孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャ  25日総選挙で予想される「反緊縮」野党の勝利 緊縮財政の継続は?

2015-01-23 22:28:24 | 欧州情勢

(首相の座が近づいている急進左翼進歩連合(SYRIZA)ツィプラス党首(40) “flickr”より By Josef Zisyadis https://www.flickr.com/photos/zisyadis/16155970178/in/photolist-qBHZvC-qU8ihD-qBGF61-qUcju1-qBQtqF-qBGEkA-qRXUsA-pXfHUJ-qANSMc-pHxdd9-qTWgWK-qSVjc8-qAsZbe-qQ5zGs-qC7VwB-pVVbwN-qAuA22-qAmV4Q-qAuzXp-pW964g-qAmV7W-qAuA46-qRW4AQ-qS2aEo-qBDz4Y-qTY1ZM-qS5jCd-pXrHvK-qBDtrf-qRXHxE-qTV4HZ-qJZHUW-qBjxXh-qBjxMs-qBtgXT-qSJoFk-qAa2Au-qpNHe1-qKuWGe-qByF57-qAuA1R-qAkXfo-qSVj7i-qSQT1b-qBvJry-pXtnZg-qBPZBV-qt9KRe-qsrT5g-qGB4XJ)

【“賭け”は失敗 総選挙へ
ギリシャの政治動向については、昨年12月14日ブログ“ギリシャ 大統領選出前倒しという「危険な賭け」に出たサマラス首相”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141214で取り上げたところです。

ギリシャ経済の先行き不安が拭えないユーロ圏財務相会合は12月8日、サマラス首相が目指していた年末での支援終了について、2カ月間の延長を決定しました。

これでは首相は財政再建に道筋をつけたと胸を張ることができず、緊縮策に疲弊した国民の反発が政権に向かいかねない・・・・ということで、サマラス首相は大統領選出を前倒しして、早期の支援終了を目指す方針をアピールする方が得策だと判断しました。

しかし、議会内に十分な議席を有していない状況では、議会における大統領選出に必要な賛成票確保の目途はたっておらず、もし選出できなければ総選挙になってしまいます。
このため、大統領選出に打って出ることは政治的“賭け”でもありました。

結果、“賭け”は失敗。3回の投票でも大統領を選出できず、議会は解散。総選挙が今月25日実施されます。

【「反緊縮」を掲げる急進左翼が第1党へ
そして、総選挙の情勢は予想されていたように、これまでギリシャがEUなどと協力して進めてきた緊縮財政に批判的な野党が有利な戦いを進めています。

“ギリシャ経済は緊縮策の影響で景気が大きく落ち込み、政府債務危機後はマイナス成長が続いている。失業率は約25%で高止まりし、賃金は下がり、2年近くデフレが続く。アテネ経済大学のジョージ・パグラトス教授は「激しい景気後退で、多くの中流家庭が貧困層に転落し、何万もの中小零細企業が倒産した。国民の怒りが政府に向かい、急進左翼が不満をすくい取っている」と説明する。”【1月25日 朝日】

****ギリシャ、緊縮か転換か 25日総選挙****
世界が注目するギリシャの総選挙が25日に行われる。

増税の一方で公共サービスが削減され、国民の不満は高まっている。欧州連合(EU)主導のこうした緊縮策に反対する野党が第1党に躍り出る勢いだ。

ギリシャ経済が混乱すれば欧州危機が再燃しかねず、金融市場の緊張が高まっている。

 ■急進左翼が優位
「欧州諸国と衝突して金が得られるわけがない。急進左翼はうそつきだ。国をおぼれさせる危険な存在だ」。サマラス首相は18日の演説会で、第1党をうかがう勢いの最大野党・急進左翼進歩連合(SYRIZA)の名前を10回以上繰り返し、弁舌鋭く批判した。

ギリシャでは2009年、政府による債務隠しが明らかになり、国債価格が急落。欧州の債務(借金)危機の震源地となった。サマラス政権はEUなどの監視の下で緊縮策をとり、財政再建を進めてきた。

だが、消費増税の一方で、年金や給与のカットなど厳しい生活を強いられている国民の不満は大きい。地元紙の世論調査では、EU主導の緊縮策に反対する急進左翼が33%前後の支持率で、与党・新民主主義党の27%前後をリード。

地元メディアによると、急進左翼のチプラス党首は21日、南部パトラでの演説で「強い急進左翼はギリシャの自治を意味する。屈辱は終わりだ。破滅的な緊縮策は終わりだ」と述べ、単独過半数を獲得すれば経済危機を脱することができると訴えた。

野党に人気が集まるのは国民のいら立ちが背景だ。
アテネの市場で魚屋を営むルカス・ドゥカスさん(56)は「経済危機で売り上げは60%落ちた。市民を窒息させた政治家を一掃するため、急進左翼に投票する」と話す。

一方、失業中のスタブルラ・パパドプルさん(30)は「国と経済のためには、ユーロ圏にとどまるべきだ。急進左翼にはリスクがある」。現政権に不満はあるが、どこに投票するか決めかねている。

今回、第1党と予測される急進左翼も単独過半数は難しいとみられ、選挙後の連立交渉の行方は不透明だ。いずれの党も組閣に失敗すれば、総選挙が繰り返され、さらなる政治の不安定化を招く恐れもある。【1月25日 朝日】
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現在の支持率は、上記のようにEU主導の緊縮策に反対する急進左翼が33%前後で、与党・新民主主義党の27%前後を上回っています。

第1党は50議席の「ボーナス議席」を得られる制度のため、急進左翼進歩連合(SYRIZA)による単独政権の可能性もありますが、現状ではSYRIZAが中道政党と連立を組むケースの可能性が高いとされています。

ツィプラス党首 “現実路線”に軌道修正も
首相の座が現実味を増すなかで、SYRIZAのツィプラス党首(40)も、政権獲得後を見据えて“現実路線”に軌道修正しつつあるとも言われています。

“ツィプラス氏はかつて、ギリシャのユーロ参加を激しく批判したが、現在はこれを撤回し、自らの公約の中でも行き過ぎたものについてはトーンダウンしている。
しかしその一方で、2度にわたる救済策と引き替えに債権国から押しつけられた条件については、破棄が可能だと今でも考えている。”【英エコノミスト誌 2015年1月2日号】

****<ギリシャ総選挙>急進左派、現実路線に 投票まで1週間****
・・・・「欧州連合(EU)と約束した(経済的な)目標があるが、どのように達成するかは私たちの裁量だ」。ツィプラス党首は16日、アテネの集会でそう語り、あからさまな反EU姿勢は「封印」した。

同党は財政出動による景気回復などを掲げ、サマラス政権が進めてきた緊縮路線との決別を訴えて支持を集めてきた。

だが、ツィプラス氏は、13日の独紙インタビューで「我々の目標は、対立でも、新たな赤字の許可を得ることでもない」と、財政悪化を回避する姿勢を示唆。

2012年の前回選挙で掲げた「銀行国有化」や「北大西洋条約機構(NATO)脱退」など過激な政策も撤回し、ユーロ圏への残留も繰り返し明言している。

金融市場では、こうした歩み寄りを勘案し「最終的には妥協して緊縮策を継続するだろう」(大手証券)との見方も出ている。

EUでギリシャ支援を担ったレーン元欧州委員(現欧州議会副議長)は15日、米メディアに「ギリシャは債務返済期限の延長を検討するのが望ましい」と発言。国内総生産(GDP)の180%近くに達する債務の返済繰り延べによって、負担を軽減することが妥協点になりうるとの見方を示した。

