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1993年原著刊行の米国郊外論、郊外育ちには刺さる

2023-04-05 14:25:16 | 読書ノート
大場正明『サバービアの憂鬱 :「郊外」の誕生とその爆発的発展の過程』(角川新書), KADOKAWA, 2023.

  米国郊外論。ただし現地取材や統計データはない。1950年代から90年代初頭までの米国文学と映画を通してみる郊外の栄光と挫折の歴史である。著者は映画評論家で、ブログ(https://www.c-cross.net/)も運営している。なお、本書の原著の出版は1993年(東京書籍)となっている。

  20世紀半ばの米国では、治安の面で危険でかつ不衛生な都市に対して、安全かつ清潔な郊外での生活が理想化された。一方で、そこでの生活に物足りなさや欺瞞を感じる住民も常に存在してきた。というわけで、彼らをクローズアップした小説や映画が米国の20世紀後半に多く作られる。取り上げられているのは、ジョン・アップダイク、レイモンド・カーヴァー、『泳ぐひと』『ハロウィン』『ピンク・フラミンゴ』『未知との遭遇』『E.T.』『普通の人々』『フェリスはある朝突然に』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ブルーベルベット』『エルム街の悪夢』『シザーハンズ』などなどである。本書はこれら記号を見てわかる人向けだろう。

  それら作品では、豊かさのなかでの家庭の崩壊や隠された悪や狂気などが描かれる。僕も団地から新興住宅地に移住した家庭に育った人間なので、上に挙げた作品は若いころの自分によく「刺さった」。本書はその理由をうまく説明してくれており、たびたびなるほどと思わされた。付きっぱなしのテレビ、威厳を失った父親または父親の不在、体育会系のモテ男と文化系の陰キャの対立、格差の隠ぺい、指摘されてみるといろいろ心当たりがある。

  ただし、面白いと感じられたのは僕がバブル期前後に青春時代を送ったせいかもしれない。1970年代~1990年代まで日本でも郊外が膨張し続けていて、1990年代の宮台真司や三浦展の郊外論が非常に刺激的に感じられた。しかしながら、現在では都市が清潔になり住みやすくなった。いまや郊外は刺激のある「街」から遠く離れた退屈な辺境にすぎなくなった。というわけで、現在の若い人が読んでも面白いかどうかは保証できない。
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