紙箱は なぜ丈夫なのか

2008-02-02 12:13:17 | 構造の考え方
例えば菓子箱のような薄い紙を折ってつくった箱でも、菓子を入れることはもちろん、箱の上に物を載せたり、横から押してみても、結構丈夫なことは誰でも知っているはずである。
かつては荷物搬送用には木箱などで荷物をくるんでいたけれども、今ではほとんど段ボール箱になっている。軽くて丈夫だからである。

仕事場の雑物入れにしている45×38cm×高さ33cmのリンゴが入っていた段ボール箱などは、上面の縁のあたりに足を載せるなら、踏み台代わりになるくらい丈夫である。

なぜ薄い紙でも箱状になると丈夫になるのだろうか。
その理由として、世の中には、今、二つの考え方があるようだ。

一つは、六面体という立体になっていると、たとえ薄い紙でつくられていても、力が箱に加わると、面相互が関係しあって力に抵抗するから、という考え方。
たとえば、ある面Aが押されて凹むと、同時に面Aに隣接する各面も歪もうとし、それはその面に隣接する面にも影響を与え・・・、という具合に互いに影響しあう。
逆の言い方をすれば、面Aに接する面、そしてさらにその面に隣接する面・・・が、つまり稜線を介して接続している各面が、いわば協力して面Aが凹むのに抵抗している、と理解することができる。
この様子は、薄い紙でつくられている菓子箱やティッシュペーパーの箱などで実験すれば目に見えて分る。
そして、日常の暮しを普通に体験している人なら、「立体物の強さ」、と言うより「薄い材料でも、立体に組むと丈夫になる」という事実を身をもって知っているはずだ。
そして、箱が、どの程度の力にまで堪えられるかは(別の言い方をすれば、ある重さの荷物を入れるには、段ボールの厚さをどれだけにするか、は)おそらく経験によって知見を得ているのではないだろうか(経験知)。

   註 段ボールおよびその製品についてはJIS規格がある。

     
ところが、一方で、このように考えたがらない人たちがいる。
それは、なにごとも数値で示されないと信じられない、分った気になれない、という人たち。

   註 ほぼ同じ厚さの二冊の書物を25cmほどの間隔で置き、
      A4判のコピー用紙を長手に架け渡す。当然紙はたわむ。
      紙を二つ折りにして逆V型にして架けると、たわまない。
      これは、《構造計算》ができない人でも、知っている。
      ところが、計算して(数値化して)確認できないかぎり
      「分らない」とする人たちがいるのである。

      I 型鋼は、断面二次モーメントの概念が生まれる前に
      発案されたことは大分前に触れた(06年10月16日)。
      しかし今は、断面二次モーメントが I 型鋼を生んだ、と
      思っている人が多いのではないだろうか。

箱の一面を押したときの各面の挙動を数値化することは容易ではない。
面Aに加えられた力が、どのように隣接する面に波及してゆくのか、を簡単に数値化できないからだ。
例えば、力が面Aの全面に等分布で加わるのか、局所で加わるのか、しかもそれが面上のどの位置に加わるのか・・・によって、他の面への影響のしかた、波及の様子はすべて異なる。
当然、面の材料:紙の厚さ、紙の種類、段ボールならその断面構成・・・によっても異なる。これを数値化、数式化することは、一筋縄ではゆかないことは容易に想像できる。

そこで、この人たちは、数値化を容易にする、ただそれだけのために、箱の強さは、各面の強さの足し算である、と考える。
例えば、ある面Aを押す力に抵抗してくれるのは、面Aに直交している面(箱の場合、4面ある)が、分担して押される力に堪えているのだ、という考え方。
この考え方では、箱を分解して「面それぞれの強さ」を知ればよいことになる。

この分解した面を、現在の「構造の専門家」は「構面」と呼んでいるようだ。
つまり、立体は「構面」の「集合」、「構面」の「足し算」である、という「理解」。
その際、面相互が接続しているということには目をつぶる、つまり、ある面に生じた変化は、その面に接続する面には伝わらない、と見なす。

