孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  風刺週刊紙襲撃事件で煽られる憎悪 笑うのは誰か?

2015-01-08 22:22:43 | 欧州情勢

(フランス・ルーアン 事件を悼み、テロに抗議する人々 この怒りがどこへ向かうのか? “flickr”より By Frédéric BISSON https://www.flickr.com/photos/zigazou76/16223786522/in/photolist-qHD9vh-qr33im-qrcSUa-qr9G4u-qrhaNx-qFs5oh-qHPD9T-pLDQRQ-pLUeNy-qHBC1G-qr9imU-qrbina-pLLupd-qFfBkw-qrhKUX-qrdWgu-pLK7Qd-pLLyKN-qHEC4b-qHzEHH-qHMheR-qre7Do-qr67Ea-qHBf8H-pLWmLX-qrnPP2-qrmRRZ-qrDjgn-qHE89X-qrg7x5-qr2cLu-qrapo3-qri6be-qqYWFJ-qHE7NB-qHHkRZ-pLCA4L-qrgi72-pLFPzY-qr8nhc-qrjGzu-qHQy7o-pM7k5S-qHxFUS-pLuHV3-qri3h8-qHJ9YV-qrc5St-qrjjKg-qrbfP7)

フランス:少数派イスラム教徒が欧州最多で全人口の1割
フランス・パリで、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画などでこれまでも物議を醸していた週刊紙の本社が襲撃され12人が射殺された事件が、フランス社会を大きく揺るがしています。

****容疑者1人を逮捕=残る2人確保へ写真公表―仏風刺紙銃撃事件****
フランスの風刺週刊紙シャルリー・エブドのパリの本社が銃撃され、12人が死亡した事件で、犯行に必要な物資の調達などを手伝ったとみられるハミド・ムラド容疑者(18)が7日夜、仏北東部シャルルビルメジエールの警察署に出頭、逮捕された。

実行犯とされるパリ出身の兄弟、サイド・クアシ(34)、シェリフ・クアシ(32)の両容疑者は依然逃走中で、当局は身柄の確保へ写真を公表した。

同紙はイスラム教の預言者ムハンマドを題材にした風刺画を繰り返し掲載。事件では犯行の手口が手慣れていたほか、犯人が現場で「ムハンマドへの侮辱に報復した」と発言したとの情報もあり、イスラム過激組織の関係者による犯行との見方が強まっている。

シェリフ容疑者は、過去に過激組織メンバーのイラクへの渡航を手伝った前科があり、当局が関連を調べる。

仏誌ルポワン(電子版)などによれば、銃撃はこの兄弟が実行。2人はいずれも黒い覆面をかぶりカラシニコフ自動小銃とみられる銃で武装していた。

逃走時には3人だったとの目撃情報もあり、逮捕されたムラド容疑者が兄弟の逃走を手助けした可能性がある。

検察当局によると、実行犯は7日午前に車でシャルリー・エブドが入居するビルに到着し、受付にいた1人をまず殺害。その後3階の同社内に侵入して銃を乱射し、社内で警備に当たっていた警官1人や同社編集長ら計10人を死亡させた。【1月8日 時事】 
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フランスでは、昨年末からイスラム教絡みと思われる事件が連続し、当局も警戒を強めているなかでの事件でした。

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フランスでの一連の襲撃事件は昨年12月20日、中部ジュエレトゥールで始まった。

アフリカ系フランス人の男(20)が「神は偉大だ」と叫びながら警察署に押し入ろうとし、警察官3人に刃物でけがをさせ、射殺された事件。男はフェイスブックにイスラム国の旗を掲載していた。

同21、22日には東部ディジョン、西部ナントでそれぞれ男が車で通行人に突っ込む事件が相次ぎ、ナントで1人が死亡。2件で20人以上が重軽傷を負った。治安当局は、イスラム過激派との関連がないか調べている。

