私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

シリアの長い夜が明ける

2023-04-08 11:06:31 | 日記・エッセイ・コラム

 主に米国からの影響でシリアをアラブ世界から締め出していた国々が、ここにきて、俄に、シリアに対して友好の手を差し出してきました。これは地政学的に説明すべき世界政治の動きでしょうが、一般大衆の一人としての私には、アラブの人々が「米国のシリア人いじめはあまりにも酷すぎる」と強く感じ始めたのがその根本の理由のように思えてなりません。その「いじめ」のシンボルは2019年年末に発効した米国の「シーザー法」と呼ばれる米国の法律で正式の名称はThe Caesar Syria Civilian Protection Act of 201 です。この件については2月22日付のブログ記事『シリアの人々にも救援を』で説明しましたが、この米国法律が“シリアの一般市民を擁護するための法律”と謳ってあるところが米国の悪魔的偽善性を象徴しています。米帝国に反抗するシリアのアサド政権を打倒するために、アサド政権下の一般市民を“いじめる”というのが米国の政策なのです。ですから、今度の大地震の後、米国は外部からの支援物資がシリア市民の手に渡らないように極力妨害をしています。この野蛮行為については数多の報告があります。その一例:

https://syria360.wordpress.com/2023/02/10/us-is-brutally-politicizing-humanitarian-aid/

日本には「敵に塩を送る」という言葉さえあります。アラブの世界にもこうした心情は存在するに違いありません。それがバイデン/ブリンケン政権には全くないのです。米国の“いじめ”に代わって、アラブ世界の人々が友好の手を差しのべ始めたのを私はとても嬉しく思います。私の好きなウェブサイトINTERNATIONALIST 360°に好読物が出ましたので訳出してみました。この記事の最後のところに「紛争から12年経った今でもシリアでは医療や教育が無料で提供されている。」という注目に値する一文があります。

https://syria360.wordpress.com/2023/04/04/bridge-of-peace-and-prosperity-proposed-from-the-arab-world-to-syria/

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アラブからシリアへ提案する平和と繁栄の架け橋

投稿: INTERNATIONALIST 360° 投稿日: 2023年4月4日

Steven Sahiounie

サウジアラビアが5月19日にリヤドで開催されるアラブ連盟首脳会議にシリアのバッシャール・アル・アサド大統領を招待する予定で、シリアは回復の兆しを見せている。サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハン外務大臣が間もなくダマスカスに赴き、アサドにサミット出席の正式招待状を手渡す予定であり、アサドとのアラブの和解において最も重要な進展となるであろう。

リヤドとダマスカスは、シリアに関する新たな独立した立場を示す外交会議、声明、政策転換の集大成として、両国の大使館の再開に向けて協議中である。

アレッポの人々は、ある晩ベッドに入って眠り、目を覚ましてみると、米国オバマ政権、トルコ、カタールが支援する武装した戦闘員の占領下にあったと語る。

2016年12月にアルカイダとその関連組織から解放され、復興を目指しているが、復興計画に反対する米国・EUの制裁(サンクション)があり、復興は遅々として進んでいない。

アレッポに住む人々は、自分たちの生活が外敵によってひっくり返されたのと同じくらいの早さで、復興と繁栄のターニングポイントが訪れることを望んできた。シリアは今日、2100万人の住民のために近い将来平和と繁栄をもたらすかもしれない復興の入り口に立っている。

          サウジアラビア・中国・イラン

先月、サウジアラビアとイランが国交を回復したことは、中東の新時代の幕開けを告げるものであった。

2月6日にシリアとトルコで発生したマグニチュード7.8の大地震では、アラブ諸国がこぞって両国に人道支援を行った。 しかし、米国は、そのシリア政策に基づき、最も被害の大きかったアレッポとラタキアへの援助を拒否し、アルカイダ系テロリスト達の支配下にあるイドリブへの援助物資の配送に限定する事に固執している。

              エジプト

4月1日、シリアのファイサル・メクダッド外相とエジプトのサメ・シュクリ外相がカイロで会談し、完全な国交回復に向けて事前協議を行った。エジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領とシリアのバッシャール・アル=アサド大統領は、イスラム教の聖なる月であるラマダンが終わる4月下旬以後、間も無く会談する可能性がある。

メクダッドとシュクリは、シリアの統一と全領土の主権の回復、地震の復興、シリアへの外国の干渉の停止について話し合った。

シュクリは2月にシリアとトルコを訪問し、地震被災国へのカイロの連帯を表明し、両国との関係融和を示唆した。

エジプトのシシは、カイロの外交政策をリヤドのそれと同調させている。 2015年のカタール外交危機では、カイロの立場はリヤドのそれと一致していた。

エジプトもシリアも、政権交代によって新しい中東を作るというオバマ大統領のプロジェクトの下で苦しんだ。 米国によるモルシの不正選挙により、National Institute of Democracyのカイロ事務所の所長であった米国人のLila Jaafarに5年の実刑判決が下された。

