(中国でネットに繋いだパソコンにしばしば出現する、「インターネット警察」のキャラクター【大紀元 “「ビッグブラザー」よりひどい、中国6つの監視システム”】
【市民からの通報を奨励 小中学生には「家族の行動もよく観察して、すぐに通報しよう」】
中国で習近平国家主席が権力基盤を更に強め、一強体制を固めていること、そうした習近平氏に対する毛沢東時代を想起させるような個人崇拝的な動きさえ見えることは、多くのメディア報道が伝えているところです。
一方、中国社会にあっては、IT技術を駆使したモバイル決済や顔認証システム、信用情報システムが急速に普及拡大していることは、9月11日ブログ“中国 顔認証システム、信用の可視化 その次にやってくるのはSNSによる「ランク社会」か”、10月18日ブログ“中国・習近平政権 IT技術によるビッグデータ活用で目指す「デジタル・レーニン主義」”などで取り上げてきました。
習近平政権が人権活動・民主化・言論の自由などに対する統制・弾圧をこれまでの政権のとき以上に強めていることは従来から指摘されてきましたが、一党支配体制にあって“一強支配”とも言うべき権力集中が進むなかで、国家権力による市民監視・市民統制の流れも加速しているようです。
そうした市民監視・市民統制の流れの具体的方策として、社会に広まったIT技術が“有効”に活用されており、その流れの行き着く先が懸念されます。
****中国「密告社会」が一層苛烈に****
14億人「相互監視」の暗い大国
それは一瞬の出来事だったという。十月上旬、北京大学や清華大学など、中国の一流大学が集まる北京の海淀区にある古い六階建てのビルの片隅で小さな書店を営む男性が、公安当局に突然連行されたのだ。
書店に現れた数人の警察官は、男性に対し「テロ計画の疑いがある」と告げた。男性に近い関係者は「テロに関与するような人物ではない」と冤罪を主張する。
真相はまだ藪の中だが、その後の経過を追うと、当局の目的が事件とは別にあったことが浮かび上がってきた。
中国にとって最重要政治イベントである五年に一度の共産党全国代表大会(党大会)が直前に迫っていた時期だ。市内では、八十五万人以上の治安ボランティアが動員され、ブロックごとに不審な動きがないか目を光らせていた。
男性は、そんな公安当局が敷いた「水も漏らさぬ厳戒態勢」(蔡奇・北京市党委書記)の網にかかったのだ。不運は男性が新疆ウイグル自治区出身であり、経営する書店がイスラム関連の書籍を扱う専門店だったこと。
危険の芽を摘むための大義名分を得た当局は、男性を拘束すると間もなく新疆地区へと移管した。八十五万人のボランティアは観光客への案内人ではなく、監視員であり、「密告者」だったのだ。
「監視通報アプリ」も開発
習近平総書記を頂点とする指導部体制は二期目に入り、これまで以上に一般市民への監視を強めようとしている。
現実社会にせよ、インターネット社会にせよ、党や政府に対するわずかな批判も許さないという強固な姿勢は「習氏の繊細な性格に起因するものだ」と、党中堅幹部は漏らす。
とはいえ、公安当局のマンパワーにも限りがある。そのため、近年は市民の監視を市民自身に担わせ、密告を奨励するという新たな策を講じ始めている。
「新たな」という表現にはやや語弊があるだろう。中国の密告社会の歴史は長く、壮大だ。
戦後、広く知られているのは一九七四年に起きた「事件」だ。
北京に駐在するソ連大使館員が反革命分子とつながり、中国政府の機密情報を盗むスパイ行為をしていたことが発覚。河原の橋の下で両者が落ち合うところを発見した市民がスパイを包囲しつつ警察に通報し、逮捕につなげた。この話は美談として『ソ連スパイ逮捕記』という絵本にもなっており、活躍した市民は居住する地域名から「朝陽群衆」とたたえられた。
その後、朝陽群衆はいわゆる民間治安組織を指す隠語として使われてきたが、二〇一五年頃から、再び表舞台に盛んに登場するようになった。公安当局が正式にその名前を使い始めたからだ。(中略)
公安当局が市民からの通報を奨励すると、俳優ジャッキー・チェンの息子であるジェイシー・チャン(房祖名)や国民的歌手のマオ・ニン(毛寧)など大物摘発に成功、密告システムは大きな成果を上げた。
これを北京公安当局幹部は「朝陽群衆は法を理解し、正義感があり、違法行為に立ち向かう勇気のある人たちだ」と絶賛。また、市民協力者がすでに十二万人いるとし「警察の目が届かない場所でも必ず不審な動きは見つけられる」と宣言した。
