(イラン・イスファハンの「エマーム広場」 スカーフから前髪を出した女性も、しっかりとスカーフを被った女性も、夕暮れのひと時を思い思いに楽しんでいました。【昨年7月旅行時に撮影】)
【米「我々の努力が、長く苦しむイラン国民のためになることを願う」 イラン「米は何様のつもり」】
去年、イランを旅行して目にしたのは、“神権政治”といったおどろおどろしいイメージとはかけはなれた、欧米・日本同様に自由な社会を望む人々の生活でした。(もちろん、わずか数日の観光旅行者の目でみて・・・という話ですが)
しかし、一方で、人々が集まるチャイハネ(茶店)が当局の指示で姿を消すなど、自由を求める市民の動きと、保守的勢力の微妙なバランスの上にイラン社会が成立しているようにも見えました。
8日にイラン核合意離脱を表明したアメリカ・トランプ政権は21日、ポンペオ米国務長官が核合意に代わる「新たなディール(取引)」の用意があると、新たな包括的な対イラン戦略を表明しています。
新合意の内容については、▽核計画の完全開示と永続的な放棄▽ウラン濃縮の停止とプルトニウム生産の完全な断念▽核弾頭が搭載できるミサイルの打ち上げ、拡散の停止▽テロ組織支援の停止▽シリアからすべての部隊の撤退▽近隣諸国への脅迫行動の停止など12項目の要求を挙げています。
そして、イランが要求に従わない場合は、「歴史上最強の制裁を科す」とも断言しています。
また、イランが行動で重大な変化を示した場合の「見返り」として、(1)あらゆる制裁の解除(2)外交・通商関係の完全な回復(3)先端技術へのアクセス(4)イラン経済の国際経済システムへの再統合を支援するとも表明しています。【5月22日 朝日より】
ポンペオ米国務長官は、アメリカが最終的に(イラン国民のために)イランの体制転換を求めていることを何度も示唆しています。
****対イラン強硬策、実効性は 核放棄・シリア撤退・・・米12項目要求****
トランプ米政権が21日に公表した包括的な対イラン戦略は、イランに高い要求を突きつけ、体制転換を求めていることも示唆する厳しい内容だった。
米国はイランの核開発やミサイル開発を大幅に規制する新たな国際合意を目指すが、イランは猛反発し、欧州も懐疑的で、実現は不透明だ。
「最後は、イラン国民が指導者を選択する」
21日に戦略を発表したポンペオ米国務長官は、米国がイランの体制転換を求めていることを何度も示唆した。
イラン国民を思いやる言葉も重ね、「我々の努力が、長く苦しむイラン国民のためになることを願う」と強調した。
トランプ大統領は8日、オバマ前政権下で米英仏独ロ中6カ国とイランが2015年に結んだ核合意から離脱すると表明。核合意で解除されていた制裁は8月と11月に再発動される。
対イラン強硬派をそろえるトランプ政権が打ち出した今回の戦略は、イランを追い込み、体制転換も排除しないものだ。
ポンペオ氏はイランに「史上最強の制裁を科す」と断言した。背景には、オバマ前政権の政治的遺産である核合意が「崩壊寸前のイランを救った」とするトランプ氏の持論がある。
ポンペオ氏が提示したイランへの12項目の要求には、核開発の放棄や弾道ミサイルの開発中止のほか、シリアからの兵力撤退など中東でイランの影響力を消滅させる項目が並ぶ。米国はイランにディール(取引)を迫り、見返りとして国交回復などを挙げる。
米国が再発動する経済制裁は、イランと取引がある他国の企業にも影響が及ぶ。だが、ポンペオ氏は「各国は(イランで)経済活動を停止しなければならない」と訴え、「米国第一」で圧力を強化する姿勢を明らかにした。【5月23日 朝日】
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こうした「イラン国民のために史上最強の制裁を科す」というアトランプ政権の姿勢に、当然ながら、イランは「何様のつもりか」と強く反発しています。
****「世界は米による代理決断受け入れず」イラン大統領、米に猛反発****
(中略)ロウハニ大統領はこれに強く反発。
複数のイランメディアが報じたところによると、同大統領は文書で「イランと世界に代わって決断を下すとは何様のつもりだ」と問い、「世界は今や、米国が世界のために決断することを受け入れはしない。国にはそれぞれの独立性がある」と述べた。
