駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『the WILD Meets the WILD』

2013年08月05日 | 観劇記/タイトルさ行
 宝塚バウホール、2013年8月3日ソワレ。

 アメリカ南西部の街トゥームストーン。鉱山に眠るという黄金の採掘に男たちが夢を懸けていた時代。幼くして身寄りを亡くしたジェレミー(蓮水ゆうや)は伯父でありベンジャミン(七海ひろき)の父親であるディヴィッド(凛城きら)に引き取られ、兄弟のように育った。しかし成長したジェレミーはグレゴリー神父(夏美よう)の後押しで高等教育を受けるべく街を出る。一方、街に残ったベンジャミンはならず者たちを率いてイカサマ賭博や強盗などたびたび騒ぎを起こし、賞金首として追われるようになっていた…
 作・演出/生田大和、作曲・編曲/太田健、青木朝子。全2幕。

 「割と、本気(マジ)で、西部劇(ウェスタン)」というのはポスターのキャッチコピーではなく、サブタイトルだった…のか? ともあれバウ・ウェスタン・ピカレスク、いろいろつっこみたいがおもしろくはありました。いやわりとマジで。
 プロローグで出てきたときから黒幕感満載なハッチさんですが(笑)、まあ専科特出の宿命でもあり、これはネタバレのうちには入らないでしょう。いい意味でストーリーの行く先の予想が立つのは悪いことではないと思うのですよ。その上で、予想を裏切り、期待に応えていくことが大事なワケですが、しかし今回はその悪役のあり方が、アレレレレ…でして…例によって一回しか観ていないので(贔屓卒業後も何故か遠征とかしてますが、本公演以外は一度しか観ない、というマイ制限はまだ保っているのです。まあなんになる制限なんだって話もありますが…)きちんと把握できていない部分もあるせいかもしれませんが、でもこのグレゴリーってキャラクター、支離滅裂ですよね…?(笑)
 ギルバート(蒼羽りく)の母親とは多分ちゃんと結婚していた…のでしょう。だけどそのあとディヴィッドの妹モニカ(彩花まり)に惚れて、でも恋人がいたから殺して、でも娼婦に転落していくのをただ見ていて、客として買って、身ごもらせ、病に倒れたモニカの薬代をディヴィッドが稼ぎ出せないのを傍観し、モニカの死も傍観し、ディヴィッドがジェレミーを引き取るのも傍観し、だけど勉学の手助けはして、その合間に神父になって、でも反省とかはしたわけではなくて、医者を目指していたジェレミーにモニカの名をかたって手紙を書き、賞金稼ぎをさせ、ついにはベンジャミン殺害を命令した……
 え? なんなのその生き方?? 何が目的で何がしたかったの??? 筋通ってませんよね????
 かつ息子のギルバートが市長になり権力に胡坐をかき悪さをする(しているのか?)のを見過ごし、というかむしろ結託して悪事を進めている…? よ、よくわからない…
 マネーロンダリングの理屈もよくわからなかったし。
 私は最初、狂信的な正義漢(?)になってしまったグレゴリーがジェレミーに悪漢討伐を命じ、でもその正しすぎる正義がジェレミーには苦しくて、しかも今まで生け捕ってこられたのが事故で死人を出してしまいショックで…というような話の流れになるのかと思ったのだけれど…
 あと、鉱山はあんなにいうからこそ逆に黄金がちゃんと出て大逆転になるのかな、と思っていたんですけれど…スルーでしたね。あることを証明するよりないことを証明する方が難しいんだから、この問題はクリアにするべきだったのでは…?
 別に、思ったとおりに話が進まなかったのが不満だと言っているわけではありません。ただ、話の整合性は取れているに越したことがないし、こういうピカレスク・ロマンなんだけれど最終的には逆転した勧善懲悪ものみたいな、ベタな構成の物語においては、途中で真の悪がはっきり見えてこれを懲らしめたらゴールなんだなという共通認識が主人公たちと観客とで一致しても持てて、その上でそういうふうに話が転がっていくのが観ていて気持ちが良くて悪役が懲らしめられるとわかっていてもしてやったりってなって万々歳、ああスッキリ楽しかった!ってなるべきだと思うのです。そうなれていなかったのがもったいなかったよね、という話です。
 特に、メインキャラクターのひとりであるギルバートが、悪役とはいえあまりに報われずにかわいそうなまま終わってしまっているのが、下手したら後味が悪いままでスッキリ!となる足を引っ張っているので、フォローが欲しかったところです。これまた愛されているスターがやっている役ですからね。
 宝塚歌劇の場合、演じている生徒が素敵に見えれば話は二の次、という面は否定はできない。でもだからこそ、どのキャラクターにも演じている生徒がいてファンがいるものなので、おろそかにできないのです。悪役でも筋が通っていて理不尽でなければいいのです(『モンクリ』のフェルナンとかね)。そこに配慮が欠けて見えたのが珠に瑕でした。
 ギルバートは権力とか利権とかわかりやすい現世の悪を極めていて、グレゴリーとは対立していて、でもそれは父親に省みられていないギルバートのグレゴリーへの反抗だったり愛情を求めるサインでもあるのだ…というふうにしか見えない前半だったと思うのだけれど、結局は父親と結託して悪事をしているんですよね? じゃああの屈託の演技はなんなの??
