はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

チェンジ!

2019-07-25 21:00:17 | 岩国エッセイサロンより

2019年7月23日 (火)

岩国市   会 員   片山清勝

 月1回、日曜日のくらし面に掲載される「チェンジ! なりたい自分になる」を楽しく読んでいる。昨年6月から始まった、読者をファッションで変身させる企画だ。米子市の理容師・Hさんが登場したこともある。投稿欄でよく名前を拝見する方で企画への親しみがぐっと増した。

 自分はどんなふうに変身したいのか、200字ほどにまとめ、写真と合わせて応募する。イメージコンサルタントによる外見診断でチェンジが始まる。
 毎回、「なりたい自分」に変身した満足そうな登場者の顔がいい。Hさんの「古希超えて渋く格好良く」は、帽子に手を置いた姿。仕事着のイメージが湧かない。ファッションとはこうも気分を変えるのか。
 わが装いを振り返る。
 高校を出て定年まで化学会社に勤務した。職場では会社貸与の作業服、通勤は車なので普段着、外勤や出張では無地の紺かグレーのスーツで困らなかった。着る物にさほど気遣いをせず仕事一筋、そのため着る物へのセンスが育たないまま定年を迎えたようだった。
 妻はクローゼットにある色や柄とは違う物を何度も見立て、勧めてくれる。悩んでも結局は私好みの地味系に落ち着く。昔ながらの着る物から脱却できない。
 まもなく八十路。老け込まずに少し粋に装ってみるか。派手でも華美でもなく自然風。仕上がりは年相応と「なりたい自分」を考えてみる。だが、具体的には示せない。諦めず紙面を見ながらじっくり考えよう。
  
      (2019.07.23 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)


一宿一飯

2019-07-25 20:57:56 | はがき随筆

2019年7月13日 (土)

  岩国市  会 員   上田 孝


 夕暮れ、道路上に小さな灰色の物体が動いている。近づいてみると小鳥のヒナ。このままではネコにやられると持ち帰った。すり潰した雑穀を与えるが口を閉ざしたまま。仕方なく虫かごに入れておいた。
 翌朝ピーピー鳴く声で目を覚ました。玄関の扉に掛けると、たちまち親がやって来た。蓋を開けると、なんとヒナは落ちるように飛んで出た。
 親は鳴きながら周りを飛び回る。ヒナはそれにつられて休み休み飛び、やっとの思いで木の枝に到達。それを見届けて一安心。ヒナの命を救ってやったと思うが、恩返しはいいよ。
   (2019.07.13 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


梅いろいろ

2019-07-25 20:56:33 | 岩国エッセイサロンより

2019年7月 8日 (月)

        山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 「今年からあなたが漬けなさい」のしゅうとめの一言で始まった梅干し作りも四半世紀。買うのはもったいないと庭に梅の木を植えてからは、サボりたくてもサボれなかったのが本音だが、毎年の恒例行事となった。
 昨年、自分の家の梅でさえ持て余しているのに、主人が梅をもらってきて3年分ぐらいの梅干しを漬けた。しめしめこれで少しは休めると思っていたら、今年は梅酒と梅ジュースを作ってみたいと主人が言い出した。とりあえずへたを取ると主人がいそいそと作り始めた。
 今年の夏は、主人お手製の梅ジュースで乗り切れそうだ。
      (2019.07.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


お礼参り

2019-07-25 20:54:57 | 岩国エッセイサロンより

2019年7月 6日 (土)

お礼参り

  岩国市  会 員   沖 義照

 奥さんと庭に出てガーデンランチをとっていた。その時「あっ、シジュウガラが鳴いているわよ」と指を差す。見ると、フェンスの上で、1羽のシジュウガラが「ツッピン ツッピン」と鳴いている。「あのシジュウガラに違いないわ」と断言した。
 前日のことである。手作りした巣箱の中でかえり、2週間がたっていた8羽のヒナが忽然と姿を消した。めでたい巣立ちなのに、何の挨拶もなく飛び立たれたことが胸に引っかかっていた。きっとお礼参りに来てくれたのだと思い、「ヒナロス」に陥っていた私は吹っ切れた気持ちになった。 
  (2019.07.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