ただ、EUは現在、ギリシャの支援継続を巡る審査のため融資を凍結しており、2月末までに交渉が始まらなければ支援の一部凍結や中断の可能性がある。ギリシャのハルドゥベリス財務相は米メディアの取材に「(債務不履行などの)不測の事態が生じ得る」と危機感を表明。不測の事態を嫌った預金流出で、16日にはギリシャの大手2銀行が中央銀行に緊急支援を要請した。

シンクタンク「ギリシャ欧州外交政策財団」のディミトリ・ソティロプロス研究員は、EUが債務危機後にユーロ防衛の仕組みを整えてきたことから「ギリシャ危機が起きても、ユーロ危機にはつながらない」と指摘するが、欧州全体が選挙結果を注視している。【1月19日 毎日】
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急進左翼進歩連合(SYRIZA)・ツィプラス党首の緊縮財政批判に対しては、緊縮財政による財政健全化を強く求めている、また、2009年のギリシャ危機以来、税金を投入してのギリシャ支援にうんざりしているドイツなどでは、「ユーロから出て行きたければ、どうぞ」「影響は大したことない」との脱ユーロ容認論も聞こえてきます。

ツィプラス党首もユーロ圏への残留を明言していますので、脱ユーロという破局はないと見られています。

****脱ユーロ圏、観測も****
最大の支援国ドイツでは3日、有力誌シュピーゲルが政府筋の話として「必要ならギリシャのユーロ圏離脱を独政府は容認する方針だ」と報道。メルケル首相やショイブレ財務相も、離脱の影響を「限定的」との見方で一致していると伝え、波紋が広がった。

メルケル首相は15日、独紙のインタビューに「ギリシャにユーロ圏にとどまってほしい」と語り、ユーロ圏の結束維持に全力を挙げる考えを強調した。

しかし、水面下で離脱に向けた準備が進んでいるという見方や、政府がメディアを使ってギリシャを牽制(けんせい)したといった観測が飛び交う。

背景には、09年からの欧州債務危機に比べ、それほど事態が切迫していないとの見方がある。債務危機を教訓に、EUを中心に財政難に陥ったユーロ加盟国を支える仕組みを整備。危機が広がる恐れのあったイタリア、スペイン、ポルトガルなども緊縮策を進め、立ち直りつつあるとされる。

独ハンブルク大学のカールウェルナー・ハンスマン教授は「ギリシャのユーロ圏離脱は自殺行為。独政府も本気では考えていないだろう。問題は総選挙で急進左翼が勝って債務削減を要求した時だ」と指摘。

ギリシャ救済に多額の税金が使われたドイツなどで国民の不満が高まり、反ユーロを掲げる右翼政党などが勢いづくとみる。【1月25日 朝日】
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ギリシャとドイツ 交渉はチキンレースに
ギリシャのユーロ離脱はすぐにはないものの、今後の交渉には不安は尽きません。
もし、総選挙結果がSYRIZAと中道政党と連立に収まれば、ツィプラス党首もそう極端な施策はとらないでしょう。

ただ、SYRIZAが“勝ち過ぎて”単独政権となった場合、歯止めが効かなくなる事態もあり得ます。
ツィプラス党首としても、現実路線をとるための“言い訳”がなくなり、公約に沿ってEUに強く出ざるを得なくなります。

連立政権になったとしても、厳しい交渉が待ち受けています。

****金融市場へ影響懸念***
金融市場は、ギリシャの総選挙の行方に神経をとがらせている。もし急進左翼が政権をとり、EUなどとの支援交渉が暗礁に乗り上げれば、債務不履行(デフォルト)やユーロ圏離脱に追い込まれるおそれがあるからだ。

欧州危機が再発しかねず、仮にそうなれば世界経済への悪影響は避けられない。

ギリシャは今年、巨額の国債の返済期限を迎えるため、EUなどの支援を引き続き受ける必要がある。いまの支援の枠組みは2月末に期限を迎えるため、新政権はそれまでに支援延長交渉を早期に決着させる必要がある。

ただ、「反緊縮」の急進左翼が第1党になれば、EUなどとの交渉が難航するのは必至だ。(中略)