また、国営新華社通信は「朝陽群衆は米国のCIA、旧ソ連のKGB、イスラエルのモサド、英国のMI5と並ぶ、世界第五の情報機関だ」などと報じた。(中略)
北京市の公安当局は今年四月に通報規定を改定し、スパイ行為の摘発に繫がる情報提供には最高五十万元(約八百五十万円)の報奨金を支払う制度を新たに設けた。
絶大な効果に味をしめた公安当局は、密告社会と文明の利器との融合にも余念がない。
今年二月、北京市公安当局が開発した携帯アプリが公表された。アプリの名称はずばり「朝陽群衆HD」。
児童誘拐や老人の尋ね人、落とし物の問い合わせなどの項目があり、表向きは社会生活の利便性向上を謳うが、もちろん真の狙いはそこにはない。アプリには通報機能が搭載されており、動画、写真、文字いずれの情報でも密告を奨励している。
事件解決への報奨金は二百元(約三千四百円)と少なめだが、見方を変えれば手軽さのアピールとも受け取れる。当局が開始二カ月で発表した運用実績によると、約三千件の情報が寄せられ九十一人の検挙につながった。
十四億台の「移動監視カメラ」
十月十九日、党大会の記者会見に出席した中国電信集団(チャイナ・テレコム)の楊傑・党書記は「中国の携帯電話ユーザーは十三億八千万人、普及率は百%に達した」と胸を張った。意味するところは、十四億台近い「移動式監視カメラ」が中国社会に配備されているということだ。
公安当局がカメラを重視する姿勢は、一年ほど前からすべての制服警察官の胸に小型カメラが装着されていることからも見て取れる。すでに日本を上回る顔認証技術も整っており、一度監視対象になると逃れることは困難だとされる。
密告奨励は、ネット空間にも忍び寄る。中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」を展開するIT大手・新浪は九月二十九日、有害な投稿を見つけ、通報する一千人の監視員を公開募集した。
新浪は北京市政府の指導があったことを認め、監視員へ月二百元の報酬を支払うことも約束。さらに成績上位の十人には、iPhoneやノートパソコンを贈るという。
ネット空間への監視強化は、社会主義強国を打ち出した習近平氏が最も神経をとがらせる領域だと言い切っていいだろう。党大会の政治報告の中で、習氏はこう声を張り上げた。
「インターネット総合ガバナンス体系を構築し、清朗なサイバースペースを築き上げる。イデオロギー関連活動責任制を徹底し、旗幟鮮明に各種の誤った観点に反対し、それらと闘わなければならない」
共産党が中華人民共和国を建国した一九四九年、イギリスの作家ジョージ・オーウェルが刊行したのが小説『一九八四年』である。オーウェルはこの作品で、密告社会や全体主義の恐ろしさを説いた。「習近平の中国」は、ITを駆使し、まさしくオーウェルが描いた世界を具現化している。【「選択」 2017年11月号】
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監視・密告は小中学生にも奨励されていますが、“大義のためには親兄弟をも犠牲にすることを奨励するような”動画となると、批判・疑問の声もあるようです。ただ、そうした声が、どれほどの大きさなのか、当局に再考を迫るほどの力を有するのかは知りません。
****中国の子ども向け反スパイ啓蒙動画が「人でなしすぎる」と物議****
2017年11月8日、中国では2014年に「反スパイ法」が制定され、スパイ行為に関与したなどとして日本人が拘束される事案が相次いでいるが、そんな中国でこのほど、小中学生の反スパイ意識を高めることを目的として制作された動画の内容が「人でなしすぎる」と物議を醸しているという。
米華字メディアの多維新聞が伝えたもので、問題となっているのは、江蘇省南通市の国家安全局と教育局が共同で制作した10分間の動画。今月3日からネット上で公開されるや、その内容に批判や疑問の声が多く寄せられているという。
特にネット上で物議を醸しているのが、動画中のセリフ「スパイは休まない。家族の行動に怪しい点がないかよく観察し、(怪しい点があれば)国家安全当局にすぐ通報しよう。寛大な処分を得るため、正直に告白させよう」だ。
記事は「大義のためには親兄弟をも犠牲にすることを奨励するような内容に、ネット上で疑問の声が上がっている」と伝えている。【11月8日 Record china】
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“反革命的”な親兄弟を密告するように子供に教育するということでは、カンボジア・ポルポト政権時代の“狂気”をも連想します。
