在来工法、布基礎、土壁、瓦葺・・・・

2007-09-13 03:05:17 | 「学」「科学」「研究」のありかた
 先回の「家具も倒れなかった住居」の関連で、中越沖地震の被災状況を伝える日本建築学会のサイトの中の報告を調べてみた。
 かなりの数の事例を調べ、写真も紹介しているのは大変参考になったのだが、その報告の仕分け・腑分け法が非常に気になった。

 まず、木造建物の場合の仕分け、それが在来工法か否か(伝統工法、準伝統工法という仕分けもあった)。
 「在来」で何を意味しているのかが不明なのだ。なぜ「軸組工法」と言わないのか。どうも、軸組工法=在来、と仕分けをしているようであった。なぜかと言うと、お寺さんは伝統工法、として一律に分類しているらしいからだ。お寺さんにだっていわゆる在来工法はある・・(建設時期から察して)。

 いつごろ建てられたかについては、たしかに詳しく聞かなければ分らないことではあるが、新耐震基準の前か後かで分けている。

 さらに調査項目には、壁が土壁(小舞土塗り壁)か否か、屋根は瓦葺きか否か、という分類もある。
 基礎についても、布基礎か、そうでないかという分類で分けられ、中には土蔵の基礎を布基礎としている観察事例もある。土蔵と言えば、どんなに最近のものでも100年近く昔に建てられている。つまり、布石のはず。石の傷みをモルタルででも補修してあって布基礎に見えたのでは・・。

 そしてまた、1階が店舗か否か、という仕分けもある。これは、1階の間口方向に壁があるかどうか、つまり壁量が少ない=損壊の原因、という結論が先にあっての調査項目。事実、店舗併用住居に被害が多い、という調査結果をどこかで見た。

 調査の労は高く評価したいのだが、私にはあまりにも恣意的な調査に見えてしょうがない。つまり、虚心坦懐に事例を見ていない。どういう結論が出されるか、最初から見当がついてしまう、あるいは「結果を予測した調査」「予定調和の調査」に思われるのだ。

 こういう《調査・研究》を基に、新たな耐震指針など出されたら、たまったものではないのである。
 
 そんなに結論を急ぐ必要はない。第一、倒壊建物の構造については、倒壊前を詳しく知らなければ何も言えないはず。これを、壁が土壁だった、瓦葺きだった・・という分類で、あたかもそれが原因だった、などと断言されても困る。
 こういう《統計調査》ではなく、壊れなかった建物を詳細に調べ、壊れなかったのは何故か、それを調べる必要があるだろう。そういった壊れなかった例を調べる中から、「壊れない、被災しにくい建物のつくりかた、その方策」が見えてくるはずではなかろうか。かつて、人びとがしてきたことは、この方法であったはずだ。

 このままでゆくと、さらに建物は壁だらけになってしまう。つまり、わが国の工人が、わが国の環境とのすりあわせでたどりついた全面開放のつくりの建物などは、まったくつくれなくなる。そういうつくりにできる架構法を編み出したのだ。なぜ、この厳粛たる事実の存在を否定するのか、分らない。ことによると、土蔵の基礎を布基礎と見なして平気でいられる「無知」、というより「過去を知ろうとしない習性」のなせる結果なのかもしれない。

 最新の「建築士」9月号の巻頭言で、鈴木有氏が、「現行の耐震診断は国が勧める計算方式に則って判断する。補強の効果も同じ方式で確認する。勢い診断値と標準の仕様に頼って、性能を確認しがちだ。・・」と現在の耐震診断について述べている。先の調査も、現行(法令)の耐震理論、耐震工法の視点でしか見ようとしていない、と言えるだろう。そして、それをして「科学的な調査」と自負している気配も感じられる。

 専門家である以上、真の意味で科学的であるべきだし、第一、自国の建物つくりの来し方、つまり歴史について、知っていて当然ではないか。
 中越沖地震の被災状況を調べるにあたって(他の地震も同様だが)、「その地域の建物のつくりかた」について調べた形跡もまったくうかがえない。その根には、「全地域一律の標準」で見る見方があるからではないか。あるいは、そういうことは歴史や民俗の専門家の領域、耐震専門家には関係ない、と考えているのかもしれない。
 このような調査を見ていると、あらためて、「学」「研究」のありかたが問われなければならない、と思わざるを得ないのだ。

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