さらにドナルド・トランプ米大統領について、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の時代まで「15年逆行する動き」であり、「2003年と同じ文言の繰り返し」だとその政権運営を批判した。【5月22日 AFP】
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今回のアメリカの要求は、イランにとってはのめないものであり、また、穏健派と保守強硬派の微妙なバランスの上に立つイラン政治にあっては、アメリカへの歩み寄りは保守強硬派からの“弱腰批判”に直結します。
***イラン、対決姿勢鮮明「米は何様のつもり」****
(中略)核開発の完全断念やウラン濃縮の停止といった米国の要求は、核合意の修正が必要となる。だが、ロハニ師は「核合意の再交渉は一切しない」立場だ。
核・弾道ミサイル開発関連以外の要求も、イランにとって受け入れがたいものばかりだ。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの支援は、敵対するイスラエル牽制(けんせい)に不可欠だ。ヒズボラへの支援を続けるためにも、シリアに駐留する部隊を撤退させることはできない。
イランでは反米を基調とする保守強硬派が「米国の要求に屈するな」と訴えている。ロハニ師は対外融和路線を掲げる保守穏健派で、保守強硬派と対立している。米国に歩み寄る姿勢を少しでも見せれば、弱腰批判を避けられない。(後略)【5月23日 朝日】
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穏健派ロウハニ大統領としては、アメリカ抜きの核合意を欧州と維持することで、経済への打撃を食い止めたいところで、(トランプ大統領の方針が中東における核ドミノなどをもたらしかねない危険性があることに加え)イランとの現在・将来の経済関係を無にしたくない欧州側も思いは同じです。
しかし、イランと取引をした第三国の企業も対象とするアメリカの制裁措置によって、欧州がイランとの関係を続けることは困難と思われています。
フランスのエネルギー大手トタルがイランと交わしたガス田開発プロジェクトから手を引くと発表したように、すでにアメリカ市場へのアクセスを断たれるのを恐れるイラン進出欧州企業が続々とイランからの撤退をはじめています。(撤退する欧州企業の空白を埋めるのは中国だとも推測されています)
【「アメリカはこの合意を守ると信じた私たちがバカだった」 イラン国内にいら立ち、怒り、裏切られたという思い】
国民感情レベルでみても、トランプ大統領の一方的合意破棄によってイラン国内には「アメリカに裏切られた」という思いが強く存在しており、今後経済の悪化ともに、アメリカへの反感、ひいては経済制裁解除を求めてアメリカ・欧州との核合意を進めた穏健派ロウハニ政権への失望、イラン独自路線を主張する保守強硬派的な政治雰囲気がますます強まることが予想されます。
****イランはアメリカを二度と信用しない****
<新時代の対米関係を夢見た革命防衛隊隊員は、今やアメリカの核合意離脱を悔やむ>
「アメリカはイランとの約束を守るはずだと、信じた私たちがバカだった」。そう語ったハサンは80年代の対イラク戦争に参加した、イラン革命防衛隊の元軍人。今の職業は映画監督だ。
「79年のイラン革命からもう十分な歳月が流れた。またアメリカといい関係になれると思っていたのだが」。首都テヘランの国営映画会社にある自室の電話口で、ハサンはそう言って深いため息をついた。(中略)
アメリカとの関係を変えることは可能だし、それは正しいことだと思えた稀有な時期が、こんなふうに終わってしまうのか。彼らの口調には、そもそも甘い期待を抱いたことへの後悔の念がにじみ出ていた。
今から4年前、彼らはハサン・ロウハニ大統領とジャバド・ザリフ外相の路線をめぐって熱い議論を重ねていた。核合意の交渉に欧州諸国とロシア、中国だけでなくアメリカも加えることの是非についてだ。
当時の彼らは、昼食時に集まって意見を交わしていた。ハサンはアメリカとの対話を支持していて、「この合意ができたら、ザリフはモサデクの再来だな」と興奮して語ったこともある。1951~53年にイランの首相だったモハンマド・モサデクは、英米に搾取されていた石油産業の国有化を推進した人物。ただし親米派のクーデターで首相の座を追われている。
あのとき、ガセムはハサンに反論して、こう言っていた。「そして結局は、同じようにアメリカに捨てられるのか」
