孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス風刺週刊紙シャルリエブド 特別号で再度風刺画 自らの価値観を振りかざす行為は独善ではないか?

2015-01-14 20:36:00 | 欧州情勢

(1月12日 パリ 「表現の自由」を象徴する巨大な鉛筆を振りかざす人々 ただでさえ、宗教的・民族的感情に火がつきかねない現状で、「涙の預言者」は妥当だったのでしょうか? “flickr”より By Gilbert Hastert https://www.flickr.com/photos/gilbert_hastert/16263505835/in/photolist-qM9HF2-qFH6yP-qLZq3a-qM5tVm-qJs4L7-qviwSZ-qv8b1u-qtXQcq-qM5tUQ-pPCfau-qLBGVB-qLBGRZ-pPCf6m-qsqeCn-qJYJbd-qLBGBv-qvyP8A-qsMspz-pPRwwG-qswsv6-qvX8aK-qtXcKB-qvvDEU-qJLDxu-qvA9cW-qMHHqc-quFAPb-qu1rj4-pRcsZ4-qtNyZu-qu59wR-qK1dLM-qvkrzd-qLBGz6-qLBGNT-qLBGFt-pPPB76-qKDErX-qsoNEk-qu3qnU-qLmEER-qusCrz-pQwA5V-qLANxr-qLvegC-qsHV6D-qvGUg6-pQtSAB-pRASt2-qvBeS3)

作者「表現の自由は、条件や制限がついたものではない」】
テロ事件以降、初の発行となるフランス風刺週刊紙シャルリエブドの特別号は、早朝から売り場に行列ができるほどの大盛況だったようです。

****仏風刺紙、銃撃後初の発行=表紙に「涙の預言者****
フランス連続テロ事件以降、初の発行となる風刺週刊紙シャルリエブドの特別号が14日、発売された。同紙への共感を示すスローガン「私はシャルリ」と記されたプラカードを、イスラム教の預言者ムハンマドが掲げて涙を流す風刺画を表紙に掲載。

イスラム教では預言者の姿を描くことを禁じており、欧州のイスラム社会や、中東やアフリカ、アジアのイスラム圏で反発が広がる可能性がある。

同紙の発行部数は従来6万部で、実売はその半分程度だった。しかし、流通業者幹部がAFP通信に明らかにしたところでは、襲撃事件で世界的な注目が集まったことを受け、特別号は500万部を発行する。

仏、イタリア、トルコ語版は印刷して14日に発売。英、スペイン、アラビア語版は電子版の形で15日に発行する予定。表紙には「全ては許された」と記され、同紙襲撃の実行犯2人を皮肉る内容の漫画も掲載。襲撃後も従来の編集方針を貫いた。

特別号の発行を受けて、イスラム過激派が暴力行為に及ぶ事態も懸念される。フランスのイスラム団体は「静かに過ごし、感情的な反応を示すことは控えてほしい」と声明を出し、イスラム教徒に向けて冷静な対応を訴えた。【1月14日 時事】 
*********************

風刺画を描いた風刺画家のルス氏は、「表現の自由は、条件や制限がついたものではない」と、その正しさを主張しています。

****<仏連続テロ>「表現の自由、制限ない」風刺画家が会見****
仏週刊紙「シャルリーエブド」襲撃事件で、14日発行の特別号の表紙となるイスラム教預言者ムハンマド(マホメット)の風刺画を描いた風刺画家のルス氏らが13日、パリ市内で記者会見した。

ルス氏は、一部のイスラム教徒などが風刺画掲載続行に懸念を示している状況について、「表現の自由は、条件や制限がついたものではない」と述べ、風刺やユーモアへの理解を求めた。(中略)

14日の同紙表紙は、涙を流すムハンマドが、同紙を支持する「私はシャルリー」と書かれたプラカードを掲げる絵で、「すべては許される」との見出しを付けた。

ルス氏は会見で「私たちはようやくこの表紙を見つけた。これが私たちの表紙だ」と語り、批判や反発を承知の上で、議論の末に出した結論だったことをにじませた。ムハンマドについては「また描いたことは申し訳ないが、私たちの描いたムハンマドは涙を流す一人の人物だ」と説明した。

同紙の風刺画掲載継続の方針を受け、エジプトでイスラム教の解釈を示す政府機関ファトワ(宗教令)庁が13日、「15億人のイスラム教徒に対する挑発」と非難を表明するなど懸念の声が広がっている。

ルス氏は会見中、反対意見や批判を受け止めるユーモアの精神の重要性を繰り返し説いた。「表現の自由とは『しかし』が後に付く(制限付きの)表現の自由ではない」と訴え、「テロの実行犯は、ユーモアが欠如している」と言論を封殺しようとした行為を厳しく非難。そのうえで、「私たちは人々の知性を信じる。ユーモアの知性を信じる」と結んだ。(後略)【1月14日 毎日】
******************

別れる評価
フランス社会が重んじる普遍的価値観「表現の自由」は決して暴力的テロの屈することはないという決意表明でもありますが、イスラム社会の価値観を踏みにじる行為でもある今回の件には賛否両論があります。

フランス国内のメディアの多くがこの風刺画を転載するなど、概ね理解を示す傾向にあるのに対し、宗教問題に敏感なアメリカでは多くのメディアが転載を見送っています。

ニューヨーク・タイムズ紙は編集主幹は「読者、特にイスラム教徒の読者の受け取り方を考えて決めた。侮辱と風刺の間には境界があり、これらの多くは侮辱だ」【1月14日 朝日】と語っています。

