孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー・ロヒンギャ問題  ロイター記者逮捕事件では進展も、帰還作業は進まず、定住化の様相も

2018-05-02 23:29:30 | ミャンマー

(難民キャンプと田の上にかかる竹製の橋。地元のバングラデシュ人は米を育て、蒸発池で塩をつくる 【4月6日 WSJ】)

ロイター記者逮捕は警察の「わな」 裁判所が証言の信頼性を認める
ミャンマー西部ラカイン州でイスラム系少数民族ロヒンギャに対する“民族浄化”を進めるミャンマー国軍が、ようやく兵士7人について「殺人行為に手を貸し、参加した」として懲役10年に処した・・・という件は、これまで全くロヒンギャ殺害を認めてこなかった国軍の立場からの“一歩前進”とみるべきか、国際社会から厳しい批判を形ばかりの処分で実質的には無視し続けているとみるべきか・・・。

国軍は、あくまでも殺害されたロヒンギャは一般民間人ではなく、過激派「テロリスト」であったと主張しており、法的手続きを経ずに殺害されたことを問題としています。殺害されたロヒンギャ10人が「テロリスト」であった証拠は示していません。

69万人にも及ぶとされる大量避難民を引き起こす原因となった殺戮・暴行・レイプ・放火等への国軍の組織的関与を認めるものでは全くありません。

****ミャンマー、ロヒンギャ殺害で兵士7人に懲役10年****
ミャンマー軍は10日、イスラム系少数民族ロヒンギャの男性10人の殺害にかかわったとして、兵士7人が懲役10年の判決を受けたと明らかにした。

軍は発表文で、「殺人行為に手を貸し、参加した」兵士たちが10年間の重労働を伴う懲役を命じられたと述べた。
軍は今年1月、軍の兵士がロヒンギャ殺害に関与したと初めて認めた。(中略)

村での殺人を調査していたロイター通信の記者2人が国家機密法違反の罪に問われて逮捕され、現在も勾留されている。ミャンマーの裁判所は11日、ワ・ロネ、クヤウ・ソエ・ウー両記者の公訴棄却を求める弁護側の申し立てを却下した。

昨年8月にロヒンギャの武装集団と治安部隊との衝突が起きて以来、65万人以上のロヒンギャが国境を接するバングラデシュに避難した。

避難した人々は、虐殺や強姦、拷問などが行われたと語った。地元の暴徒化した仏教徒たちが軍を後押しし、村々を焼き払い、市民を攻撃し殺害したという。

ミャンマー軍は、市民は標的にしておらず、ロヒンギャの武装集団と戦っていると主張した。【4月11日 BBC】
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上記事件を調査していたロイター通信の記者2人が、ラカイン州における政府軍作戦に関連した機密文書を所有していたとして、国家機密法違反の疑いで12月から逮捕拘留されており、上記のように公訴棄却の申し立ては裁判所に却下されています。

この記者逮捕は、ミャンマーにおける「報道の自由」の侵害を象徴するものでもあります。

“ここ数年、多くのジャーナリストがミャンマー政府に起訴され、国連は報道の自由が着実に浸食されていると警鐘を鳴らしてきた。ミャンマー軍によるロヒンギャ掃討作戦が実施されて以降、外国人記者はビザ取得が一段と困難になり、多くの地区へのアクセスも禁じられている。”【4月12日 WSJ】

ところが、この記者逮捕は「わな」だったという証言が警察側から出てきました。

****<ミャンマー>ロイター記者逮捕は「わな」 予審で警官証言****
ミャンマーでロイター通信のミャンマー人記者2人が国家機密法違反の罪で起訴された事件で、裁判所の予審に出廷した警察官が事件は警察による「わな」だったと証言し、波紋を呼んでいる。

ロイターは「法廷はついに真実に達した。裁判を終わらせる時だ」と主張している。
 
2人は昨年12月、少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」が暮らすラカイン州と治安部隊に関する政府機密文書を所持していたとして逮捕された。
 
ロイターなどによると、最大都市ヤンゴンの裁判所で、国家機密法違反罪で審理すべきかどうかを決める予審に20日、警察官が検察側証人として出廷。

警察幹部が部下に対し「極秘文書」を記者に渡し、密会場所から出てきたところを逮捕するよう命じたと証言した。幹部は「捕まえなければ、あなたたちが刑務所に行くことになる」と迫ったという。
 
