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雇用をめぐる世代間対立

2008-08-03 13:23:40 | 読書ノート
大竹文雄『格差と希望:誰が損をしているのか?』筑摩書房, 2008.

『日本の不平等』(日経新聞社)の著者による、2004年から2007年までの時評集。経済に関するさまざまなトピックが扱われているが、多くは「格差」に関するものである。特に若年層の境遇についての記事が目を引く。現在、日本のマスメディアに接していると、小泉政権時代の規制緩和が格差を拡大させたとする主張によく出くわす。それに対して、著者は「不況期に正規雇用者が守られたことによって、若年層の雇用が控えられ、非正規雇用化した」と反論するものだ。僕は経済学の素人だが、団塊ジュニア世代としてこのトピックについてコメントしてみたい。

 中高年世代の雇用の維持が若年層の雇用を奪ったという議論は、最初に玄田有史が『仕事のなかの曖昧な不安』1)(2001年)で展開したものである。サントリー学芸賞を受け、それなりに注目された議論だったのだが、その後持続的な関心が向けられることが無かったように思う。その理由は、玄田が「日本の雇用システム」ではなく「若者の事情」(ニート!!)の方に興味を向けたことと、小泉純一郎首相就任のセンセーションで、リフレーション派vs.構造改革派の議論が盛り上がってしまったためだろう。

 リフレ派の議論は、まず景気回復を目指すこと、デフレを止めることが先決で、経済後退期に失業を増し需要を減らす「構造改革」などやるべきではない、というものだった。それは景気後退期における正規雇用者の保護を正当化する。一方で、失業者や派遣社員は景気回復期まで待たなければならない。だが、好況になれば彼らの境遇も改善されるという話だった。僕は、素人なりにいくつかの本2)3)を読んで、それが筋の通った納得のいく主張であることを理解した。

 しかし、小泉政権後半の景気回復期に優先的に正規雇用されたのは新規学卒者で、就職氷河期世代ではなかった。その層の中でもより若ければ定職にありつけたが、団塊ジュニアのような30代の年寄りは割りを食った。夏休みに司書資格の講習会をやると、中心はやはり団塊ジュニア世代だ(指定管理者制度のものとでは「公務員でない司書」は派遣かアルバイトである)。知り合いが勤務するある大会社にも、この世代の派遣社員がゴロゴロと滞留しているという(一方で若い派遣は職をみつけて辞めてゆくので、どんどん変わっていく)。

 やはり、現状の雇用システムは問題なのである。不況期のその保守はしようがないとしても、景気回復期にはメスが入れられるべきだった。しかし、現在、サブプライム問題とやらでまた景気後退に直面しようとしている。僕の同世代はまた「待たされる」のだろうか? 素人考えでは、正社員の解雇基準を緩くし、企業が雇用を行うハードルを下げないと若年層の雇用は厳しいように思える。待っていても歳を食うばかりで損失が大きいので、景気とは関係無く早急に雇用システムの改革をやってほしい、というのが団塊ジュニアの本音である。

 大竹のこの本が出てきて「中高年の正規雇用者の保護が若年層の非正規雇用化をもたらした」という議論が、ふたたび脚光を浴びることを歓迎したい。しかし、残念ながら、大竹の提案は教育訓練の充実の必要性を訴える方に傾き、現在の労働市場の改善についての提案が目立たない。教育訓練だけでは、ちょっと「ささやか」すぎるように思える。

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1) 玄田有史『仕事のなかの曖昧な不安:揺れる若年の現在』中央公論社, 2001.
2) ポール・クルーグマン『クルーグマン教授の経済入門』山形浩生訳, メディアワークス, 1998.
3) 竹森俊平『経済論戦は甦る』東洋経済新報, 2002.
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