私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

米国大統領候補ロバート・F・ケネディ・ジュニア

2023-05-15 20:51:17 | 日記・エッセイ・コラム

 1968年6月5日夜、ロサンゼルスで銃撃によって暗殺されたロバート・F・ケネディの息子さんであるロバート・F・ケネディ・ジュニアが来年2024年の米国大統領選挙に民主党からの立候補を表明しています。選挙は11月5日に行われます。

 本年2023年4月25日にバイデン現大統領は立候補を正式に表明しましたが、ロバート・F・ケネディ・ジュニアは、それよりも早く、3月3日に、民主党の大統領候補として正式に届を出しました。各政党内で予備選挙は来年の夏に行われ、それまでに党内で選挙戦が繰り広げられます。まだ一年ほどあります。今のところバイデン現大統領(80歳)の他には、ロバート・F・ケネディ・ジュニア(69歳)と作家マリアン・ウィリアムソン(女性作家)(70歳)の二人だけが立候補を表明しています。

 RFK・ジュニアの大統領選挙立候補についてはウェブサイト『耕助のブログ』に、これまで二つ興味深い記事が出ています:

https://kamogawakosuke.info/2023/05/06/no-1781-rfk-jr-はメディアに勝てるか/

https://kamogawakosuke.info/2023/05/14/no-1789-ロバート・f・ケネディ・jrとドナルド・トラン/#more-8667

 米国のマスメディアは、現在、RFK・ジュニアとマリアン・ウィリアムソンの二人を泡沫候補として扱っているようですが、ロバート・F・ケネディ・ジュニアを大変熱心に推奨応援している言論人がいます。私の好きなエドワード・カーティン(Edward Curtin)です。彼の論説は米国のSNSでかなり広く取り上げられています。私がこの人に好意を寄せる理由の一つは、アルベール・カミュのファンだということです。2020年、カーティンは『SEEKING TRUTH IN A COUNTRY OF LIES (うその国でほんとを求めて)』という本を出版しました。40余の短いエッセイの集まりで、8ページほどの長さの優れたカミュ論が含まれています。カミュの名前は、序文の入り口を始めとして何度も出て来ますが、カミュへの言及で特筆すべきものに、RFK・ジュニアが2018年に出版した『American Values』という本についての書評(2018年6月10日付)があります。その中でカーティンがRFK・ジュニアの著作から引用した一節を取り出して、以下に訳出します:

「ある日、彼(RFK)は私の寝室に来て、カミュの『ペスト』のハードカバーを私に手渡した。“これを読んでほしい”と何かひどく思い詰めた様子で言った。この本は、猛威を振るう伝染病が市民を荒廃させている、外界から隔離された北アフリカの都市に閉じ込められた医師の物語である。その医師が行う小さな奉仕の行為は、大きな悲劇に対しては効果の上がらないものだったが、彼自身の人生に意味を与え、そして、さやかならずとも、大きな宇宙にも意味を与えるのである。私は長年、この本について考え、父がなぜ私にくれたのかについて、多くの時間を費やしてきた。それは、彼自身が開けようとしていた扉の鍵だったのだと私は思う。・・・私たちを定義するのは、立場でも状況でもなく、その状況に対する私たちの反応なのだ。運命に押し潰されそうになったとき、勇気と奉仕の小さな英雄的行為の意思表示が心の平和と充足をもたらすことがある。肩にのしかかる運命の石の重さに耐えるとき、我々はこの混沌とした宇宙に秩序を与えるのである。父が私に残してくれた多くの素晴らしいものの中で、この哲学的な真理はおそらく最も有用なものだった。多くの意味で、それは私の人生を決定づけた。」

 ここで語られているカミュの『ペスト』の医師リウーに、RFK・ジュニアは、アメリカの巨悪に対して、勝算は無くとも、なすべき反抗を実行して倒れた父親RFKを、そしてまた自分自身をも重ねているわけです。エドワード・カーティンは次の言葉でこの論考を結んでいます。「By writing American Values: Lessons I Learned from My Family, Robert F. Kennedy, Jr. has named the plague and entered the fight. His father would be very proud of him. He has defined himself.」

