孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ東部 「凍った紛争」状態継続を望む財政難ロシア 関係国首脳会談は延期

2015-01-13 22:30:51 | 欧州情勢

(通貨ルーブルの対ドルレートの推移 【FOREX CHANNEL】http://www.forexchannel.net/%E7%82%BA%E6%9B%BF%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%88/USD/RUB.html)

不透明な状態が続くウクライナ東部
****ウクライナ東部で砲撃 再び緊張****
政府側と親ロシア派の対立が続くウクライナ東部では、相手側が砲撃を行ったと互いに非難して、再び緊張が高まっていて、先月9日以降双方が徹底させるとしてきた停戦が破られる懸念が出ています。

ウクライナ東部では、先月9日に、政府側と親ロシア派の双方が停戦を徹底させると宣言して以来、比較的平穏な状況が続いてきました。

しかし、ウクライナの治安当局は、11日親ロシア派が前日の夜から18回砲撃を行い、子ども1人を含む住民3人が死亡したと発表しました。

一方、親ロシア派も、10日ウクライナ軍が東部の中心都市ドネツクなどに向けて数十回砲撃を行ったと主張し「政府側が停戦合意を覆そうとしている」と非難して、再び緊張が高まっています。

仲介役を務めているドイツのメルケル首相は、10日夜、親ロシア派の後ろ盾となっているロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、停戦継続の重要性を確認しました。

また、フランスで起きたテロ事件に抗議するデモ行進に参加するメルケル首相とウクライナのポロシェンコ大統領は、11日東部の情勢について意見交換する予定で、緊張緩和に向けた動きも活発化しています。【1月11日 NHK】
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不透明な状態が続くウクライナ問題がどう展開するかは、ロシア、もっとはっきり言えばプーチン大統領の判断に大きく依存しており、なかなか見通せないところです。

欧米による制裁、原油価格下落によってロシア経済が大きなダメージを受けていることは再三取り上げていますが、おそらくクリミアの問題はそうした経済問題を超えたもので、ロシア・プーチン大統領はいかなる代償を払っても譲ることはないでしょう。

ただ、ウクライナ東部の親ロシア派の扱いについては、自国の経済状況を睨みながらの判断となると思われます。

苦境が深まるロシア経済
ロシア経済・財政事情を示す指標としての通貨ルーブルのレートは、12月16日には瞬間的には1ドル=80ルーブルと暴落したのち、年末にはじりじりと上昇に転じ、1ドル=52~54ルーブル程度と12月初めの水準を回復しました。

“ロシアの大手企業に対し、政府が外貨の売却を促しているほか、プーチン大統領が直々に協力を求めた効果が出ているようだ。”【12月27日 朝日】

しかし、年が明けてからは再び下落を続け、現在は1ドル=65ルーブル前後になっています。
やはり、ロシア経済の前途への不安はぬぐえないようです。

ロシア当局も何も手をうっていない訳でもありません。

****ロシア 国内2位の金融機関を資本増強****
ロシア政府は、国内第2位となる政府系金融機関の資本増強を決定したと発表し、通貨ルーブルの下落に伴う景気後退で投資が冷え込むなか、インフラ事業への融資を促すねらいがあるとみられます。

ロシア政府は30日、資産規模で国内第2位の政府系金融機関VTB銀行に対して1000億ルーブル(およそ2100億円)の資本増強を行う決定に、メドベージェフ首相が署名したと発表しました。

これを受けてVTB銀行も30日、声明を出し、政府系のファンドを通じてすでに資金を受け取り、ロシア政府が後押しするインフラ事業に融資していくことや、来年3月末までにさらに追加の支援を受けることを明らかにしました。

ロシアは通貨ルーブルの下落に伴う国内の景気後退が深刻で、今回の措置には、銀行の資本不足を補いながらエネルギー関連事業などへの融資を促すねらいがあるとみられます。

ロシア政府とロシアの中央銀行は、今月に入って、預金の流出が続いていた中堅の銀行を救済したほか、金融機関が経営破綻した場合に保護される預金額を今までの2倍に引き上げるなど、金融システムの安定を目指し相次いで対応策を打ち出しています。【12月31日 NHK】
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ただ、制裁で欧米から資金調達が制約されている状況では難しいものがあります。

制裁による輸入中断、ルーブル安による輸入価格上昇は物価上昇などの市民生活に影響をもたらし始めています。
その影響は多岐にわたるようです。

****外貨建てローン「救済を」…ルーブル下落で集会****
ロシア通貨ルーブルの下落で外貨建て住宅ローンの返済額が膨らんだ市民らが28日、首都モスクワで救済を求める集会を開いた。
露経済紙RBCによると、約2000人が参加した。

ロシアでは数年前、ルーブルの為替レートが米ドルやユーロに対し優位だったため、住宅や自動車ローンを外貨建てで組んだ人が多い。

しかし、最近、原油価格の下落や対ロシア経済制裁の影響でルーブルが大幅に下落したことで返済困窮者が続出している。

モスクワ以外からの参加者も目立ち、「国の支援を求める」などと書かれたプラカードを掲げ、政府や中央銀行にルーブル安への対応を求めた。【12月30日 読売】
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医薬品の調達にも支障が出ることも懸念されています。

****ルーブル危機 ロシア首相、薬剤の逼迫に備えよ 政府当局に指示****
ロシアのメドベージェフ首相は6日、経済情勢の悪化を受け、国内の薬剤備蓄に向けた準備を進めるよう政府当局に指示した。インタファクス通信が報じた。

メドベージェフ氏は通貨ルーブルの急落を背景に、今後、外国製の薬剤の調達が困難になるとの懸念が国民の間で高まっていると指摘。スクボルツォア保健相に対し、必要とされる薬剤やその量を割り出した上で、将来的に不足が生じる場合に備えるよう求めた。

ウクライナ情勢をめぐる欧米の制裁措置や原油価格の落下などを受け、ルーブルは昨年1年間で、対ドル相場で4割超下落した。【1月6日 産経】
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自治区にとどめ、「凍った紛争」継続
こうした経済・財政状況にあるロシアにとって、ウクライナ東部を抱え込むことは更に大きな負担となります。
したがって、ロシアが経済的に面倒をみる必要が生じる編入や独立ではなく、ウクライナ内の自治区にとどめ置く方針ではないか・・・とも指摘されています。

****金欠ロシアが東部独立に手のひらを返す***
ウクライナ危機でロシアが方針を転換しようとしている。

親ロシア派と政府軍の戦いが続く東部ドネックとルガンスクを独立した「共和国」ではなく、ウクライナ国内の自治区にとどめておきたいと考えているようだ。

心変わりの原因はカネだ。両地域が独立国家になれば、復興や国家建設の費用をロシアに頼るのは必至。財政難に苦しむロシアが「両地域を抱え込みたくないのは明らかだ」と、英王立統合軍事研究所(RUS-)のサラーライン研究員は言う。

ドネツクとルガンスクの分離独立派は困惑を隠せない。
昨年5月に両地域が独自に実施した住民投票では、圧倒的多数が独立を支持。これを受けてウクライナのヤツェニュク首相は、公務員の賃金や年金など計26億ドルの両地域への支払いを停止した。

ロシアの方針転換には、地政学的な理由もありそうだ。両地域が「凍った紛争」状態にある限り、ウクライナがEUやNATOに加盟してロシアの影響下から完全に離脱することはほぽ不可能になる。

分離独立派が「ウクライナ政府との関係も保ちながら政府を悩ます存在であり続けること」をロシアは狙っているようだ。【1月13日号 Newsweek日本版】
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これまでも取り上げてきたように、EU・ロシアにとってウクライナは緩衝国であり、どちらかの勢力にはっきり色がつくよりは、玉虫色の存在であることが望ましい・・・というのが「地政学的な理由」です。

ロシア:交渉に向け強調・軟化の姿勢も
自治区にとどめて「凍った紛争」状態を続けるという話になると、微妙な外交交渉の問題となります。

ロシア側は最近、欧米との交渉・協調の可能性を窺わせるような対応もとっています。

****<仏テロ連鎖>露、国際共闘呼びかけ 孤立脱却図る狙いも****
ロシアは仏週刊紙本社襲撃事件を受け、テロに対する国際共闘を呼びかけるなど協調路線を打ち出している。ウクライナ危機で欧米の制裁に直面するロシアとしては、「孤立」からの脱却を図る狙いもありそうだ。

プーチン大統領は事件発生直後にオランド仏大統領に電話で哀悼の意を伝え、「野蛮な行為」を非難するとともに「犯人がしかるべき罪を受けるよう望む」と述べた。

ラブロフ露外相もファビウス仏外相に電話し、露外務省によると双方はテロの脅威と戦うため、さらなる共同努力の必要性で一致した。(後略)【1月10日 毎日】
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国際刑事警察機構(インターポール)は12日、ウクライナのヤヌコビッチ前大統領(64)を公金横領などの容疑で国際手配しました。

ヤヌコビッチ氏は昨年2月の政変を受け、現在はロシアに逃亡していますが、同氏が莫大な資産を国庫などから不正に取得していたとのウクライナ政府の手配要請を受けての決定です。

****ウクライナ前大統領引き渡しも=ロシア検察、軟化アピールか****
ロシアのチャイカ検事総長は、11日の政府系ロシア新聞(電子版)のインタビューで、昨年2月の政変後にロシアに逃れたウクライナのヤヌコビッチ前大統領の本国引き渡しを検討する考えを初めて明らかにした。