ガセムは戦争で兄弟2人を失っていた。長兄はイラク軍の爆撃で死亡、末弟は毒ガス攻撃の後遺症で05年に死亡した。(中略)
「アメリカは中東で痛い目に遭ってきた。あんな乱暴なまねはもうできない」。ガセムにそう反論した同僚のアリは、期待を込めてこうも言った。「それに、彼らも学んだはずだ。この地域で政権転覆を目指すのは無駄だという教訓をね。ロウハニとオバマ(米政権)なら、何とか話をまとめるだろう」
筆者は14年に、革命防衛隊の隊員20人以上による議論の場に何度も同席した。当時は慎重ながらも楽観的な見方が多かった。革命防衛隊が核合意を阻止するという欧米メディアの観測に反して、実際に私の接した隊員たちは交渉に期待していた。
改革の一歩という期待
ガセムのような慎重派がいたのは事実だが、筆者の会った人の半数以上は、ハサンの「両国とも過去の遺恨を忘れるときだ」という発言に賛同していた。
年齢40代後半から50代前半の彼らは、これからは自分たちが国を背負っていくのだと自負。欧米諸国に積極的に関与し、宗教的な縛りを減らし、経済を開放する意欲に燃えていた。
筆者の目にした隊員たちは狂信的な過激派ではなく、自分の意見を自由にぶつけ合っていた。政治家や官僚の無能さを鋭く指摘し、革命以来この国を牛耳っている聖職者への批判も口にしていた。
もちろん、全員が核合意に賛成していたわけではない。しかし80年代にイラン・イスラム共和国を守るために命懸けで戦った彼らは、革命の理想を失わずに内部から改革を進める必要性を感じていた。つまり彼らは現実主義者だった。
ハサンをはじめ、筆者が何年も対話してきた元隊員らは、イデオロギーにこだわり過ぎることのリスクを承知していた。(中略)
核合意は15年7月に成立。しかしハサンたちは、手放しでは喜べなかった。それは待望の変化への重要な一歩だったが、あいにくアメリカ側に不気味な予兆があった。
16年の大統領選挙だ。当選したドナルド・トランプは核合意の破棄を唱えていた。そしてイラン嫌いのジョン・ボルトンが国家安全保障担当の大統領補佐官となり、マイク・ポンペオが国務長官になり、ついに5月8日、核合意からの離脱を発表した。
対米関係が徐々に改善されていくことに期待していた隊員たちは、落胆するしかなかった。
大使館人質事件が遺恨
「ガセムが正しかったな。アメリカ人を信じるべきじゃなかった」とハサンは言った。
当初から核合意の先行きを危惧していたガセムも、それ見たことかと喜ぶ代わりに、こう指摘した。「仲間たちがイランの核合意を支持したときに見落としていたのは、革命でイランから追い出されたことを根に持つ勢力が米政界の主流にいる事実だ。革命直後の在イラン米大使館人質事件は、彼らにとって飼い犬に手をかまれたようなものだった。アメリカが望んでいるのは、われわれの全面降伏だ」
「どちらの国にも、新たな関係を築こうとする人はいる」とガセムは続けた。「しかしアメリカのオバマ派もイランのロウハニ派も、所詮は政界の一勢力にすぎない」
いら立ち、怒り、裏切られたという思い。14年に会い、この数週間に電話で話した彼らの口ぶりからは、そんな気持ちが痛いほど伝わってきた。そして彼らは異口同音に「自分はバカだった」と漏らした。
「イランは核合意を守ってきたが、アメリカは約束を破った。それだけでなく、イランについて嘘を広めようとしている」。ハサンは、イランが秘密裏に核兵器の開発を続けているとのアメリカとイスラエルの主張に怒りを表した。
「アメリカはこの合意を守ると信じた私たちがバカだった。でも米国民や国際社会も、また(アメリカとイスラエルの)同じ嘘にだまされるほどバカなのか」
トランプのアメリカが今後どう出ようと、イランは欧州諸国との協調を維持すべきだ。筆者が接触してきた元革命防衛隊員たちは全員、本気でそう願っている。「しかしアメリカとの関係では、私たちは二度とバカなまねはしない」。そう言ったのは元幹部のメフディだ。
「この国の頂点に立つ老師たちは、もともと一度としてアメリカを信用したことがない。彼らは今頃、私たちを物笑いの種にしているだろうな」【5月18日 Newsweek】
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【トラウマにとらわれたアメリカのタカ派が長年追求し続けている「体制転換」という現実無視の夢想】
イランに圧力をかけることで体制転換が実現する・・・という発想がどこから出てくるのか?
