孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  AI活用で14億人を国家が格付けする「ランク社会」の現実味

2018-05-05 22:15:02 | 中国

(ドラマ「ブラックミラー・ランク社会」より 互いの評価で決まる“ランク”のアップに夢中になる人々)

信号無視改善対策 スクリーン映写、警告メッセージ、個人情報公開も
歩行者の信号無視が極めて当たり前のこととして行われている中国においては、“マナー改善・法令遵守”の取り組みがなされています。

なお、中国の名誉のために言えば、信号無視は別に中国だけでなく、私がよく旅行するアジア諸国では普通に見られれることです。(交通ルールに関しては、日本が極めて特異な社会にあると言ってもいいぐらいです。)

“北京市通州区に「信号無視行為キャッチスクリーン」が登場した。歩行者が信号を無視して横断歩道を渡ろうすると、直ちに目の前の大型スクリーンにその様子が映しだされるだけでなく、音声による警告メッセージが流れることになる。”【4月27日 Record china】

こうした取り組みは今に始まったことではなく、広東省深セン市では昨年から実施されており、スクリーンには顔写真に加えて氏名も公開され、さらに今年からは、その情報がネット上でも公表されるとか。

個人情報検索には、中国が世界の最先端を行く、ご自慢の顔認証システムが使われているのでしょう。
さすがに、賛否両論があるとか。

****信号無視した人の個人情報さらす、当局の過激なやり方に賛否―中国****
2018年3月15日、中国メディア・騰訊(テンセント)によると、広東省深セン市では2017年から信号無視した人の氏名や写真、身分証番号などの個人情報をスクリーンで公開するシステムが導入されているが、この個人情報がネット上でも公表されることになった。

このシステムは顔認証によって信号無視した人をデータベースで照会。写真や氏名を公開することで、市民の信号無視を抑制するのが狙いだという。これまで交差点に設置されたスクリーンに個人情報が映し出されていた。これがネット上でも公開される。

ネットユーザーの間では「そもそも信号無視は違法行為。にもかかわらず法律に守ってもらいたいとはずうずうしい」「こういうの賛成!危険な信号無視はするのに、プライバシーや体裁は守りたいって?」「信号無視で事故が起きるよりずっといい。全国各地でやってもらいたい」「権利を主張するなら、その前に義務を果たさないと」など、賛同の声もある。

一方で、こうしたシステムの導入やネット上にまで個人情報をさらしてしまう当局のやり方に「身分証番号や写真までさらす必要性ある?うっかりやタイミングの悪い時だってあるだろう」「誰かに悪用されないか心配」「命と個人情報、どっちも大事だよ」「殺人犯や強盗犯にはモザイクをかけるのに、信号無視すると身分証までさらされてしまう…。一般人が一番損してるね」などの不満の声も聞かれる。

この他、「こんなのがあるなら、落とし物なんかすぐ戻ってきそうなものだけど、届け出てもまだ連絡ひとつない」「行方不明の子どもたちだってすぐ見つかりそうなものだ」(中略)「これ、顔認識技術を使ってるんだろ?これからは外出するときはサングラスにマスクが欠かせないな」といったコメントも寄せられている。【3月16日 Record china】
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中国では誘拐等による行方不明の子供が年間20万人ほどいると言われていますので【2015年4月21日 NHKより】と言われていますので、「行方不明の子どもたちだってすぐ見つかりそうなものだ」との指摘はごもっともです。

実際、街中に設置された監視カメラによって、公安は直ちに容疑者や行方不明者が出現した位置を特定し、警察はこの情報をもとに容疑者などを確保するという、顔認識技術に依存した「天網」というシステムがすでに稼働しており、麻薬犯罪や窃盗、強盗、誘拐などの事件で役立っているとのことです。

(“天網恢恢疎にして漏らさず”の“天網”でしょうが、そう言えば、ターミネーターに登場する人類に敵対するコンピュータ“スカイネット”も“天網”ですね・・・・)

