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前衛音楽を取り入れた異端派ロックから、米国議会図書館が認める正統派に

2013-11-11 10:31:03 | 音盤ノート
Sonic Youth "Daydream Nation" Enigma, 1988.

  米国インディーズ系のロック。「言わずと知れたオルタナ系の大御所」であるが、十分著名かどうか不明なので一応説明する。ギター二台とベースとドラムというカルテットに、男女がぶっきらぼうにボーカルを取るという編成。変則チューニングしたギターをディストーションで歪ませ、厚い不協和音の壁を造り上げるというのがその特徴である。音のアイデアは現代音楽系作曲家のグレン・ブランカ(参考)のものだが、高級文化が大衆音楽にスピルオーバーする例としてタイラー・コーエン著(参考)で触れられていた。ので久々に聴いてみた。

  本作は彼らの長いキャリアの中でも筆頭に挙げられるべき代表作である。彼らの場合、ザラついたガレージロック的演奏はどのアルバムでも共通しているが、クールな装いが過ぎるため、聴く方がアルバムを通じて十二分にロック的カタルシスを得られないということもしばしばある。しかし本作は、パワーポップ系の聴きやすい名曲である一曲目"Teen Age Riot"以下、全編通じてハイテンションであり、勢いだけでなく巧みなアレンジも交えながら70分間突っ走る、純正・優良なロックアルバムに仕上がっている。ハエの大群がぶんぶんと飛んで回っているような不協和ギターサウンドも、慣れればとても素晴らしく響く。米国議会図書館によるプロジェクト"The National Recording Registry"1)にも登録されているのも納得できる作品である。

  とはいえ、すんなり現在の地位を得られたわけではない。以下当時を回顧する昔話。

  1980年代半ば、ソニック・ユースはまだ超マイナーで、米国でもREMを頂点とするカッレジ・ラジオ向けロックバンドのうちのその他大勢という扱いだった。まだインターネットが無かった時代であり、日本でその情報に接触することはかなり困難で、米国インディーズ系を詳細に取り上げるような雑誌はまったく無かった(Swansと一緒くたにされて「ニューヨーク・ジャンク」とラべリングされているのをどこかで読んだ記憶があるけれども)。それでもこのアルバムは話題作だったようで、当時の洋楽誌で影響力のあった『ロッキン・オン』誌は英国寄りだったために完全無視していたものの、『ミュージック・マガジン』誌の輸入盤のクロスレビューに採りあげられて絶賛と酷評に分かれ、1988年に創刊した『クロスビート』誌(2013年11月号をもって休刊)が両誌の間隙を突いて猛プッシュしていた。

  当時中学生だった僕は、『ミュージック・マガジン』──当時小牧市の図書館が購読していた──の中で中村とうようがこのアルバムをこき下ろしている(曰く“公害工場が汚水をタレ流してるような演奏”)のを読んで、是非聴いてみたいと好奇心をそそられた2)。すぐに名古屋市内の輸入盤店「円盤屋」──まだタワレコは名古屋に進出していなかった──へ探しにいったのだが置いていなくて、前作にあたる"Sister"(SST, 1987)と前々作"EVOL"(SST, 1986)をしぶしぶ購入して帰った記憶がある。本作は後日になって雑誌通販で東京の輸入盤店から入手した。

  極東の島国でなかなか見つからなかった理由は、後にメンバーのインタビューを読んで分かった。その経営のいい加減さにSSTレーベルを見限った後、Enigmaレーベルと契約したのだが、どうも小売の店頭に届ける能力を欠いていたらしい(米国内では見込みプレス数よりも売れてしまい品切れ状態だったとも解釈できるが)。これに懲りてメジャーレーベルのGeffenに移籍したとのこと。ちなみに僕が通販で入手したのは、ライセンスされた英国インディーズのBlast Firstがプレスしたものである。

  日本では次作"Goo"(Geffen, 1990)から重鎮扱いされるようになり、ニルヴァーナと同じ「グランジ」のカテゴリでマーケティングされるようになった。が、ヒット作を出すこともなく、インディー時代と変わらぬポジションを保ったまま現在まできている。このバンドはメンバーが誰か死ぬまでずっと存続するだろうと考えられていたけれども、現在のところ活動休止状態らしい。理由はバンド内のカップルが崩壊したためだという。古くはIke & Tina Turnerに始まる、Galaxie 500、Cocteau Twins、Stereolabと続く男女混成バンドに特徴的な解散パターンにはまってしまっていたのだった。

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1) The National Recording Registry / The Library of Congress
  http://www.loc.gov/rr/record/nrpb/registry/
 いろいろ突っ込みどころの多いリストであり、いずれ詳しく検討したい。

2) 号数は覚えていないけれども、下記に収録されているはず(未確認)。
  『MUSIC MAGAZINE増刊クロス・レヴュー1981-1989』
  http://www.amazon.co.jp/dp/B0041FIN40/
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