孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  アサド大統領「すべての戦争は、世界のどこで行われようと、政治的解決をもって終わる」

2015-01-29 22:09:31 | 中東情勢

(1月20日 ダマスカス インタビューに応じるアサド大統領 http://www.foreignaffairs.com/discussions/interviews/syrias-president-speaks
 
ロシア アサド政権と反政府勢力の代表をモスクワに招いて和平協議
5年目を迎えようとしている今も終わりが見えないシリアの内戦。

シリア情勢に関しては、連日のように「イスラム国」に関する情報が報じられており、特にここ数日は日本人人質の安否に関する情報が溢れています。

一方で、最近のアサド政権の政治的・軍事的動向に関しては殆ど報じられることがありません。
アサド大統領は今何をしているのか?

おそらく、国際的な批判が「イスラム国」に集中する状況で、せっせと反体制派やイスラム過激派との戦闘に精を出しているのでしょう。

こうした状況で、ロシアが仲介するアサド政権と反体制派の和平協議が26日、モスクワで始まりました。
複数の反体制派から約30人が参加し、アサド政権代表者も28日頃から合流するとのこと。

しかし、欧米が支援する反体制派「シリア国民連合」は参加していないため、成果が得られるかは不透明とされ、欧米メディアもあまり大きく取り上げていないようです。

アサド政権の後ろ盾となっているロシアのラブロフ外相は26日の記者会見で、和平協議について「国連主導の対話プロセス開始に向けた条件をつくり出すものだ」と述べ、仲介努力をアピールしています。【1月26日 時事より】

****ロシア 対「イスラム国」で連携呼びかけ****
ロシア政府は、シリアのアサド政権と反政府勢力の代表をモスクワに招いて和平協議を始め、ロシアのラブロフ外相は双方にイスラム過激派組織「イスラム国」との戦闘で連携するよう呼びかけました。

シリアではアサド政権と反政府勢力、それにイスラム過激派組織「イスラム国」の三つどもえの内戦が続いていて、混乱が始まった2011年からの犠牲者は20万人以上にたっしたとみられています。

こうしたなか、ロシア政府は、内戦の平和的な解決を目指すとしてアサド政権と反政府勢力の代表をモスクワに招いて28日から和平協議を始めました。

協議に出席したロシアのラブロフ外相は、「テロの脅威と戦うために力を結集することが不可欠だと認識することが、シリア国民の再統合に向けて重要だ」と述べ、双方に「イスラム国」との戦闘で連携するよう呼びかけました。

アサド政権の後ろ盾となっているロシアとしては、対「イスラム国」で政権側と反政府勢力が力を合わせれば、結果的に反政府勢力のアサド大統領に対する退陣要求が弱まるという期待もあるものとみられます。

ただ、今回の協議には欧米などからの支援を受ける反政府勢力の統一組織「シリア国民連合」は参加しておらず、対「イスラム国」で本格的な共同戦線が実現するかは不透明です。【1月29日 NHK】
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シリア情勢の改善・安定にとって、アサド大統領が最重要キーマンのひとりであることは言うまでもないことですが、そのアサド大統領は米『フォーリン・アフェアーズ』誌の単独インタビューに応じています。(http://www.foreignaffairs.com/discussions/interviews/syrias-president-speaks

かなりの長文ですので、私を含め英語が苦手な人間には、上記インタビューの日本語訳を掲載している青山弘之氏のサイト「シリア・アラブの春 顛末記:最新シリア情勢 」(http://syriaarabspring.info/wp/?p=17094)が助かります。

上記青山弘之氏のサイトによれば、アサド大統領は今回のロシア仲介和平協議について、次のように語っています。

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「モスクワで行われているのは、解決策に関する交渉ではない。それは(和平)会議の準備だ…。どのように対話を準備するかを交渉する。

会議について話し始める場合、その原則となるものは何か?… 一部のグループは、先ほど述べた通り、他国の操り人形だ…。

フランスをはじめとする多くの国は、会議が成功することには関心がない。
だから、彼らはこうしたグループに会議を失敗させようと命令を出している。

自分たちしか代表していない者、シリアの誰も代表していない者もいる…。

反体制派を一つの勢力だとして話す場合、誰が誰に影響力を及ぼしているのか? これが問題だ。

こうしたことはまったく明らかでない。だから楽観というのは大げさだ。ただ、私は悲観しているとは言いたくない。希望があると言いたい」。【青山弘之 氏 「シリア・アラブの春 顛末記:最新シリア情勢 」】(http://syriaarabspring.info/wp/?p=17094
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アサド大統領インタビュー 「穏健な反体制派」は“幻想”】
欧米が支援する「反体制派」について“誰も代表していない”と切り捨て、次のようにも語っています。

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反体制派とは国民的(愛国的)であるもので、シリア国民の利益のために活動することを意味する。

もしカタールやサウジアラビア、さらには米国をはじめとする西欧諸国の操り人形だとしたら、それは反体制派ではない…。

反体制派はシリアの反体制派でなければならない。

我々には国民的(愛国的)な反体制派がいる。私はこうした反体制派を排除しない。

すべての反体制派が合法的なわけではないが、国民的(愛国的)な反体制派と操り人形は区別されなければならない」【同上】
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“国民的(愛国的)な反体制派”が具体的にどのような勢力を意味するのかは定かではありませんが、決して反対者の声に耳を貸さないという訳ではない・・・とのことのようです。そのような“国民的(愛国的)な反体制派”であれば、毒ガスで虐殺したりもしないということでしょう。