信号無視に関する、もう少し穏健な対策としては、警告メッセージ対応があるようです。これなら問題も少なそう。

****信号無視です、戻ってください!」警告メッセージが流れる交差点****
赤信号で横断歩道を渡ると、その一部始終の映像が交差点に設置された大型スクリーンにリアルタイムで映し出されるシステムが導入され、大きな話題となった北京郊外の通州区。

このほど、赤信号で横断歩道を渡る人がいると、スピーカーから「信号無視です、戻ってください!」という警告メッセージが大きな音で流れる、スマート横断歩道のようなシステムが導入された。北京晨報が伝えた。

その交差点の東西南北の隅にはスタンドタイプのライトが設置されており、青信号の時はライトが点滅し、「今は青です。速やかに渡ってください」という音声メッセージが流れる。そして、信号が赤に変わると、「今は赤です。道路を渡らないでください」という音声メッセージが流れる。

一般的な横断歩道と違い、スマート横断歩道の場合、手前の一時停止線もカラーライトになっており、信号が赤のときにその線を誰かが踏むと、「信号無視です、戻ってください!」という警告メッセージが大きな音で流れる。(中略)

同システムが導入されたのは中国全土でこの交差点が初めて。公安部がPR・推奨するハイテク製品だ。現在、同システムは試験的に設置されており、今後は通州区の他の交差点にも設置される計画だという。【5月5日 Record china】
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中国で進む「社会信用システム」「ランク社会」】
信号無視した者が顔認証システムで特定され、その個人情報がネット公開されうという深セン市のケースで見られるように、中国では個人情報が社会管理・統制に利用され始めています。

****列車内喫煙者ら「信用失った」と利用制限・・・・中国****
偽の航空券使用者や列車内での喫煙者を「社会的信用を失った」と規定し、航空機や鉄道の利用を制限する施策が1日、中国で始まった。
 
習近平政権は2020年までに全国民の信用情報を管理する制度の整備を進めており、今回の措置はその一環とみられている。
 
中国政府の発表や地元メディアの報道などによると、偽のテロ情報を故意に広めたり、空港職員に暴力をふるったりして、公安当局の処罰を受けた場合、航空機の利用が1年間禁止される。

また、列車内で喫煙した者については180日間、列車利用が禁じられる。

暴力行為などとは別に、重大な脱税事案の首謀者や社会保険料未納の事業所責任者も航空機や列車利用が一部制限されるという。【5月1日 読売】
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このあたりの、中国が突き進む「監視社会」「ランク社会」とその恐怖については、これまでも再三取り上げてきました。

2017年9月11日ブログ“中国 顔認証システム、信用の可視化 その次にやってくるのはSNSによる「ランク社会」か
2017年12月23日ブログ“新疆ウイグル自治区 圧倒的な治安維持強化のもとで進む「完全監視社会」構築
2018年1月23日ブログ“中国 ビッグデータ解析・ネット規制でめざす「神の見えざる手」によらない「特色ある社会主義」”

同じような話の蒸し返しになりますが、まとまった記事があったので。

****14億人を格付けする中国の「社会信用システム」本格始動へ準備****
<長々とゲームをするのは怠け者、献血をするのは模範的市民、等々、格付けの高い者を優遇し、低い者を罰するこのシステムにかかれば、反政府活動どころかぐれることもできない>

中国で調査報道記者として活動する劉虎(リウ・フー)が、自分の名前がブラックリストに載っていたことを知ったのは、2017年に広州行の航空券を買おうとした時のことだった。

航空会社数社に搭乗予約を拒まれて、中国政府が航空機への搭乗を禁止する「信頼できない」人間のリストを保有しており、自分がそれに掲載されていたことに気づいた。

劉は、2016年に公務員の腐敗を訴えるソーシャルメディアに関する一連の記事を発信し、中国政府と衝突した。政府から罰金の支払いと謝罪を強要された劉はそれに従った。

これで一件落着、と彼は思った。だがそうはいかなかった。彼は「不誠実な人物」に格付けされ、航空機に乗れないだけではなく、他にも多くの制限を受けている。

「生活がとても不便だ」と、彼は言う。「不動産の購入も許されない。娘を良い学校に入れることも、高速列車で旅することもできない」

国家権力による監視とランク付け
劉はいつのまにか、中国の「社会信用システム」に組み込まれていた。中国政府は2014年に初めてこのシステムを提案、市民の行動を監視し、ランク付けし、スコアが高いものに恩恵を、低いものに罰を与えると発表した。