 あと、「覆面カウボーイ」ってぶっちゃけなんなんですかね? カウボーイって牧童のことですよ? 牧場で馬に乗って牛を追う人のことですよ? でもこれはもっとなんか、必殺仕事人みたいなものに思わせたいんですよね? でも実は凄腕の賞金稼ぎってことですよね? 正義のヒーロー、スーパーマンみたいなものってことですよね? でも全然説明が足りていませんでしたよ。「覆面カウボーイ”Killer Bee”になったのだ!」ってだけ言われても、何になって何やってんのか皆目わかんかないんだもん。もっとうまく説明してくださいよ…
 ここらへんがもう少しきちんと説明できていたら、ジェレミーのキャラクターや生き方は筋がちゃんと通るし、とてもよかったと思うだけにここも惜しい。
 あやふやな出自のコンプレックスは、兄のように慕える親友ベンジャミンをもってしても覆せなかったわけですよね。まあ生来の性格もあるだろうけれど、「呪われているんだ」とか思いこんじゃうような、やや後ろ向きな考え方をしがちなマイナータイプなんですよね。寂しがり屋なんだもんね。いいわ、そそるわ。
 でもそんなどシリアス路線でいくのかと思いきや、ネッド(澄輝さやと)にノセられて正体を明かしちゃったりするお間抜けで可愛い部分や、エマ(花乃まりあ)に対してちょっと上手に出てみせる女あしらいのうまい色男の部分があったりもする。やや唐突に思えたし、そんなキャラならアタマからそう見せといてよ、という気もしましたが、やっているちーちゃんがキラキラしていて楽しそうでニンがよく合っていて素敵だったからいいことにします(笑)。
 片やベンジャミンのカイちゃんは、賞金が懸けられるほどの悪となると、いくら病気の妹アンジェラ(遙羽らら)のためとはいえ主人公コードとしてどうだろうと思わなくもなく、またずっと街にいて馴染みの酒場で飲んでいたり実家にちゃんと帰ってたりして、隠れたり逃亡したりしなくていいの?という気もしましたがまあそこもなんとなくスルーってことで。甘いですが見逃しましょう。
 勝手に出ていっちゃったジェレミーに対しては、外の世界で勉強したいというジェレミーの気持ちもわかるけれど、おいていかれちゃったっていう寂しい気持ちもあってすねすねモードでの再会なんですよね。実はこっちも寂しがり屋なわけです、可愛いわ。
 でも心配していたほどゲイゲイしくなくて正しい少年漫画路線で(笑)、私にはよかったです。むしろ先行映像場面(笑)はやや唐突に思えて、サービスとしてもいかがなものか…とも思えてしまいました。でも心象風景としてギリギリかなー。
 ちゃんとした恋人のマティ(愛花ちさき)がいるところも、いかにもで健康的で(笑)よかったです。
 ジェレミーがひょんなことから保安官になってしまったこともあるし、ギルバートに取り込まれたこともあって、立場としてはベンジャミンと対立する形になる。パターンだけど正しい構図です。けれど事件の裏側が見えてきて真の敵が見えて共闘する形になって…からの展開がよくわかりませんでした(^^;)。
 エマやアンジェラ、ジェシカ(瀬音リサ)が誘拐されたのって誰がいつどこでどうして何故?って気がしたし、ディヴィッドが生きていたっていうのもなんで今までどこでどうして何故?って気がしたし、せっかくレナード(星吹彩翔)とかダミアン(風羽玲亜)とかいいドラマ持ったいいポジションのいいキャラクターがいていいドンパチ始まっても、そもそも話の流れがよくわからないから今ひとつノレない。ああもったいない! もっとスカッとしたかったよー!!
 しかもクライマックスが…休演日明けから改変されたそうですが、ギルバートはどちらにせよかわいそうすぎる気がします。グレゴリーはジェレミーしか見ていないし、息子の腕の中で死ぬなんてそんないい目にあっていい悪人なの?という気がする…なんかもやっとしたぞ!
 でも、ジェレミーが街に戻ってきたところから始まって、今度はベンジャミンが街を出ていくところで終わる、というのは美しい。離れていても絆はある、またきっと必ず会える、家族だから、親友だから。
 マティはベンジャミンについていき(もはや嫁だね!)、一方エマには、「同じ賞金稼ぎとしてあこがれの存在」であるKiller Beeのジェレミーとしての素顔を知っても、いや知ったからこそ、生まれた新たな想いがあって、それはこれから実りそうだ、という予感がちゃんと示されて終わる。男が女の腰を抱き、女は男の肩を抱く、なかなかない構図だけれどこのふたりらしいくっつき方で、めでたしめでたし、いいラストでした。
 総じて、やろうとしたことはわかるし、何よりどの生徒も魅力的に輝くよう役が書かれている情熱はあるので、そこはまずは評価したい、というところでしょうか。妄想だろうが空想だろうがイメージだろうが、大事です。魅力がわかっている、伝えようとしている、ってことで巣から音。
 まあファン以外にも売っていけるものにしていくために、汎用性のある作品を作っていくためには今後もう少しスキルが必要かなとは思いますが、期待の新鋭作家でもあり、次回の大劇場デビュー作、がんばっていただきたいものです。

