はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

どこに棲むか?

2019-07-15 22:04:52 | はがき随筆

 裏の森がスーパーに変わって「自家用超大型冷蔵庫だ!」と妻は喜んだ。だが、その森は生物たちの棲家であったのだ。

 大淀川水際の木立も伐採された。お寺境内の林と祠がある我が家マンション前の小藪とだけが残った。今までウグイスたちのさえずりを録って、SNSで世界へ発信していたが。人間の都合で棲家を奪われた小動物たちは、どこに棲むのだろう。

「我が家で一緒に暮らそう!」と誘うわけにもいかないね。

ドイツでは河川内に洪水の流れを緩め併せて小動物の棲み家を確保するため緑化を進めている。

 生き物と人間は共生したいね。

 宮崎市 貞原信義(81) 2019/7/13 毎日新聞鹿児島版掲載


タコ漁外伝

2019-07-15 21:53:59 | はがき随筆

 タコ漁が中止になったと連絡が入った。風が強くて船が出せないとのこと、そういえば我が家の庭木も大きく揺れている。

 釣りの仕掛けや着替えなど、鼻歌交じりで準備万端整えていた夫の落胆ぶりははた目にも気の毒なほど。かく申す私も、薄切りにした生タコのカルパッチョ、キュウリとタコの酢の物、それにタコのブツ。あれこれ考えを巡らしたタコ尽くしも先送りになってしまい残念至極。

 でも、自然に抗うことはできない。船長の決断が頼もしくもある。夫は夜釣りに備えて我慢するはずだった晩酌を今日も心置きなく楽しむことができる。

 熊本県菊陽町 有村貴代子(72) 2019/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

 


生まれて初めて

2019-07-15 21:44:09 | はがき随筆

 67年の人生で初めての入院、手術という事態になった。悪い部分はさっさと取り除いてほしいと思っていたが、入院の前に数日かけて検査のフルコースがあるとは知らなかった。

 尿、血液検査に始まりレントゲン、МRI、CTスキャン、肺活量、心電図をとりながら階段の昇り降り、さらに脚の血管エコー、胃カメラ、大腸の内視鏡などなど。ただでさえ細身の私が検査前の絶食で体重減。

 すっかり疲れ果てた体でまな板に乗るのね。手術のあとに無事に麻酔から覚めますように。

 鹿児島市 種子田真理(67) 2019/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載


太古の風

2019-07-15 21:34:43 | はがき随筆

 「好きやねえ」。菜園の畝の補整に集中する私に、夫があきれたように言う。鋤で土をかき盛り上げて、四隅が四角く立ち上がるとスッキリする。

 畝は古墳の前方部に似ているとふと思う。10年以上前通りがかりに偶然見つけ心引かれた、新田原古墳群を思い出した。

 今ごろだとトウモロコシの緑が一面おおう黒土の台地に、前方後円墳や円墳がポコンポコンと草の小山を成す。隣り合わせで農家や牛舎が建つ風景が、訪れるたびに親近感を抱かせる。

 今ここで土を耕す私も歴史の端くれ。そよぐ風に太古を感じしばし汗をぬぐう。

 宮崎県日南市 矢野博子(69) 2019/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載


混ざり

2019-07-15 21:24:41 | はがき随筆

 4月から外国人受け入れが緩和され、外国人との混ざりが加速する。文化や風習の違いはしっかり伝え、一人の人間として受け入れることが、よい共生とプラス効果を生むと思う。

 しかし、国内には老若男女の混ざりが不十分という課題がある。老若の課題は、インターネット、AIなどで、若い人の力が世を動かしつつある。

 問題は男女の混ざり。日本の女性国会議員の割合は世界167位。職場での女性の地位もまだ低い。女性の視点が加わると更に違った発展が望めるはず。

 いろいろな混ざりの力を信じたい。

 熊本県八代市 今福和歌子(69) 2019/7/9 毎日新聞鹿児島版掲載


九州JRに感謝

2019-07-15 21:12:08 | はがき随筆

 再びJR九州自由時間ネットパス、3日間乗り放題に挑戦した。まず昭和ロマン復活の門司港駅へ。港まつりで大にぎわい。小学校の頃、父と東京から鹿児島へ帰郷の際、関門連絡船で本州から九州へ、煙と共にSLの長旅。連絡船の板のひびきがかすかに記憶に。

 あくる日、北九州のかつての炭鉱地帯のローカル線にからだを預ける。コトコトゆるやかな響きにしばしの憩い。祭りのみこしに手を合わせる。拡大鏡を手に時刻表をめくり、路線を確かめ、日程をたてる。駅弁に舌つづみを打ちつつ「JRさんありがと」。

 鹿児島県姶良市 宇都晃一(86) 2019/7/8 毎日新聞鹿児島版掲載


日傘の女性

2019-07-15 21:00:45 | はがき随筆

 ある朝「ピンクレディーのあなたにピンクのプレゼントを持って来たよ」とボランティア仲間が言う。「ピンクオールドです」と返すと「そだね」と返された。

 それはピンク色の厚紙で手慰みで作られたような置き人形だった。右手に日傘を差した美しい立ち姿は、ふた昔前パリの美術館で観た絵画を彷彿させた。

「卒寿祝いの兄が作ったとよ」

 ーエッ!男の人がー

「お兄さんはあの絵を思って作ったんですかね」「ああ、あの絵ね、モネのね」

 断捨離中で物は歓迎しないがこれは大切に飾ろうと思った。

 宮崎県延岡市 露木恵美子(68) 2019/7/7 毎日新聞鹿児島版掲載


魔法の言葉

2019-07-15 20:52:30 | はがき随筆

 夫が放った一言にカチンときた私は黙って一人で散歩に出た。後ろから夫が慌てて追いかけてきた。私は一言も話さず、夫もまた話しかけてこない。いつもの事だと心得ている。

 夜風は心地よく星もきれいた。ケンカしているなんてもったいないよと、もう一人の私が揺れている。夫は優しい人である。気が強くてわがままな私を放り出しもせず一緒に歩いてきてくれた。

 「こんな私をお嫁さんにしてくれてありがとう」と言うと「こんな僕のところにお嫁に来てくれてありがとう」。バカな夫婦だと大笑いして一件落着。

 熊本県天草市 岡田千代子(69) 2019/7/6 毎日新聞鹿児島版掲載


懐かしい名前

2019-07-15 20:42:48 | はがき随筆

 今年の春先、新聞を見ていると懐かしい名前を政治面で見つけた。今年の参院選に比例区から立候補という記事だった。

 彼は元放送局の記者で初任地が鹿児島。新人ながら特ダネを重ね、他社の記者の評判も高かった。同時期、地元新聞の新米記者だった私は、彼と担当が異なったため、会うのはほとんど夜の天文館だった。若い私たちは酒席で、記者としての姿勢を熱く語り合った。彼は権力者との距離感が大事が持論だった。

 権力者との距離が緩くなっている今の報道機関のふがいなさが、出馬動機の一つと思った。今度あったら聞いてみたい。

 鹿児島市 高橋誠(68) 2019/7/5 毎日新聞鹿児島版掲載