はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

40年前の仲間

2019-07-18 21:43:54 | はがき随筆

 3畳一間が8部屋あった。女学生同士で共同生活をしていた。外壁はトタン葺きで当時でも年代物だった。電話の音にワクワクしたものだ。「○○さん電話ですよ」。下宿のおばさんの声。「は~い」。床のきしみとドタバタの音が響いた。夜が明けるまで、恋バナや夢を語り合った事もあった。極めつけは「落とし」を共同で使った事。

 そんな仲間と再会して、伊勢神宮参拝をした。博学だった一人が、お賽銭の時に言った。「500円はこれ以上の効果(硬貨)無しだって」「へえ~そうなんだ」と一同。変わらない会話がうれしかった。

 宮崎市 津曲久美(60) 2019/7/17 毎日新聞鹿児島版掲載


歯が抜けた?

2019-07-18 21:33:56 | はがき随筆

 「アレッ、何これ?」。敷布団の上に小さな硬いものを発見。何か分からない。もしかしたら犬の歯? 桃太郎の口をこじ開けて確かめる。どうも前歯らしい。そういえば最近、餌も食べたり食べなかったりだった。

 犬にも歯痛があるのか。夫いわく「俺の歯も残り少ないもんな」。老犬になると白内障や耳も聞こえにくいと聞く。散歩の時だって後ろ足がブルブル震える。たぶん低下だろうが。以前、ペットクリニックで尋ねたら、先生は笑っておられた。

 犬も人も普通に生きている。「歯が1本抜けたくらいでどうするの」と見上げる桃君。

 熊本県八代市 桑本恵子(73) 2019/7/15 毎日新聞鹿児島版掲載


トンカツ

2019-07-18 21:23:55 | はがき随筆

 突然、弟が逝ってしまって、36年の歳月が過ぎてしまった。この時期になると、いろんなことが思い出され、胸が苦しくなってくる。亡くなる2日前にやってきて、大好きなトンカツをおいしそうに食べて「あー疲れた」と言い、その場に寝てしまった弟の顔は疲れ切っていて、とても起こすことができなかった。朝方「ありがとう」と帰っていった姿が最後だった。

 21歳、あまりにも早い一生だった。なににそんなに疲れていたのか、今となってみれば知ることもできない。ただ、トンカツを食べているときの満足げな顔は彼そのものだった。

 鹿児島県霧島市 上野京子(63) 2019/7/14 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆6月度

2019-07-18 20:41:43 | 受賞作品

月間賞に荒巻さん(熊本)

佳作は田中さん(鹿児島)、福島さん(宮崎)、宮本さん(熊本)

はがき随筆6月度の受賞者は次の皆さんでした。

 【月間賞】6日「約束」荒巻采香=熊本県合志市

 【佳作】26日「薬指のつぶやき」田中由利子=鹿児島県薩摩川内市

 ▽27日「ばあばのバーバー」福島重幸=宮崎県日向市

 ▽27日「猿股」宮本登=熊本県嘉島町

 6月は10代、20代若手の投稿がありました。活字離れの激しい昨今若者の随筆はうれしい限りです。

 やはり投稿の大半は熟年層の方々です。しかし高齢者だからと言って昔の思い出に浸るばかりではなく、将来へ目を向けて新しい発見や社会に対する厳しいご意見などもぜひお寄せください。

荒巻采香さんは元気あふれる18歳。小さい頃から曽祖母に聞かされてきた「人を笑顔に……」との教えが今の自分を支えているといいます。認知症になったが今も昔のままの可愛いひいおばあちゃん。采香さんは感謝の気持ちを忘れないやさしい心の持ち主です。いやされます。これからも他人を思いやる気持ちを失わず素直に生きていってください。

 田中由利子さんの「薬指のつぶやき」浅漬けの唐辛子のせいか指輪のあとがひりひり痛い。ふと見る指輪から結婚生活の喜怒哀楽が見えてくる。でも懐かしい。気持ちを取り直して指輪をはめてみる。心が輝いてきた。誰でも体験する人生の悲喜こもごもがあふれています。

 ユーモアたっぷりの随筆は福島重幸さん。床屋が廃業したので妻に切ってもらうことにしたが、私の注文がうるさいのでいつも喧嘩ばかり。髪も薄くなって、妻がとうとう「どこを切るの?」我が家のバーバーも廃業か。笑ってしまいました。愉快な家族のスケッチです。

 宮本登さんの「猿股」にはびっくり。まさか宮本さんらが広めたとは知りませんでした。風通しがよく健康にもいいと言われています。ブリーフ派トランクス派どちらが多いでしょうか。その辺りの考察もお願いします。

 そのほか宮崎県の杉田重延さん、楠田美穂子さん、鹿児島県の馬渡浩子さん、熊本県の桑本恵子さんの随筆が印象的でした。

 熊本県文化協会理事 和田正隆