孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「イスラム国」 戦闘長期化で苦しい内情? 資金的にも悪化?

2015-01-21 23:25:11 | 中東情勢

(「イスラム国」側が11月4日公表したトルコ国境に近いシリア・コバニ(クルド人居住地域)での戦闘の様子 1月6日CNNによれば、「クルド人民防衛隊(YPG)」が、同市全体のうち少なくとも8割を奪還したとのことです。 “flickr”より By HEADLINES VIEW https://www.flickr.com/photos/129557156@N04/15681244173/in/photolist-qvryPj-qMHuH8-qSMmMk-qKFiku-qQkegC-qQHWFX-qHqbXs-pVJ9Pw-pT3kYN-qnYHtt-qR7XNk-pKqe8Y-pLHf6D-qFUJM5-qpZM3P-qoxaCw-pJLESD-pVTP4u-qGq3ix-qQr9yE-pHotuZ-pGyzn6-qDaaZt-qD3GYa-qmu2zJ-qDpjPA-qrQ99e-qrFD6m-pMtLTc-qRcCAi-qReZUa-qvy1Mu-qvihNs-qMstVw-qMsjhd-qPEYBu-qMQFVA-qvt9tc-qNWtYL-qNePHs-pG3YHq-qD3HCX-qD3Hrp-qALuTJ-qsK7XF-qziyqB-qreWCD-pRRzQJ-qm199S-pTGtyR)

士気や規律が低下 住民の強制的徴兵も
日本人2人を人質に取り、殺害を警告したイスラム過激派組織「イスラム国」の現状については、よくわかりません。どうしても“?”が多くなってしまいます。

アメリカ主導で昨年8月から続けられている空爆によって、拡大は食い止めたものの、弱体化には至っていないとの見方があります。

****空爆、弱体化に至らず 対「イスラム国」、延べ1700回超 続くテロ・戦闘員の流入****
オバマ米政権は、過激派組織「イスラム国」を弱体化させるため、イラクとシリアで空爆を続けている。

米軍主導の空爆には、英仏や湾岸諸国も加わり、これまでにイラクで約1千回の空爆を実施。シリアでも740回を数えるなど、連日、軍事行動を続けている。

しかし、「イスラム国」に決定的な打撃を与えるまでには至っていないようだ。(中略)

米軍は、地上戦闘部隊は派遣していないが、イラクに軍事顧問を派遣。「イスラム国」と地上で戦うイラク政府軍への作戦指揮や訓練、情報提供などで協力し、米軍は空爆で援護するという態勢をとっている。

米国防総省によると、13日時点でイラクに駐在する米軍は2200人余り。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、今後数週間以内に3千人以上に増えるという。

オバマ政権は、「イスラム国」掃討作戦の戦費として56億ドル(約6500億円)の追加拠出も議会に要請していた。(中略)

米軍を中心とした空爆は、イラクとシリアにおける「イスラム国」の勢力拡大を抑える点では、一定の効果があったとされる。

しかし、「イスラム国」の戦闘員になるためシリアなどへ向かう欧米などの若者の流れや、テロ攻撃を防ぐほど「イスラム国」を弱体化させていないのが現状だ。

ロンドンでは22日、「イスラム国」に対する軍事作戦やイラク政府支援について話し合う会合が予定されている。ケリー米国務長官とハモンド英外相が共同議長を務め、「イスラム国」撲滅を目指す約60カ国のうち、約20カ国が参加する。

また、欧州出身者の「イスラム国」戦闘員は3千人以上ともいわれ、各国はこうした若者たちが帰国後、「イスラム国」の呼びかけに応じて国内でテロ行為に走らないよう、国境管理や帰国者の監視強化を打ち出している。【1月21日 朝日】
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一方で、戦闘員の逃亡など、士気の低下も報じられています。

