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救急救命士の気管内挿管事件

2004年12月28日 16時44分54秒 | 法と医療
以前の記事に医業について書いたことがあるが、これに関して書いてみたい。(加筆・修正あり)
医業の考え方については、記事を参考にして下さい。

医業と歯科医業




現在救急救命士はある医療行為を行うことが法令によって認められている。例えば除細動や気管内挿管についても可能(勿論できるのは医師の指示に基づくもの)である。しかし、気管内挿管が認められるようになったのは、ごく最近のことである。除細動については、航空機の客室乗務員も行えるようになったことは割とよく知られているかもしれない。これらは、根本の規定をしている医師法が変わったわけではなく、それ以外に変更があったということです。


2001年11月頃に救急救命士の気管内挿管が違法行為であるとして、問題になったことがありました。主に問題とされたのは秋田県で、数年前から行われていた救急救命士の気管内挿管が刑事責任を問われる可能性がありました(その後、他の都道府県でも広く行われていることが明らかとなりました)。


救急救命士の業務を規定する法令について見ていきましょう。

まず通知があったようです。


(平成三年八月一五日)
(健政発第四九六号)
(各都道府県知事あて厚生省健康政策局長通知) (抜粋です)

第五 救急救命士の業務について
一 救急救命処置のうち、従来、医師等のみができることとされていた医行為の範疇にわたるものについても、救急救命士が診療の補助として行うことができるものとされたこと。
二 救急救命士は、医師の指示の下に救急救命処置を行うものであるが、そのうち、規則第二一条に規定する心肺停止状態の患者に対する次の救急救命処置については、特に医師の具体的な指示の下に行わなければならないものであること。
(1)半自動式除細動器による除細動
(2)厚生大臣の指定する薬剤を用いた静脈路確保のための輸液
(3)厚生大臣の指定する器具による気道確保
なお、(2)の「厚生大臣の指定する薬剤」及び(3)の「厚生大臣の指定する器具」については、別途告示するものであること。


次いで法令を見てみましょう。

救急救命士法

第四十三条  救急救命士は、保健師助産師看護師法 (昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項 及び第三十二条 の規定にかかわらず、診療の補助として救急救命処置を行うことを業とすることができる。
2  略

第四十四条  救急救命士は、医師の具体的な指示を受けなければ、厚生労働省令で定める救急救命処置を行ってはならない。


これに基づいて以下の規則があります。


救急救命士法施行規則(厚生労働省令)

第二十一条  法第四十四条第一項 の厚生労働省令で定める救急救命処置は、重度傷病者(その症状が著しく悪化するおそれがあり、又はその生命が危険な状態にある傷病者をいう。以下次条において同じ。)のうち心肺機能停止状態の患者に対するものであって、次に掲げるものとする。
一  削除
二  厚生労働大臣の指定する薬剤を用いた静脈路確保のための輸液
三  厚生労働大臣の指定する器具による気道確保

(法改正によって一は削除された。平成3年の通知に見られるように当初は除細動が書かれていた)


この時の問題は、医師法第17条違反であるということで、これに関わる多くの救急救命士や、彼らが研修をしていた秋田市内などの大きな病院でこれらの指導に携わった医師たちも責任が問われることとなりました。刑事責任はどうなったのか?
正確には分りませんが、おそらく起訴された人はいなかったと思います。

このケースは比較的判断がつきやすかったと思います。それは気管内挿管は厚生労働大臣が指定する器具には入っていなかったのです(主にバッグマスクやエアウェイチューブ類でした。これらは気管の中には入らない器具となっています)。
厚労省告示に規定されていない以上、法令違反は明らかです。しかし、逮捕・起訴とはなりませんでした。これは、数年前から救命救急士養成の観点や救命率向上を図り住民の利益となすために、消防当局が指導病院等と協力体制をつくり取り組んでいたためでしょう。詳細調査においては、当事者は違法性についての意識はあったとされているが、可罰的違法性の阻却と思われ、起訴はなかったと思われます。これを起訴する社会的意義はないと思います。

この後、厚労省の告示が変わり気管内挿管が認められるようになりました。


また、除細動が条文から消された背景は次の通知によると考えられます。
(医師の判断を常に仰ぐ要件をはずしたことが主たる理由かもしれません)


(平成13年12月18日)
(医政医発第123号)
(定期航空協会理事長あて厚生労働省医政局医事課長通知)

航空機内で、乗客が心停止状態に陥った場合において、除細動器による除細動を行う必要が生じる場面が想定されるところ、当該行為は医師又は医師の指示を受けた看護婦若しくは救急救命士により行われることが原則であると解されるものの、ドクターコールを実施してもなお医師等による速やかな対応を得ることが困難な場合等においては、客室乗務員が緊急やむを得ない措置として当該行為を行っても、医師法第17条違反又は保健婦助産婦看護婦法第31条違反を構成しないと考えるが如何。

照会のあった標記の件については、貴見のとおりと思料する。



要は飛行機内で除細動の必要があるときは、客室乗務員が行ってもよく、疑義照会文にあるように「当該行為を行っても、医師法第17条違反又は保健婦助産婦看護婦法第31条違反を構成しない」ということに対しては、「その通り」という回答になっています。

