書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

吉川幸次郎 『元雑劇研究』

2017年03月02日 | 文学
 テキストは『吉川幸次郎全集』14(筑摩書房 1985年4月)所収のものによる。

 吉川氏は、元の雑劇ひいては元の文化状況一般を、清新の気に満ちたものとし、モンゴル人とその支配による伝統的な社会秩序の破壊、倫理の転換を、肯定的に評価される。当時の民衆勢力の伸張もまた、モンゴル・元支配によってもたらされた結果とする。
 (小松謙氏は、明の戯文につき、明代を元代の荒廃混乱から脱しかつ読書する知識人層が上はやや下がったかもしれぬが下方へおよ水平面的に拡大したという認識のもとで高く評価する。)
 吉川氏は、宋で確立した中国の伝統と社会に破壊と新生をもたらしたモンゴル・元時代がおわり明となって伝統的な社会と文化へと中国が回帰するなかで、雑劇がその持っていた愚直さと潑剌さとを失い、洗練と安定へと向かったのが戯文であるとして、戯文を中国戯曲史の下降局面と捉える。
小松氏はそうではない。)