そこで、面Aに直交している板面を箱から切り離して、面に平行の力(厳密に言えば、面Aを押す力を面ごとに分配する)で押してみる、つまり面の小口に力を加えてみる。
当然ながら、面は簡単に座屈を起こす。
先の踏み台代りにもなるリンゴ箱の側面をばらして、その小口に乗れば、簡単に折れてしまう、ということ。このことは、段ボールよりも薄い紙を考えればもっと分りやすい。
それを避けるには、分解する前、つまり箱の状態のときよりも、数等、面の紙を厚くしなければならない。
ということは、薄い紙・段ボールで足りるのに、この方法で考えると、より厚い紙・段ボールが要るということになる。
計算で保証された厚さの紙で元の箱の形に戻すと、元の箱とはまったく別の、箱だけでも重量が増えた箱になる。別の言い方をすれば、ムダに材料を使うことになる。
たしかに数値化されたが、いつの間にか別物、似非、擬似のものになっていたわけである。

実は、この数値化のための「方法」こそ、現在の木造建築を律している《構造学》の考え方:「耐力壁依存の考え方」の「原点」に他ならない。


さて、以上は、実は、次回に書くことの事前準備。

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煉瓦造と地震-2・・・・“earth construction”の解説・続

2008-02-01 12:55:04 | 煉瓦造建築

[記述訂正 4月18日 11.59]

上掲の解説・図は、“earth construction”にある「対震策」の転載。
ここでは、earth construction の中でも、特にadobe:日乾し煉瓦造において考慮すべき留意点について触れられている。焼成煉瓦造にも共通する点があるはずである。

これも意訳してみる。

「地震に抵抗できる構造体をつくるための適切な建設技術としては、一般に組積造の技術が援用されることが多い。しかし、adobe:日乾し煉瓦 の場合は、それに加えて、材料である「土」の特性についても考慮しなければならない。その重さや、機械的強度の低さ、脆さが、地震の被害を蒙りやすくしているからである。

多くの設計者が「土」を使うのをためらうのは、普通の組積造に加えて、上記のような「土」の性質を考慮に入れなければならないからだろう。
いろいろな研究団体が、煉瓦積、煉瓦の目地材、煉瓦の均質性の確保、地震の力への抵抗力、などの性能の改良について提言をまとめている。提言には土造についても触れられはしているが、体系だっているとは言いがたい。

こういった提言の援用は、地震による損傷を低減することは疑いないのだが、しかしあまり知られていない。また、課題も多い。
ここで、紹介するいくつかの提言から、「対震」の問題について考えるための視点・観点が、ある程度は見えてくるのではないだろうか。

1.煉瓦の形状と寸法(図1)

煉瓦の形状を 40×38×10cmの方形とする提言がある。これは、煉瓦相互の接着性能は向上するけれども、正確な割付・設計を行う必要がある。
この形状の煉瓦を使う場合、「すさ」として藁を加えると、よい結果が得られる。
また、壁体を構成する煉瓦総量が減るから、より一層強度も確保できるようになる。

2.インターロッキング煉瓦の使用(図2)

メキシコでは、この煉瓦を目地材なしで使う実験が行われており、実際に建物もいくつか建てられているが、まだ改良の余地がある。
この形状の煉瓦は、きわめて簡単な「押し型」で、安定した供給ができる。
しかし、仕上げを丁寧にする必要があり、また、保管や運搬上にも難点がある。

3.補強用の煉瓦(図3)

普通の形状の煉瓦でも、補強積みはできるが、しかし、施工上問題がないわけではない。
そこで、水平方向、垂直方向に、補強材を仕込む窪みを付けた煉瓦を使う方が好ましい。

4.目地材(図4、5)

良質な目地材は、地震への抵抗力を向上させる。そのためには、普通の土ではなく、精選した土を使うことが望ましく、それによって、煉瓦相互の接着の度合いを高めることができる。

水分が過剰な目地材は、接着力を弱め、微細な亀裂を生じる原因となる。
積み上げ方向の目地の施工がおろそかだと、壁体の圧縮に対する強度はもちろん、曲げや、せん断に対しても強度が落ちる。

また、目地の位置は、できるかぎり、地震により起きやすい45度の亀裂を避けるように設計される必要がある。

5.補強積み(図6、7)

