孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アイルランド 国民投票で中絶合法化へ アルゼンチンも来月法案採決 アメリカでは禁止法制定の州も

2018-05-28 22:48:18 | 女性問題

(人工妊娠中絶の合法化の是非を問うアイルランドの国民投票で、勝利を喜ぶ賛成派の人たち=26日、ダブリン【5月26日 共同】)

アイルランド 同性婚に続く「静かな革命」】
カトリック国・アイルランドで1983年の住民投票で成立した憲法修正第8条は、まだ生まれていない者の生存権を認め、女性と胎児の生存権は同等としています。

中絶は出産で母親に生命の危険がある場合に限って認められ、性的暴行や胎児の異常が理由であれば違法となります。罰則は最高で禁錮14年。

このために毎年何千人ものアイルランド女性が中絶手術のために英国へ行ったり、中絶ピルを入手したりしているという現実が生じています。(1992年の国民投票で、国外で妊娠中絶の手術を受ける権利や、海外の中絶サービスに関する情報を受け取る権利があることが認められています。)

周知のように、この憲法修正第8条を廃止するかどうかが問われた5月25日の国民投票では、投票直前には反対派の追い上げも報じられ、接戦も予想されていましたが、北部ドニゴール州を除く全ての選挙区で賛成派が勝利。ほとんどの州で性別や年齢に関わらず改正を望む形となりました。

最終集計では賛成が66.4%、反対が33.6%だと、ほぼダブルスコアとなっています。【5月28日 BBCより】

****アイルランドが国民投票で中絶合法化、同性婚に続く「静かな革命」が進行中****
<世界で最も中絶に厳しい国のひとつだった保守的なアイルランド社会が、急速に変わろうとしている>

5月26日に行われたアイルランドの国民投票で、人工妊娠中絶を禁止する憲法修正第8条の撤廃が決まった。カトリック教徒が人口の8割を占め、世界でも最も中絶に厳しかったアイルランドのこの歴史的な国民投票には、数多くの在外有権者も帰国して参加した。

憲法修正第8条は、胎児の生きる権利と母親の生存権を同列に並べ、レイプ被害者の場合や母体に危険がある場合の多くも含め事実上中絶を禁止してきた。その是非は、2015年に同性婚を認め、やはり歴史的と言われた国民投票よりも世論の対立が激しい問題だった。

だが結果は誰も予想しないものだった。

26日午後に発表された開票結果では、中絶合法化に賛成が66.4%、反対が33.6%で、賛成は同性婚賛成の62.1%を上回った。投票率は有権者の64.13%にのぼり、これも同性婚に関する国民投票の投票率(60%)を上回った。

昨年、同国史上で初めて同性愛者であることを公にして首相になったレオ・バラッカー首相は、この結果を賞賛した。「私たちが目にしたのは、過去20年間にわたってアイルランドで起きている静かな革命の最高点だ」(後略)【5月28日 Newsweek】
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“出口調査によると女性投票者の7割が賛成。年齢低下と共に賛成支持が高まる傾向にあり18〜34歳の80%以上が賛成を選んだ。”【5月26日 共同】“年齢別で合法化を支持しなかったのは65歳以上の層だけだった”【5月27日 CNN】ということで、ほぼ国民の総意という結果です。

なお、“国民投票は、中絶を禁じた憲法規定を廃止し、妊娠12週未満の中絶を認めることの賛否を問う。法律で中絶が認められるのは日本では妊娠22週未満、英国は24週未満。”【5月26日 産経】とのこと。

北アイルランドの対応にはメイ首相苦慮
アイルランドの「革命」により取り残された形になったのが、中絶を厳しく禁じる法律が現在も残るイギリスの北アイルランド。中絶支持派の次の標的ともなっています。

イギリス・メイ首相は、中絶反対派の地域政党との閣外協力で政権を維持しており、対応に苦慮しそうです。

****北アイルランドはどうなる?****
今回の憲法廃止により、英国とアイルランドで中絶をほぼ全面禁止しているのは北アイルランドだけとなり、テリーザ・メイ英首相は行動を迫られている。

シン・フェイン党のメアリー・ルー・マクドナルド党首とミシェル・オニール副党首は26日、ダブリン城の上で「次は北」と書かれたプラカードを掲げ、北アイルランドでの改革を求めた。
オニール氏は27日、国民投票の結果が「アイルランド全体が変化を本当に求めている」ことの表れだと話した。

しかし、メイ首相と閣外協力する北アイルランドの民主統一党(DUP)は中絶禁止の改正に強く反対しており、メイ首相は厳しい状況に立たされている。【5月28日 BBC】
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アルゼンチン 世論調査では大半の国民が合法化法案を支持
アイルランド同様にカトリック教徒が多い南米でも中絶合法化が求められています。

****継父にレイプされ10歳少女が妊娠、中絶合法化の議論白熱 アルゼンチン****
妊娠中絶を合法化する法案の採決を来月に控えて議論が白熱しているアルゼンチンで、10歳の少女が母親の再婚相手にレイプされ妊娠したことが明らかになり、国内に衝撃が走っている。
 
この少女は、腹痛を訴えて受診した病院で妊娠21週と診断された。
 
アルゼンチンの現行法では、レイプによる妊娠や母体の健康に危険がある場合に限って中絶を認めているが、少女の住むサルタ州は保守的な傾向が強く、レイプ被害者については妊娠12週までしか中絶を認めていない。
 
サルタ州当局によると、少女と母親は書面で中絶を拒否したという。しかし、女性の権利活動家でジェンダーに基づく暴力に反対する運動「NiUnaMenos」の創設者でもあるマリアナ・カルバハル氏は、当局の説明には疑いの余地があると指摘している。

「少女の家族はおびえている。当局が母親に妊娠中絶は非常に危険だと告げたからだ。少女自身がどう考えているかは分からない。妊娠中絶はまだ可能だ」とカルバハル氏はAFPに語った。
 
カルバハル氏によると、少女は妊娠12週以内だった2月に病院を受診したが、そのときは便秘と診断されていたという。
 
少女が母親の再婚相手から日常的にレイプされていたことが発覚したのは、2度目の受診のときだった。
 
国連児童基金(ユニセフ)によると、アルゼンチンでは年に2700人もの10〜14歳の少女が出産している。
 
アルゼンチン議会では6月13日に妊娠中絶合法化法案の採決が行われる予定。ローマ・カトリック教会の反対にもかかわらず、世論調査では大半の国民が法案を支持している。【5月22日 AFP】
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中絶禁止に向けて、1973年の最高裁判決を覆すことを目指す大統領・与党
一方、宗教保守派が大きな力を持つアメリカでは中絶合法化は非常に先鋭な政治問題化します。
共和党知事のアイオワ州では、憲法で中絶の権利が認められているにもかかわらず、国内で最も厳しいとされる中絶禁止法が成立しています。

****アイオワ州で中絶禁止法成立****
米中西部アイオワ州のレイノルズ知事(共和党)は4日、胎児の心音が聞こえた時点で人工妊娠中絶を禁止する州法に署名し、法律が成立した。

全米で最も厳しい妊娠中絶規制法となるが、女性団体が「違憲」として提訴する構えで、妊娠中絶をめぐって擁護派(プロチョイス)と反対派(プロライフ)の新たな法廷闘争が始まるとみられる。

中絶反対派の議員が多い共和党は妊娠中絶を合法化した1973年の最高裁判決を覆すことを目指し、法廷闘争に持ち込む構えだ。【5月6日 朝日】
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“「胎児の心音法」とも呼ばれるこの法律は、レイプや近親相姦による妊娠は対象外としているが、胎児の心音が確認できるのは一般的に妊娠6週目ごろとされ、反対派は多くの女性が自身の妊娠に気付いてすらいない段階での中絶を禁じる内容だと批判している。”【5月5日 AFP】

アメリカでは中絶合法化(あるいは移民問題・人種差別・LGBT)のような国論を二分するような問題が司法の場に持ち込まれ、最終的には最高裁の判決で決着します。

大統領の任期は最長で2期8年ですが、最高裁判事は終身制で、自らが引退、もしくは死去するまで判事として務めることができます。

そのため大統領の最も大きな仕事のひとつが、最高裁判事に自らと考えを同じくする人物を送り込むことになっています。(大統領が指名し、上院の過半数で承認されます)

定員9人の最高裁では、2016年2月に保守派だったアントニン・スカリア判事が急死して以来、保守派とリベラル派が4人ずつの拮抗した状態になっていましたが(オバマ前大統領の指名した候補は上院共和党の反対で実現しませんでした)、トランプ大統領は保守色の強いゴーサッチ氏を最高裁判事に据えることに成功し、大きな成果をあげています。

現在のところ、中絶合法化に関してはリベラル5、保守4となっていますが、最高齢のギンズバーグ氏が死去あるいは引退し、トランプ大統領によって保守派判事が任命されれば逆転することにもなります。【2017年03月16日 ハフポスト“大統領より怖い? 9人目の最高裁判事任命”より】

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