今の、そして近未来の日本にとって最大の問題は「アメリカをどう考えるか」ということです。それに較べれば、鳩山総理大臣が嘘をついたかどうかなどはどうでもよい問題です。アメリカについての適切な判断を下すためには、アメリカの本当の姿を良く見極めなければなりませが、そのためには、アメリカ合州国の歴史についての私たちの知識は余りにも貧しく、そして誤っていることが多すぎます。
去る3月に私は『アメリカン・ドリームという悪夢』と題する小著を出版しました。出だしのアイディアは少々辛口のオバマ大統領批判ということだったのですが、執筆のためにあれこれ読んでいるうちに、アメリカについての私の知識の貧弱さと誤謬の多さに打ちのめされる様になって行きました。拙著『アメリカン・ドリームという悪夢』の第3章「アメリカ史の学び直し」にはそのあたりの事情を書いたつもりです。拙著の屋台骨となっているのは、1776年のアメリカ合州国「独立宣言」です。そのオリジナルの写真が拙著のブックカバーのデザインに使われていますが、「独立宣言」の中でもっとも広く引用され、よく知られているのは第二段落の始めの文章:
「We hold these Truths to be self-evident, that all Men are created equal, that they are endowed, by their CREATOR, with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty, and the Pursuit of Happiness.」
です。月並みな表現ですが、この宣言は、それがなされた1776年から今日までの234年間のアメリカの栄光と悲惨、真実と虚偽のすべてを担って我々の前にあります。
「泥棒を見て縄を綯う」という諺がありますが、アメリカ史の学び直しのために私が最近読んだ本を4冊挙げます。あわてて勉強続行中というわけです。:
(1)Jean Bricmont, Humanitarian Imperialism, Using Human Right to Sell War, Translated by Diana Johnstone (Monthly Review Press, New York, 2006)
(2)Edward S. Herman and David Peterson, The Politics of Genocide, Forwarded by Noam Chomsky (Monthly Review Press, New York, 2010)
(3)Carl Boggs, The Crimes of Empire, Rogue Superpower and World domination, Forwarded by Peter McLaren (Pluto Press, New York, 2010)
(4)Paul L. Atwood, War and Empire, The American Way of Life (Pluto Press, New York, 2010)
これから先、これらの本から重要な話題を拾って、随時、このブログで論じてみたいと思っています。(1)の著者ブリクモンについては、以前に2007年11月7日のブログ『ブリクモンとサンカラ』で取り上げたことがあります。その一部をコピーします。ブリクモンは私と同業の物理学者です。:
■ ブリクモンの名が人文系の人々に広く知られるようになったのは、アメリカの理論物理学者アラン・ソーカルとの共著『「知」の欺瞞』(田崎、大野、堀訳、岩波書店、2000年)がそのきっかけだったと思います。この本の原著のフルタイトルは『FASHONABLE NONESENSE / POSTMODERN INTELLECTUALS’ ABUSE of SCIENCE』(1998年) ですが、この本の元は1997年フランスで出た『Impostures Intellectuelles (知的ぺてん)』で、これについては堀茂樹さんの読み応え十分の解説「きみはソーカル事件を知っているか?」があります。■
さて(1)に戻ります。そのp160に、1945年9月2日(ナガサキからほんの3週間後、日本が降伏文書に署名した日)に、ホーチミンが世界に向かって宣言した「ベトナム民主共和国独立宣言」の前半と結語の部分が引用されています。この独立宣言の冒頭に、上にも英文のまま掲示したアメリカ独立宣言の最も重要な文章がそのまま掲げてあるのです。(ベトナム独立宣言の原文とその和訳はウィキペディアにあります。)ホーチミンとベトナム国民は、これから、まずフランスを打ち負かし、続いてアメリカを打ち負かすことになるわけです。独立宣言でブリクモンが飛ばした部分に次の文章が見えます。:
■ 我々は、テヘランとサンフランシスコで諸国家の自決と平等の原則を承認した連合国がベトナム独立の承認を拒否することがないことを確信している。■
しかし、アメリカ独立宣言の不朽の名文にかけたベトナム国民の期待は無残に粉砕されます。アメリカはホーチミンのベトナムの独立を断じて許すまじと、猛然と襲いかかりました。これがベトナム戦争です。次回はブリクモンが引用しているベトナム独立宣言(英語訳)を和訳しながら、ベトナム戦争の意味と、ブリクモンの本のタイトル『人道主義的帝国主義、人権を使って戦争を売る』の意味を考えてみます。