よって、かつては救命救急士法及び関係法令において、最初の通知に書いてあるように「医行為」の範疇にわたるものであった除細動という行為は、指定された要件を満たせば救急救命士の業となしてよく、これは既に「医行為」とは認定されないという見解に変わった、と解釈することができると思われます。
この見解に基づいて上の通知においては、客室乗務員が行っても医師法違反には該当しない、ということになると考えられるのです。


医行為についての判例をもう一度書いておきます。

『医業』とは,医行為を業とすることであり,『医行為』とは,当該行為を行うにあたり,医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼすおそれのある一切の行為である。」

”医師の医学的判断と技術がなければ行ってはいけない行為”という考え方が医行為と言えるので、救急救命士や客室乗務員が行うのではれば、”医行為ではないという考え方に変えた”のであろうと思うのですが。
医師法第17条は、何度も言うようですが何も変わっていないのに、です。法令解釈はこのように後からいくらでも変えようとすれば、可能であると言えるのです。
先日の民主党幹事長氏の言葉を借りるとするならば、「恣意的な法の運用」とも言えるでしょう。
(以前の記事を見て下さい、「連座しない民主党」、カテゴリー:政治って?)


ところが、国会答弁では議員さんやら官僚は適当な答弁をしています。
2002年3月14日の参院予算委員会で、民主党の今井澄議員が質問しております。

今井議員が救急救命士の気管内挿管問題について厚労省坂口大臣に質問しました。大臣は「必要があれば、そのようにやっていく」と答弁しました。また、航空機内での除細動については、同省篠崎医政局長が「これは緊急避難的な行為というようなことで認められているということ」と答弁しています。

この答えは、緊急避難における違法性の阻却という解釈に基づくと思われます。つまり行為そのものは医行為に該当し医師法違反であるが、緊急避難であるため違法性が阻却されるということです。先の裁判所判例に基づいて医師の判断と技術を客室乗務員が持たないため、違法であるという考え方なのであろうと思います。では、救急救命士法はどうなのか。以前は除細動は厚生労働省令で第21条に入れられていた訳で、客室乗務員同様本来違法ではあるがその違法性が阻却されるという事由で救急救命士の業としてよいということなのか?おかしな話だと思う。

局長答弁はかなり曖昧なのです。先の救急救命士法の場合には、業となすわけですから違法でいいはずもなく、緊急避難には該当しないはずです。結局医行為の法解釈が不明確で本人たちですらよく分っていないのです。局長は「こう考える」という視点から答弁されており、他の法令や通知との整合性が保たれているとはいえないのだろうと思うのです。

法務省の古田刑事局長も答弁している。
「人の生命の安全に係わるような問題に付きましては、そういうことも勘案致しまして、それぞれどういうことができるかということを法律でお決めになっておられるかと考える事ができるわけでございまして、基本的には法律が基準になることが間違いないと、考えるわけです」
「人の生命に切迫した危険に晒されていると、そういうときにそれを救うために他に適切な手段がないという場合には、事案によってはいわゆる緊急避難ということで違法性が阻却されることはありうると承知しております。」

結局、法務省は「法律で決められている通り」ということと「違法性の阻却」について理解していると答弁しています(もっと、簡潔に答弁できないものなのかね)。除細動という行為が医行為である、という前提ならば、医師以外の誰が行っても「医師法違反で、緊急避難として違法性が阻却される」という結論になってしまうと思うのです。そんな違法行為を救急救命士の業としておくことが法的に問題ないということなのでしょうか。



このような救命救急士の気管内挿管事件には、ある別な背景があったのです。事件の発端となった別な出来事があったと思われるのです。別の記事に書いてみたいと思います。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
救急救命士法について (kokiri1995)
2007-12-26 04:20:41
突然お邪魔します。
Gooブログに故次男のストーリーを書いています。
救急救命士についてHPで調べていたところ、こちらのブログにたどりつきました。

救急救命士法が施行されたのは1991年ですか?
12年前の1995年の事ですが、病室に消防署の方がおみえになり……どうも腑に落ちない点があり、どなたかに尋ねてみたくなりました。

返信する
正確には判りませんが (まさくに)
2007-12-27 17:14:17
制定と施行日というのは、異なることが多いので、よく判りません。
が、一応、E-govの法令検索では

>救急救命士法
>平成三年四月二十三日法律第三十六号

となっており、平成3年と思われます。

上記記事中のH3年8月15日の通知ですが、規則の制定に伴って出されていたものと思われ、施行日がいつかはわかりませんけれども、同日かもしれません。
救急救命士法の補助的法律がいくつか必要なので、基本的な法律が「救急救命士法」であっても、その施行日より後に制定された法律があるのであれば、そちらの施行日にも影響されるのではないでしょうか。

>救急救命士法施行規則
>平成三年八月十四日厚生省令第四十四号

この下位の法律だと8月14日制定ですので、これ以降にならないと救急救命士法が有効にはならないのではないでしょうか。で、取り急ぎ翌日の15日には通知が出されたものと思われます。
返信する

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