ポルポト政権は中国・毛沢東政権の信奉者であり、その思想を純化してカンボジアに導入しようとしていましたので、“子供に親でも密告するよう促す”というのは、もともとは中国・毛沢東時代の発想なのかも。
“革命思想”という視点からすれば、親の大人世代はとかく異論を捨てず、新しい思想になじみにくい存在であり、教育によって純粋培養された子供世代が“新しい世界の担い手”として期待されることにもなります。
【「ビッグ・ブラザーがあなたを見守っている(Big Brother is watching you)」】
IT技術活用による市民監視に関しては、信号無視の取り締まりが“先駆け”的なものとして注目されます。
“広東省深圳市や江蘇省南京市、山東省済南市などでは、顔認証技術を使い、信号を無視して交差点を渡る歩行者を撮影し、大型のディスプレーに映し出す仕組みが登場した。中国政府は公共安全の技術を使って、国民のマナー向上にまでつなげようと考えているようだ。”【11月10日 CNS】
社会の隅々まで広がったモバイル決済を通して、個人情報が吸い上げられ、信用情報としてデータベース化され、さまざまな場面で優遇・排除されるランク付けがなされる・・・というのは、9月11日ブログなどで触れたように、すでに現実の話となっています。
中国という“一党支配”を是とする政治体制、“大義のためには親兄弟をも犠牲にすることを奨励するような”社会にあっては、そうした個人情報データベースは国家によって市民監視・統制のツールとして有効活用されるでしょう。
現在、国家によるそうした情報へのアクセスがどういうようになっているのかは知りません。仮に現在は行われていなくても、情報の国家管理はそう遠くない日に現実のものとなるでしょう。
日本や欧米社会でもテロの脅威が増すなかで、監視カメラなどによる公共安全を求める動きは加速しています。
ただ、日本や欧米社会にあっては、個人のプライバシー保護も重要な問題として認識されています。
中国にあって、公共安全確保とプライバシー保護の両立がどのように認識されているのか・・・公共安全分野に力を入れている中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)幹部に尋ねたインタビューが下記にあります。
このインタビューで、各国のプライバシーに関する制約は遵守しなければならないとはしながらも、ほとんどはIT監視による公共安全確保の有効性を主張しているだけで、“公共安全確保とプライバシー保護の両立”に関する意識が希薄な印象を受けます。
****「監視社会」として先進国の先を行く中国****
ファーウェイ幹部が語ったパブリックセーフティーの現状
華為技術(ファーウェイ)のグローバルチーフパブリックセーフティーエキスパートを務めるホンエン・コー氏へのインタビュー
(中略)ITなどを使った公共安全に投資する国や都市が増えている。テロなどの脅威が増している中で当然の動きとも言えるが、一方でプライバシーがなくなっていく懸念もある。公共安全とプライバシーの両立をどのように果たすのか。
コー:(中略)公共安全の分野は最も複雑な産業の1つと言える。その使命そのものは簡単だ。しかし、この分野は常に様々な脅威に直面している。また、顧客は国や自治体などだが、例えば国と自治体では組織が異なり、担っている責任がそれぞれ異なる。(中略)
我々の顧客は様々な脅威に直面しており、その脅威も刻々と変化している。犯罪者も変化しており、テクノロジーを利用して新たな脅威を引き起こしている。こうした状況下では、一つの組織、一つの国だけで対応するのは難しい。警察の部門間の協力、警察以外の組織との協力、社会との協力などが不可欠になっている。協調型のパブリックセーフティーが必要なのだ。
各国でプライバシーに関する法律は異なる。英国は西側の民主国家ではあるが、ここ数十年間、北アイルランドの分離独立を目指す武装勢力の脅威にさらされてきた。そのため、英国政府は監視カメラなどに投資をしてきた。英国の国民の多くは、安全のためには政府がこのような措置を取らなければならないことを理解している。
一方、香港は中国に返還されたものの、法的には独立しており、特にプライバシーに関する法律は厳しい。香港の警察が監視カメラを設置することは簡単ではない。
欧州の国々はこれまでプライバシーを重視してきた。しかし、欧州は何度もテロに見舞われている。そのため各国は徐々に法律を変えている。
公共安全とプライバシーのバランスは永遠の課題
