしアレンジも上手くてそれはノレました。でも結局引っかかったのは、題材が、『真田』はチャンバラでこれが「愛」の話だったかもしれません。

 でもそもそそもこれも冒頭が印象良くなかった。いや、経緯はわかるんですよ。でも牧田先生が数いるであろう教え子たちの中でも特に彼らを心配する利用がよくわからなかったし、そもそも彼らの何がどう心配なのかがよくわからなかった。牧田の企画が天国のコンテストか何かで選ばれて地上に戻れることになったようなんだけれど、なんのコンテストなのかよくわからなかったし、どうして「愛の歌をみんなで作って歌いたい」なのかがよくわからなかった。合唱部の顧問ではあったようなんだけれど、彼らは合唱部の部員ではなかったようだし、彼らと歌を作るというはたされなかった約束みたいなものがあったわけでもないようだし。
 とにかく教え子たちを集めて歌を作ろうとするところから始まる物語なので、早くそこまでやってしまいたかったのだろうけれど、若干置いてけぼり感を感じてしまいました。それをねじ伏せられるまでには各キャラクターの魅力が確立されていなかったんだろうな。

 そして色恋とか人生の上手くいかない感じとかがまたデリケートな題材でいちいちアレだったのかもしれません。
 まずなんといっても牧田先生が懲戒免職に追い込まれた事件の真相なんですけれど、カズトシ(渡部豪太)がマサムネ(川畑要)に迫ってフラれて殴られたって話なの?
 カズトシはゲイだけどマサムネはちょっと揺れただけで思春期の過ちみたいなものだったってことなの? それともバイなの? 妻の妊娠を喜んでいるようだけれど、それは子供のことだけ? 本当は妻を、女性を愛していないの?
 そこらへんをクリアにしてくれないと、おちついて観られないんですけれど?
 そりゃ8人もいたらひとりくらい同性愛者がいる方が自然だし、なんてったって楽曲マッキーですからね。でもだからって脇役かもしれないけれど他のキャラクターに嘘をついたり彼女を不幸にしていいってことじゃないよ?
 カズトシも今は別に彼氏がいてマサムネへの想いを引きずっているということではないようだったけれど、でもこれってちゃんと落着したことになってるの? なんか全然わかりませんでした。
 探偵になったツヨシ(ジョンテ。垂れ目が素敵だわー好みだわー)とかリーマンというより古い言葉でヤンエグ?なユウキ(大口兼悟。美丈夫だなあ!)の家庭争議、フミオ(柄本時生。兄も好きだが彼も好き!)の外国人妻の問題とかも根深そうだけど解決していないし、放りっぱなしでいいの?とかね。だったらこんなにキャラいらないんじゃない?みたいな。

 何よりヒロト(北山宏光)ですよ。彼が何故牧田先生のことをそんなにも敬愛して教師になったのか、クラスで苦労していることはわかるけれど何故香織(野々すみ花)へのプロポーズを迷っているのかよくわからない。というか香織はなんだって元カレとも今カレとも常に同棲しているんだ、それは何かのキャラクターを表現しているのか? でも決して女っぽいキャラクターとしては作られていないんだよね、なんなの?
 拓馬(高田翔)に対して牧田先生のように上手くできない、ということと、香織に対して牧田先生のように上手くつきあえない、ってことなのだろうけれど…重いわあ。
 あと、セックスの話題がとても違和感を感じた。愛の話なんだから本来は不可分なんだけれど、言っちゃなんだけどアイドル主演の舞台だしわざわざ出すネタか?と思ってしまったし、最初は「ああ、まだっぽそうだもんね」とか思ってしまったんですよ。
 いやヒロトと香織は同棲までしているししていない方が不自然なんだろうけれど、してないからこそ上手くいってなくてプロポーズもできないでいるんでしょ?と思えてしまった。ふたりが色っぽい関係に見えなかったというよりは、私に北山くんが少年にしか見えなかっただけかもしれないのですが。
 ていうかふたりがどういう関係のどういうつきあいをしているのか見えないのにこんな話題持ち出されても困ります、って感じなの。ヒロトが香織をどう愛しているのかよくわからないのです。
 だけどその彼が牧田先生と比べてるんだろうとか香織に向かって言うに及んで、彼が男の馬鹿さ加減を一身に引き受けさせられているようでもうドン引きでした。
 そんなこと気にする男の方がどうかしているし、気にしてても口に出すなよ男なんだから、恥ずかしいな。自信がないからって相手に当たるな、過去のせいにするな。他のいろんなこともダメなくせしてセックスのせいにするな。
 なんなのこれってホモフォビアと不能フォビアの話なの? わー確かに男っぽいわー、としょんぼりしましたよ…
 まして俺たちの野々すみ花相手に、だよ? ヤスを愛して銀ちゃんを忘れる強さを持った小夏を演じられた女優相手にですよ? ちゃんちゃらおかしいわ。
 ところで何故このキャスティングだったんだろう…「お世話になりました」はややキーが合っていないようで美声を聞かせたとは言いづらいし、ジャニーズ相手で邪魔にならずファンの反感も買わない女優(キスシーンでキスしてないのがバレバレだったしね!)ってだけなら他にもいたのでは?
 まだショートカットでスレンダーでパンツスタイルで少年のような彼女は、男ばかりの舞台の紅一点という女っぽい華がない作りになっているし…ああなんかもっとブリブリしたスミカがそろそろ見たいなー、少なくともスカート穿いてくれ。パンツはつまらん。
 香織ってもっとフェミニンなキャラクターじゃダメだったの? そうでないからこの起用なの? そのキャラクター設定でいいのかな?

 コウジの前川紘毅もタツヤのエハラマサヒロも達者で素晴らしかったし、アンサンブルもとても良くて、役者には恵まれた舞台だったのではないかと思います。
 だからこそもったいなく感じたなあ…
 フィナーレはマッキーメドレーで楽しかったです。スミカのウェディング・ドレスも見られたしね。
 でもこの舞台ももっと短くできたと思うな…時間は貴重なんだからブラッシュアップしてスリムにほしい。長けりゃいいってものではないのです。休憩込みで三時間を越えるにはそれなりの理由が必要だと私は思います。

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『真田十勇士』

2014年01月19日 | 観劇記/タイトルさ行
 青山劇場、2014年1月16日マチネ。

 1614年、夏。関が原の戦いに敗れ一大名となっていた豊臣家では今もなお、秀吉の側室・淀(真矢みき)が維持・秀頼(福士誠治)を立てて最後の抵抗を試みようとしていた。まもなく大坂で戦が始まると巷で噂される中、抜け忍びの猿飛佐助(中村勘九郎)は紀州のとある村で真田幸村(加藤雅也)と運命的な出会いをする…
 脚本/マキノノゾミ、演出/堤幸彦、音楽/ガブリエル・ロベルト。全2幕。

 真田幸村は実在した武将ですが、その他のキャラクターは架空の人物で、「真田幸村とその家来の十勇士が大坂の陣で豊臣方に味方して、徳川の軍と烈しく戦う。そして幸村は戦死する」というお約束だけ守ればあとは何をどう書いても自由、というのが『真田十勇士』だそうです。
 冒頭はなんというか独特のノリにややとまどいました。「日本テレビ開局六十年特別舞台」と打たれテレビドラマでも有名な俳優を揃えた豪華な舞台で、客席も通常の観客とはちょっと違うし、主人公が繰り出す現代流行語を使ったしょうもないギャグに鼻白んだのです。
 でもそれが佐助のキャラクターであるとわかり、また会場があったまってきてテンポよく感じられるようになってくると、楽しく思えてきて、結局最後には感動もして楽しく見終わってしまいました。
 映像を多用する構成は舞台演劇としてはどうよとも思うギリギリなのですが、わかりやすいし確かに楽しい。そしてアンサンブルがすごくアクションをがんばっていて、生身の役者が舞台で見せるという基本はおろそかにしていなかったので、トータルではとてもよくできた楽しい舞台だったと思いました。

 松坂桃李が女殺しのクール・ビューティー霧隠才蔵をあんなにてらいもなくやって見せられると思っていなかったし、テレビ俳優には珍しくどこから見ても様になる立ち姿ができていたのは立派で感心しました。声も低くてカッコよかったし、笑いが取れる間の良さもあって、テレビドラマでも好きな役者ですがなかなか驚きました。
 初舞台の比嘉愛未の火垂も台詞がクリアできびきび動けていてとてもよかったです。同じ里で育ったくノ一、というベタな設定なんだけれど、ちゃんとストーリーに絡んでいたし、才蔵との恋は進展していないもののかわいそうだったり不愉快に感じる扱いをされていなかったのも好印象。
 同様に佐助に絡んだ少女みつ(田島ゆみか)にもちゃんとラストにフォローがあったのが素晴らしい。
 根津甚八と秀頼の二役を演じた福士くんも演技がすごくしっかりしていたし、坊ちゃんの真田大介役の中村蒼もきちんと役になっていました。みんな芸達者でちゃんと役をつかんで多彩なキャラクター活劇を繰り広げてくれていて、だからストレスなく観られました。
 ストーリーもよかった。十人が揃うところまでで一幕は終わってしまうのですが(^^;)、二幕では幸村と淀の淡い想いなんかもちりばめつつ、男子の大好きな「士は己を知る者のために死す」ロマンがチャンバラ活劇と共に熱く展開されて…
 志半ばで仲間のために死んでいく者たちがきちんと描かれていたからこそ、最終的に主人公たちは助かる展開がまた効いていて、泣かされましたし笑いました。
 しかし義経といい、この作品でも秀頼は大坂城を脱出して逃げ延びたことになっていて、日本人はこういうのが本当に好きだよな…と思いつつ、でも清々しくて気持ちよかったです。
 フィナーレのパラパラも楽しかった。大味かなと心配していたのが杞憂の演目でした。まあもう気持ち短くできるといいかもね。


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