また、欧米の支援する「穏健な反体制派」を“幻想”と揶揄もしています。

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「なぜあなたが言うところの「穏健な反体制派」、つまり我々が言うところの「反乱分子」がますます弱体化していのか? シリア危機の進捗がそうしているからだ。

5,000人を(米国が)外国からシリアに潜入させたが、そのほとんどは離反し、一部はイスラーム国に合流してしまう、こうしたことが去年実際に起こっている。だから幻想的だと言っているのだ。

5,000という数が幻想なのではなく、発想そのものが幻想なのだ」。【同上】
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アサド大統領が“幻想”という言葉を持ち出したのは、昨年6月段階でオバマ大統領自身が、同様ともとれるような発言をしているからです。

オバマ大統領はカナダのCBS(6月21日付)のインタビューで、シリア情勢に関してアサド政権を倒すことができる既存の「穏健な反体制派」が存在するという考えは誤りであるとしたうえで、これまでアサド政権の脅威に戦ってこなかった市民にアメリカが武器を供与したからといって、彼らがアサド政権やイスラム過激派と戦う姿勢に転じるだろうと考えるのは“幻想”(fantasy)に過ぎないと断じています。
http://www.cbsnews.com/news/obama-notion-that-syrian-opposition-could-overthrow-assad-a-fantasy/ より】

短い要約記事で不明確ではありますが、おそらくオバマ大統領が言いたかったのは、単に武器を供与しただけではどうにもならない、軍事訓練などを含めて行う必要があるということだったのではないでしょうか。

実際、この発言の直後の2014年6月26日、訓練や装備の提供などでシリアの穏健な反体制武装勢力を軍事的に支援するため、オバマ米大統領は5億ドル(約508億円)の拠出をアメリカ議会に対して求めています。

このオバマ発言を引き合いにして、アサド大統領は「穏健な反体制派」という考え自体を“幻想”と断じています。
少なくとも、今のままの反体制派ではどうにもならない・・・という点では両者は共通していますし、穏健派と過激派の線引きなどないとのアサド大統領の指摘も否定できません。

焦眉の急を要する案件である「イスラム国」による人質事件に関しても、下記のような報道があります。

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現地取材は困難を極め、どの反体制派と接触するか注意が必要となる。最も穏健な勢力ですら、アルカーイダ系とは言わないまでも過激派と関係を持ち、安易に信頼するのは危険だ。  

米中央情報局(CIA)は最近、穏健な勢力に送っていた活動費を削減した。この勢力が別の穏健派勢力への協力を拒絶したためとみられる。CIAですら信頼しない勢力を、記者たちが信頼するのは危険なことだ。【1月29日 産経】
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アサド大統領はアメリカに対しては、協調の可能性を探っているようにも見えます。

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「(米国による)さらなる関与とは軍事的な面に限られない。政治的なものが求められている。米国がどの程度トルコに影響力を行使できるかということだ…。

米国は、アル=カーイダを支援しないようトルコに圧力をかけているだろうか? 彼らは圧力はかけていない…。つまり軍事的な関与しかしていないのだ…。

また、第2に、軍事的関与について話すのであれば、米国高官は現場に部隊がいなければ、具体的な成果を得られないことを公に認めるべきだ。

現場でいったいどの部隊に依存しているのか?… シリア軍に依存しなければならないのは当然のことだ。ここは我々の領土であり、我々の国だ。我々が責任を負っている。我々は米軍に何も要請しない」。【青山弘之 氏 「シリア・アラブの春 顛末記:最新シリア情勢 」】(http://syriaarabspring.info/wp/?p=17094
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一方、トルコ、サウジアラビア、カタールに対しては、ヌスラ戦線やイスラム国への軍事面、財政面、兵站面での支援を行っていると厳しく批判しています。特にトルコへの批判は強いものになっています。

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「彼(トルコのレジェプ・タイイプ・エルドーアン大統領)は、アル=カーイダの基礎となっているムスリム同胞団のイデオロギーに属している…。彼は非常に狂信的だ。だから彼はイスラーム国さえも支援しちえる。今起きていることの責任は彼個人にある」。【同上】
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【「戦争は政治のツールの一つ」】
「イスラム国」やイスラム過激派は狂信的で協議の対象ともならず、「穏健な反体制派」の実態も“幻想”に近いとすれば、シリアの安定を協議する相手はやはりアサド政権でしょう。

アサド政権がこれまで行ってきたとされる虐殺・弾圧を考えると受け入れがたいようにも思えますが、少なくとも統治体制の実態を持ち、協議の対象となりえる思慮もあるようにも見えます。

仮に「穏健な反体制派」が勝利をおさめたとしても、その後のシリアに出現するすのは、イスラム過激派台頭を含む混乱でしかないでしょう。

「すべての戦争は、世界のどこで行われようと、政治的解決をもって終わる。なぜなら戦争それ自体は解決策ではなく、戦争は政治のツールの一つだからだ」。【同上】

まずは協力して「イスラム国」などの過激派を抑え、しかるのちに停戦を実現するという、シリア・アメリカなど関係国・反体制派など関係勢力の“政治的解決”が望まれるところですが、アサド政権との戦闘行為に存在理由をかけている反体制派、それを支援し、不都合な真実に向き合わないアメリカ国内保守派の存在を考えると、それもまた“幻想”のようでもあります。
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