 というワケでちーちゃん、持ち味の生きた、集大成みたいな役が来ちゃいましたねえ。でももったいないからやめないでねまだ。ナウオンでもウルウルしているしこの輝きっぷりが怖いけど、信じてるよ!
 カイちゃんも、ホントはもっと煮詰まった役の方が好きだしやりやすいんだろうけれど、こういう熱く明るくまっすぐな役をケレン味なくストレートに演じられることって大事だし、ちゃんとそれができていて素敵でした。もちろん楽しそうだったのが何より。
 なんと最前列観劇でしたが、間近で見てもみんな隙なく美しい。素晴らしいことです…!
 エマのカノちゃんは、私はもうちょっと期待してしまっていて、パンチが足りないかなとか普通かなとか思えてしまったのですが、本当はこれだけできていればたいしたものなんですよね。でもデュエダンなんかもタラちゃんの娘役スキルに一日の長があり、さらに精進してほしい!と思いました。これまた期待の新進娘役さんです。
 大好評のネッドは、私はあっきーの顔も声も好きなのですがもっとクールでスカした役の方がタイプなので、オチずにすみました(^^;)。でも華が出てきたし場が保てるようになってきたし、進境著しいですね。素晴らしい!
 りくくんもすごく繊細な演技をきちんとしていただけに、脚本の弱点が露呈してしまいましたが、大健闘だったと思います。美貌だしダンサーだけど、いい演技をするよなあ、がんばれ!
 春瀬くん、七生くんもカッコよかったし、りんきらもさっつんもモンチもずんちゃんもいい仕事しているし、マックの留依蒔世もよかったなあ。
 モニカのしおりちゃんもすごく綺麗でした。きゃのんもアリサちゃんもいい仕事していたけれど、これまた私がやや期待しすぎで想定内だったかも。アンジェラのららちゃんは顔が小さくて背がすらりと高くて、さすが若い娘さんは違うわ!という感じでした。この先が楽しみ。