水平、垂直方向とも、補強材としては、竹、ユーカリ、異型鉄筋などが使われる。
補強により、引張りや曲げの強さが向上する。
普通の形状の煉瓦でも補強は可能だが、できれば補強用の煉瓦(3.参照)を使う方がよい。

6.Ring-beam の使用(図6、7)

Ring-beam を設けることは、力を適切に伝え、壁体が一体性を保つことができるため、いろいろな構造要素の中では、最も地震に対する抵抗力を発揮する方法である。Ring-beam を設けない壁体、特に厚さの薄い壁体では、耐震性能は低減してしまう。

Ring-beam は数段設けるが、壁の隅や交差する箇所では、Ring-beam 相互を垂直方向の補強材でつなぐことが肝要である。」


以下は私の所見。

ここで提言されている煉瓦の形状・寸法は、大きすぎる。たしかに大きな煉瓦で積まれた壁は、小さな煉瓦を積んだそれよりも強くなるが、作業性はきわめて悪い。提言にある大きさの煉瓦は、比重約2.0として、重さが30kgを越える(日本の現在の標準的な煉瓦は 21×10×6cmで重量約2.5kg)。したがって一人では持てず、おそらく、積む作業は二人がかりになる。

   註 福島県の柳津(やないづ)と会津高田の間の山中に、
      江戸から明治にかけて栄えた軽井沢銀山跡があるが、
      そこに煉瓦造の大きな煙突が遺っている。
      使われている煉瓦は約1尺×5寸×2.5寸、重さ約6.5kg。
      片手で持ち上げるには大きすぎる。
      実測すると、大きさ、重量とももう少し小さい。
      正確な寸法、重量等は、4月17日の記事、
      「会津柳津・軽井沢銀山の煉瓦造煙突-2」参照
                
      喜多方の煉瓦は7.2寸×3.5寸×2.2寸程度。重さ2.3㎏弱。
      西欧の煉瓦もこの程度の寸法。
      作業性を考えると、このあたりに落ち着くのが普通
      ではないだろうか。
                    [記述訂正追加 4月18日]

   註 現行の普通煉瓦を積むのに、250本/日が平均的な作業量。
      40cm角×10cmの大きさでは、多分、手間がかかりすぎる。

目地を亀裂の発生しやすい角度:45度にしないこと、という提言は、納得がゆく。
煉瓦の積み方には、大きくイギリス積み、フランス積みに分けられる。
壁厚が煉瓦1枚のとき、前者は、段ごとに平積みと小口積みを交互に繰り返す方法。後者は、同じ段で平積み、小口積み、平積み・・・と交互に繰り返す積み方。結果として、両者とも、目地が45度になることを避けられる。
いずれの積み方も、長年の経験からたどりついた方法なのだろう。

目地材としては、現在はセメントモルタルが普通だが、セメントがなかった時代は、漆喰(石灰)が用いられている。セメントは水硬性、漆喰は気硬性。この差が結果に表われ、セメント目地は亀裂が入りやすいが、漆喰は入りにくい。漆喰は、完全に固化することがないからのようだ。
現在でも、壁体では漆喰の方が向いているように思う(煙突等では難しい)。

Ring-beam という補強法は、おそらくadobe:日乾し煉瓦造において考え出された方法ではないか。寡聞にして煉瓦造では聞いたことがない。

なお、上掲箇所にはないが、同じく対震法として、いわゆるハーフティンバー方式:木造軸組の間に日乾し煉瓦、あるいは煉瓦を積む(充填する)方法も奨められている。
これは、見方を変えれば、壁体の隅部、交差部に垂直方向の補強材を入れ、数段ごとに水平方向の補強材:ring-beam を入れることにほかならない(喜多方の木骨煉瓦造はこれに当る)。
もっとも、煉瓦造=危険な構造という見方が「定着」してしまっている現在の日本では、この方式も忌避される。

“earth construction”に書かれている提言や方策は、いずれにしても、徹底した現場主義、現地主義の思想で貫かれていると言えるだろう。つまり、情況をまったくわきまえずに「最上(と思われる)提言、方策」の押売りをすることはしない、という方針。この点は、大いに学ぶべきことなのではないだろうか。 

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