検察当局によると、ディジョンの事件で逮捕された男(40)は精神科の通院歴があり、ナントの事件で逮捕された男からは法定量の4倍のアルコールが検出された。【1月7日 毎日】
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しかし、昨年末の一連の事件が精神的な問題を抱えたように思われる者による突発的なものだったのに比べ、今回の事件は、事前に編集会議の日時・出席者を調べ、“処刑”のように射殺していることなど、犯行の手口や計画性はこれまでの事件とは異なり、軍事訓練を受けたイスラム過激組織の関係者の犯行とも見られれいます。

昨年末の一連の事件と、フランスで移民排斥の風潮が強まることも懸念されることは、12月22日ブログ「フランス イスラム教徒による事件が連続 国民不満の受け皿となる右翼政党・ルペン氏」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141222で取り上げました。

そこでも触れたように、こうしたイスラム教に絡む事件が多発する背景には、フランスは少数派としてのイスラム教徒の人口がヨーロッパで最も多い国で、非公式の統計ではフランス国内のイスラム教徒はおよそ600万人とされ、全人口のおよそ1割を占めていることがあります。

当然、そこには社会的・経済的・文化的軋轢が存在し、フランスはブルカ禁止法に見られるようなイスラム恐怖症やイスラム排斥も強い国でもあります。
イスラム教徒の側からすれば、不当に差別されているという不平不満があります。

排斥とそれに抗する動きの拮抗
一連の事件を受けて、イスラム教徒を敵視するような言動が強まるなかで、そうした風潮に抗する動きもない訳ではありません。

“事件後、厳しい目にさらされるイスラム教徒を守ろうとする動きも始まった。列車内でイスラム教徒の女性が人目を気にしてスカーフを脱いだところ、そばにいた別の女性が「(嫌がらせされないように)私が一緒に歩いてあげる」と声を掛けた。ネット上で話が広まると、ツイッターなどでこの行為に賛同する声が35万件以上寄せられている。”【12月16日 毎日】

フランス社会にこうした排斥に向かう動きと、それに抗する動きの両方が存在することは、対イスラムだけでなく、ロマ差別の問題でも見られます。

****ロマ人女児の埋葬を市長が拒否か、フランス全土に怒り広がる****
フランス・パリ近郊のシャンプランで、少数民族ロマ人の赤ちゃんの亡きがらを市営墓地に埋葬することを拒否したとして、保守派の市長が人種差別だと批判されている。

市長は発言が誤解されたと弁明したが、怒りの声はフランス全土に広がり、行政監察官が調査を開始した。

パリの南方23キロほどにあるシャンプランのクリスチャン・ルクレー市長は、「空き区画がほとんどない」との理由で、昨年末に死亡した生後およそ2か月のロマ人女児を市営墓地に埋葬することを拒否したとされる。
仏大衆紙パリジャンは3日、ルクレー市長は「地方税の納税者を優先するべきだ」と述べたと伝えた。

これに対し、埋葬拒否の真の理由はロマ人差別に基づくものだとの批判が巻き起こった。

地元のロマ支援団体は「人種差別であり、外国人嫌悪であり、らく印を押す行為だ」と市長を強く非難。
仏政府のロランス・ロシニョル家族担当相もマイクロブログのツイッターに、埋葬拒否は「非人道的な屈辱」を女児の遺族に与えたと批判するコメントを、フランス語で「恥」「面汚し」を意味する「#honte」のハッシュタグを付けて投稿した。

批判を受けてルクレー市長は4日、AFPの取材に、発言が「文脈から切り離されて伝わった」と釈明。自分は「誤解」の犠牲になったとして「埋葬を拒否したことは断じてない。話に尾ひれが付いて広がっている」と主張し、騒動が大きくなったことを「たいへん遺憾だ」と述べた。

■ロマ人めぐるあつれき浮き彫りに
しかし、人権擁護派のジャック・トゥーボン元文化相は4日、人権問題オンブズマン(行政監察官)がこの問題について調査を開始したと発表。「あまりの衝撃に、あぜんとしている」と語った。

