煉瓦造と地震-2・・・・“earth construction”の解説・続

2008-02-01 12:55:04 | 煉瓦造建築

[記述訂正 4月18日 11.59]

上掲の解説・図は、“earth construction”にある「対震策」の転載。
ここでは、earth construction の中でも、特にadobe:日乾し煉瓦造において考慮すべき留意点について触れられている。焼成煉瓦造にも共通する点があるはずである。

これも意訳してみる。

「地震に抵抗できる構造体をつくるための適切な建設技術としては、一般に組積造の技術が援用されることが多い。しかし、adobe:日乾し煉瓦 の場合は、それに加えて、材料である「土」の特性についても考慮しなければならない。その重さや、機械的強度の低さ、脆さが、地震の被害を蒙りやすくしているからである。

多くの設計者が「土」を使うのをためらうのは、普通の組積造に加えて、上記のような「土」の性質を考慮に入れなければならないからだろう。
いろいろな研究団体が、煉瓦積、煉瓦の目地材、煉瓦の均質性の確保、地震の力への抵抗力、などの性能の改良について提言をまとめている。提言には土造についても触れられはしているが、体系だっているとは言いがたい。

こういった提言の援用は、地震による損傷を低減することは疑いないのだが、しかしあまり知られていない。また、課題も多い。
ここで、紹介するいくつかの提言から、「対震」の問題について考えるための視点・観点が、ある程度は見えてくるのではないだろうか。

1.煉瓦の形状と寸法(図1)

煉瓦の形状を 40×38×10cmの方形とする提言がある。これは、煉瓦相互の接着性能は向上するけれども、正確な割付・設計を行う必要がある。
この形状の煉瓦を使う場合、「すさ」として藁を加えると、よい結果が得られる。
また、壁体を構成する煉瓦総量が減るから、より一層強度も確保できるようになる。

2.インターロッキング煉瓦の使用(図2)

メキシコでは、この煉瓦を目地材なしで使う実験が行われており、実際に建物もいくつか建てられているが、まだ改良の余地がある。
この形状の煉瓦は、きわめて簡単な「押し型」で、安定した供給ができる。
しかし、仕上げを丁寧にする必要があり、また、保管や運搬上にも難点がある。

3.補強用の煉瓦(図3)

普通の形状の煉瓦でも、補強積みはできるが、しかし、施工上問題がないわけではない。
そこで、水平方向、垂直方向に、補強材を仕込む窪みを付けた煉瓦を使う方が好ましい。

4.目地材(図4、5)

良質な目地材は、地震への抵抗力を向上させる。そのためには、普通の土ではなく、精選した土を使うことが望ましく、それによって、煉瓦相互の接着の度合いを高めることができる。

水分が過剰な目地材は、接着力を弱め、微細な亀裂を生じる原因となる。
積み上げ方向の目地の施工がおろそかだと、壁体の圧縮に対する強度はもちろん、曲げや、せん断に対しても強度が落ちる。

また、目地の位置は、できるかぎり、地震により起きやすい45度の亀裂を避けるように設計される必要がある。

5.補強積み(図6、7)

水平、垂直方向とも、補強材としては、竹、ユーカリ、異型鉄筋などが使われる。
補強により、引張りや曲げの強さが向上する。
普通の形状の煉瓦でも補強は可能だが、できれば補強用の煉瓦(3.参照)を使う方がよい。

6.Ring-beam の使用(図6、7)

Ring-beam を設けることは、力を適切に伝え、壁体が一体性を保つことができるため、いろいろな構造要素の中では、最も地震に対する抵抗力を発揮する方法である。Ring-beam を設けない壁体、特に厚さの薄い壁体では、耐震性能は低減してしまう。

Ring-beam は数段設けるが、壁の隅や交差する箇所では、Ring-beam 相互を垂直方向の補強材でつなぐことが肝要である。」


以下は私の所見。

ここで提言されている煉瓦の形状・寸法は、大きすぎる。たしかに大きな煉瓦で積まれた壁は、小さな煉瓦を積んだそれよりも強くなるが、作業性はきわめて悪い。提言にある大きさの煉瓦は、比重約2.0として、重さが30kgを越える(日本の現在の標準的な煉瓦は 21×10×6cmで重量約2.5kg)。したがって一人では持てず、おそらく、積む作業は二人がかりになる。

   註 福島県の柳津(やないづ)と会津高田の間の山中に、
      江戸から明治にかけて栄えた軽井沢銀山跡があるが、
      そこに煉瓦造の大きな煙突が遺っている。
      使われている煉瓦は約1尺×5寸×2.5寸、重さ約6.5kg。
      片手で持ち上げるには大きすぎる。
      実測すると、大きさ、重量とももう少し小さい。
      正確な寸法、重量等は、4月17日の記事、
      「会津柳津・軽井沢銀山の煉瓦造煙突-2」参照
                
      喜多方の煉瓦は7.2寸×3.5寸×2.2寸程度。重さ2.3㎏弱。
      西欧の煉瓦もこの程度の寸法。
      作業性を考えると、このあたりに落ち着くのが普通
      ではないだろうか。
                    [記述訂正追加 4月18日]

   註 現行の普通煉瓦を積むのに、250本/日が平均的な作業量。
      40cm角×10cmの大きさでは、多分、手間がかかりすぎる。

目地を亀裂の発生しやすい角度:45度にしないこと、という提言は、納得がゆく。
煉瓦の積み方には、大きくイギリス積み、フランス積みに分けられる。
壁厚が煉瓦1枚のとき、前者は、段ごとに平積みと小口積みを交互に繰り返す方法。後者は、同じ段で平積み、小口積み、平積み・・・と交互に繰り返す積み方。結果として、両者とも、目地が45度になることを避けられる。
いずれの積み方も、長年の経験からたどりついた方法なのだろう。

目地材としては、現在はセメントモルタルが普通だが、セメントがなかった時代は、漆喰(石灰)が用いられている。セメントは水硬性、漆喰は気硬性。この差が結果に表われ、セメント目地は亀裂が入りやすいが、漆喰は入りにくい。漆喰は、完全に固化することがないからのようだ。
現在でも、壁体では漆喰の方が向いているように思う(煙突等では難しい)。

Ring-beam という補強法は、おそらくadobe:日乾し煉瓦造において考え出された方法ではないか。寡聞にして煉瓦造では聞いたことがない。

なお、上掲箇所にはないが、同じく対震法として、いわゆるハーフティンバー方式:木造軸組の間に日乾し煉瓦、あるいは煉瓦を積む(充填する)方法も奨められている。
これは、見方を変えれば、壁体の隅部、交差部に垂直方向の補強材を入れ、数段ごとに水平方向の補強材:ring-beam を入れることにほかならない(喜多方の木骨煉瓦造はこれに当る)。
もっとも、煉瓦造=危険な構造という見方が「定着」してしまっている現在の日本では、この方式も忌避される。

“earth construction”に書かれている提言や方策は、いずれにしても、徹底した現場主義、現地主義の思想で貫かれていると言えるだろう。つまり、情況をまったくわきまえずに「最上(と思われる)提言、方策」の押売りをすることはしない、という方針。この点は、大いに学ぶべきことなのではないだろうか。 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする