ばあさまの独り言

ばあさまから見た世の中のこと・日常生活のこと・短歌など

小鳥との交流

2020年06月01日 | 随筆
 「我と来て遊べや親のない雀」「痩せ蛙負けるな一茶これにあり」「雀の子そこのけそこのけお馬が通る」何れも小林一茶(1763年生)の有名な俳句です。
 一茶のふるさとは、長野県の柏原で、戸隠への道の途中にあります。過去に何度か夫と戸隠神社へ車で行きましたし(門前には美味しい戸隠蕎麦を食べさせてくれるお店が並んでいました)一茶の住んでいた家にも行きや帰りに立ち寄りました。土壁のこぢんまりとした家でした。《1827(文政10)年、一茶65歳の時に起こった柏宿の大火により、家の母屋を失ってしまう。その後、一茶は焼け残った土蔵(現・小林一茶旧宅 昭和32年国史跡として指定)に移り住み、その年の冬に生涯を閉じた。》(インターネット資料に依る)
 一茶の人生はその俳句からは想像し難い程の苦難の人生であったようです。義弟との間で遺産相続争いをしたり、最愛の妻や子を亡くしたり、晩年になって火事で家を失ったりと、想像を絶する気の毒な困難に出会いました。
 しかし、一茶の俳句はどこかユーモラスなところがありながら、ほろりとさせられたり温かい愛情に包まれた句が多いように思います。弱い小鳥や動物たちが懸命に生きている様子を、悲運に生きた人間なるが故に温かいまなざしで眺めています。その温かさがきっと何時の世にも、苦難を抱えて生きている人たちに深い感動を与えてくれているのでしょう。生涯に二万句程詠んだと聞いています。
 突然話しが変わって恐縮ですが、私は最近一羽の子雀と仲良しになりました。とても不思議な事ですが、ある日居間の椅子で何時ものように読書していましたら、窓ガラスの上辺りでコツコツと音がしました。その音に「何だろう」と顔を上げましたら、一羽の雀が欄間のレールに止まって「ここに居るよ」とアピールするように中をのぞき込んでいたのです。とても驚きました。
 手近にあったラスクを細かくくだいて窓の外の苔庭に撒いてやりました。一度驚いたように飛び去りましたが、直ぐに戻って来てついばみ始めました。その後又来て同じように欄間の桟に止まって鳴くので、ひとつまみくらいの生米をパラリと飛び石の間の苔の上に撒いてやりました。
 自然界で自ら餌を見つけて生きて行かなければならない小鳥ですから、人間の手で餌付けしたりする事はいけない事だと思い、来る度に餌を与えることはしませんでした。でも2~3回同じような事が重なり、何故か欄間の窓ガラスを嘴で叩いて、居間の私を覗きこんだりされると、つい情に負けてしまいます。
 私は毎日午後は、居間の肘掛け椅子に腰掛けて40㎝×70㎝位の移動車の付いた机を置いて、パソコンを持って来たり読書などしています。 部屋の角には片引きだし付きの机もあるのですが、移動出来て夜休む時には片付けられる机は便利です。
 時折欄間の桟に来てピーコピーコと鳴きますので、いつとはなしにピーコと名づけてしまいました。勿論ピーコと呼べば飛んで来るわけではないのですが。
 「野生の小鳥はなつかないと聞いていたけれど、良くなついたね」と家族に感心されます。既にどこかで餌を貰っていたのか、と思うくらいに間を置かずになついてしまったのです。
 一茶もこのようにして、雀と会話をしていたのか、と思ったり、たまに10粒くらいとは言え米を与える事に、生存能力を阻害しているのではと自責の念を持ったりしています。
 気温が上がって南向きのガラス戸も暑くなりましたので、例年のように網戸の外に窓から少し離して、一間幅の長い簾を下げました。風に揺れますから雀も怖いらしく、庭の石池の回りの松の木やつげの木のてっぺん・灯籠の上などにはとまっていますが、欄間へは来なくなりました。
 たった一羽の雀に癒やされる日々でしたが、庭に来る雀のどれがピーコなのか、私には未だはっきりとは区別が付きません。必ず一羽で来る、甘えた声で鳴く、欄間にとまったり庭に出る靴脱ぎ石の上で鳴く、などが区別出来る所です。
 野生の雀ですから、お付き合いもほどほどにしなければと思っています。たまたま人類が新型コロナウィルスに襲われ、出来るだけ外出を控えるようにしている時です。もし平常な状態であったなら、ピーコとは出会えなかったように思えてなりません。そう思うとピーコはきっと誰かの計らいで慰めに、励ましに来てくれたに違いないと思えて来るのです。
 この小さな身体に大いなるもののご意思を感じる時は、どうしても米粒の量が少し多くなってしまうことを、きっとお許し頂けるものと思っています。でも野生である所はしっかり残して置こうと心がけています。
 私達も巣ごもりの時ではありますが、そんな中にもほっとする時間が持てたのは、有り難い事ではありました。
 
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 存在の証明 | トップ | 奇想天外の発想 »

随筆」カテゴリの最新記事