証言した警察官は、規律違反を理由に昨年12月から拘束されている。警察報道官はロイターに対し「この警察官は自分の感情のまま話している。ほかの証人の話を聞く必要がある」とコメントした。
 
記者2人は、昨年9月にラカイン州でロヒンギャ10人が治安部隊員とみられる人物に殺害された事件を調べていた。国軍は今月10日、関与した7人に懲役10年の判決が言い渡されたと公表した。
 
欧米などは「報道の自由の侵害」だとして記者2人の即時釈放を求めている。【4月24日 毎日】
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警察側は、「わな」証言をした警察を禁固刑に処しており、その証言は信用できないと主張しています。

****ミャンマーで「わな」暴露の警官に禁錮刑=取材対応理由か*****
ミャンマー警察当局者は30日、イスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題を取材していたロイター通信記者が逮捕された事件をめぐり、逮捕は「警察のわなだった」と証言した警察高官が禁錮1年を言い渡されたことを明らかにした。
 
高官は29日、警官を裁く裁判所で懲戒規定に基づき裁かれた。高官はロイターの取材に応じたことがあり、これが不適切と判断されたとみられる。【4月30日 時事】
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裁判においても、このまま、「わな」証言も無視されるのか・・・とも思ったのですが、裁判所は「わな」証言を信頼性があると判断したそうです。

****ロイター記者逮捕「警察が仕組んだ」証言 無罪の可能****
ミャンマーで「機密情報に触れた」としてロイター通信のミャンマー人記者2人が逮捕、起訴された事件をめぐり「警察自身が仕組んだもの」とした現職警察官の証言についてヤンゴンの裁判所は2日、信頼性があると判断した。2人が無罪になる可能性が高まった。
 
4月20日の公判で、検察側証人の警察官が「上司から記者に文書を渡し、受け取ったら逮捕しろと指示された」と証言。検察側は証拠不採用を求めたが、裁判官は「今回の警察官が信頼できないとは考えられない」との判断を示した。
 
記者2人が逮捕されたのは昨年12月。警察は「2人は機密に触れる情報を入手した」と説明したが、2人は「文書に目を通していない」と主張していた。2人はミャンマー国軍が関与したイスラム教徒ロヒンギャの殺害事件を追っていた。判決は8月以降の見通し。
 
法廷で証言した男性警察官は「上官の命令に従わなかった」として先月末、警察内部の裁判で1年の懲役刑を受けたという。
 
閉廷後、被告の1人、ワローン記者(32)は集まった記者団に、「もうすぐ、真実が明らかになる」と話した。ワローン氏らの弁護士、キンマウンゾー氏(70)は、「ミャンマーの司法が正常に機能することが証明された」と語った。【5月2日 朝日】
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最終判決においても「ミャンマーの司法が正常に機能することが証明された」となればいいのですが。

本来であれば、「わな」を仕組んだ警察幹部及び警察組織の責任が問われるべきところですが、ミャンマーの現状ではそこまで期待するのは無理でしょうか。

【“政府自身で調査を行う”とするミャンマー政府に、その“意思”と“力”は?】
一方、本筋でもある“ロヒンギャ迫害”“民族浄化”の有無については、国連安保理の視察団がミャンマーに入っています。

****ロヒンギャへの迫害 ミャンマー政府がみずから調査の考え****
ミャンマーの少数派のロヒンギャの人たちが隣国への避難を余儀なくされている問題で、治安部隊による避難民への迫害があったかどうかについて、アウン・サン・スー・チー国家顧問は国際機関ではなく、ミャンマー政府自身が事実関係の調査を行う考えを示しました。

ミャンマー西部ラカイン州から隣国バングラデシュに避難したロヒンギャの住民は、去年8月に戦闘が起きて以降、国連の推計で69万人を超えています。

この問題で、15か国の国連大使らからなる安保理の視察団が1日、初めてミャンマー西部のラカイン州を訪れ、ミャンマー政府が避難民の帰還に向けて整備した受け入れ施設などを視察しました。

視察後の記者会見で、イギリスのピアース国連大使は、ミャンマーの治安部隊によるロヒンギャの人たちへの迫害の疑いについて、国際機関またはミャンマー政府が信頼できる調査を行い、事実を解明するべきだとスー・チー氏に求めたことを明らかにしました。

これに対し、スー・チー氏は「証拠があれば政府がきちんと調査する」と述べ、国際機関ではなく、ミャンマー政府自身で調査を行う考えを示したということです。

一方で、視察団は70万人近い避難民を安全かつスムーズに帰還させるには、ミャンマーだけでは難しいと指摘し、国連が関与する必要があると強調しました。【5月2日 NHK】
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スー・チー氏が“ミャンマー政府自身で調査を行う”と主張するのは、主権国家として当然の話ではありますが、ミャンマー政府に国軍・警察等の責任を問う“力”があるのか、そもそも“その気”があるのか・・・疑わしいところです。ピアース英国連大使は「きちんとした捜査が必要」として、国際刑事裁判所(ICC)への付託も一つの案だと指摘したそうですが。

進まない帰還作業 仮説キャンプは定住化の様相
バングラデシュに避難しているロヒンギャの帰還については、ミャンマー政府は、今年1月23日からのロヒンギャ帰還を予定していたが、バングラデシュ側が提出した帰還者リストの不備などを理由に延期しています。

そもそも、帰還後の安全の保証がなく国籍も認められないとして、ロヒンギャ難民の多くが帰還をためらっており、帰還作業が今後も順調に進むかは不透明です。

そうした中で4月14日、1家族計5人がミャンマーに帰還したことが明らかにされています。衝突以来、初の帰還とみられますが、あくまでも「ひそかに戻ってきたため受け入れた」突発的なものです。

ロヒンギャの中には、安全の保証がなく国籍も認められないとして、帰還に反対する勢力があり、この家族も他の難民からミャンマー政府寄りと見られ「嫌がらせを受けていた」ことで、単独での帰還強行を決意したようです。

帰還後も、携帯電話で「裏切り者、殺してやる」と脅されているとも。【4月25日 毎日より】

この帰還した家族(アランさん)の話では、帰還が進まない理由として以下のようにも。

“ミャンマー政府は帰還者に市民権申請や「移動の自由」の保障に必要な「身分証」の取得を求めている。アランさんによると「現地では身分証の意味が理解されていない。帰還すれば不法移民とみなされるのを恐れている」ことが帰還を望まない理由の一つだという。”【同上】

迫害を行った国軍等の責任が明らかにされておらす、帰還後の安全が保障されていないこと、ミャンマー政府が帰還民に要求している「身分証」(別報道では、かつてミャンマーに住んでいたことを証明するもの)提示が、高いハードルになっていること、ロヒンギャ内部に帰還の問題を政治的に利用しようとして帰還を妨害する勢力が存在すること・・・等々で、帰還作業は進んでいません。

ミャンマー政府は基本的にロヒンギャを自国民として認めていませんので、今回の帰還は“外国人として受け入れる”というスタンスでしょうか。これまで認めてこなかった市民権を認めるとも思えませんので。

もし、そういうことであれば、帰還に応じれば外国人であることを自ら認める話にもなる・・・・ということでしょうか。帰還に反対する勢力というのも、そこらを問題にしているのでしょうか。

バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプの環境が悲惨な状況にあることは、以前からも懸念されています。

ロヒンギャ難民子どもたちの栄養不良、超緊急レベルに 米調査”【4月11日 AFP】
ロヒンギャ難民「悲劇的」=安保理代表団、キャンプ視察―バングラデシュ”【4月29日 時事】

また、当然ながら、大量の難民流入は、“職を奪う”などの現地住民との軋轢を起こします。
帰還の希望がなく、経済的に困窮した難民の中には、薬物密輸などの犯罪行為に走るものも出てきます。少女売春も。

バングラで大量の麻薬押収相次ぐ、ロヒンギャが収入源として密輸”【3月27日 AFP】
ロヒンギャ少女たち、人身売買で売春に BBCが実態取材”【3月21日 BBC】
「自分に何が起きるのか分かっていました。仕事があるよと言った女の人が人々にセックスさせているのはみんな知っていた。(中略)だけど、仕方がなかった。ここでは何も手に入らない」【同上】

これから現地は雨期を迎えますので、仮説キャンプ地の危機的状況は一段と深刻化します。

****雨期迫り、ロヒンギャ帰還早く開始へ****
ミャンマー西部ラカイン州から隣国バングラデシュに逃れた少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の帰還が遅れている問題で、ミャンマーのウィンミャエー社会福祉・救済復興相らが19日、最大都市ヤンゴンで記者会見し「雨期が迫っており、できるだけ早く帰還を開始したい」と述べた。
 
ウィンミャエー氏らは11〜13日にバングラを訪問し、南東部コックスバザールのキャンプなどを訪ねた。会見で現地のロヒンギャの生活環境について「劣悪で、風雨にも耐えられそうにない」と懸念を示した。
 
一方、バングラ側から提供を受けた帰還希望者の身元確認用書類には、署名や指紋などが付いておらず「(両国で)合意された書式ではなかった」と、改めて不満を表明。バングラ側に改善を求めたことを明らかにした。(後略)【4月20日 毎日】
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「(両国で)合意された書式ではなかった」・・・・こうした“初歩的”な問題が出る背景はよくわかりません。

帰還が進まないなかで、バングラデシュ側は、ロヒンギャ難民の「無人島移住計画」も明らかにしています。

****ロヒンギャ難民10万人の「無人島移住計画」、6月開始へ バングラ****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャが迫害を受けて隣国バングラデシュに大量に避難している問題で、同国当局は4日、6月にも約10万人のロヒンギャ難民の無人島移住計画に着手すると明らかにした。
 
バングラデシュ災害対策当局によると、ベンガル湾にある2006年に海面から現れたばかりのブハシャンチャ―ル島には、既に約5万人分の収容施設が建設されている。
 
また複数の国連機関に対し、2か月以内に残りの施設の建設も完了すると説明。無人島移住計画について「6月第1週に着手する」と述べている。
 
ロヒンギャ難民の移住先として計画されているブハシャンチャ―ル島をめぐっては、洪水が頻発し、ヘドロ状の土地であることから難色を示す声が上がっていた。
 
当局によると、5月31日までにバングラデシュ海軍が大規模な施設を1440軒以上建設する予定で、10万人を収容できる。満潮や嵐の被害を受けないように、低地の埋め立てや、堤防、避難施設の建設も行っているという。
 
バングラデシュは昨年11月、ロヒンギャ難民をブハシャンチャ―ル島に移住させるため、2億8000万ドル(約300億円)の予算を充てている。【4月5日 AFP】
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“洪水が頻発し、ヘドロ状の土地”に人が住めるのか?
十分な“低地の埋め立てや、堤防、避難施設の建設”を行える資金力がバングラデシュにあるのか?
バングラデシュ政府は本気でしょうか? 単に、何らかの政治的意図があっての発表でしょうか。

実現性には問題もある計画です。“強制移住”となると、新たな問題を惹起しそうです。

現実は、仮設キャンプの“定住化”の様相を示しています。

****バングラのロヒンギャ難民、定住化の様相 ****
昨年8月以来、70万人超がミャンマーから流入 帰還のめど立たず

バングラデシュの広大な難民キャンプには、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャが数十万人暮らしている。キャンプは倒壊寸前のように見える仮設のものだが、道路や橋や井戸、学校・診療所などを備え、まるで定住地のようになりつつある。
 
こうした変化は、難民が当面は隣国ミャンマーに戻らないことを支援組織とバングラデシュ政府が暗に認めていることを示す。(中略)

ロヒンギャ難民はキャンプ外での就労をほぼ禁じられているが、仕事を探す者は多い。
 
沿岸のキャンプで生活するサリム・ウッラーさん(45)は、バングラデシュ人の保有する船で漁をして生計を立てている。足と肩には傷がある。数年前、なたを手にした仏教徒の隣人と土地を巡って争った時にできたものだ。
 
ウッラーさんはたばこを吸いながら、「ミャンマーで漁をすればもっと稼げる。だがここでは誰にも煩わされない」と話した。故郷の村から逃げ出したのは昨年8月、治安部隊が夜明けに家々に火を放ち、少なくとも2人を射殺した時だという。
 
いつか帰れるとは思っていない。ミャンマーは数十年にわたり、ロヒンギャに市民としての権利と安全を拒否してきた。それが保障されない限り、「ここで死んだほうがいい」とウッラーさんは話している。【4月6日 WSJ】
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