****<イスラム国>規律低下…イラクで戦闘長期化、内紛や脱走者****
日本人とみられる2人を人質に取り、殺害を警告したイスラム過激派組織「イスラム国」の内部で最近、内紛や脱走者が相次いでいたことがイラク北部の住民の証言などで分かった。

昨年6月以降、イラクとシリアで勢力を伸ばしてきたイスラム国だが、戦闘が長期化する中で士気や規律が低下している可能性がある。

イラク北部では実効支配地域の住民を強制的に徴兵する動きも出ている。近く本格化するとみられる政府側の攻勢に備えて、部隊の立て直しを迫られている模様だ。(中略)

イラク北部モスルの住民やイラクメディアによると、モスルでは昨年12月、任命されたばかりのイスラム国の「知事」が内通の疑いをかけられて処刑された。

シリア東部デリゾール県でも今月、「知事」人事を巡って抗争が起きた。本拠地があるシリア北部ラッカでは、逃亡を図った外国人戦闘員約100人が処刑された。

こうした中、イラク北部の農村部では、若い住民らを戦闘要員として徴集する動きが強まっている。タルアファル近郊の村では徴兵を拒まれたため、村を攻撃し、3人を殺害。約250人を捕虜にした。

イスラム国は従来、複数のメンバーの推薦がなければ、新規に戦闘員を加えることはなかった。だが政府側の攻撃が強まるとの観測が広がる中、戦闘要員の確保を急いでいるとみられる。

ただ、政府側も軍の再編に手間取っており、実際に攻勢に出られるかは不透明だ。昨年6月にイスラム国が大規模侵攻を始めた際、政府軍はほとんど反撃せずに敗走を重ねた。

9月に就任したアバディ首相は、汚職容疑で数十人の軍幹部を更迭するなど立て直しを図っている。【1月20日 毎日】
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こうした事情を背景に、イラク高官は今後に自信を見せています。

****<イラク>「イスラム国撃退に自信」…首相顧問会議議長****
イラク首相顧問会議のサミル・ガドバン議長が19日、東京都内で毎日新聞の取材に応じ、イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」の幹部が「イラクからシリアに撤退した」との見方を示した。

イスラム国が制圧しているイラク北部の主要都市・モスルでも戦闘員が逃げ出しており、「イラク軍と国際社会の攻撃によりイスラム国は弱体化している。我々はイスラム国撃退に自信を持っている」と述べた。

ガドバン議長によると、最近、イラク軍がイスラム国に攻撃を仕掛けるとイスラム国の戦闘員が逃げ出すケースが出ており、イラク軍が戦闘準備を進めるモスルでも多くの外国人戦闘員が逃げ出したという。

モスル攻撃については「できるだけ早くやりたい。奪還に時間はかからないだろう」と前向きな見通しを示した。

イラクではマリキ前首相がイスラム教シーア派を優遇したため、一部のスンニ派が政府への協力を拒否してきたが、9月に就任したアバディ首相がスンニ派を重要閣僚に処遇したことなどで「イラクは宗派を問わず一つになり、テロと戦う態勢になった」と述べた。(後略)【1月20日 毎日】
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政治的発言として割り引いて見る必要はありますが、戦わずに敗走していた初期に比べれば、イラク側が持ち直しているのは事実でしょう。

****首都北方の要衝を奪還=イラク軍****
イラク政府軍などは30日、首都バグダッド北方90キロの町ドゥルイアから過激組織「イスラム国」を完全に駆逐したと明らかにした。AFP通信が伝えた。

ドゥルイアは、東部ディヤラ州と北部サラハディン州をつなぐ街道沿いにある戦略的に重要な町。10月にイラク軍が町の大半をイスラム国から奪還したが、その後イスラム国の反撃に遭い、押し戻されていた。

イラク政府軍は28日、スンニ派部族などの協力を得て、町の北部から進攻していた。【12月31日 時事】 
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【「世界で最も豊かな過激組織」とは言いつつも・・・・
「イスラム国」が戦闘員をひきつけ急拡大できたのは、その「イスラムの大義」に加えて、戦闘員や武器・弾薬を確保するのに必要な資金力が豊かであったことが挙げられています。

****戦闘員流入「玄関口」トルコ 家族6人でイスラム国へ、計200ドルの給料得た一家****
人質の日本人2人を殺害すると脅迫したイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」にとり、トルコは、世界各地からの戦闘員を迎え入れる「玄関口」となっている。

