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非正規雇用増と並行して減少したのは正規雇用ではなく自営業である、と。

2018-03-15 11:31:02 | 読書ノート
神林龍『正規の世界・非正規の世界:現代日本労働経済学の基本問題』慶應義塾大学出版会, 2017.

  労働経済学。戦前の労働市場の実態から、日本的雇用慣行の成立と現状、労働法や労使関係、非正規雇用の業務内容まで詳しく探り、現在の日本の労働市場の全体像と方向を提示してみせる大著である。著者は一橋大学の先生。図表が小さくて老眼には辛く、また統計処理も複雑で、細かなところは完全には理解できたとは言えない。しかし、実証手続きに目をつぶってその言わんとするところだけを汲むだけでも、十分に啓発的である。

  1990年代末から日本的雇用慣行が崩れてきた、あるいは時代遅れだから捨てるべきだと言われてきた。しかしながら、2010年代半ばになっても正規雇用者の数は減少しておらず、また終身雇用が衰退しているわけでもなく、安定的に推移している。したがって「正規雇用者が非正規雇用者に置き換えられた」という通俗的なイメージは正しくない。1980年代以降の労働市場の変化は、自営業者の長期的な衰退によって代表されるべきで、非正規雇用者は自営業者に入れ替わるかたちで増加してきた。この傾向に対して、派遣法制の成立・改正はそれほどインパクトを持っていないという。

  では非正規の被用者となることは自営業よりマシなのか。収入に関して言えば非正規雇用されたほうがよく、ワークライフバランスに関して言えば自営業のほうが優れているという。一長一短なわけだが、しかし数十年にわたって非正規雇用が選択されてきた。その理由は推測されてはいるものの、今後の検証課題とされている。また、日本においてはこれまで、働き方のルール作りは労使で話し合うという形でコントロールしてきた。その合意は労働法以上に裁判所で尊重されてきた。しかし、非正規雇用者の数が拡大するにつれ、法・裁判・行政機関などの介入が増えるだろう(ニュアンス的には「必要だろう」とも取れる)と締めくくられている。

  以上が本書の中身。この他、戦前の民間の就職斡旋業や、女性労働、賃金格差や派遣が非正規に占める割合まで、労働問題で争点となりそうなさまざまな論点への言及がある。ハードではあるが、働き方改革を考えるための基本書籍として有用だろう。もう一回読むつもり。
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