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ソーシャル物理学事始め。中身は厚くないが期待感は高い

2015-10-28 10:16:57 | 読書ノート
アレックス・ペントランド『ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』小林啓倫訳, 草思社, 2015.

  ビッグデータ分析で個人や集団の行動を予測しようという内容。著者はMITの教授。スマホ経由で記録された位置情報のようなゴミみたいなデータ(著者は「デジタルパンくず」という)をかき集めてそこから傾向を読み取るというもの。一般向けのソフトカバーの書籍であり、コラムや付録では数学の説明もあるがそこは理解できなくても大丈夫、たぶん。

  まず証券会社の顧客の成績データの検証を元に集合知について論じられる。誰の意見を聞かずに判断しても、または似たような意見に囲まれた状態で判断しても良い成績を上げられない。けれども、相互に影響関係のない独立した意見に基づいて判断すると最も儲かるという。その後は、生産的なアイデアの流れを検証しようということで、SNSの分析や、ソシオメトリックバッヂなるものを個人に付けさせてデータを拾い、実際のコミュニケーションを分析するということをやっている。このあたりは長々と論じられているけれども、それほど面白い成果は出ていない(伝染病罹患者の行動パターンの話だけは例外)。最後のほうになると、既存の経済学や社会学に対する批判となる。

  著者が冒頭で"私は未来に生きている"と豪語するので、読む方の期待がむやみに高まってしまう。だが、読み終えた後ではソーシャル物理学についてはまだ半信半疑のままだろう。現段階でその成果はスケッチ的なものに留まっており、これからの成果が期待されるというところだろうか。どちらかというと、データの新しい採取方法(あと個人情報の取り扱い)を紹介するというのが主の本である。新しい分野の立ち上げの際のマニフェスト本とみなすとしっくりくる。
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