経棚峠の夜明け

2022-07-22 | 海外蒸機

この写真も鉄研三田会写真展に出した写真ですから、少ない「持ちゴマ」を減らさずに出せる写真です。

選択基準がナサケナクてすみません。

経棚峠(けいたなとうげ ジンペンパス)は夢のような撮影地でした。

熱水(ねっすい ガラデシュタイ)という撮影地そのものの中に温泉ホテル群が建っていてホテル脇で重連蒸機の峠越えのスペクタクルが終日展開されるという場所です。

集通鉄路は内モンゴル自治区集寧から内モンゴル自治区通遼まで約1000kmの内蒙古の地方鉄道。 両端で中国国鉄に接続して、北京を北廻りでバイパスする唯一の路線です。 設備も車両も全て中国国鉄の「お古」を使っているので腕木信号機(←ほぼ日本と同形)を使い、100%前進形蒸汽機関車でした。

200km毎に機関区、機関支区が有って機関車交換、転車折返が行われていました。

東西どちらから来ても3つ目の区間だけは最急勾配12‰で、他の区間6‰のところは単機、勾配が倍のこの区間だけ重連運転でした。

集通線ど真ん中には大興安嶺越えの難所「経棚峠」があり西の経棚から25km、東のガラデシュタイから25km連続勾配で上店駅近くのトンネルサミットを目指します。 勾配が緩いため「Ω」形のカーブで階段状に山の斜面を登ります。 峠の東に2箇所、西に3箇所のオメガカーブがありました。

宿はガラデシュタイですが、貨物が重車(積車)なのは主に東行列車ですから主に西側に撮影に行きます。

旅客列車は時刻通り運転されていますが貨物列車にはダイヤが無く、運転指令からの無線指示で走るアメリカ方式です。 ですから撮影に適した山の上に夜明け前に到着しておかなくては撮影は覚束ないです。 標高1200m前後で緯度の割に格別寒い経棚峠ですが撮影のチャンスは朝と夕の2回だけ、昼間はテッド・タルボットが言う「ゴミ」ですから昼寝に帰っても良いかなというのが本音です。 タルボットが言う「ゴミ」(←これだけ日本語です)は曇天の写真を言っていたのですが、朝夕から見たら昼はつまらないと思います。

この写真を撮影した年月日時は覚えていないのですが、衣服や荷物のあちこちに予備のバッテリーを入れて山に登る私が、たった一度だけ一つもバッテリーがなくて担ぎ上げた β-cam が回せなかったと言う屈辱の朝です。(バッテリーはアントンバウアーの14.4Vリチウムイオン電池です)

大興安嶺山脈の峰々に朝日が差し始めています。

谷底には白い雲が漂って居て、空には黒い煤煙が残っています。 これらはこの前進形重連貨物列車がオメガカーブを辿って谷底から上がってくる途中、眼下を通った時に吐き出した蒸汽と煙がその場に残ったものです。

寒く無風で極限まで白煙が消えない場合、白煙は地面近くに落ちて残り、煤煙成分はゆっくり上がって完全に分かれる訳です。

これを撮ったらもう帰って寝ても良いかもしれません。

しかしながら私は「手ぶら」で山を降りて、視界外に待たせてあるチャーター車“金杯”(トヨタライトエース)にバッテリーを取りに帰り、登り直してベーカムを回すことにしました。 「手ぶら」なら「ちょろい散歩」です、

朝から夕暮れまで撮って、夕食は金泉美食城でたらふく飲んで食って、宿に帰る時には満天の星空の下、時折前進形重連の焚口から漏れる光で白煙をオレンジ色に染める情景を見ながらゆっくり宿に入る。 この世の現実とは思えない天国でした。