藤永 茂(2010年6月2日)
去る3月に私は『アメリカン・ドリームという悪夢』と題する小著を出版しました。出だしのアイディアは少々辛口のオバマ大統領批判ということだったのですが、執筆のためにあれこれ読んでいるうちに、アメリカについての私の知識の貧弱さと誤謬の多さに打ちのめされる様になって行きました。拙著『アメリカン・ドリームという悪夢』の第3章「アメリカ史の学び直し」にはそのあたりの事情を書いたつもりです。拙著の屋台骨となっているのは、1776年のアメリカ合州国「独立宣言」です。そのオリジナルの写真が拙著のブックカバーのデザインに使われていますが、「独立宣言」の中でもっとも広く引用され、よく知られているのは第二段落の始めの文章:
「We hold these Truths to be self-evident, that all Men are created equal, that they are endowed, by their CREATOR, with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty, and the Pursuit of Happiness.」
です。月並みな表現ですが、この宣言は、それがなされた1776年から今日までの234年間のアメリカの栄光と悲惨、真実と虚偽のすべてを担って我々の前にあります。
「泥棒を見て縄を綯う」という諺がありますが、アメリカ史の学び直しのために私が最近読んだ本を4冊挙げます。あわてて勉強続行中というわけです。:
(1)Jean Bricmont, Humanitarian Imperialism, Using Human Right to Sell War, Translated by Diana Johnstone (Monthly Review Press, New York, 2006)
(2)Edward S. Herman and David Peterson, The Politics of Genocide, Forwarded by Noam Chomsky (Monthly Review Press, New York, 2010)
(3)Carl Boggs, The Crimes of Empire, Rogue Superpower and World domination, Forwarded by Peter McLaren (Pluto Press, New York, 2010)
(4)Paul L. Atwood, War and Empire, The American Way of Life (Pluto Press, New York, 2010)
これから先、これらの本から重要な話題を拾って、随時、このブログで論じてみたいと思っています。(1)の著者ブリクモンについては、以前に2007年11月7日のブログ『ブリクモンとサンカラ』で取り上げたことがあります。その一部をコピーします。ブリクモンは私と同業の物理学者です。:
■ ブリクモンの名が人文系の人々に広く知られるようになったのは、アメリカの理論物理学者アラン・ソーカルとの共著『「知」の欺瞞』(田崎、大野、堀訳、岩波書店、2000年)がそのきっかけだったと思います。この本の原著のフルタイトルは『FASHONABLE NONESENSE / POSTMODERN INTELLECTUALS’ ABUSE of SCIENCE』(1998年) ですが、この本の元は1997年フランスで出た『Impostures Intellectuelles (知的ぺてん)』で、これについては堀茂樹さんの読み応え十分の解説「きみはソーカル事件を知っているか?」があります。■
さて(1)に戻ります。そのp160に、1945年9月2日(ナガサキからほんの3週間後、日本が降伏文書に署名した日)に、ホーチミンが世界に向かって宣言した「ベトナム民主共和国独立宣言」の前半と結語の部分が引用されています。この独立宣言の冒頭に、上にも英文のまま掲示したアメリカ独立宣言の最も重要な文章がそのまま掲げてあるのです。(ベトナム独立宣言の原文とその和訳はウィキペディアにあります。)ホーチミンとベトナム国民は、これから、まずフランスを打ち負かし、続いてアメリカを打ち負かすことになるわけです。独立宣言でブリクモンが飛ばした部分に次の文章が見えます。:
■ 我々は、テヘランとサンフランシスコで諸国家の自決と平等の原則を承認した連合国がベトナム独立の承認を拒否することがないことを確信している。■
しかし、アメリカ独立宣言の不朽の名文にかけたベトナム国民の期待は無残に粉砕されます。アメリカはホーチミンのベトナムの独立を断じて許すまじと、猛然と襲いかかりました。これがベトナム戦争です。次回はブリクモンが引用しているベトナム独立宣言(英語訳)を和訳しながら、ベトナム戦争の意味と、ブリクモンの本のタイトル『人道主義的帝国主義、人権を使って戦争を売る』の意味を考えてみます。
藤永 茂(2010年6月2日)
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