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若手医師の労働問題

2005年06月03日 18時23分46秒 | 社会保障問題
これは難しい問題である。本格的に労働者という扱いになれば、当然の如く社会保険関係や賃金問題、時間外労働の問題など、様々な問題が出てくる。しかも、病院側にこうした若手医師を雇っておける財政的余裕などなく、また、戦力にさえなりもしない医師を大量に抱える意味などない。人材育成は、人材流出のない特定の病院以外には無理だし、意味がないだろう。何処の世界に、金を払ってまで「仕事のできない人間」にわざわざ教育をしてくれるシステムがあるというのだろうか?

Yahoo!ニュース - 読売新聞 - 研修医は労働者、最高裁が初認定…賃金請求訴訟


こうした過労死などの問題で、研修医にも一定の給与を支払うという目的で、国が給与を支給することになった(確か2年間だと思う。記事にある「研修医」とは厳密には異なるはずです。記事にある「研修医」とは病院内での身分というか呼び名であろうと思います。これが「レジデント」とか別な呼び名でもいいということです)。しかし、現実にはたった2年程度で戦力の「あたま数」に数えられるほど、現場は甘くない。せいぜい当直のローテーションに組み込める、という程度であり、一人前の仕事など到底出来ない。

参考記事:
医療制度改革5
医療制度改革7


この参考記事にあるような料理人で言えば、ようやく野菜の皮むきが出来るようになった程度の腕前しかない料理人に、懐石料理を作らせられる訳がないのである。しかし、国の政策・制度というのは、「免許を交付している以上、全員同じレベルで仕事が出来るはずであり、その通りやってくれ」ということなのです。ならば、今後は官僚諸氏の手術等は全件、医師免許取得後2年以上3年未満の人達にやってもらえば?そういう制度なんでしょ?法的にはやっていいし、何も問題ないでしょ?免許持ってるし、研修も終了しているから、いいんでしょ?笑えるね。もしも、そう言われたら自分ならどうするの?私なら、きちんと実績のある人にやって欲しい、って言うけどね。まあ毎度のことながら、厚労省官僚諸君は、自分がイヤだ、って思うことを国民には押し付けるのが得意なのかな。それか、本気で自分達はやってもらっていいと思っているか、だね(笑)。


若手医師だって人間だから、安月給で長時間働くのがいいとは思えないけれど、雇用関係が今まで以上に厳密に契約するということになれば、人件費の圧迫要因から、医療機関側が無駄な人員を置けなくなることは間違いない。労働条件の契約書みたいなものを発行したりしなけりゃならないんじゃないのかな?国で定める研修医期間終了とともに、雇用契約の締結が必要ですね。一人当たりで今までの3倍くらい経費が増加するなら、人数を3分の1に減らすしかないよね。そうなると、若手医師を育てようという場所が少なくなる。教育やトレーニングが必要な若手は、どこの会社でもあるように色々な雑用もあるのかもしれないが、そんなものをいくらやったところで診療収益には貢献度が低く、自分の人件費分を賄えるほどの稼ぎにはならないだろう。病院というシステムは、何人でやろうとも同じ売上で、有能な人が自分1人でやっても、教育の為に若手に教えながらやっても、稼ぎは全く一緒なんですから。誰がそんな足手まといにしかならない若手に教育する?おまけに金まで多く払わなければならないなら、敬遠されるに決まっている。


研修医療機関とそれ以外で反応は変わると思う。研修医療機関は大雑把に言って、大学病院とか特定機能病院などの基幹病院で、これらの病院では、正規の病院スタッフとして研修終了直後の医師は雇えず、大半が身分のない見学生とか研究生のような学生扱いとなってしまうであろう。当然、病院の医師数にはカウントされず、保険医登録もされないから診療行為を行うのは保険外のみ、ということになり、保険診療は行わせることが出来ない(保険医登録をせずに保険診療行為を行うことは原則無理だと思いますが、公式見解ではないので分りません)。つまり、いつまでたっても出来るようにはならない。国からの給与保障を受けた研修期間終了とともに、行き場のない医師が氾濫する。


研修機関ではない病院では、ある程度の経験・実績のある医師以外は雇用しない。見学生くらいなら在籍可能かもしれないが、やっぱり正規の病院スタッフではない。こういう病院では、特に教育しなければならない、という義務もなければメリットもないからである。一部民間病院では、若いうちから雇用して自前で教育・研修を行い、育てる所もあるのかもしれないが、それはごく限られた一部であろう。『白い巨塔』に見られたように、大学や教授の人事権は未だに大きいと思う。いくら大学だって、まるっきり何も出来ない人材を外に供給し続けることは出来ないだろう。大学の中である程度は教育・トレーニングをしてもらわないと、回された病院がえらく迷惑だと思うけどね。


こうして、国が定める研修期間を終了した若手医師は、身分がなくなり、研鑽・実績を積める場所がなくなる。よく過疎地などの無医村とか医者の少ない地域に行けばよい、って言う人がいるけれど、むしろそうした自分以外に頼れる人がいない、という場所ほど、優秀で自分だけでかなりの解決ができる、万能タイプの実力派医師でないと、全く意味がない。臨床経験なしの医師ならば、しょっちゅう「私には出来ない」「やったことない」「知らない」「専門外」などと何でも断られる結果になる。ただいるだけ。「カゼ」くらいなら、診られるかも。「あ~、カゼですね」って。それか、そこの場所が実地訓練の場所となってしまうか、ですね。


かつては給料もそれほど貰えず、労働時間の定めなどもなく、労働契約もないような世界であり、徒弟制度の最たるものであったと思う。何日間も病院に泊まりこんだり、長時間労働を厭わず、患者のため、そして自分のため、などと思って研鑽を積み重ねてきた医師達がいて、教育システムも機能していた。しかし、予想されたとはいえ、正規の雇用契約に基づく身分保障ということになれば、従来の医療経済の中に「研鑽・教育コスト」を取り入れる必要性が出てくるのであり、そういう戦力外の医師を雇用しておけるような医療費構造に変えないと、収益よりも教育コストが大きすぎて教育を避けるようになる。

こういう面を行政上の政策で、適正な方向へ誘導するのが行政の役割なのではないのか?使いものになるまで育ててくれる場所って何処にあるの?そんな業界はあるのですか?人件費は価格に添加されているのが普通だろうが、医療は価格を勝手に決められないだろう?もし、本格的に実績のない医師ばかり増えれば、ますます医療訴訟を恐れて「出来ません」「やりません」ばかりが増えるぞ。そんな医療行政でいいのか?国民はそれで安心して医療を受けられるのか?


「研鑽・教育コスト」を単純に医療現場に転嫁しても無理があると思うよ。大学だって昔みたいな余裕がないし。国立大学も独立行政法人化によって、経済原理だけはうるさくなっただろうしね。医療制度改革を行う以外にないと思う。


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3 コメント

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行政の誘導、確かに欠けていますね (Nagarazoku)
2005-06-04 00:00:55
アタシには米国との比較しかできませんが、医師の育成と言う面で、日本は彼の地と比べ大きく立ち遅れていると思います。



別に米国式がベストとは思いません。しかし彼の地では医術(医学ではないのです)を実践するための人材として「素質のある」ニンゲンを選び、育て、現場へ送り出す仕組みを、医師や大学や医療の現場、そして行政や患者までも全てが協力し合い実現しているのをヒシヒシと感じます。



反面、日本では感じるのは「互いに重い荷物を押し付けあってる」、そんなやり場のない空気です。



「こういう面を行政上の政策で、適正な方向へ誘導するのが行政の役割なのではないのか?」とありましたが、アタシもまさにその通りだと思います。仕組みに歪みがあるから、様々な問題が表出するのです。そして仕組みや枠組みを組み立て、リストラクチャしてゆく中で大きな役割を担っているのが行政なのです。行政が道を誤らずに国民の利益を考え最初の大きな一歩を踏み出して欲しいものです。



もちろん私達もこうしてweBLogで発言して、それぞれの一歩を重ねているワケなのですが…。
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お詫び (二人の)
2005-06-04 20:31:26
うっかりとトラックバックを入れてしまい失礼しました。この記事を読んでいる間に、先日、格差社会に同じ物を送ったのを忘れていました。

若しお目障りだったら、前回の分を消して今回の物を残して頂けたなら幸いです。御免なさい。



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Unknown (まさくに)
2005-06-05 00:46:14
>Nagarazokuさん



医療現場での教育は、単なる大学での学生教育とは異なり、難しい面があります。これはアメリカとも単純に比較は難しい面があるかもしれません。医療経済の仕組みが違うので、日本に持ち込めるものとそうでないものがあると思います。



日本では行政の力が強く、医療機関側の自由は少ないと思います。アメリカでは有名なメイヨークリニックがありますが、そういう経済的基盤が充実した病院はサービス・スタッフ教育の質が違います。それは顧客が支払う金額がべらぼうに違うからだと思います。



日本ではよい医療サービスも原則的に均一なコストで賄う保険制度が充実しているので、教育も異なった形となります。その辺を行政がどの様に主導していくか、であるのですが、現場の判らない官僚がいくら考えても何も出てきませんね。医療側も医師会などの圧力団体が自己利益優先の行政を求めるので、国民にとっても医療業界全体にとっても、よい方向へと向かっていませんね。その上、財政問題が重くのしかかってきました。これも、拍車をかけて悪化する要因だと思います。



>二人のピアニストさん

大丈夫です。
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