エジプトは、ムスリム同胞団を支持するモルシ政権下で、国民が反乱を起こし、シシ政権下で国を取り戻すまでの約1年間、殺人や拷問に苦しんだ。トルコと米国はムスリム同胞団を支援しており、米国は「アラブの春」でムスリム同胞団を利用した。 トルコは最近、大統領選挙が近づくにつれてムスリム同胞団から離れつつあるが、カタールはまだ米国の指令支配から独立しようとしない、最後の生き残りである。

                 UAE

2,000トン以上の援助物資を積んだ首長国連邦の船がシリアのラタキアに入港停泊した。食料品、医療機器、冬服などが満載されている。

UAEの「ギャラントナイト2作戦」は、シリアと隣国トルコで発生した地震の被災者を支援するための人道支援活動である。エミレーツは3月にもシリアに1,000トンの支援物資を送っており、サウジアラビアも同様に支援物資を送った。

アサド大統領とファーストレディは最近UAEを訪問し、温かく迎えられた。UAEとバーレーンは以前、ダマスカスにある大使館を再開していたが、オマーンはこれまで一度も出大使館を閉じていない。

                 トルコ

4月3日から4日にかけて行われるシリア、ロシア、イラン、トルコの4カ国外務大臣補佐官会合に参加するため、アイマン・スーサン外務・駐在大臣補佐官が率いるシリア・アラブ共和国の代表団がモスクワに到着した。

会議では、シリアにおけるトルコの軍事占領の終結、テロとの闘い、シリアにおける外国の干渉の終結に焦点が当てられる予定である。

トルコのメルブト・カブソウル外相は、ロシアのセルゲイ・ラブロフ相が4月6-7日にトルコを訪問し、シリア問題について議論すると述べた。

トルコのタイイップ・レシプ・エルドアン大統領は来月、最後の選挙に臨むが、有権者は300万人以上の難民がトルコに押し寄せたシリア危機における彼の役割を評価することになるであろう。

            米国-クルド人-ISISの監獄

ロンドンに滞在中のバーバラ・リーフ国務次官補は、「正常化するつもりはない」と語った。リーフ氏は最近、ヨルダン、エジプト、リビア、レバノン、チュニジアを訪問しているが、ダマスカスを訪問する予定はないということだ。

カナダ人は、シリア北東部のクルド人勢力によって運営されているシリアのキャンプにいる多くの外国人達の一部をなしている。 米国はクルド人の軍事パートナーである一方、約900人の米兵がシリアの主要油田を占拠し、シリア国民が自国のエネルギー資源を利用するのを阻止している。

カナダとの間で送還の合意がなされ、19人のカナダ人女性と13人の子どもがシリアからカナダへ飛ぶ予定だ。収容所はテロリズムの危険な温床であり、人間にとっても安全とは言えない。 食料も水もほとんどなく、外国人ジャーナリストがよく訪れる粗末な収容所では、コレラが蔓延している。米国の支援を受けたクルド人が指揮を執っているが、資金不足と米軍パートナーの汚職腐敗が、このような住みにくい状況を招いている。

多くの西側民主主義国家は、自国の若者をシリアのテロリストとして戦場に送り出した。米国、カナダ、英国、オーストラリア、フランス、ドイツ、ベルギーは、シリア北東部のクルド人収容所に囚人を抱えている上位国である。いずれ、米国はシリアを去らなければならず、クルド人はダマスカスとの関係を修復しなければならない。その時点で、外国人テロリストとその妻や子供たちを何とかしなければならないことになる。

             沖合い天然ガス田

2011年の紛争直前、シリアでは大規模な海底ガス田が発見された。 しかし、紛争のため、まだ開発されていない。 このガス田の収益で、病院や学校を建設することができる。紛争から12年経った今でもシリアでは医療や教育が無料で提供されている。

2011年、アラブの指導者たちの多くは、ワシントンのホワイトハウスから出された命令に従った。サウジアラビア、カタール、UAE、エジプト、レバノン、ヨルダンはいずれも、オバマ政権と、政権交代を目的とした米・NATOによるシリア攻撃にしっかりと歩調を合わせていた。

時代は変わった。中東における最大の変化のひとつは、ムハンマド・ビン・スルタン皇太子(MbS)率いるサウジアラビアの方向性である。 この地域で最も強力な国の若きリーダーは、「ビジョン2030」を掲げ、かつてのリヤドとワシントンの関係を逆転させるなど、大きな変化を遂げている。MbSはバイデンから命令を受けることはなく、サウジアラビアの国益に基づいて意思決定をしている。

Steven Sahiounieは2度の受賞歴のあるジャーナリスト。

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藤永茂(2023年4月8日)

<同じ内容の記事が既に「マスコミに載らない海外記事」さんによって訳出されていましたが、私の記事もこのまま掲載を続けさせていただきます>


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