はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

お礼参り

2019-07-12 21:00:26 | はがき随筆

2019年7月 6日 (土)

  岩国市  会 員   沖 義照

 奥さんと庭に出てガーデンランチをとっていた。その時「あっ、シジュウガラが鳴いているわよ」と指を差す。見ると、フェンスの上で、1羽のシジュウガラが「ツッピン ツッピン」と鳴いている。「あのシジュウガラに違いないわ」と断言した。
 前日のことである。手作りした巣箱の中でかえり、2週間がたっていた8羽のヒナが忽然と姿を消した。めでたい巣立ちなのに、何の挨拶もなく飛び立たれたことが胸に引っかかっていた。きっとお礼参りに来てくれたのだと思い、「ヒナロス」に陥っていた私は吹っ切れた気持ちになった。 
  (2019.07.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


チラシの中に

2019-07-12 20:46:14 | はがき随筆

 私の愛するレモンの木がたわんで通行の邪魔になると娘の言。どんなになっているのだろうと気にかけていたが、帰宅の機会がなかった。

 そのうちどうにかして帰ろうと思った矢先、息子の持ってきてくれた新聞のチラシに「あっ、これはレモン」。おどろいてたしかめると、そうである。戸建て宣伝のチラシの隅に繁っている。なるほどよく繁っている。さもありなんと。それにしても今切っては実が守れないので6月になってから繁りすぎの分を潔くカットしよう。と、チラシのおかげでわかった。ありがとう。

 鹿児島市 東郷久子(84) 2019/12/4 毎日新聞鹿児島版掲載


感謝

2019-07-12 20:32:30 | はがき随筆

 いつまでときめられないのが命。気がつけば身辺のものを整理している自分です。

 随分出てくる健康保持に役目を果たしてくれた品たち。腰痛ベルトに、膝巻き、腕巻き。自分で考案したもの、買った品、種々でおのおの数も三つ四つ。

 思えば随分体を酷使してきたと思うのです。

 それは、無鉄砲に酷使した面もあることが脳裏から消えないのです。

 心配する父母を後目にけがもして来た昔。今もって父母には懺悔と感謝なのです。今はゴルフやれる程元気です。ありがとう。

 宮崎県延岡市 前田隆男(81) 2019/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載


言葉ひとつで

2019-07-12 20:20:46 | はがき随筆

 不安でいっぱいの看護助手だ。金魚のフンのように看護師の後をついて回っている。

 ある日。「牧野君、やってみようか」という看護師の声にどきっとしながらも排せつの介助をした。これでいいのかなと思うと汗ばんできた。すると「トイレの世話なんて大変だろうに、本当にありがとうね」。パーッと光がさした。不安な気持ちが吹き飛んだ。

 介助しているはずの私が介助されているような気持になった。その反面、もっと患者さんが喜ばれることを自分で考えて実行できるようになりたい。

 今、私は猛勉強中だ。

 熊本県合志市 牧野哲己(24) 2019/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載


夕方の来訪者

2019-07-12 20:10:54 | はがき随筆

 夕方ドアチャイムが鳴る。映っているのは男性だ、「警察署の者ですが」一瞬どきっとした。

 「ご用件は何ですか」「地域の調査です」

 ほんとかな、だまされないぞ。「どこの警察署ですか」。内心どきどきしなから聞いた。恐る恐る二重ロックを開けると、若いおまわりさんは笑顔。物騒な昨今なのでと失礼をわびた。慎重な対応でよかったです、いろいろな人がおりますよ、と話され、思わず笑った。何かあったらと交番の電話番号を書いて下さった。何事もなかったことに感謝。

 鹿児島市 竹之内美知子(85) 2019/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載