私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ルワンダの霧が晴れ始めた(2)

2010-07-14 12:56:26 | インポート
 前々回(6月30日)に、今度のシリーズ、『ルワンダの霧が晴れ始めた(1)』、を出発させながら、前回はサッカーのW杯のことに寄り道をしました。その理由は、 Keith Harmon Snowという人のルワンダ近況報告を目にしたことでした。実は、昨年3月から書き始めていたルワンダ・ジェノサイドについての記事を、
『サマンサ・パワーとルワンダ・ジェノサイド(3)』 (2009/04/15)
で一応筆を折った理由も、同人物キース・ハーモン・スノー氏にありました。上記のブログの末尾に次のように付記しました。:
■<付記> 上の記事は4月14日午前中に書きましたが、夜になって、Dissident Voice というウェブサイトでKeith Harmon Snow の『The Rwanda Genocide Fabrications』(4月13日付け)という極めて注目すべき論説を見つけました。この「ルワンダ大虐殺のでっち上げ」論が重要なのは、私がモタモタした筆致で書いてきた「ルワンダ大虐殺」推察論が結構いい線を行っていたと思わせることが沢山書いてあるからではありません。私たち一般の人間が日々読まされている報道記事や論説の中立性、真実性について、実に深刻な疑念を抱かざるを得なくなるようなことが書いてあるからです。アフリカに限られた問題ではありません。実は、次回のブログの題は『アリソン・デ・フォルジュとホアン・カレロ』にしようと思っていたのですが、スノーの新しい衝撃的な発言で、私としても、もう一度しっかりと想を練り直す必要がでてきましたので、このタイトルはしばらくお預けにします。■
キース・ハーマン・スノーの『ルワンダ・ジェノサイドのでっち上げ』という長い論考は、その表題の通り、なかなか激烈な内容です。特に、ルワンダについての最高権威者の一人であり、非の打ち所のない人権擁護の戦士と敬われていた女性アリソン・デ・フォルジュ(Alison Des Forges)を、アメリカの権力機構の奉仕者として、完膚なきまでに批判しているのには、すっかり驚かされました。予定していたブログが出せなくなった理由でした。
 今度のスノー氏の爆弾論文は『U.S. Woman Falsely Accused of Rwanda Genocide Rape Crimes』(Dissident Voice, July 29/2010)です。2010年6月24日、米当局はベアトリス・ムーンイェンイェジというルワンダ出身(フツ族)の40歳の女性を逮捕しました。これはポール・カガメ大統領のルワンダ政府からの要請によるもので、彼女は、1994年の4月から7月に及ぶ約100日間に約80万人のルワンダの人々が惨殺された、いわゆる、ルワンダ・ジェノサイドで、ツチ族を殺した下手人であったのに、それを隠して米国市民権を獲得して米国内に住んでいる、という罪状で逮捕されました。
 ルワンダ・ジェノサイドでツチ族を殺害したフツ族犯罪者を世界各地で追求して逮捕、あるいは、暗殺して消してしまうという、犯人狩りにかけるカガメ大統領の執念の激しさには実に驚くべきものがあります。かつてのイスラエル政府のドイツ・ナチ狩りの熾烈さを彷彿させます。今回逮捕され、ルワンダに送還されるベアトリス嬢はルワンダ・ジェノサイド当時には25歳前後の若い女性、若い女性だからとて、レイプ、殺人の罪を犯さない保証はありませんが、私が判断できる状況証拠では、カガメ大統領の真の狙いはベアトリスの兄のJean-Marie Vianney Hirigo(フツ族)にあると思われます。この人物は現在マサチューセッツ州のWestern New England Collegeの準教授で、カガメ大統領の独裁政権に対する批判を公然と行なっています。カガメ大統領にとっては我慢の出来ない人物です。彼には米国内にもう一人の妹(Prudence Kantengwa)が住んでいて既にベアトリス嬢と似たような罪状で逮捕され、裁判にかけられています。ヒリゴ博士が追いつめられるのも時間の問題でしょう。
 ジェノサイド以前の統計ではルワンダの民族構成はフツ族85%、ツチ族14%、現在の比率は分かりませんが、両族とも国外からの帰国者があり、上の比率から余り変化はないと推定されます。問題は、植民地時代の状況に戻って、ツチ族の絶対的支配体制をカガメ大統領が確立しようとしていることにあります。しかし、5対1という比率の下では、民主的選挙という外見を保つには大変な荒療治が必要です。しかも、次の大統領選挙はこの8月に迫っています。
 HRW(ヒューマン・ライト・ウォッチ)は世界で最も権威のある人権擁護団体と看做されているようですが、そのホームページのニュース欄(2010年6月26日)に『Rwanda: Stop Attacks on Journalists, Opponents』という厳しい長文の警告を掲げました。殺害されたり,暴行を受けたりしたジャーナリストや野党政治家の名を挙げて、カガメ大統領を難詰した内容ですが、この弾圧はそれからもますますエスカレートしています。弾圧はフツ族の人に限りません。サッカーのW杯ゲームで大騒ぎの南アフリカでもルワンダのサッカーチーム監督が政治的な理由で逮捕され、また同じく首都ヨハネスブルグで、6月19日、ルワンダ軍の幹部の一人であったNyamwasaという将校が刺客に襲われ、瀕死の重傷を負いました。ニャムワサはツチ族で、カガメ大統領の不興を買って、今年の2月南アフリカに亡命するまでは、カガメの側近であったとされています。このニュースは英国のBBC News に詳しく報じられました。現在もっとも大きなニュースになっているのは、もし大統領選挙が民主的に行なわれたら、カガメ大統領を破って大統領に当選すると看做されているフツ族出身の女性候補者Victoire Ingabire Umuhozaに対する暴虐です。
 アメリカのマスコミはルワンダを「アフリカの奇跡」とか「アフリカの希望の星」とか呼んで一斉に持ち上げています。私は前々回のブログに、
■ 私がルワンダのことを今ふたたび取り上げる理由の一つは、NHK総合テレビ番組「アフリカンドリーム全3回」の第一回(2010年4月4日)『“悲劇の国”が奇跡を起こす』を見たことです。「これでは困る。実に困ったことだ」というのが私の正直な反応でした。しかし、読者の皆さんに、その理由を過不足なく理解して頂くためには、注意深く長い説明が必要と思われます。アメリカには興味があるが、アフリカの小国ルワンダには興味がないとおっしゃる方には、「これは何よりも先ずアメリカについての話だから、辛抱して少し読み進んで下さい」と申し上げます。■
と書きました。NHKはカガメのルワンダを「奇跡の国」として全国の視聴者に提供したのですから、物事のバランスとして、カガメ大統領の自由選挙弾圧のニュースも適切に取り上げる義務があるのではありますまいか。
 次回からは、ルワンダが我々にとっても大問題であることを具体的に説明したいと思います。

藤永 茂 (2010年7月14日)




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