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詩的断章「緑のインク」







     緑のインク




十月のこころの色を思い出せない
欅の葉が北風に鳴る中で
風の匂いをかいでいると
一瞬
落葉のように
こころがうらがえる
すると その瞬間
あのときのこころの色が蘇る
あの とき は
たしかに存在した
それは
かつての どこかの わたしの
ありようにちがいなく
何色
ということは
もはやできないが
絶妙な色で
  翻る
痛みとも怒りとも思いとも それは
もはや違って
「いつか どこか」なのである
ウンベルト・サバのように
緑のインクで
書いてみたが
「いつか どこか」は
緑ではなかった
名前のない色
ざわざわ と胸騒ぎのする
色である


初出「浜風文庫」










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一日一句(1272)







あの家の蔦は紅葉となるころか






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