親欧州連合(EU)派の新政権は、親ロシア派のヤヌコビッチ氏を大量殺人・テロ容疑で国際手配している。ロシアが実際に引き渡すかは不透明だが、欧米の対ロシア制裁の緩和をにらみ、ウクライナに軟化姿勢を示す狙いもありそうだ。【1月12日 時事】 
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実際に引き渡すとなれば大きな局面転換になりますが、当面はその可能性をほのめかすことで、交渉への姿勢をアピールしたいという思惑でしょう。

もっとも、協調姿勢・軟化姿勢のアピールだけではないようです。

****露、分断図り反EU政党援助 仏や東欧に資金****
「反欧州連合(EU)」を掲げる欧州各国の極右政党に、ロシアが資金援助を行っていると英ガーディアン紙が報じた。「欧州の分断を図り、求心力をそぐ戦術」としている。

同紙によると、フランスの極右政党、国民戦線(FN)の女性党首、マリーヌ・ルペン氏は、プーチン露大統領の出身母体、旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身のロシア人が所有するキプロスの会社から200万ユーロ(約2億8800万円)を借りている。またモスクワの第1チェコロシア銀はFNに940万ユーロを貸し出した。

ルペン氏は貸付総額について報道内容を否定したが、「フランスの銀行がお金を貸さないのが問題だ」と、開き直っているという。

ウクライナ・クリミア半島の併合などを受けてフランスは、ロシアの発注で建造したミストラル級強襲揚陸艦の納入を凍結。FNは昨年の欧州議会選でフランス第1党に躍進し同議会で親露派の会派を形成しており、FNへの援助はフランスに対するロシア側の“報復”との見方も出ているという。

またロシアは東欧の親露的な極右政党への資金援助も計画的に実施。ハンガリーのヨッビク、スロバキアの国民党、ブルガリアのアタッカなどが含まれるという。同紙は「欧州はロシアの陰湿な資金援助のやり方に目を覚まさなければいけない」と強調している。【1月6日 産経】
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ロシアと欧州極右政党の組み合わせというのも奇妙な関係ですが、あの手この手の外交戦術にあっては、そういうこともあるのでしょう。

メルケル首相、ミンスク停戦合意完全履行を求める
様々な思惑が絡んでの外交交渉ですが、溝は深いようで、今月15日に行われる予定だった関係国首脳会談は延期となりました。

****ウクライナ東部巡る首脳会談 延期に****
停戦に合意したあとも戦闘が続くウクライナ東部を巡り、ロシアとウクライナの外相がヨーロッパの外相を交えて会合を開きましたが、事態打開に向けて今月15日に行われる予定だった首脳会談は延期となり、立場の違いは埋まらなかったものとみられます。

ウクライナ東部では、停戦に合意したあとも中心都市ドネツクの空港などで政府軍と親ロシア派の戦闘が続いており、国連によりますと、戦闘が始まった去年4月から今月9日までの犠牲者の数は、4800人を超えています。

ウクライナのポロシェンコ大統領は昨年末の記者会見で、事態打開に向けて、ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領を交えて、ロシアのプーチン大統領と今月15日に中央アジアのカザフスタンで会談を行うと発表しましたが、ドイツとフランスの首脳は慎重な姿勢を示していました。

12日、ドイツのベルリンで4か国の外相が集まる会合が開かれ、首脳会談の開催に向けて最終調整が行われましたが、首脳会談は延期となり、調整が続けられることになりました。

会合のあと、ラブロフ外相は記者団に「この問題は、ウクライナ政府が親ロシア派と直接協議して初めて解決できる」と述べ、ウクライナ国内の問題だとする従来の主張を繰り返したのに対し、ウクライナとヨーロッパの外相は、ロシア軍の部隊がウクライナ領内にとどまっているとして撤退を求めたとみられ、双方の立場の違いは埋まらなかったものとみられます。【1月13日 NHK】
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ドイツ・メルケル首相は対ロ制裁緩和の条件として、2014年9月のミンスク停戦合意が完全に順守されることを挙げています。

****対ロ制裁緩和、停戦履行が条件=大幅解除にはクリミア返還―独メルケル首相****
・・・・メルケル首相は「ミンスク停戦合意が全て実行されなければならない。そうすれば、制裁緩和について話ができるようになる」と述べた。

ミンスク停戦合意は重火器の引き離しやロシア・ウクライナ国境の監視、外国部隊の撤退など多岐にわたっており、メルケル首相はこの全ての履行を求めた。

一方、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島編入を受けて科した制裁に関しては、クリミアがウクライナに戻ることが解除の条件になると強調した。ただ、メルケル首相は「現時点で望みは薄い」とも述べた。

ドイツ政府は制裁解除には、制裁の理由となった問題が解消されることが必要とかねて主張してきた。こうした方針を明確にした形だ。(後略)【1月9日 時事】
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しばらく、綱引きが続きそうです。
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