駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『ラディエント・バーミン』

2016年07月16日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 シアタートラム、2016年7月13日19時。

 現われた若い夫婦は自分たちを「オリー」(高橋一生)と「ジル」(吉高由里子)だと名乗り、「私たちはいい人です」と少し遠慮がちに話し始める。貧しくとも善良に生きるふたりは子供を授かり、将来への不安をにじませていた。そんなときに届いたのが、役所からのものらしい一通の手紙。ミス・ディー(キムラ緑子)と名乗る差出人は「ふたりに家を差し上げます」と言うのだが…
 作/フィリップ・リドリー、演出/白井晃、翻訳/小宮山智津子、美術/松井るみ。2016年5月にロンドン、6月にニューヨークで上演されたばかりの現代戯曲。全1幕。

 リドリー×白井晃の『マーキュリー・ファー』の感想はこちら
 これも高橋一生目当てでお友達にチケットをお願いして観にいって、怖くて素晴らしくてよかったのですが、今回も高橋一生目当てでまたまたお友達にチケットをお願いして、笑って怖くて素晴らしかったのでした。
 私は未婚だし子供は嫌いだけれど、巣作りというか自分が安らげる居場所を好きなように作りたい、という程度の欲望はあるので、この夫婦の欲望も理解できてしまいます。こういう形ではないとしても、自分たちさえよければいいよね、とか、何かを役に立たないものとか良くないものだと勝手に判断してだから犠牲にしてもかまわない仕方ないよね、みたいな考え方をしてしまうことは、はっきり言ってあるのです。
 そう内省しているところに、ジルに「多数決は取りませんから!」と言われて、ビクッとならない観客がいるでしょうか?
 劇場の客席を使ったり、観客にかけたりする芝居はもちろん少なくないけれど、今回は本当にこちらの心にグサグサと踏み込まれるようで、でもあくまでオリーとジルは普通のいい人で私たちだってそうなはずで、だからこそ怖い…みたいな、不思議な空間がそこには生まれていました。お芝居ってすごい。これは遊園地みたいな体験型アトラクションなんかでは全然なくて、ちゃんと戯曲が作り上げた架空の世界の物語に巻き込まれるのです。すごい。
 無機質な空間に見えたセットがあんなふうに活用されるなんて思いもしませんでしたし、三人芝居かと思っていたらほぼ夫婦ふたりが出ずっぱりの舞台で、でもみんな何役もやるというかなんというかもうホント狂気の沙汰で怖かったしすごかったです。
 これが二度目の舞台だという吉高由里子の起用が本当にはまっていて、あのヘンな声と独特のしゃべり方が、マイペースでちょっとエキセントリックなジルというキャラクターにぴったりでした。すごくいい女優さんなんですね。
 そしてそんな妻に振り回されるほとんど凡庸と言っていいオリーをおたおた演じて見せる高橋一生がまた素晴らしすぎました…メガネの高橋一生と結婚できるならすぐさま車乗って候補者狩ってきますけどダメですかね? まあ私は運転免許を持ってないんですけれどね…
 タイトルは「光るゴミ」といった意味。たとえば「スウィート・ホーム」みたいなタイトルにしないところがまたリドリーっぽい気もしました。どちらかというとこれても軽くて、だからこそ現代的というか本当に同時代的な作品だった気がしました。おもしろかったです、観られてよかった!


コメント
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