トランプ大統領のかける圧力は、イラン国内にひろく存在した常識的・現実主義的な市民感情を押しつぶし、アメリカが夢想する神権政治的な体制へとイランを追いやるだけにすぎないように思われます。
トランプ大統領とその支持者たちのイランへのイメージは、大使館占拠事件のときのまま時が止まっているようにも思えます。そのトラウマにとらわれたイラン憎しで凝り固まっているようにも。
もちろん、イランが周辺地域にその影響力を拡大しようとしているのは事実です。ただ、それはアメリカも、ロシアも、中国も・・・どこの大国・地域大国でも行っている行為であり、イランだけのことではありません。
アメリカの圧力の結果、反米・保守強硬派の強まるイランも核合意を離脱し、核開発に乗り出すことに。
そうなればパキスタンの核開発パトロンであるサウジアラビアは核兵器の移転を求めることにもなります。(両国の間には、そのような密約があると言われています)
サウジが核兵器を保有すると、アラブ首長国連邦、クウェートなどもパキスタンから核兵器を購入し、エジプトは自力で核開発を行う・・・・中東の核ドミノが始まります。【5月20日 佐藤優氏 産経】
イランの核開発を警戒するイスラエルは、イランの核開発が成果を出す前に軍事行動に出る可能性も。
中東大乱の幕開けです。トランプ大統領の望みがそうした戦争でイランを叩きつぶすことであるなら、大成功かも。
ただ、イラン・イラク戦争を耐えたイランは空爆などでは屈服しません。イスラエル・アメリカもイランの泥沼にはまることになるかも。
****イラン核合意離脱を欲した米強硬派が夢見る愚かなシナリオ****
<イランに核兵器を持たせたくないなら、核合意を維持強化するのがベストの選択肢だった。世紀の失策をやらかしたトランプ一味の考えとその恐るべき影響は>
以前から予想されていたように、ドナルド・トランプはイランとの核合意(包括的共同作業計画:JCPOA)からの離脱を決定した。これはトランプ自身のエゴやバラク・オバマに対する嫉妬、強硬派の支持者やタカ派の大統領顧問たち、何より彼自身の無知に屈した結果だ。
今回のトランプの決定は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱と共に、彼の最悪の外交失策となる可能性が高い。
なぜこんなことになったのか。トランプの心の内を理解することが重要だ。
トランプは、イランが核兵器を保有するのを阻止しようとしたわけではない。もしそれが狙いならむしろ合意の維持にこだわり、最終的には合意を恒久化するために交渉する方が、はるかに筋が通っている。
そもそも、イランの核関連施設を監視し査察する国際原子力機関(IAEA)と米情報機関は、核合意に署名して以来、イランはこれを完全に遵守していると保証している。政治ジャーナリストのピーター・ベイナートが指摘するように、約束を守っていないのはアメリカのほうだ。
アメリカは信用を失った
トランプは、シリアのバシャル・アサド政権やレバノンのシーア派武装組織ヒズボラを支援するイランに対抗しようとしたわけでもない。もしそれが狙いなら、イランの核兵器保有を妨げる合意を維持し、他の国々をアメリカの陣営に引き入れて、イランに圧力をかけることこそ合理的だったはずだ。
だが、核合意を成立させた多国間の連合を新たにまとめることは不可能であるばかりか、イランはアメリカと交渉する気を失くしてしまった。トランプはいずれそのことを思い知るだろう。
信用を犠牲にしてまで核合意を離脱したトランプの真意は単純だ。イランをペナルティボックスに入れて、外界との接触を断とうとしたのだ。
この点、イスラエルと米イスラエル・ロビーの強硬派、ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官、マイク・ポンペオ国務長官らタカ派の思惑は一致している。
彼らの最大の懸念は、アメリカと中東の同盟国がイランを正当な中東の大国と認めざるを得なくなること、イランが中東である程度の影響力をもつのを認めなければならなくなることだった。
イランが中東を支配しようとしている、という話ではない。イランはおそらくそんなことをめざしていないし、達成できる見込みもない。問題は、中東におけるイランの権益を認めなければならないことであり、その結果、地域の問題について話し合うときには、イランの意向も考慮せざるを得なくなるということだ。
これは、イランが国際社会から孤立した「のけ者」であり続けることを望むアメリカのタカ派にとって、受け入れがたい事態だ。
アメリカのタカ派やイランの反政府勢力が長年追求し続けているのは「体制転換」という甘い夢だ。(中略)
タカ派は、体制転換には2つのルートがありうるとみている。
第1のアプローチは、経済的圧力を強めてイランの一般国民の不満を煽り、現在のイスラム共和制が崩壊するのを期待する。第2は、イランを挑発して核兵器開発計画を再開させ、アメリカが予防的に戦争を仕掛ける口実にすることだ。
制裁による体制転換は望めない
これらの選択肢をもう少しくわしく見てみよう。(後略)【5月9日 Newsweek】
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トランプ大統領の独善と愚行は、イラン国内の自由・民主化を求める市民感情を押しつぶし、イランを反米強硬派へと走らせ、中東に核拡散の危機を招き、イスラエルを巻き込んだ戦争を惹起するだけにすぎないように思います。
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