一方、ドイツなどユーロ圏各国は、ギリシャ救済に自国民の税金をつぎ込んでいるため、緊縮策の継続は必要不可欠だ。

アテネ大学のアリスティディス・ハジス准教授は「交渉はチキンレースになるが、ドイツの車は優れている。衝突のダメージはギリシャの方が大きい」。ギリシャはデフォルトやユーロ離脱を避けるため、支援条件を受け入れざるを得ないとの見方だ。【1月25日 朝日】
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ツィプラス氏はギリシャをユーロ圏に留まらせたいとしているものの、現在の救済策に付帯している条件の大半を反故にする意向を示しています。

緊縮財政を終わらせ、最低賃金の切り下げや公的支出の削減方針を撤回し、資産売却も取りやめて、債務のほとんどについて支払いを拒否するという内容です。

巨額の債務がギリシャ経済の重しになっているのは間違いありません。デフレともなれば更にその負担は大きくなります。

ツィプラス氏が債務の再編を希望するのは無理からぬところもあります。が、債権国は受け入れがたい策です。

ギリシャをめぐる今後の交渉は、具体的には、緊縮財政維持を強く求めるドイツ・メルケル首相との綱引きになりそうです。

ギリシャの次期首相が現行政策を放棄するなら、メルケル首相はギリシャのユーロ圏離脱のリスクを取ってもいい、「どうしても債務支払いを拒否するならユーロを出ていってからにしろ。やれるものなら、やってみろ」というところでしょう。

「交渉はチキンレースになるが、ドイツの車は優れている。衝突のダメージはギリシャの方が大きい」・・・・確かにそうですが、ただ、ドイツの内情もそう楽ではありません。

一昨年2月に発足した新興右派「ドイツのための選択肢(AfD)」は昨年5月の欧州議会選で議席を獲得。その後の旧東独3州の議会選では、10%前後の得票率で州議会にも進出しています。

AfDの特徴は、不満の矛先を外部に向ける主張です。欧州議会選では、EUを批判し、ドイツのユーロ圏離脱を訴えました。州議会選では、移民増加による治安悪化を問題にしています。

フランスなどでのイスラム過激派テロによって、反イスラム感情、移民排斥の動きがドイツでも大きくなっており、「西洋のイスラム教化に反対する愛国主義欧州人(PEGIDA)」の勢力拡大なども見られます。

そうした状況で、更にギリシャ支援を続けるという選択はドイツ国内でのAfDなどの勢力を更に強めることにもなり、メルケル首相の選択の幅を狭めることも考えられます。

欧州中央銀行(ECB)は22日、国債買い入れ型の量的緩和(QE)実施を決定しましたが、ここでもドイツは、ギリシャ国債のような「不良債権」を買入れることは「財政赤字の穴埋めにつながる」し、デフォルトによって損失をこうむる可能性があるとして最後まで抵抗しています。

“ECBの金融緩和だけではデフレ懸念を払拭するのは難しい、との見方も金融市場では根強い。ドラギ総裁も最近、財政出動の必要性を訴えている。”【1月23日 朝日】と、欧州の経済事情も変わってきています。

****回復し始めた時が危ない****
2015年が近づく中、欧州の首脳の大半は、ユーロ危機の最悪の時期はもう過ぎたと思い込んでいた。ギリシャの解散総選挙により、こうした期待は早計だったことが露呈した。

明言しているかどうかはともかく、ユーロに反対の立場を取る左右両翼のポピュリスト政党が、多くの国で支持を集め続けている。

スペインでは世論調査でトップに立つ政党、ポデモスの党首が、12月最終週に入り、現政権を総選挙に追い込んだツィプラス氏の成功に歓迎の意を表明した。

皮肉なことに、ある国の経済が回復し始める時期は、国民の不満が頂点に達する時期でもある。この点は今、アテネだけでなくベルリンでも心に留められるべきメッセージと言えるだろう。【英エコノミスト誌 2015年1月2日号】
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