世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシアからは100人以上がイスラム国に合流。ジャカルタを拠点とする紛争政策分析研究所(IPAC)のシドニー・ジョーンズ所長は、背景に「国境を越えた協力者とのネットワーク」の存在を指摘する。

戦闘員としてシリア入りを希望していたインドネシア人のアカン(仮名)が、知人を通じてイスラム国幹部の推薦を得たのは、昨年2月末のことだった。渡航は3月26日と決まった。(中略)

アカンが計画を打ち明けると、妻は「残されれば、希望する宗教教育を子供に与えられない」と、4人の子供を連れての同行を希望した。彼女も過激思想を受けてきた。

だが、アカンの手元にあったのは1人分の渡航費用千ドルだけだった。アカンは車と家電を売り、家族全員の渡航に十分な1万ドルを工面し出国した。

妻はイスラム教徒の女性が着用するヘジャブ(スカーフ)を外して飛行機に乗るなど、怪しまれないよう工夫した。

一行はジャカルタからドーハ経由でトルコの最大都市イスタンブールに到着。さらにシリア国境近くへ飛行機で飛び、国境の町アクチャカレに入った。

アクチャカレはイスラム国が「首都」とするシリア北部ラッカに近く、各国からのイスラム国参加希望者の拠点となっている。

3月28日、指定の宿泊先に予定どおりイスラム国連絡員がやってきて、アカンたちはベルギーやモロッコからの渡航者と合流、総勢25人で深夜の国境越えを試みた。トルコの国境警備隊に捕まるなど何度か失敗したが、数日後、有刺鉄線を乗り越えた。

トルコは対イスラム国有志連合に参加しつつも、イスラム国との直接対立は避ける姿勢をとっており、国際社会には批判もある。

アカンらが国境警備隊に見つかりながらも越境に成功した背景には、協力者の存在とともに、トルコのこうした態度があるといえる。

ラッカには2つの訓練キャンプがあり、直接戦闘に投入される部隊と自爆テロ部隊があった。アカンは5月下旬、戦闘部隊での2週間の訓練を終了し、制服や武器、給料、住居を与えられた。

給料は本人が月50ドル、妻に50ドル、子供1人あたり25ドルで計200ドル。インドネシアなら大金だ。

現在、アカンはイスラム国の陣地を守る日々を送る。妻は、イスラム国のメディア部隊を支援する活動に従事しているという。【1月21日 産経】
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国境管理のルーズさへの欧米からの批判に対し、トルコ外相は海外からの渡航者のうち「イスラム国」に参加すると見られる約7250人の入国をこれまでに拒否。国内に滞在し「イスラム国」の戦闘員となることを希望していると見られる1000人余りを国外退去させたとしています。

「世界で最も豊かな過激組織」とも称される「イスラム国」の資金源としては、石油の密売、徴税、外国人誘拐の身代金、支持者の寄付、遺跡盗掘品の密売などが挙げられています。

****豊富な資金力持つ「イスラム国」=収入源は石油密輸、徴税****
イスラム過激組織「イスラム国」は豊富な資金を背景にシリアとイラクで勢力を急速に拡大してきた。対イスラム国攻撃を主導する米国は収入源の一つであるシリアの製油施設への空爆などで弱体化を目指す。

だが、イスラム国は「領土」内から「徴税」収入を得る仕組みも構築しており、軍事作戦や経済制裁でその財政基盤に打撃を与えるのは困難だ。

イスラム国は、制圧した製油施設から産出された石油を周辺国に格安で密輸しているとされる。1日当たりの石油収入は200万ドル(約2億1600万円)に上るとみられている。

潤沢な資金で、最大3万人超の戦闘員に数百ドル以上の給与を支払い、戦闘員数を急激に増加させ、今や「世界で最も豊かな過激組織」とも称されるほどだ。

米軍などは24日、収入源を断つことを狙い、シリア東部でイスラム国が支配している製油施設12カ所への空爆を行った。

だが、イスラム国は、石油密輸以外にも、銀行強盗や外国人誘拐の身代金などによって資金を蓄えたほか、支配する「領土」での「徴税」や、営業許可料、道路の通行料などを徴収しているとされる。

