書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

松尾正人編 『日本の時代史』 21 「明治維新と文明開化」

2005年09月27日 | 日本史
 明治以前の天皇は拝むと御利益のある「神様」だった。江戸時代は全国レベルで見たら目が潰れると思われていた。明治になってもしばらくはこの種の「神様」扱いで、明治11(1878)年の全国巡幸の際、新潟では「行列に向かって賽銭を投げるな」という諭告が出された。中国地方では家々に注連縄を張ったうえ、御鏡餅や御神酒を台の上に供えて巡幸を迎えた所があった(以上、本書「Ⅱ 巡幸と祝祭日」より)。
 江戸時代は公家も神様(“生き神”、“現人神”)扱いで、京都の住民は験があるというので公家が入った風呂の水をもらって飲んでいたと聞いたことがある。この本でも、御所に入る公家に手を合わせる庶民が描かれた当時の絵画資料(「拾遺都名所図絵」1787年)が紹介されている。
 「日本は神の国」の「神」とは、元来はこういう意味の「神」である。何遍でも言うが、土俗神道と明治以後敗戦までの国家神道とを一緒にするな。聞く方も言う方も。

(吉川弘文館 2004年2月)