台風―地瓦―JIS規格

2007-09-07 16:02:48 | 設計法
[註記追加:9月8日4.00AM]

 久しぶりに関東平野直撃の台風が来た。
 一晩中、南東寄りの風が吹き荒れた。このあたりでは、もう少し秋が深まって、太平洋沿岸沿いの進路をとる台風の影響を受ける場合が多く、西寄りの風を受けることの方が多い。

 筑波第一小の体育館竣工の年の秋、台風に見舞われ、あろうことか、壁から雨が漏った。
 壁は「落し込み板壁(真壁)」。落とし込まれる板相互、柱と板壁とは、手の込んだジョイントになってはいたが、水は見事に板と板との目地を水平に走って柱際に集まり、そこから風圧に押されて室内に侵入していた。
 しかし、よく調べると、水がまわったのは東面だけ。
 つまり、このときの台風は、今回同様関東平野中央部を通り抜けるタイプで、南東寄りの風雨が強く、おまけに筑波山の斜面を吹き上がり、まともに壁に吹き付けたかららしい。
 いろいろ対策を施したが、、最終的には「落し込み板壁(真壁)」の外側に、柱も隠して、つまり大壁の板壁を新設して雨漏りを止めることができた(5分厚の横羽目板なので、柱間ごとに取替え可能な方法を採った)。

 面白いのは、西寄りの風が吹き付ける太平洋沿岸沿いの台風のとき、西面の壁で雨漏りが起きるか、というと、それが起きないこと。
 これは台風の持つ性質のようだ。
 台風は反時計回りに、中心へ向かって空気が渦を巻く。衛星写真やレーダーを見ると、台風の南東から東~北側にかけて雨雲が発達しているのが分る。暖かい海面からの水蒸気がその元。中心の西から南側は雲が少ない。だから、海上を通る台風のとき、建物に吹き付けるのは、どちらかといえば風だけ。壁にあたる雨が少なく、雨漏りも起きにくいのである。
 今でも、東面以外は、当初の「落し込み板壁(真壁)」のままである。

  註 「落し込み板壁(真壁)」には、こういう弱点がある。
    どうしても全面をそれにする場合は、軒を深く出す必要がある。

 高知に行ったとき、「特別な粘土瓦(桟瓦)」を見た。と言っても、もともとは少しも特別ではなく、高知ではあたりまえだった瓦。

 現在普通に見る桟瓦は、正面から見ると「への字」型、つまり左に峰があり、右に谷が来る。その「特別の瓦」は、その逆で「逆への字」型。

 高知は台風銀座。雨風の強い方向は場所によって大体決まっている。筑波山では南東面を気をつける、というのと同じ。
 そこで、横方向の瓦のジョイントからの雨水の侵入を避けるため、風向きに合わせて、二種類の瓦を使い分ける(ジョイントが風の向きに背を向けるように使う)のが普通だったのだという。

 ところが、JISの桟瓦の規格で、一種類に「統一」されてしまい、製造する工場がなくなってしまった。それゆえ、かつて二種類を使い分けていた建物は、いざ修理というときに困っているのが実情。
 規格の設定にかかわった人たち:《専門家》は、こういう使い分けがあるという「事実」を知っていたのだろうか。

 瓦の生産は、JIS規格の設定で大きく変った。高知の例で明らかなように、地域の特徴に応じて考えられてきた「地瓦」がなくなったのである。
 たしかに全国統一規格にすれば、たとえば同じ53A型ならば、理屈の上では、どこの産の瓦でも使える。
 しかしそれによって、各地域にあった中小の瓦焼き工場は消え、大規模大量生産の製造工場だけが生き残ることになったのである。逆に言えば、地域に適した瓦をつくっていた工場が消失した、ということ。
 はたしてこれはよいことなのだろうか。

 「規格化」「規格の統一」「標準化」・・=「合理化」「近代化」・・は、何となく「進歩」であり、「正論」であるかのように思われがちなのだが、必ずしもそうではない、と私は思う。
 むしろ、規格化・標準化・合理化・・に向う前に、「なぜいろいろな形があったのか」、その理由を考える議論があってしかるべきなのではないか。これは、以前に触れた最近のアルミサッシの規格化・標準化についても言えること。
 残念ながら、そういった話は聞いたことがない。ただ単に現状の型を調べ、「整理」するだけだったのではないか。ことによると「多数決」?

 ある「型」の使用者数が少なくても、地域の人びとはやみくもにその型を使っているわけではない。人びとはそんなに「愚か」ではない。むしろ、そういう数少ない型が存在する理由を見抜けない《専門家》こそ真に愚か、と言ってよい。

 よく考えて見ると、現在私たちが付き合わざるを得ない各種の「規定」「規格」・・には、こういう《専門家》の「愚行の結果」と思しきものが、たくさんあるのではなかろうか。

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