(中略)安全とプライバシーの問題は永遠に存在するものだ。常にバランスを取っていくしかない。1日でもこの問題について話し合わない日があるなら、それはよろしくないことだ。
そのような社会には何らかの問題が発生しているのではないか。それぞれの国、都市、社会には、止まることなくバランスを取り、変え続ける責任がある。
例えば、シンガポールは過去に監視カメラを数多く設置した。その結果、路上での犯罪が減少したので、政府はこれ以上必要はないと設置をやめた。ところが最近になって、テロの脅威が増していることを受けて設置を再開している。
また、ある国では、プライバシーの法律に照らすとそれほど監視カメラを設置できない。ところが、やはりテロの多さを受けて、考えを改めつつある。多くの都市でこのような動きが出てきている。
日本の公共安全上の最大の脅威は災害
(中略)確かに日本は安全だ。公共安全の観点で最大の脅威となるのは災害だろう。
(中略)一方、シンガポールでは国民の80%が政府が供給した住宅に住んでおり、こうした住宅には監視カメラが設置されている。隠し撮りされているわけではなく、この監視カメラの映像は住民も見ることができる。シンガポールをはじめとするいくつかの国の公共安全プロジェクトはとても開放的だ。
単に政府がオープンだというだけでなく、より多くの目によって安全を確保していることにもなる。我々が言う協調型の公共安全の一つの例と言えるだろう。【10月17日 小平 和良氏 日経ビジネス】
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中国で“監視カメラの映像は住民も見ることができる”かは知りません。多分、そんなことはないでしょう。
もっとも、公共安全のためのIT技術開発を競っているのは中国企業だけでなく、日本・欧米企業も同様です。
****「監視社会」強化の中国、需要増を狙う欧米企業***
AI技術を駆使し、年齢や性別だけでなく気分も把握?
米国の大手ハイテク企業と政府から支援を受ける中国企業が一堂に会し、中国広東省深圳市で開催された展示会で最新の警備技術を披露し合った。各社が狙うのは、中国で拡大する監視市場の需要だ。
中国が世界の監視技術の最前線に立つ中、各国企業は新たに開発したデバイスやアルゴリズムなどを売り込んでいる。展示会には顔認証カメラや虹彩スキャナー、相手のムードを読み取れるソフトウエア、そして暗闇でも車のナンバープレートを読み取れるカメラが並んだ。
調査会社 IHSマークイット によれば、監視デバイスの市場規模は昨年中国で64億ドル(約7300億円)にまで拡大。政府が国民14億人の監視をさらに強化する方針を示すなど中国は監視技術の最大の買い手になっている。
監視デバイスを作るメーカー側はこの動きを歓迎し、輸出拡大に期待。
一方、人権活動家らは中国の権威主義的政府が「ビッグブラザー」(ジョージ・オーウェル作のSF小説「1984」に登場する独裁者)を進化させた技術の導入に動いていると警戒する。(後略)【11月2日 WSJ】
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歩く人の映像をとらえ、性別や年代だけでなく、その者の“気分”を即座に表示する技術も展示されているとか。
その精度はイマイチのようですが、“気分”を監視して何につかうのか・・・(経済的にはそれなりの活用法があるのでしょうが)“余計なお世話だ”という感も。
“余計なお世話”で済めばいいのですが、“不満を抱えたような”表情をしている者は当局・政府からマークされる・・・という話になると、心の中まで監視される社会にもつながります。
中国が今後、今以上にその存在感を強め、日本など周辺国・世界に対する影響力を強めるのは、(特段のアクシデントがない限り)おそらく間違いないでしょう。
いたずらに中国と覇を争うのも結果が見えた勝負です。また“中国崩壊”を期待するのもマスターベーションみたいなものでしょう。(小説「1984」では、日本は中国を中心とした国家「イースタシア」に含まれているようです)
中国の影響力が増す世界で、協調なり利用なりで、日本もその波に現実的に対応していく必要はあります。
ただ、その際日本が目指すのは、中国と覇を争うことではなく、「ビッグブラザー」に監視されたような社会とは異なる社会を日本は守っていくということでしょう。
いつまでも、安倍首相が転んだのを笑える社会、“かけ・もり”のような話に“ちゃんと説明しろよ!”と言える社会であり続けることでしょう。