「煉瓦の活用」と「木ずり下地の漆喰大壁」

2007-09-22 01:11:02 | 設計法

 「ホールダウン金物」や「在来工法」の「在来の意味」に触れた記事の閲覧が相変わらず多いが、「煉瓦の活用」(3月14日)と「トラス組・・古く、今なお新鮮な技術」(1月4日~7日)も寄られる方が多い。
 そこで、今回は、前の例とは別の煉瓦利用の設計例を紹介させていただくことにする。

 この例では、市街地内に建つので、外壁は一階の内法下を煉瓦一枚積み(イギリス積み)、それから上は漆喰塗りの大壁仕上げにしている(内側に引っ込んでいる壁は板壁)。
 漆喰大壁の仕様は、木ずり:幅1寸5分×厚2分程度のスギの白太の木ずり:を3分程度の隙間をあけて打ち、それに直接下塗りのドロマイトプラスターを塗り、砂漆喰、仕上げ漆喰で仕上げる仕様としている(下塗りにあたっては麻のトンボを塗りこんだ)。
 この方法は、左官職に教わった方法(写真で煉瓦を積んでいる方)。
 ドロマイトプラスターは下地への接着性がよく、漆喰とも相性がよい。この仕様で十分防水性が確保できる(ただし、軒の出を出し、吹き降りを防ぐのが条件)。下地からの剥落も生じにくい。
  
  註 現在は通常下地板(木ずりと呼ぶが本来の木ずりとは異なる)の上に
    防水紙、ラスを張りそこに塗り込むのが普通。
    これでは塗り壁はラスに引っかかっているだけ。容易に剥落する。

    なお、旧日本銀行京都支店では、木ずり+漆喰直塗りの内壁が、
    修理時にも健在だった。
    また、かつてよく使われた「塗天井」は、この工法である。

 大壁の場合、壁面の中に開口部を設けることなどはせず、壁面を極力単純な方形にするのが亀裂を防ぐ方法。
 この例では、壁内に見切りを設け、壁面を単純な形に分割し亀裂発生の防止に努めている(開口部はその全高を使って設ける、というより開口部に応じて見切りを設ける)。
 ただ一箇所、壁頂部にぶつかる見切りがハチマキに接してしまったため、そこに亀裂が生じたほかは、20年近くになるが、いまのところ目に見える亀裂は生じていない。
 土蔵の細部を詳細に見ると、壁の亀裂を防止するために開口部の四周には太目の額縁をつくりだしたり、壁面を水が垂れないようにテーパをつけた目地を何段も設けて水を切るなど、いろいろな工夫のあとが窺える(コンクリートの設計にあたっても応用できる手法)。


 軸組の間に煉瓦を充填する方法は、前例にならったため、仕事はきわめてスムーズに進んだ(積んだのは同じ人)。
 木骨煉瓦造の要点は、柱間(この場合は6尺)に応じた割付とすること(喜多方の木骨煉瓦造の方法)。
 この例では、6尺の間に8枚(目地込み7寸5分)。目地幅は15mmを越え、目地材の量も増えるが、仕事はしやすい。また、数人で仕事をする場合、高さ:レベルを正確に設定し、各段の積み方向を決めておけば、どこからでも仕事を進められる。出来上がりも、見た目、強度とも、木骨と一体になり安定感がある。

  註 最近の事例では、煉瓦積みの職人さんが、目地幅10mmにこだわって
    積んでしまったため、割付が柱通りと無関係になり、
    しまりがなくなってしまった。
    柱間に煉瓦がきれいに納まっていると、見た目もしっかりする。


 目地材を砂漆喰にするのは、その弾力・復元性を活かすため。砂漆喰は完全に乾ききり固化することはなく、漆喰壁同様、調湿性があり、常に一定の弾力性をもつからだ。セメントモルタルだと固化してしまい、外力がかかったとき、亀裂が生じやすい。西欧でも、石灰主体の目地を使った古い煉瓦造の方が健在度が高いという。大げさな言い方をすると、漆喰目地の場合、壁が「撓う」らしい(喜多方では、新潟地震の際、漆喰目地の古い建物の方が亀裂が少なかったという)。
 なお、以前も触れたが、「漆喰」は中国語の「石灰」の発音への当て字。

 煉瓦で木部をくるむと、何となく木部が腐るのではないかと考えがちだが、実際には、喜多方でも腐朽例はない。この点は、土壁でくるむ土蔵と同じ理屈、つまり材料の調湿性によるものと考えられる。また、煉瓦一枚程度でも、恒温恒湿性は土蔵と同じである(これは、土や煉瓦の潜熱現象によるとされる)。

 RCと煉瓦造併用の試み(煉瓦壁を先に積んでおき、要所にコンクリートを後打ち)もいずれ紹介したい。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする