孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国・習近平政権  IT技術によるビッグデータ活用で目指す「デジタル・レーニン主義」

2017-10-18 22:14:57 | 中国

(IDカードと顔認証システムを使って駅の改札を通過する乗客(8月、湖北省武漢)【10月18日 WSJ】)

35年までに統治体系が現代化し経済格差が著しく縮小した「社会主義の現代化」の実現
中国・習近平国家主席が二期目に向けての党大会に臨んでいるのは多くの報道があるところです。

****強国路線」鮮明=習氏の思想「行動指針」に―権威確立に自信・中国共産党大会****
中国共産党の第19回党大会が18日、北京の人民大会堂で開幕した。

習近平総書記(国家主席)は中央委員会報告(政治報告)で、1949年の建国から100年を迎える21世紀半ばまでに「社会主義現代化強国」と「世界一流の軍隊」の建設を目指す方針を表明し、強国路線を鮮明にした。
自らが提唱する指導思想を「行動指針」として堅持することも求め、毛沢東らに並ぶ権威確立に自信を示した。
 
習氏は今大会のテーマを「中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現に向けた奮闘」と定義。総書記就任以来の5年間を「歴史的な成果を収めた」と自賛した。
 
その上で従来の目標だった「小康社会」(ややゆとりのある社会)を2020年までに完全実現した後に目指す国家の姿として、35年までに統治体系が現代化し経済格差が著しく縮小した「社会主義の現代化」の実現、今世紀半ばまでに世界トップレベルの総合国力と国際的影響力を持つ「社会主義現代化強国」の建設を掲げた。
 
軍事的にも、35年までに国防・軍隊の現代化を、今世紀半ばまでに「世界一流の軍隊」の構築をそれぞれ目標に掲げた。「強国」を目指す新たなビジョンを提示することで、建国した毛沢東、改革・開放政策で「小康社会」を目指したトウ小平に続く、新時代の到来を印象付けた。
 
習氏は自ら提唱する指導思想を「新時代の中国の特色ある社会主義思想」と表現した上で、全党・全人民が「行動指針」として堅持するよう要求。党大会で改正される党規約の「行動指針」に、毛沢東思想やトウ小平理論などと共に習氏の思想が明記されることを示唆したものとみられる。【10月18日 時事】 
********************

一言で言えば、これまでの成果について自信を示しているというところで、様々な観測がなされてきた権力闘争においても、“習近平総書記(国家主席)を含む「習派」の指導者が政治局常務委員(7人)の過半数を占めることが確実になった”【10月18日 毎日】ということで、“勝利”を明確にするようです。

更には、自身の名を冠した思想だか理論だかが明記される形で、毛沢東にも並ぶ権威を得るのでは・・・とも。

そのあたりの政治的な話はまた別機会に譲るとして、今日は中国経済を中心にした話。

上記のように、習近平氏が成果を誇り、権力基盤を確実にし、更に大きな視点で言えば、中国が国際社会における存在感を強めていることの源泉は中国経済の力にあります。

****裕福」まであと0.1ポイント 中国のエンゲル係数****
10月10日、国際通貨基金(IMF)は中国の2017年GDP予想成長率を6.7%から6.8%に上方修正した。これで今年に入ってからIMFが中国の予想成長率を上方修正するのは 4度目となる。
 
今回の上方修正は、上半期の中国経済の成長率が予想を超えていたことと、中国と米国の経済見通しが改善したことも要因の一つとなった。
 
中国国家統計局の寧吉喆(Ning Jizhe)局長は10日に行われた記者会見で、中国の2016年のエンゲル係数が30.1%で2012年より2.9ポイント下がり、国連で定められている20~30%の「裕福な家庭」のレベルに限りなく近づいたと発表した。(中略)

IMFの統計によると、1980年の中国1人あたりの国内総生産(GDP)は309ドル(約3万4657円)、当時貧困とされていた北アフリカは1551ドル(約17万3960円)で中国の5倍だった。

それから約30年間、中国は必死に走り続け、2016年は中国の1人あたりGDPが8123ドル(約91万1075円)となり、世界平均の1万151ドル(約113万8536円)との差が縮まるまでに成長した。(後略)【10月18日 CNS】
*******************

上記は中国メディアのものですから手放しの称賛ですが、もちろん問題点は都市・農村の格差や地方政府の多額の債務、成長の結果としての環境悪化等々、多々あります。

多々ありますが、中国という極めて巨大な国民経済を急速にここまで押し上げてきたこと、細かい数字については信ぴょう性などいろいろ言われているにしても、また、“中高度成長”と言いつつも、日本などに比べる遥かに高い成長を維持していることは、まぎれもない事実です。(大きな問題を抱えているのは、日本を含めてどこの国も同じです)