そのアメリカメディアのなかで、風刺画を掲載したワシントン・ポスト紙は、あからさまで不必要な侮辱には当たらないと判断しています。

****仏紙のムハンマド風刺画掲載=意図的侮辱に当たらず―Wポスト紙****
米紙ワシントン・ポストは13日付の紙面で、フランス週刊紙シャルリエブドが同紙襲撃事件後の紙面で表紙に掲げたイスラム教預言者ムハンマドの風刺画を掲載した。宗教に対するあからさまで不必要な侮辱を意図する題材は載せないというワシントン・ポスト紙の編集方針に今回の表紙は反しないと判断した。
 ポスト紙の編集主幹マーティン・バロン氏は「単にムハンマド像の掲載自体が侮辱的だと主張したことはない」と話している。同紙はこれまでもブログにシャルリエブドの風刺画を掲載。先週はオピニオン欄にシャルリエブドのムハンマド風刺画を載せた。【1月14日 時事】 
*******************

しかし、ジャーナリストでつくる国際NGOは「過激主義者に屈しないとの主張は理解するが、何でも表現していいわけではない」と否定的です。

****配慮欠き、火に油」=預言者風刺画を批判―国際記者団体****
フランスの風刺週刊紙シャルリエブドが最新号で、「私はシャルリ」と書かれたプラカードを持つイスラム教預言者ムハンマドの絵を表紙に掲載したことについて、ジャーナリストでつくる国際NGO「プレス・エンブレム・キャンペーン」(本部ジュネーブ)は発行に先立つ13日、「緊張緩和が求められる時に配慮を欠き、火に油を注ぐ」と批判する声明を出した。

同団体は声明で、「過激主義者に屈しないとの主張は理解するが、何でも表現していいわけではない」と指摘。「表現の自由は相互尊重の中で制限される」と訴え、「プロの記者は中傷や侮辱を避けなければならない」と強調した。 
*******************

当然ながらイスラム社会には反発が広がっています。

****預言者風刺画を批判=スンニ派最高権威****
エジプトにあるイスラム教スンニ派の最高権威機関アズハルは13日、銃撃テロの被害に遭った仏週刊紙シャルリエブドの預言者ムハンマドを題材とした新たな風刺画について、イスラム教徒の「憎悪をかき立てる」と批判した。AFP通信が伝えた。

風刺画をめぐってはこれより先、アズハルと関係のある宗教権威「ダールイフタ」も「(世界の)15億人のイスラム教徒に対する正当化できない挑発だ」と非難していた。【1月14日 時事】
*******************

トルコの宗教問題を扱う行政機関の最高責任者のギョルメズ宗教庁長官も「イスラム教への侮辱はたとえ表現の自由の名のもとであっても決して許されない」という見解を示しています。【1月14日 NHK】

フランスのイスラム系住民からも「宗教をもてあそばないでほしい」といった声が出ています。

テロ事件を受けて、イスラム教徒が多数を占める中東の指導者からも暴力を非難する声が相次ぎ、パリで11日に行われたデモ行進には、ヨルダンのアブドラ国王やパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長が参加して、テロに抗議する姿勢を示しましたが、今回の挑戦的ともとれる風刺画掲載で、再びイスラム社会との溝が深まることも懸念されます。

他者への配慮を欠いた絶対的正義の主張は“独善”】
作者は「表現の自由は、条件や制限がついたものではない」と主張していますが、現実社会にあっては「表現の自由」は公序良俗やその社会が重んじる価値観によって制約を受けています。

****表現の自由、例外も****
山田健太・専修大学教授(言論法)の話 

表現行為に対する暴力が絶対に許されないのは言うまでもない。また、表現の自由が重要であることはどの国も変わりなく、世界の共通認識だ。その中でどのような例外を設けるかが、国によって変わってくる。

欧州における例外は人種差別表現だ。ナチス・ドイツによるユダヤ人排斥の反省から各国が戦後、法律によってこの例外を決めた。イスラム国家での例外は宗教に関すること。まさに今回の問題は例外をどう扱うかが問われている。

日本ではこの例外にあたる表現をあえて設けてこなかった。歴史的にはマスメディアが自主的に限界について「模範を示す」形で社会が合意してきた経緯がある。今回もほとんどのメディアが問題となった風刺画の掲載をしていないのは、そうした流れにあるものだ。【1月14日 朝日】
******************

日本では明確な線引きはないものの、例えば天皇・皇室に関する表現については、現実的には大きな制約が課されているように見えます。

個人的には、その件に関しては必ずしも現状を是とするものではありませんが、もし中国や韓国で天皇・皇室を揶揄する風刺画が出されれば、日本社会は「表現の自由」として見過ごすことはないように思われます。

「表現の自由」はフランスが重視する価値観ではありますが、その行使に当たっては、イスラム社会の宗教的価値観への配慮がやはり必要なのではないでしょうか。

自らの価値観を“普遍的”として振りかざす行為は、“独善”でもあり、“原理主義”でもあります。

ましてや、現在のイスラム社会と欧米社会の間に横たわる深い溝、そこから生まれるテロ・紛争などの様々な不幸、欧米社会で少数派として生きるイスラム系住民の苦しみを考えれば、「表現の自由は、条件や制限がついたものではない」と済まされる問題ではないように思います。

****尊厳認め合う必要****
長沢栄治・東大東洋文化研究所教授(中東地域研究)の話 

・・・・異なる価値観や宗教的背景を持つ人同士がわかり合うためには、人間の尊厳とは何かという点から議論を始めるべきだ。

絶対的正義が自分の側にあると一方的に押しつけるべきではない。尊厳を認め合うための文明間の対話を、恒常的に続ける必要がある。【1月14日 朝日】
****************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする