孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  分裂状態の統一に向けた動きも見られたものの、事態はむしろ逆行 内戦再燃の懸念も

2017-05-25 21:31:18 | 北アフリカ

(ベンガジ近郊で戦闘中のハフタル将軍率いる民兵組織「リビア国民軍」【3月1日 WSJ】 民兵組織とは言っても、戦車も戦闘機も有しています。東部政府の実力者ハフタル将軍はエジプト・ロシアの支援を受けており、フランスとも近いと言われています。)

マンチェスターでの自爆テロの背景に、混乱が続くリビアの存在
イギリス・マンチェスターでの自爆テロについては、サルマン容疑者が4月にリビアに渡航し、トリポリでテロを計画していた疑いが強いこと、リビア在住の弟と緊密に連絡を取り合っていたこと(弟と、同じくリビア在住の父親は拘束)などから、統一された政権が存在しない権力の空白に乗じる形で、ISなどイスラム過激派の勢力が跋扈するリビアの状況が注目されています。

なお、父親は拘束直前に「(容疑者)サルマンは(ISの)イデオロギーに影響されていない」と訴え、ISとの関係を否定しています。【5月25日 時事より】

****リビアでの浸透浮き彫りに****
英中部マンチェスターで起きた自爆テロ事件は、実行役のサルマン・アベディ容疑者(22)の弟が過激派組織「イスラム国」(IS)に加担していた容疑でリビアで逮捕されるなど、ISのリビアでの浸透ぶりが改めて浮き彫りになっている。
 
リビアは2011年のカダフィ政権崩壊後、反カダフィ派の内紛から14年に政府が分裂。現在は西部の首都トリポリを拠点とするイスラム主義勢力と、東部トブルクを拠点とする世俗主義勢力が事実上の内戦状態にある。ISはこうした「権力の空白」に乗じ、イラク、シリアに続く第3の拠点としてリビアで勢力を拡大した。
 
15年2月にはトリポリ近くの海岸で、リビアに出稼ぎに来ていたコプト教(キリスト教の一派)信徒のエジプト人21人を一斉に殺害し、その映像をインターネット上で流すなど、リビアでの勢力伸長を印象づけた。
 
米軍や地元武装勢力は昨年、ISが実効支配していた中部の主要都市シルトを奪還。だがロイター通信によると、ISの残党はサハラ砂漠などに逃れ、勢力を維持している可能性があるという。
 
過激派に詳しいエジプトの政治ジャーナリストのサラハディン・ハッサン氏は「IS戦闘員は劣勢となったイラクやシリアから逃れ、エジプト・シナイ半島やリビアなどに活動場所を移しつつある。ピラミッド型の大きな組織ではなく、相互の強固な連携もないが、少人数の単位で独自にテロを実行し始めている」と分析する。
 
カダフィ政権が保有していた武器が政権崩壊後に大量に流出しており、ISなどの過激派はこうした武器を入手していることが、戦闘を継続できる一因になっているようだ。【5月25日 毎日】
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カダフィ政権崩壊は、保有していた大量の武器がアフリカ各地に流出し、西アフリカ・マリのトゥアレグ族反政府勢力の力を強め、同国の混乱の引き金になるなど、大きな“負の遺産”を今に残しています。

その最大の“負の遺産”が、リビア自身の混乱でもあり、テロの問題でも、難民の問題でも、リビアの安定なくしては欧州の安心・安全は図れない状況となっています。

東西政府の分裂は上記のとおりですが、一応、国連仲介で「統一政府」への権限移譲も行われましたが、情報が少なく、その実態はよくわかりません。

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北アフリカ・リビア情勢について“超簡単”に言えば、カダフィ政権崩壊後、西のイスラム主義主導のトリポリ政府と東の世俗主義主導のトブルク政府が対立していましたが、国連仲介で一応は大統領評議会がつくられ、「統一政府」への権限移譲が図られました。

その結果、西では一応権限移譲が進んでいるものの、東のトブルク政府側は未だ「統一政府」を承認せず、二つの政府が並立する形になっています。

また、西についても、民兵組織のなかには「統一政府」に従わない勢力もあるようです。(従って、現在ある政府は“二つ”なのか、西も含めて“三つ”なのかも定かではありません)【1月27日ブログ「リビア 過激派掃討が一定に進展 分裂状態の“統合”に向けた動きも」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170127より再録】
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今月初めには統一へ向けた動きも
そうした混乱状態のなかで、統一へ向けた話し合いも時折行われていますすが、“出ては消え・・・”という感も。

先日も、統一政府首相と東のトブルク政府を支える実力者との間で“大統領選と議会選を来年に実施することで合意した”という、“驚き”のニュースもありました。

****リビアの東西政府、18年の議会・大統領選挙で合意 ****
東西に政府・議会の分断が続くリビアの両政府は2日、大統領選と議会選を来年に実施することで合意した。

東部政府の代表は直接交渉を拒否してきたが、アラブ首長国連邦(UAE)の仲介で両政府の会談が実現した。AP通信などが報じた。
 
リビアは2011年の民主化運動「アラブの春」の余波でカダフィ政権が崩壊。新政府が成立したが、14年に東西に政府・議会が分裂。国連仲介で15年に統一政府(GNA)の樹立で合意した。西部政府は承認したが、東部政府が拒否し分断が続いている。
 
2日にUAEのドバイで会談が開かれた。GNAのシラージュ暫定首相と、東部政府の有力者で民兵組織を率いるハフタル氏が出席した。両者が直接会談するのは初めてという。来年の選挙実施に加え、4月のリビア南部での戦闘を終結させることでも合意。過激派対策での連携も確認した。【5月4日 日経】
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“アラブ首長国連邦(UAE)の仲介”とありますが、実際に影響力を行使しているのは、東部トブルク政府の実力者ハフタル将軍とも近いとされる、隣国エジプトのシシ大統領です。

シナイ半島を中心にしたイスラム過激派のテロに苦しむエジプト・シシ大統領としては、隣国リビアがイスラム過激派の巣窟となる事態は避けたいというところでしょう。

5月3日には、シシ大統領がUAEのアブダビに入り、エジプト大統領とUAEアブダビの皇太子にリビアのセラージュ首相とハフタル将軍の加わった4者協議が開かれ、【日経】が報じている当事者間の合意の確認が行われたようです。【5月4日 「中東の窓」より】

“アブダビでの会議終了後数時間後には、英外相がトリポリとトブルクを訪れて、セラージュその他の要人と会談した。6日にはイタリア外相が訪問し、さらに仏やドイツも政府関係者がリビアを訪問することとなっている。(al arabia net 記事)【5月7日 「中東の窓」】ということで、欧州各国も事態の推移に強い関心を示していました。

その後の動きは統一には逆行 内戦再燃の懸念も
「さしも淀んだリビアの水も動き出したか?」(al arabia net 記事)・・・・といった感もありましたが、どうもその後の動きは統一に逆行するもので、「やっぱりリビアは・・・」といったところです。

まず、統一政府への権限移譲に同意したはずの西部において、西部トリポリ政府を実質的に支えていた民兵組織と統一政府の間で戦闘状態にもなっているようです。

背景には、宿敵でもある東部のハフタル将軍が今後の統一国家体制で重用されることへの反発があるようです。

****不透明なリビア情勢****
・・・・他方、より重要なのは軍事的な動きで、死にかかっていた?トリポリ政府がまたもや動き出して(というかミスラタ民兵等の武装勢力に背中を押されたのか?)、ミスラタ民兵等その支持者の武装グループが首都トリポリに繰り出して、中心街に布陣して、重、中火器類を使って、統一政府支持の部隊と衝突が生じているとのことで、統一政府は、トリポリが再び戦闘の舞台になるとの警告を発した由。

特にトリポリ議会支持グループは、統一政府の外務省を攻撃している模様です。

彼らの攻撃の対象は統一政府の外相が、ハフタル将軍がリビア軍の司令官であると発言したことで、その罷免を要求しているよし。

消息筋(複数)はこれで、両者の妥協がより困難になったとみているよし。【5月13日 「中東の窓」】
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一方、東部では、統一政府側の民兵組織が、ハフタル将校傘下の民兵組織の航空基地を攻撃し、141人が死亡する事態に。

****リビア南部の航空基地に攻撃、141人死亡****
リビア南部で18日、国連が支援しているリビア統一政府(国民合意政府、GNA)側の民兵組織「第3軍(Third Force)」が、ハリファ・ハフタル退役将校傘下の民兵組織「リビア国民軍(LNA)」のブラク・アルシャテ航空基地を攻撃し、141人が死亡した。リビア国民軍が19日発表した。
 
リビア国民軍の報道官は「兵士らは軍事パレードから戻ってきたところで武装しておらず、その大半が『処刑』された」と述べ、犠牲者のほとんどは戦闘員だったが同基地に勤務していた民間人や近隣住民も死亡したと明らかにした。
 
統一政府とその国防省は19日、いずれも攻撃を非難し、そのような攻撃を命じていないと発表した。統一政府は同日夜、声明を発表し、調査委員会を設置するとともに、マフディ・バルガティ国防相を停職処分とし、責任の所在が判明するまで第3軍のトップをその任から外すと発表した。(中略)
 
約1か月前にはリビア国民軍が、リビア南部の主要都市セブハ近郊で第3軍管理下の航空基地を攻撃していたが、今月2日にアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで行われたハフタル氏と統一政府のファイズ・シラージュ暫定首相の調停協議を受けて、この攻撃は中止されていた。
 
リビア国民軍が支持している東部の議会の議長は、西部の都市ミスラタ(Misrata)を拠点とする第3軍が「アブダビで結ばれた停戦合意に対する重大な違反」をしたと非難した。【5月19日 AFP】
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前出【日経】で“4月のリビア南部での戦闘を終結させることでも合意”というのが、“約1か月前にはリビア国民軍が、リビア南部の主要都市セブハ近郊で第3軍管理下の航空基地を攻撃していた”という件のようですが、今回航空基地襲撃はその報復のようです。少しも“終結させることでも合意”になっていません。

ハフタル将軍側も報復に出ています。
“al arabiya net は、ハフタル軍の空軍が23日~24日夕まで、南部中央の統一政府軍の基地al jafraを10回以上も空爆したと報じています。”【5月25日 「中東の窓」】

といった情勢で、“政治的な解決に近づくどころか、内戦の再燃の可能性さえ出てきています”【同上】とのことです。いつになったら淀んだリビアの水は動くか?
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