 RFK・ジュニアの大統領選挙出馬についての2023年4月17日付のエドワード・カーティン自身の記事は「Robert F. Kennedy, Jr.: To Heal the Great Divide (大いなる分裂を癒すために)」と題する長い内容豊かな論考です:

https://dissidentvoice.org/2023/04/robert-f-kennedy-jr-to-heal-the-great-divide/

それは父親RFKの話から始まります:

「ロバート・F・ケネディ上院議員が、アメリカ社会に開いた大きな亀裂を修復しようとして、大統領候補の舞台に足を踏み入れてから55年が経った。 ベトナム戦争、人種差別、貧困、ケネディ大統領の暗殺、そして間もなく起こるキング牧師の暗殺によって、この国は引き裂かれていた。 リンドン・ジョンソンは虚言を弄び、リチャード・ニクソンは言葉の上でも実際の裏切りでもジョンソンに匹敵した。」

続いて、ケネディ大統領の暗殺、その弟RFKの暗殺がCIAによって行われた事、CIAによってあからさまに敵視されて来た所謂「ケネディ一族」の事、今回のRFK・ジュニアの大統領選出馬には、米国の巨悪が操るマスメディは勿論、ケネディ一族の内部からも強い反対が表明されている事などを述べた後、カーティンは次のように結びます:

「紳士顔をしたハイエナたちは、ロバート・F・ケネディJr.を、浅薄な変人、詐欺師、エゴの塊のような馬鹿馬鹿しい陰謀論者として、彼を大統領選挙から排除しようと懸命になるだろう。しかし今では、多くの人々が、そのようなプロパガンダを見破ることが出来るようになった。 彼は本物であり、アメリカ国民を分断するため権力者たちが造成して来た大きな溝に橋をかけるための、我々にとっての最高の希望なのだ。

彼が屈して引き下がる事は決してあるまい。そして、米国はまだこの泥沼から抜け出すことができると信じるすべての善意の人々は、彼をしっかりと後押しすべきである。 彼は、私たちに警告し、声を上げた。彼の道徳的な勇気は、希望を持ち続けようとするすべての人々が見習うべきものである。

彼にチャンスは無いさと宣っている識者たちはやがてショックを受けるだろう。」

 このエドワード・カーティンの力強いロバート・F・ケネディJr.の立候補推薦はSNSでかなり広範な反応を引き起こしています。その一つを紹介します:

https://kevinbarrett.substack.com/p/edward-curtin-on-rfk-jr-vs-the-american-7d8

このインタービューの締め括りの所で、カーティンは来年の米国大統領選挙の行く末を次のように占っています。原英文をコピーして、その次に、終わりの所だけを訳出します。この中でカーティンがBobby Kennedyと呼んでいるのは父親ではなく息子のRFK・ジュニアの方です:

Edward Curtin: Well, I think they can't because I think contrary to Donald Trump, he is going to speak eloquently, calmly, let me use the word lovingly, across the divide. He is not going to stir the pot except to speak truth and to speak it calmly, the way he does speak. And his very brilliant mind and his command of the facts are rather extraordinary, far different from Donald Trump. And I think they're going to have a lot of trouble with him because the Democrats have no one who can counter his eloquence and his positions. So we'll see what happens. I mean, he's he's working within the Democratic Party structure right now. And they will have all the knives out to get him, the Obama and Clinton people and their neocon friends and associates who run the Democratic Party with Joseph Biden as their puppet. They're going to have a hard time containing his message because many people are sick of all the damn lies that they've been telling all these years.

And Bobby Kennedy, he's not been involved in electoral politics his entire life and he's now stepping into the fray. And he's spoken his mind, as in Boston when he opened his campaign: "I've been just saying what I think is true for years. I haven't been trying to get elected to any office. I'm not really a politician in that sense." Trump wasn't a politician either. But he had a lot of baggage. Bobby Kennedy has said, "I have a lot of skeletons in my closet, too. If they could all vote, I'd get elected right away." And the Democrats and the media will, of course, bring them out. But he's already brought them out himself. So he has little to hide and a lot to gain. And he's an eloquent voice and a very courageous guy. So I think they're going to be very, very surprised. And I think he's already surprising them. And they're going to go into a panic as the months go by.

「だから、彼らはメチャクチャびっくりさせられると私は思うよ。いや、もう既に彼は彼らを驚かしている。そして、月日が経つにつれて、彼らはパニックに陥ってしまうさ。」

藤永茂(2023年5月15日)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