梅粥と祖母

2019-07-25 20:40:20 | はがき随筆

 幼い頃、風をひいて発年した。祖母は梅粥をこしらえた。

残りの麦飯を小鍋に移し、梅干しの肉をほぐし、削り節を添えた。雅な梅の香りが漂う。やがて梅粥ができ、お椀についでもらい「頂きます」。熱いので息を吹きかける。舌やのどがお粥の味を覚えた。頬や背中、手足まで温まった。梅干しの香りと薄塩の味がなじんだ。精根込めた祖母の味に「ありがとう」。

 せまい額、頬の縦横のしわは絹糸のような光沢で気高く見える。手拭いを濡らし、つげの櫛ですいてくれた。風邪を引くと、いにしえの祖母の梅粥に思いをはせる。

 鹿児島県姶良市 堀美代子(74) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載


間に合った

2019-07-25 20:28:02 | はがき随筆

 ディズニーの実写版映画「アラジン」を娘と観に行った。

 第一番の字幕版に間に合うよう準備したつもりが、出遅れてしまった。車の中で娘がイライラしつつ「お母さんがサッサ着替えんからやがね」と注意した。素直に謝ればいいものを「だって~」と私。「もう間に合わない。今、何分」と娘はさらに苛立った。

 映画館にギリギリで着いた。席に座るや始まった。お互い顔を見合わせ自然に笑みがこぼれた。実写版はアニメ版に比べて期待外れが多いが、今回は見応えがあった。結果オーライ、至福の一日となった。

宮崎県串間市 林和江(62) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

 


ゴリラパパ

2019-07-25 20:15:29 | はがき随筆

 常連の多い居酒屋で、妹家族と食事に行った。旦那抜きで。

 カウンターでは、常連さんたちとおかみさんで話が弾んでいる。カウンターの上にあるテレビでは動物の番組が流れていた。

 やっと動物の名前を覚えた姪っ子は、うれしそうに「パンダ!」「キリン!」などと大きな声でしゃべっていた。

 すると今度はゴリラが出てきた。姪っ子は瞳をキラキラさせながら「パパ」「パパがいるぅー!」と大声で叫んだ。店内は爆笑。妹は恥ずかしそうに笑っていた。

 熊本市中央区 阿部のぞみ(37) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載


雨に咲く花

2019-07-25 20:04:54 | はがき随筆

 

 

 今日も雨か……。思わずこんなつぶやきが出る。そんなジメジメした気分を晴らしてくれるように、玄関脇の鉢植えの中から花火が開いたように、赤いハエマンサスが咲いていた。

 「今年は1輪だけだったけれど、肥料が行きとどいたようで、大きく咲いてくれたのよ」とカミさんも満足げ。

 少し先にいくとゼフィランサスが風に揺れている。ポツンと離れたところでカサブランカが2輪、存在を主張している。

 カミさんはドリップで入れたコーヒー、私はインスタンスコーヒーを手に、雨の庭に咲く花々を眺めながらのひと時。

 鹿児島県西之表市 武田静瞭(82) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載


あいさつ

2019-07-25 19:57:47 | はがき随筆

 夏の甲子園を目指した高校野球の観戦が忙しい。

 自分のミスで相手チームに加点された選手の気持ちはいかばかりかと察する。家族や学生がスタンドを埋めている。

 でも、その裏で相手のミスから加点して同点となりホッとする。勝負は、必ず、紙一重のところで大きく作用しているような気がしてならない。

 勝てば甲子園。負ければ来年こそと希望は残るが、厳しい練習の日々が走馬灯のように脳裏を過ぎることだろう。ここで気持ちを切りかえ。行き交う生徒のあいさつの爽やかさ、来年もあいさつのため、また来よう。

 宮崎市 黒木正明(86) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載


小さな造船技術

2019-07-25 19:48:14 | はがき随筆

 「ママ、このひもどうやったらこの枝にくっつけられるの?」。テープ、木工用ボンド、ホチキスなどを前に5歳の息子。自分で調達してきたらしい。

 「何を作るの?」「大きなヨットを作ろうと思って」

 世界に向けて虚心に見開かれた幼い瞳はきれいだ。

 「木工用ボンドでくっつけてみたらどうかな?」

 私は操縦までの糸口を小さな造船技師に託した。「分かったありがとう」。

 こちらこそありがとう。試行錯誤している息子の頑張る姿に感動を覚えた朝だった。

 熊本市東区 山下裕里(32) 2019/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載


利用再び

2019-07-25 18:42:23 | はがき随筆

 朝4時から7時まではラジオ、7時から8時15分まではテレビ、が私の従来の朝のパターンだった。ところが半年にわたる入院で、テレビは別だが大事がある以外は聴きたくても聴けず状態で、不満の募ること多々であった。

 しかし、半年ぶりに自由あふれる我が家へ戻った。ありがたく、うれしい日々。不自由な足腰ながらのラジオ体操、朝ドラ、ニュース、それにしても多い気象情報と、まんべんなく見て知ることができる。孫の出勤を門に出て送るため見そこなうこともあるが―—。やっと半年前に戻れた。

 鹿児島市 東郷久子(84) 2019/7/24 毎日新聞鹿児島版掲載


圧力釜

2019-07-25 18:33:00 | はがき随筆

 圧力釜を愛用している。料理ではなくご飯がメイン。以前、日曜版に宇野千代さんの随筆があった。圧力釜で炊いたご飯のおいしさを絶賛されていた。欲しいなと思っていたら義妹が譲ってくれた。

 お米と同量の水加減。最初は強火で重りが揺れだしたら弱火にして3分。自然に圧力が下がるまで蒸らす。これでつやつやのご飯のできあがり。

 寄る年波に勝てず釜が重いとぼやいたら、娘が炊飯器を買ってきた。使ってみたが、30年近くなじんだ味は捨てがたく「やっぱりこっちだね」と重たい圧力釜に軍配を上げる。

 熊本市中央区 山口妙子(83) 2019/7/25  毎日新聞鹿児島版掲載


若木よ育ってね

2019-07-25 17:36:41 | はがき随筆

 森林組合から賞状授与の案内がきて何だろうと思いこれも経験だと出かけた。

 会場は男性ばかり200人以上いた。壇上へ呼ばれたが手すりは無く段は高く上がれない。帰る? 否這う? 皆が見ている。「エイ」と手を出すと男性が手を引いてくれた。森林育成に貢献したという感謝状だった。

 夫亡き後44歳の時、山林を購入し植林した。生あるうちに木材を売るとは思わなかった。

 この春、跡地に植林した。令和元年、息子名義で今、若い苗木が梅雨の湿りを待っている。

 若木よ負けるな、雨は降る。しっかり根付き頑張ろう。

 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(92) 2019/7/23 毎日新聞鹿児島版掲載


黒いアルバム

2019-07-25 17:01:57 | はがき随筆

 義姉から黒いアルバムを託された。亡父のもので、その中に「昭和12年万田坑にて」と添え書きされた父の写真がある。シャツを腕まくりした仕事着姿で、24歳のスリムな体形が若々しい。

 昭和34年12月に始まった三池争議では大きな対立が起き、昭和38年11月9日の三川抗炭じん爆発事故では多くの仲間が死んだ。そんな時代を父は勤め上げ、子供3人を自立させてくれた。

 黒い表紙のアルバムを見ながら、改めて父を思った。もっといろんな話を聞いておけばよかった。

 熊本市北区 岡田政雄(71) 2019/7/22 毎日新聞鹿児島版掲載


傘寿を控えて

2019-07-25 16:11:26 | はがき随筆

 80年は長いが、振り返ると速い。懐かしく楽しかった出来ごとが浮かんでくる。ところが、ビザなし訪問団で国後島を訪れた国会議員が、島を取り戻すには戦争を考えてはどうかと言いだした。眠っていた記憶、ぼくの世代なら最初に体感した恐怖が呼び覚まされた。

 戦況の悪化が物心ついたぼくに恐怖を植えつけた。父は出征し、妹を背負った母に手を引かれ、炎が染める夜空を眺める。探照灯の光芒の中、焼夷弾がゆらゆらと落ちてゆく。国会議員は、関ヶ原の戦いを漫画で見た程度だろう。現実はボタンを押せば始まり、そして終わる。

 鹿児島県志布志市 若宮庸成(79) 2019/7/21 毎日新聞鹿児島版掲載