はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

頂き物

2019-07-11 21:19:13 | はがき随筆

 夕方仕事を終え家に帰ると隣人からの差し入れが置いてある。「わあ、雑魚がこんなにも」。大きい物で10㌢くらいの鰯、2㌢くらいの鯵や金魚に似た魚など、昔懐かしい魚もある。私は海の近くで育ったが、雑魚を始め飛び魚や、鮫、エイにいたるまでトロ箱でもらっていた。そんな魚の下ごしらえをする祖母や母の姿を思い出した。

 運良く帰省していた娘が手伝い、夕食には南蛮漬けを作り、干物用にと塩もした。小魚は煮干し、娘の作ったオイルサーディンは初挑戦ながら最高の味だった。小さな雑魚から大きな豊かさを頂いた。

 宮崎県串間市 しまださつき(65) 2019/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載


見つけた青春

2019-07-11 21:09:46 | はがき随筆

 テレビで80歳のおじいちゃんがサーフィンをしている姿を見ました。71歳から始めたとのこと。大波をかき分けかっこいい姿。笑顔が輝いています。「青春に年齢はありません」。その一言が胸に響きました。

 私も見つけたいと思いましたが頭の中では「無理、無理」と叫んでいます。でも、夢で終わりたくない。思いがけなく引き出しの隅からけん玉が出てきました。これだとひらめき、始めました。毎日5分、10分と続けるうちに赤玉が大皿から反対の小皿にのるようになり、うれしくてたまりません。小さな青春を見つけることができました。

 熊本県八代市 相場和子(92) 2019/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載


「しようがない」

2019-07-11 20:29:03 | はがき随筆

 二つ違いの姉と暮らしている。難病だと告げられて9年目になる姉は、今年から歩行器を使うようになり、デイケアに週1で通うようになった。症状は深くなる一方だが、以前より気持ちが吹っ切れたように感じられるのが何よりうれしい。

 姉が幼なじみとランチをした。その友人も体の不具合だらけで何年も通院しながら不便な日々を送っているという。

 2人の会話の中で「しようがないもんね」と自然に出たセリフがあったらしい。愚痴ではなく、前向きに現実を踏まえて自分なりの光を見つけることが大切なんだろうね、と思った。

 宮崎市 藤田悦子(71) 2019/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載


朝の鬼ごっこ

2019-07-11 20:18:24 | はがき随筆

 「きょうは3人で一緒に行けるね」とテンションが上がっている私。慌てて準備をして家を出る子どもたち。この春から浪人生になった息子、朝課外のない日の娘、仕事に行く私が週に一日だけ同じ時間に家を出る。

 信号機を二つ過ぎるとバラバラになってしまう。少しの距離を逃げる子どもたち、追いかける私。タイミング悪く赤信号に引っかかってしまう娘。道路の反対側からニヤリと笑って追い越す息子。たった数分の出来事だが私にとって大切な時間だ。あと何回こんなことができるんだろう。面倒くさい母に付き合ってくれてありがとう。

 熊本市中央区 片柳順子(44) 2019/7/3 毎日新聞鹿児島版掲載