国際社会はかつて、経済制裁で銀行や慈善団体など国際テロ組織アルカイダの主要な資金調達網に打撃を与えた。

しかし、イスラム国は「領土」から収入を得る仕組みを確立している。国際軍事情報大手IHSジェーンズのエバン・ジェンドラック氏はAFP通信に「経済制裁は外部からの資金流入を制限できるが、支配地域での資金調達を抑えるのは非常に難しい」と指摘する。【2014年9月26日 時事】
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徴税の実態はわかりませんが、やはり大きいのは石油密売ではないでしょうか。

遺跡盗掘品の密売は金額的には限られていますし、「イスラム国」の影響が国内へ波及するのを警戒してサウジアラビアなど中東湾岸諸国が対決姿勢を厳しくしている現在では、支持者の寄付もなかなか難しいのではないでしょうか。

外国人誘拐の身代金については、最近1年間で得たとみられる身代金収入の総額3500万~4500万ドル(推定額、約41億~53億円)と言われており、今回要求している2億ドルはその4倍以上に相当します。【1月21日 朝日より】

今回の身代金要求については、「イスラム国」の資金状態の悪化を反映したものではないか・・・との見方もあります。

****経済的な困窮が背景の1つ****
「イスラム国」の取材を続けている日本人のジャーナリストは、日本人2人が拘束されているとみられることについて、「イスラム国」の経済的な困窮が背景の1つにあるという認識を示しました。

これは、イラク北部のアルビルで、「イスラム国」からの難民などの取材を続けているアジアプレス・インターナショナル所属のフリーランスのジャーナリスト、玉本英子さんがNHKの取材に答えたものです。

「イスラム国」は豊富な資金力を持っているとされていますが、玉本さんは「『イスラム国』の支配地域から逃げてきた人たちの話では、一般市民を中心に『イスラム国』は経済的に非常に困窮しており、今回の事件に至ったとみられる」と指摘し、政治的な圧力に加えて資金を得るねらいが背景にあるという認識を示しました。(後略)【1月21日 NHK】
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最近「イスラム国」は拘束していたヤジディー教徒200人余りを解放しています。
これも、経済的負担が影響しているとも思われます。

****イスラム国、イラク北部でヤジディー教徒200人解放****
イスラム教スンニ派派の過激組織「イスラム国(IS)」は17日、数か月間拘束していたイラク北部のクルド系少数派ヤジディー教徒200人余りを解放した。大半は高齢者だったという。当局者と活動家らが明らかにした。(中略)

■拘束継続が負担に?
当局者はAFPに対し、今回の解放が大規模だったのは意外だと述べ、ISとの取引はなかったと述べた。

人権活動家は、「ISは(拘束したヤジディー教徒らが)負担になり、食事を与え世話することができなくなったのだろう」とコメント。

また、ヤジディー教徒で、昨年8月に国際社会に対して苦境を切実に訴えたイラク連邦議会のビアン・ダクヒル議員は、「ISは高齢者を拘束し続けることに何もメリットがないと考えた」との見解を示し、「ペシュメルガが日に日に巻き返している事実も奏功したに違いない。ISは圧迫され、再編を続けざるを得なくなっている」と語った。

ダクヒル議員によると、ISに依然拘束されている女性や子供は3000人前後とみられている。【1月18日 AFP】
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石油密売については、原油のようなかさばるものをどのようにして、誰に密売するのか・・・不思議です。
タンクローリーを使うのか、パイプラインを使うのか?
最近の原油価格下落の影響は?

いずれにしても、クルド・イラク、そして隣国トルコに協力者(賄賂などによるものを含めて)がいないと難しいのではないでしょうか。

今後、石油密売やトルコからの入出国について管理を厳格化できれば、「世界で最も豊かな過激組織」の資金源を断ち、戦闘員流入をおさえ、その活動も先細っていくことが考えられます。

トルコの対応がカギとなりますが、エルドアン大統領とアメリカなどの関係がギクシャクしているのはこれまでも取り上げてきたところです。

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