この制度の下で、エリートはより恵まれた社会的特権を獲得し、ランクの底辺層は実質的に二流市民となる。この制度は2020年までに、中国の人口14億人すべてに適用されることになっている。

そして今、中国は劉のように「悪事」を犯した数百万人に対し、鉄道と航空機の利用を最長1年間禁止しようとしている。

5月1日から施行されるこの規則は、「信用できる人はどこへでも行くことができ、信用できない人は一歩を踏み出すことすらできないようにする」という習近平国家主席のビジョンを踏まえたものだ。

これは近未来社会を風刺的に描いたイギリスのドラマシリーズ「ブラックミラー」のシーズン3第1話『ランク社会』のプロットにそっくりだ。ドラマはSNSを通じた他人の評価が実生活に影響を与えるという架空の社会が舞台だが、中国において暗黙の脅威となるのは、群衆ではなく、国家権力だ。

中国政府はこのシステムの目的は、より信頼のおける、調和のとれた社会を推進することだと主張する。だが、この制度は市場や政治行動をコントロールするための新しいツールにすぎないという批判の声もある。

人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの上級研究員マヤ・ワンは、「社会信用システムは、善行を奨励し、悪行を処罰するために習政権が実施する、完全支配のシステムだ。それも進化する」と本誌に語った。「制度が成熟すると共に、逆らう者への処罰はひどくなるだろう」

社会信用システム構想発表時の文書によれば、政府は2020年までに最終的なシステムの導入をめざしている。

国家的なシステムはまだ設計段階にあり、実現の途上にあるが、地方自治体は、市民に対する様々な方法を試すために、独自のパイロット版を立ち上げている。

中国最大の都市上海では、親の世話を怠る、駐車違反をする、結婚の登録の際に経歴を偽る、列車の切符を転売するといった行為は、個人の「信用スコア」の低下につながりかねない。

民間企業も類似システムを開発
中国南東部の蘇州は、市民を0から200までのポイントで評価するシステムを採用。参加者は全員100の持ち点から始める。

警察によれば、2016年に最も模範的だった市民は、献血を1リットル、500時間以上のボランティアを行って、最高の134ポイントを獲得したという。ポイント数に応じて、公共交通機関の割引や病院で優先的に診察してもらえるなどの特典が与えられる。

蘇州当局は、次の段階として、運賃のごまかしやレストランの予約の無断キャンセル、ゲームの不正行為といった軽犯罪に対してもこのシステムを拡大し、市民を処罰する可能性があると警告した。

中国の電子商取引企業も顧客の人物像を把握するために、顔認証などの高度な技術を使って、似たような試験プログラムを実施している。政府は、社会信用システムの開発にむけて民間企業8社にライセンス供与している。

中国最大手IT企業・アリババ系列の芝麻信用(セサミ・クレジット)は、ユーザーの契約上の義務を達成する能力や信用履歴、個人の性格、行動や嗜好、対人関係という5つの指標に基づいて、350から950の信用スコアを割り当てている。

個人の買い物の習慣や友人関係、自分の時間を過ごす方法などもスコアに影響を与える。「たとえば、10時間ビデオゲームをプレイする人は、怠け者とみなされる」と、セサミ・クレジットのテクノロジーディレクターであるリ・インユンは言う。「おむつを頻繁に購入する人は親とみなされる。親は概して責任感がある可能性が高い」

同社はそうした数値を計算するための複雑なアルゴリズムを明らかにすることを拒否しているが、既にこのシステムに登録された参加者は数百万にのぼる。セサミ・クレジットはウェブサイトで、公的機関とのデータ共有はしていないと主張している。

中国政府がこの試験的構想から全国統一のシステムを作り出し、計画どおりに実施するなら、中国共産党はすべての国民の行動を監視し、方向付けることができるようになる。

言い換えれば、習は完全な「社会・政治的統制」の力を握るだろうと、中国研究機関メルカトル・チャイナ・スタディーズのサマンサ・ホフマンは本誌に語った。
「このシステムの第一の目的は、党の力を維持することだ」【5月2日 Newsweek】
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どうでもいいことですが、上記記事にもある“イギリスのドラマシリーズ「ブラックミラー」のシーズン3第1話『ランク社会』”(ネットフリックスで視聴できます)は、ジョージ・オーウェルの未来小説「1984年」と並んで、この種の近未来社会のディストピアを語るうえで、不可欠の“古典”ともなったようです。

『ランク社会』は、住民同士の評価が各人の信用度・ランクを決める社会で、高ランクになれば特典があり、低ランクになれば、さまざまなサービス利用が制限されるため、女性主人公はランクアップを目指して日々苦闘するものの、意に反してランクがどんどん落ちていき・・・というドラマです。

中国の場合は、ランク評価者が“国家”であり、おそらくスマホ社会にあって民間企業の蓄積する膨大な個人の日常行動に関するデータも、そのランク付けシステムに統合されていくのでしょう。

SNSで政府批判などしたら一発で、列車にも乗れない、自転車もシェアできない、職にもつけない・・・。

政治活動関連だけでなく、社会的な人間関係、購買記録も含む膨大な個人情報のこうした国家管理について、「不利益をこうむるのは、何かよからぬことをする不届きものであって、一般市民には関係ない。それで社会がいい方向に進むなら結構なことではないか」との意見もあるでしょう。

ただ、何が“不届き”かを判断するのは国家・権力であり、国家・権力にとって都合の悪いことは“不届き”とされ、自分も知らないうちにいつのまにか“不届きもの”扱いされている、政府に批判的な人物は、まともな社会生活さえ許されない・・・・そういった社会でもあります。

日本や欧米のように個人情報に関して敏感な社会では到底受け入れないられない社会ですが、もともと国家統制が当たり前のようにも認識されている中国社会にあっては、あまり批判も大きくならないのかも。

それだけに、中国版「ランク社会」はテロ予防などを大義名分として、あっという間に完成・進化してしまうかも。

【「中国モデル」がやがて世界スタンダードになる日も・・・
なお、中国の顔認証システムは世界最先端技術であり、他国からの引き合いもあるようです。

****中国の最先端顔認証システム、マレーシアの警察に導入****
2018年4月29日、参考消息は、日増しに世界で注目を浴びている中国の顔認証技術がマレーシアの警察に輸出されたとする、香港メディアの報道を伝えた。

記事は香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)の20日付報道を引用。王立マレーシア警察の補助警察隊がすでに警官向けに、中国の最新顔認証機能を搭載した監視カメラを導入しているとし、カメラの画像と警察のデータバンクにある画像を速やかに比較、マッチングすることが可能だと説明した。

補助警察隊の幹部は「人工知能の公共安全分野利用、社会治安の強化にとって大きな一歩だ。今後、ウェアラブルシステムの機能を付加して、リアルタイムの顔認証、即時アラート機能の適用範囲を拡大していく予定だ」と語っている。

記事は「中国には著名な人工知能企業が数多く存在しており、全国的な顔認証システムの構築準備を進めている。このシステムはカメラと連動し、13億人の人口から3秒足らずで個人の顔を特定することができる」と説明した。

また「中国では、顔認証ソフトウェアはすでに安全、監視分野で広く利用されている。銀行では現金自動預払機(ATM)取引での認証に導入され、国境の監視カメラは国のデータバンクに存在する中国人観光客の画像と照合し、密輸者や不法入国者を識別する。

また、人気観光地や高いセキュリティが必要とされる場所で治安強化を目的に利用されている。上海地下鉄ではシステムを導入した3カ月間で、567人の規定違反者の識別に役立ったという」と紹介している。【5月2日 Record china】
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現在、欧米・日本(最近は“米”は怪しいですが)の民主主義を大前提とする社会が多くの行き詰まりを見せる一方で、よく言えば「賢人政治」の共産党版ともいえる「中国モデル」が存在感を増しています。

単に政治的統治モデルだけでなく、上記のような社会システムにおいても「中国モデル」が世界の主流になる日もやってくるのかも・・・・・。
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