マニュエル・バルス首相も、ツイッターで「出自を理由に子どもの埋葬を拒否するのは、その子どもの人生に対する侮辱であり、フランスへの侮辱でもある」と批判した。

フランスでは、主に東欧諸国から流浪してきたロマ人と地元住民とのあつれきが社会問題となっている。
全土に暮らすロマ人口は約2万人だが、生活に必要最低限の物資さえ足りないのが現状だ。死亡した女児の一家も、シャンプランの街はずれに建てた小屋で電力も水道もない暮らしを送っている。

地元のロマ支援団体によると、女児は昨年10月14日に生まれたが12月26日の早朝、授乳しようとした母親が冷たくなっているのに気付いた。急いで病院に連れて行ったが死亡が確認され、乳児の突然死と診断されたという。女児の両親は共に30代で、フランスには少なくとも8年間住んでいるという。

歴代のフランス政府は、複数のロマ人居住キャンプを強制撤去したり、子どもを含むロマ人一家を強制送還するなどして批判されている。【1月5日 AFP】
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煽られる憎悪が利する極右台頭
排斥と支援の両方のベクトルが存在するなかで、計画的で凄惨な今回事件がイスラム教徒への憎悪を煽ることになり、結果として、そうした憎悪・不満の受け皿としてマリーヌ・ルペン氏率いる極右政党・国民戦線が政治的に躍進する可能性が更に大きくなったように思われます。

停滞する欧州経済のなかにあって、国家の介入・管理が多岐にわたり、また、労働者の権利が手厚く保護されている半面で労働コストが高いフランス経済は国際競争力を失い、失業率は10%程度に高止まりし、オランド政権に対する国民の強い不満が存在しています。

経済的な苦境にあって、不満を抱える国民は寛容や余裕を失い、手近なところで攻撃できる、現在の苦境の責任を負わせることができる相手を求めます。
移民やロマなどは、そうした攻撃の対象としてはうってつけの存在です。

****イスラムへの憎悪を煽るパリ週刊誌銃撃事件****
フランスのシャルリ・エブドはあらゆる宗教を風刺してきた。イスラム教も例外ではない。特にイスラム過激派は同誌にとっては格好の笑いの種だった。

同誌は06年にデンマークの新聞に掲載されて問題になったイスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画を再掲載。

11年にはパロディー版シャリーア(イスラム法典)を巻頭特集にし、表紙の風刺漫画で「客員編集者」のムハンマドに「これを読んで笑い死にしなかったら、ムチ打ち100回の刑」と言わせて物議をかもした。

12年には裸でポーズをとるムハンマドの風刺画を掲載。最新号の巻頭特集では、イスラム過激派に支配され、女性が抑圧される近未来のフランスを描いたミシェル・ウエルベックの小説『服従』を紹介していた。

一部のターゲットにとっては、同誌のこうした内容は笑い事では済まされない。11年には本社ビルに火炎瓶が投げ込まれて火災が起きた。編集部にはその後も脅迫が繰り返され、公式サイトがハッカーに荒らされたこともある。

そして7日の襲撃だ。覆面をした男たちが侵入して銃を乱射し、編集長らスタッフ10人と警官2人を射殺した。男たちは犯行時、「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫び、ツイッターに「預言者のための報復」というアラビア語のハッシュタグ付きで襲撃画像をアップした。

パリ警察は容疑者3人の身元を特定。うち2人は34歳と32歳の兄弟で、パリ生まれのアルジェリア系だという。もう1人の18歳の男は7日深夜にフランス北部の警察署に出頭した。

彼らはイスラム教の名誉を守ると称しているが、その行為は逆効果だ。アッラーの名の下に殺人を犯せば、イスラム教徒は過激で危険だという偏見を助長することになる。穏健なイスラム教徒がいくら否定しても、風刺の現実味は増すばかりだ。

