書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

田辺夏子/三宅花圃 『一葉の憶ひ出〈新修版〉』

2014年06月25日 | その他
 二人の描く一葉像があまりにもかけ離れている。「解説」で松坂俊夫氏も指摘しておられるが、それを待つまでもないほどだ。田辺一葉はお淑やか、内向的で無口、人の悪口を決して言わぬ。三宅一葉はまさに正反対。才はたしかにある、だがそれを衆目のあるところでわざとひけらかす、貧乏のせいで僻み根性が強い、底意地が悪く、「人をハメて笑つてゐる」。一言でいって、嫌な女である。松坂俊夫氏は、三宅一葉のほうが実像に近いというのが最近の研究の主流だと仰る。彼女の日記を虚心に読んでも、あまり良い性格とは思えない。だが却って、一葉の面白さはそういった人格の複雑さにあるのではないかとも思う。個人的にはつきあうどころか関わり合いにすらなりたくすらないが。

(日本図書センター 1984年9月)