 若手を育てる、中堅どころにスポットを当てるバウ公演、ということではとてもちゃんとしていると思いました。宙組はこのあとの本公演がアレだけに(ToT)、若手の活躍が観ておけてよかったです。この先も腐らずしばし雌伏のときを耐えるのよ…!!


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『エルサイズのばら』

2013年08月05日 | 観劇記/タイトルあ行
 神保町花月、2013年8月2日ソワレ。


 悲劇の王妃マリー(愛純もえり)とフェルゼン(倉田あみ)の燃え上がる恋! だが食べ過ぎマリーはLサイズに…華麗な世界が蘇る、「神保町グランド・ロマン」。
 脚本・演出/菱田シンヤ、芸術監督/湊裕美子。全1幕。

 よしもとの公演…なのかな? ナンバーはすべて何故か松田聖子(しかも初期)で世代どんぴしゃすぎて笑い、安い舞台に最初は引き気味だったのですがもえりちゃんの娘芸芸の素晴らしさに引き込まれ(逆に元・銀河亜未のフェルゼンはも時に見えた。まあキャラがおもしろくなっちゃっているせいもあるのかもしれないけれど、やはり男役にはなんらかの魔法が必要なのだと思う)、原作も宝塚版も上手く踏襲した怒涛のギャグ脚本にいつしか笑い、楽しく見終わりました。
 オスカル、アンドレ、ロザリーといった架空の人物であり池田先生オリジナルのキャラクターは少しだけ名前を変えられていたりしましたが、そんなことは問題ではないやね。
 宝塚版では完スルーの王太子ルイ・ジョセフがきちんと扱われていたり(しかしLBGTネタはマイノリティ差別がどうという問題よりもはや笑いとしては古いのでやめた方がいいと思う)、毒ワインから今宵一夜の台詞を陶酔したアンドルがほとんどひとりで全部適当につなげて語っちゃうことによって生まれるとんでもない笑いとかがおもろしく、本当に見所がありました。
 逆に、出演お笑い芸人さんのファンで『ベルばら』をまったく知らないようなお若い観客さんにはわかるのかしらん、とも思えましたが…まあ正確な元ネタは知らなくてパロディとして味わえなくても、原作のイメージはあるだろうからそれで笑えるのかな。
 狭い劇場ですがまあまあの客入りで、温まってからはちゃんと笑いが起きていたので、楽しかったです。
 それにしてねパロディでもこれだけおもしろく笑えるように作れるのだから、逆にちゃんと作ればもっと泣けるようにもいくらでもできるってことですよ植田先生…! 原作の底力を今一度確認して、初心に帰って作ってもらいたいわあ。
 ところでフィナーレは倉田さんと劇団花組芝居の谷山知宏さんによる男役ダンスのみでした。デュエダンやってほしかったわー。でもタカラヅカといえば男役なんだろうからこれは仕方ないか。ダンスはなかなか良かったです。

 舞羽美海ちゃんが観に来ていて、ちょっといじられていました(^^)。可愛かったー。しかし神保町にミミちゃんという違和感ハンパないわー!(笑)
 楽しかったです。

 
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