シャルリ・エブドのターゲットはイスラム教だけではない。最新号にはキリストの存在に疑問を突きつける議論のパロディーが掲載されているが、キリスト教徒が編集部を銃撃することはない。(中略)

フランスの大半のイスラム教徒を代表する穏健派は、残虐な犯行として銃撃テロを厳しく糾弾している。

しかし、じわじわと支持を伸ばしてきたフランスの極右政党・国民戦線が事件をきっかけに一気に勢力を拡大し、政権獲得に駒を進める可能性もある。

ウエルベックは新作小説を書き換えたほうがよさそうだ。近未来のフランスの悪夢を描くなら、イスラム過激派ではなく、排他的な右翼に支配される筋書きのほうがより現実的だ。

万一そんな事態になったら、極右政権が感謝すべき相手は、シャルリ・エブドではなく、同誌を襲ったイスラム過激派だろう。【1月8日 Newsweek】
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シャルリー・エブド本社襲撃事件で死亡した同紙編集長の風刺漫画家、ステファヌ・シャルボニエ(通称シャルブ)氏は自己の信念を貫きとおした人物です。

****ひれ伏すより立って死ぬ」=過激主義との対決貫く―仏銃撃事件で殺害の風刺画家****
フランスの風刺週刊紙シャルリー・エブド本社の銃撃事件で死亡した同紙編集長の風刺漫画家、ステファヌ・シャルボニエ(通称シャルブ)氏(47)は、度重なる脅しにも動ぜずにイスラム過激主義を皮肉る漫画を描き続けた。

生前は地元メディアに「ひれ伏して生きるより立って死ぬ方がいい」と語っており、最後まで妥協しない姿勢を貫いた。

同紙はイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画をたびたび掲載。最近もイスラム過激主義者からとみられる脅迫が相次いでいた。

7日発行の最新号に掲載されたシャルブ氏の漫画は仏国内のテロを題材とし、イスラム過激組織の活動家が「新年のあいさつは1月末までできる」と月内の実行を示唆する内容。図らずも「予言」が発行当日に現実となった。

シャルブ氏は2012年の仏紙ルモンドのインタビューで、自身がさまざまな宗教を風刺しているにもかかわらず、激しい反発が起きるのはイスラム教だけだと指摘。

「イスラム風刺がカトリック風刺並みに当たり前になるまで続ける」と語り、「私には子どもも妻もいない」と捨て身の覚悟で取り組む姿勢を強調していた。【1月8日 時事】 
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ただ、激しい攻撃的な姿勢は攻撃された対象の過剰な反発を招き、いたずらに対立が高まるなかで良識は埋没し、社会はあらぬ方向へ流されていく・・・・というのは残念な結果です。

事件をも誘発するような激しい対立を煽ることで、社会の覚醒を促すことが本来の目的であったというなら、もはや言うこともありません。ただ、それはイスラム過激派のテロ行為にも通じるようにも思えますが。

****フランスでイスラム教徒標的の攻撃相次ぐ、パリ新聞社襲撃後****
フランスの複数の都市で7日夜から8日未明にかけて、イスラム教の礼拝所などが攻撃される事件が相次いで起きた。検察当局者が8日、述べた。

パリ(Paris)西部のル・マンでは8日午前0時過ぎ、モスク(イスラム教礼拝所)に手りゅう弾3発が投げ込まれた。手りゅう弾は爆発しなかった。

また、仏南部ナルボンヌ(Narbonne)近郊のポールラヌーベルではイスラム教の夜の礼拝の直後に、礼拝に使われていた建物に向けて発砲があった。

さらに8日、仏東部ビルフランシュシュルソーヌでは、モスクそばのケバブ店で爆発があった。けが人はいなかったが、当局者は、爆発は「犯罪行為」によるものと述べ、警察当局が捜査に着手したと語った。【1月8日 AFP】
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