【“中国崩壊”を防いでいる中国指導部の対応力
日本で長年“待望”されている“中国の崩壊”は今のところ起きていません。

****石平「中国『崩壊』とは言ってない。予言したこともない****
08年の北京オリンピックの前後から、「反中国本」「中国崩壊本」はまるで雨後のたけのこのように日本で出版されてきた。(中略)

複数の「崩壊本」を執筆してきた中国問題・日中問題評論家の石平(せきへい)にジャーナリストの高口康太が聞いた。

――いわゆる「中国崩壊論」に対する批判が最近高まっている。現実とは真逆ではないか、という指摘だ。あなたは崩壊本の代表的筆者として位置付けられている。

誤解があるのではないか。私自身のコラムや単著で「崩壊」という言葉は原則的には使っていない。対談の中で触れたことはあるが。

私の主張は「崩壊」というより「持続不可能」という表現が正しい。消費拡大を伴わず、公共事業と輸出に依存した、いびつな経済成長は持続不可能という内容だ。(中略)

――『中国──崩壊と暴走、3つのシナリオ』という単著もあるが。

書名は出版社の管轄だ。見本が送られてくるまで私がタイトルを知らないこともあった。(中略)

――中国崩壊論は10年以上前から続いているが、いまだにその兆しは見えない。いつがXデーなのか?

いつ崩壊するなどと予言したことはない。持続不可能と指摘しているだけだ。ただし、誤算があったことは認めたい。中共(共産党)は胡錦濤(フー・チンタオ)政権末期の危機的状況に際し、成功体験である毛沢東時代を再現すべく習近平(シー・チンピン)に権力を集中させた。この対応力は私を含めチャイナウオッチャー全員が予想できなかった。それでも先送りしているだけで構造的問題の解消にはなっていないと思うが。

次の著書では自らの誤算と中共の変化について詳述する予定だ。【10月17日 高口康太氏 Newsweek】
*******************

敢えてこの種の対談に応じた石平氏は立派ですが、「『崩壊』とは言ってない」「書名は出版社の管轄だ」云々には首をかしげます。

“中国嫌い”の日本ネットユーザーに人気があるとされる石平氏の対談を取り上げたのは、別に“中国崩壊論者”石平氏をどうこう言うためではなく、石平氏も認めている中国指導部の“対応力”を取り上げたいためです。

日本の“中国崩壊論者”の多くが読み違えているのは、中国共産党もバカではない・・・ということでしょう。
危機が迫れば、それに対応すべく手を打ってきたこと、それが“崩壊”を防ぎ、成長を持続させていると思われます。(今後とも、その対応がうまくいく・・・という話ではありませんが)

市場経済をコントロールする国家統制強化へ
大きな流れで言えば、鄧小平氏の「改革解放」で市場経済を大幅に取り入れ、急速な成長軌道に乗った中国ですが、習近平政権にあっては、市場のもたらす危険性を重視して、国家統制の方向に大きく舵を切ろうとしているように見えます。

****習近平氏、2期目は市場と気まずい関係に****
「市場びいき」は影を潜め、経済介入と国有企業支援に傾く

習近平国家主席はトップ就任の際、中国経済にもっと市場が関与する余地を与えると約束した。国有企業を監督する巨大な政府機関を廃止することさえ検討した。
 
現在、習氏はそのような考えを捨て去ったようだ。中国は今、原材料価格や株価、為替相場などさまざまな経済の産物を、国家の介入によって操作しようと試みている。その結果、民間資金がつぎ込まれた国有企業は肥大化し、習氏が解体案まで持ち出した政府機関は息を吹き返している。
 
2期目を目前にした習氏は、市場に依存するのはあまりにリスクが高く、国家資本主義のほうが優れたモデルだとの考えに行き着いた。

現在の中国指導部が「改革」を語るとき、意味するのは鄧小平時代のような経済自由化ではない。政府主導の経済モデルを「微調整」することだ。(中略)
 
2015年の市場ショック
市場の力は中国共産党を助けるのか、それとも足を引っ張るのか――この疑問が重大局面を迎えたのは2015年だ。
同年、中国は株価急騰に湧いていた。個人投資家は「習おじさんの強気相場」に乗じようと、信用取引による株購入に熱中した。
 
だが6月の株価暴落で潮目が変わる。その影響は世界中に波及し、中国政府を当惑させた。8月には人民元の基準値を切り下げる通貨当局の試みを機に、元安が進行した。
 
この混乱は習氏に大きな試練をもたらし、投機的な動きを止められない当局に同氏は不快感をあらわにした。その後数カ月で、中国の市場原理の力に対する傾倒は崩壊した。

国有企業は株の買い支えで協力し、政府は空売り規制を強化した。元安による大規模な資金流出を受け、中国人民銀行は全力で元を買い支えた。
 
市場の変動サイクルは自分たちでは制御できず、あまりにも不透明な結果をもたらす――中国指導部はこうした結論を導き出したと当局者や政府顧問は話す。(中略)

習主席がここに来て次第にイデオロギーの純度を高めていることは、欧米スタイルの資本主義に残された余地がほとんどないことを意味する。
 
鄧小平とその改革開放路線を受け継いだ信奉者が1980年代~90年代に用いた言葉は「中国の特色をもつ社会主義」だ。力点を置いたのは、明らかに国家主導の経済が抱える問題に市場の解決策を応用することだった。
 
この言葉を今の中国で用いると、別のメッセージを伝えることになる。欧米流の資本主義が入る余地はもうないことだ。

習氏は昨年7月、中国共産党創立95周年の記念講演でこう述べた。「中国が構築しているのは中国の特色をもつ社会主義であり、他のなにものでもない」【10月17日 WSJ】
****************

習近平氏の言う“中国の特色をもつ社会主義”とは、今日の党大会演説で言うところの“統治体系が現代化し経済格差が著しく縮小した「社会主義の現代化」”でしょう。

習近平氏は民間企業や市民団体に党組織の設置を命じて、党のコントロールを強化し、国営企業の合併再編で“巨大な国営企業”の復活を進めています。

市場に委ねることなく(もちろん、これまで中国が完全に市場に経済を委ねたことなどありませんが)“中国は今、原材料価格や株価、為替相場などさまざまな経済の産物を、国家の介入によって操作しようと試みている”・・・・かつて失敗が明らかになった“ソ連型社会主義・計画経済”の復活のようにも聞こえますが、中国の場合は、経済の大部分は市場の論理に従って動かし、企業内党組織や巨大国営企業の力で全体の方向性をコントロールしようという経済システムです。

【「見えざる手」に代わるのはIT技術によるビッグデータ活用
市場の場合は「見えざる手」によって自律的に制御されるのに対し、計画経済にあっては、計画者の人知は「見えざる手」には遥かに及ばず、様々な非効率が生まれる・・・というのがソ連型計画経済の失敗でした。

中国・習近平氏が目指す「社会主義現代化強国」にあっては、そのあたりをカバーする技術としてIT利用によるビッグデータの活用という、いかにも現代を象徴する要素が重視されます。

****習近平氏、「ビッグデータ独裁」の中国目指す****
デジタル・レーニン主義で国民と経済を管理へ

スターリンから毛沢東に至るまで、旧来の中央計画経済の立案者たちは皆、同じ問題に直面した。計画経済システムは機能しないという問題だ。
 
ソ連では、パンの無料配給を待つ市民で長蛇の列ができたほか、製造目標をトンで規定したため、重すぎて天井からつり下げられないシャンデリアが生産された。

中国では、毛沢東の妄想的な鉄鋼生産目標(1950年代末の「大躍進政策」に基づく)を達成しようと、農民たちは自分たちの鍋やフライパンをホーム・ファーネス(家庭用のかまど=中国の農村各地に作られた土法炉と呼ばれる原始的な溶鉱炉を指す)に投げ込んだ。この結果、食糧生産がおろそかになり、飢饉(ききん)が発生した。
 
習近平国家主席は、市場に「決定的な」役割を与えると常々述べているにもかかわらず、究極的には国家が主導すべきだと信じている。

習氏は、毛沢東のような地位にのし上がりつつあるなか、過去の計画経済の過ちを正すためビッグデータや人工知能(AI)を活用したいと熱望している。そして経済をきめ細かく管理しつつ、市民の監視を続けることを意図している。
 
情報技術(IT)は、多くの人々が考えたように中国の独裁モデルを弱体化させるどころか、むしろ強化しつつある。
 
ドイツの政治学者セバスチャン・ハイルマン氏は、「デジタル・レーニン主義」という言葉を作りだした。これは、中国共産党の生き残りを確実にしようと習氏が編み出したプログラムを表す言葉だ。
 
中国共産党はこの任務を「頂層設計(トップレベル・デザイン)」と呼び、次段階の成長の実現を目指している。ロボティクス、3D印刷や自動運転車といった先端技術がけん引する成長の実現だ。
 
中国の技術者たちが現在取り組んでいるのは、センサーやカメラを使ってこうした先端技術のパフォーマンスを監視し、産業上の諸目標と比べたその達成度を測るというものだ。

政府の規制当局は、企業のデータフィードにより、信用と投資の流れをつかめるほか、不正行為さえもリアルタイムで検知できるだろう。想定通りにいけば、アルゴリズムは、この緻密な情報を利用してマクロ経済上の意思決定を最適化し、市場を落ち着いたバランス状態に維持して、投機的なバブルを回避するだろう。(中略)
 
「スマート・プランニング(賢明な計画化、つまり情報処理機能を持った計画化)」は、中国がもっと近代的な経済にシフトする一助になるかもしれない。それならば、何が状況を誤ったものにするのだろうか。
 
第1に、データのオーバーロード(過負荷)だ。データを収集することは、それを知的に分析することとは全く別物だ。

第2に、そして中国の一般市民とハイテク企業にとってさらに不吉なのは、官僚が過度に経済に介入することだ。その顕著な表れが規制当局の動きだ。それは、最大級の中国ハイテク企業に対し、株式の1%ならびに経営の決定権限を政府に譲渡するよう強制しようとする最近の動きだ。

共産党の中央機関が彼らハイテク企業の取締役会に命令し始めれば、習氏が意図している計画化構想への企業首脳たちの熱意は、急速に冷める可能性があるだろう。
 
究極的に、習氏の過酷なアプローチは、「ビッグブラザー(ジョージ・オーウェルの小説に登場する独裁的な監視者)」の概念を新しい次元に押し上げるものだ。
 
ノーベル賞を受賞した経済学者のF.A. ハイエクは著書「隷属への道」のなかで、経済の計画化(統制)は「他(の部門)と分離し得る人間生活の一部門を統制するだけではない」とし、「それは、我々のあらゆる目標のための手段を統制するのだ」と書いた。
 
この本が書かれたのは1940年代だった。ハイエクも毛沢東も、習氏が心に描いている知識駆動型の全体主義を想像していなかっただろう。【10月18日 WSJ】
***************

新たな「ビッグブラザー」の恐怖も
モバイル決済の世界に先駆ける急速な普及による個人データの蓄積は、上記のような「デジタル・レーニン主義」を支えるビッグデータ入手を可能にします。

「デジタル・レーニン主義」が機能するか否かという経済問題とは別に、そこには「ビッグブラザー」による国民生活監視、「隷属への道」の危険性が潜んでいることは、9月11日ブログ“中国 顔認証システム、信用の可視化 その次にやってくるのはSNSによる「ランク社会」か”でも取り上げました。

特に、下記のような政治体質が強い中国にあっては、その危険性が憂慮されます。

****死ぬよりつらい思いさせてやる」拷問、監視で狭まる中国の自由 弁護士、鉄の椅子で手錠18時間 ネットで官公庁批判、拘束も****
「死ぬよりつらい思いをさせてやる」。警官が敵意むき出しの目ですごむ。北京の弁護士、余文生さん(49)は3年前に受けた中国当局の厳しい取り調べが脳裏に焼き付いている。

きっかけは2014年に香港で起きた民主化デモ「雨傘運動」。同年10月、デモに賛同し拘束された北京の人権活動家を支援するよう弁護士仲間に頼まれた。本人との面会を当局に拒否され、ネット上で抗議すると2日後に拘束された。

取り調べを受けた北京市第1看守所(拘置所)では鉄の椅子に座らされ、後ろ手に手錠をかけられた。1日13〜18時間、その姿勢を続けると「死んだ方がましなくらい痛い」。手錠を外すと、手首は倍の太さに腫れ上がっていた。

拘束は99日間に上り、最後は身に覚えのない罪を認めるよう迫られた。あたかも自白したように、「私は過ちを犯した」などというせりふを暗唱させられ、その姿を動画撮影された。起訴はされずに釈放となったが、長期の取り調べで腹膜が傷つき、開腹手術を受けなければならなかった。(中略)

中国では、民主主義の実現を求める運動だけでなく、言論や信仰の自由といった法律に定められた市民の権利を守る活動さえも弾圧の対象となる。

自由な言論活動を放置すれば、共産党の一党独裁を否定する「西側の価値観」が氾濫し、現体制を揺るがしかねない−。そんな危機感が当局の厳しい対応の背景に見え隠れする。(中略)

人権活動家や市民が連携を深める場だったネットは、習指導部1期目の5年で、当局が個人の発言を監視する道具へと変わりつつある。「習指導部が言う法治とは、悪い法律で市民を抑え込むことだ」と余さんはため息を漏らす。

集団指導体制から“習1強”へ突き進む中国。「鬼が何匹もいる状態より、1匹だけの方が怖い。暴れても誰も止められないから」。さらに自由が狭められる中国社会の将来を思い、余さんの表情が険しさを増した。【10月12日 西日本】
******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする