孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャ  「反緊縮」チプラス新首相とEUの両者とも譲れない「チキンレース」

2015-01-30 22:41:24 | 欧州情勢

(チプラス新首相にとって厄介なのは交渉相手のEUではなく、反EU感情に熱狂する支持者ではないでしょうか。
“flickr”より By Epoca Libera https://www.flickr.com/photos/epocalibera/16186995888/in/photolist-qEozW1-pYqk7T-jvFRoE-nHzff4-qVo4f5-prBMaL-cfXnis-fQx2ts-nLCvyj-pYdKoA-qG5n2A-qeooCR-qWPoR2-cgrFpw-pZY5JL-pQKpuw-qvbrnA-qMAivT-qvcfom-qvcfbh-pQKr3m-pQKqRu-pQKq8W-qKsELb-qMAhAB-qMAhnF-qviCda-qKsDP1-qvceEh-pQKrpo-pQKqXm-qviB7n-qMKyGk-qvcfCE-qMKxax-qMFjsd-qvbqYE-qvcf9y-qvbqr7-qWP4nB-bUF1Cr---dbwWML-qEoA1E-qE4LZJ-pYdKso-pg4Zsr-6XBvgn-qBU9CH)

【「先行きの不透明感が高まっている」】
ギリシャでは予想されたように「反緊縮財政」を掲げる急進左翼進歩連合(SYRIZA〈シリザ〉)が圧勝し、チプラス新首相(40)が誕生しまし。

****<ギリシャ>新政権 財政緊縮策の見直しに着手****
ギリシャのチプラス新首相(40)が就任早々、ユーロ圏などからの金融支援の条件となっている財政緊縮策の見直しに着手している。

27日に発足した新政権は、サマラス前政権時代に決まっていた電力・交通部門などの民営化計画の一部凍結を相次いで発表し、解雇された公務員を再雇用する方針を打ち出した。

チプラス首相は28日の初閣議で「(25日の総選挙で)国民から我々は尊厳を取り戻すよう委任を受けた」と強調。(1)緊縮策がもたらした「人道危機」の軽減(2)経済の再生(3)債務問題の解決(4)汚職摘発--を新政権の優先目標に据えた。

新政権は、サマラス前政権下で財政再建のために予定されていた主要港湾の民営化や、電力会社や原油精製施設の政府保有株の売却、高速道路や空港などの資産の売却といった計画を凍結すると発表。また、「不当解雇」された公務員を再雇用し、最低賃金を引き上げる方針を示した。

一方、ギリシャに緊縮策の実施を求めてきたユーロ圏と国際通貨基金(IMF)との関係についてチプラス首相は「衝突するつもりはない」と述べ、債務削減要求では「現実的な提案」を行う用意があると強調した。

チプラス首相は30日にアテネを訪れるユーロ圏財務相会議のデイセルブルム議長(オランダ財務相)と会談し、チプラス政権が求める支援交渉の「仕切り直し」について話し合う。バルファキス財務相は、成長・雇用重視路線を取るフランスとイタリアの財務相と近く会談する。

一方、米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は28日、チプラス政権の政策方針を受け、ギリシャの信用格付けを引き下げる方向で見直すと発表した。

理由について「新政権の政策が、ユーロ圏と前政権との(緊縮策の)合意に反している。支援交渉が頓挫すれば信用力が一段と弱まる」と説明している。

金融市場でも、今週に入ってからギリシャの主要株価指数が銀行を中心に15%も急落しており、「先行きの不透明感が高まっている」(英バークレイズ)状況だ。【1月29日 毎日】
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チプラス首相が緊縮財政をどの程度緩和・放棄するのか、国内総生産(GDP)比175%に上るギリシャの公的債務の減免・返済条件変更などをどこまでユーロ圏に求めるのか、その結果、債務不履行(デフォルト)やユーロ圏離脱という最悪のシナリオが現実のものとなるのか・・・これからの交渉次第です。

****新政権、EUと支援交渉へ 「進むも退くも地獄****
・・・そうした経済の苦境に国民の不満は高まり、25日の総選挙では「反緊縮」を掲げる急進左翼進歩連合の大勝につながった。急進左翼は政権につき、EUなどとの交渉で支援条件の変更を求める方針だ。

ドイツなど支援する側からすれば、税金を使って救済しているだけに、簡単には受け入れられない。ギリシャを特別扱いすれば、他の支援を受けた国にも影響が及ぶ。交渉が決裂すれば、債務不履行(デフォルト)やユーロ圏離脱に追い込まれるおそれもある。

公務員の労働組合「ADEDY」のスタブロス・コウチュベリス理事は「緊縮財政をやめ、EUなどからの借金の削減と返済期間の延期をすべきだ。ただ、国民の75%はユーロ圏残留を望んでいる。ギリシャは進むも地獄、退くも地獄という状況だ」と語る。

危機が続いているのはギリシャだけではない。ユーロ圏全体の昨年12月のインフレ率は09年10月以来のマイナスだった。デフレを防ごうと欧州中央銀行(ECB)は今月22日、国債などの資産を買って市場に大量のお金を流す量的金融緩和の導入を決めた。ユーロ圏各国の国債を買い始めるのは3月からだが、支援を受けている国には、財政再建の条件をつける方針だ。

ギリシャの銀行はECBからの資金供給で成り立っているだけに、「交渉で緊縮策を守るようギリシャに圧力をかけた」と市場では見られている。このままではギリシャ経済はじり貧だが、EUなどの支援がなければ破綻(はたん)しかねない。

アテネ商工会議所のコンスタンティン・ミハロス会頭は「ユーロ圏離脱に追い込まれれば、エネルギーや食料を輸入に頼るギリシャは大混乱に陥る。EUとの約束を守るしかない。これは、政党にとってではなく国全体の危機だ」と語る。

とはいえ、反緊縮で選挙に勝った急進左翼も、引けば国民の失望を買う。交渉は、両者とも譲れない「チキンレース」の様相だ。【1月28日 朝日】
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欧州がギリシャの債務減免に応じられない三つの理由
チプラス政権は欧州債務危機が起きて以来、ユーロ圏で初の反緊縮派政権です。
ユーロ圏との債務減免などの交渉に当たる重要ポストの財務相には反緊縮派経済学者のヤニス・バルファキス・アテネ大教授(53)が登用され、「反緊縮」路線を色濃く映し出した布陣となっています。

“チプラス首相は閣議の冒頭、EUとの交渉について、「公平で、互いの利益となる解決を求める。ギリシャの尊厳を回復するため、血を流す覚悟がある」と述べ、厳しい姿勢で交渉に臨む考えを示した。”【1月29日 朝日】

ただ、同じ発言は「ギリシャの尊厳回復へ心血を注ぐ覚悟だ」【1月28日 時事】とも。

“心血を注ぐ覚悟”ならまだ穏当ですが、“血を流す覚悟”となるとユーロ離脱も辞さず・・・といった話にもつながりかねない表現です。翻訳・通訳はときに非常に微妙な問題を惹起します。

それはともかく、【1月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】は、欧州がギリシャの債務減免に応じられない理由として3点をあげています。

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第1に、債務減免は欧州北部で政治的な反発を招き、極右政党と国家主義政党を強めることになる。

第2に、極左政党と反資本主義政党が欧州南部で信用を獲得し、ギリシャと同じような債務削減と社会支出の大幅拡大を強く求めるだろう。支出拡大は市場の信頼崩壊につながるものだ。

第3に、それがたとえ交渉によるデフォルト(債務不履行)だったとしても、ギリシャがデフォルトした場合に生じる欧州連合(EU)加盟国間の信頼の崩壊は、EUの結束を維持するのを難しくする。
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ドイツなど北部を中心に、欧州各国には自国の血税をギリシャ救済につぎ込むことには強い抵抗があります。
まして融資した資金の減免などという話になると、EUによる支援体制に反対してきたフランスの国民戦線(FN)やオランダの自由党など右翼・国家主義政党への国民の支持が一気に拡大することも考えられます。

****欧州北部での政治的反発*****
スウェーデン元首相のカール・ビルト氏は次のようにツイートして、欧州北部の反応がどんなものかを垣間見せた。「ギリシャのSYRIZAは、他のユーロ圏諸国の納税者がもっと多くのお金を払ってくれると約束することで選挙に勝った。いい根性だ」

EUの礎であるドイツの政治に対する影響も有害なものになるだろう。ここへ来て反ユーロの姿勢に移民への怒りを付け加えた「ドイツのための選択肢(AfD)」は間違いなく利益を得る。

アンゲラ・メルケル首相の最大の功績の1つは、フランスやオーストリア、オランダに存在するような極右政党がドイツで台頭するのを防いだことだった。その功績が今、危うくなっている。【1月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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一方、ギリシャ同様に緊縮財政・債務返済に苦しむ国が多い南欧では、もしギリシャ債務の減免が認められることになれば、極左勢力などがSYRIZAを成功例として賞賛し、自分たちも同様に・・・との思惑が広がります。

****南欧などで極左政党が台頭する恐れ*****
欧州の極左もSYRIZAに声援を送っている。債務の返済を拒み、緊縮を終わらせる簡単な方法があるという考えは、スペインやポルトガル、アイルランド、イタリアといった苦境にある国にとって極めて魅惑的に違いない。

もしSYRIZAがギリシャ債務の削減に成功したら、スペインのポデモス党やアイルランドのシン・フェイン党、イタリアの「5つ星運動」などの政党が支持を獲得するだろう。【同上】
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また、ギリシャ債務の減免措置はEU内部の信頼関係を著しく傷つけることになります。

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極端な政治思想への漂流や金融パニックが起きなかったとしても、ギリシャのデフォルトは深刻なダメージをもたらすだろう。EUは、すべての加盟国が他国も互いに対する支払い責任を尊重し、欧州の法律を順守すると確信して初めて本当の意味で機能する。その考えが決定的に損なわれたら、将来の取り決めを交渉するのはほぼ不可能になる。【同上】
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今のところは、EUなどの支援がなければ破綻しかねないギリシャにとってユーロ離脱はあり得ない(チプラス首相も最近は「離脱はしない」と言っています)、ギリシャ経済が混乱しても対応策が整備された欧州経済・金融へのインパクトは以前ほどではない・・・という見方が一般的なようですが、“両者とも譲れない「チキンレース」”は思わぬ方向に走る可能性もあります。

ロシア制裁を“人質”?】
そんな厳しい交渉のひとつでしょうか、チプラス新首相はEUのロシア制裁に異論を唱え、EUへの揺さぶりをかけているようです。

****<ギリシャ>EU対露制裁警告に親露発言「同意していない****
ギリシャのチプラス新首相(40)は27日、欧州連合(EU)加盟国首脳名で同日に出され、ロシアに追加制裁を警告した共同声明について「内容に同意していない」と述べた。政権はアテネにあるEUの出先機関に抗議した。

チプラス政権は親ロシア色を見せており、今後、制裁の維持に異議を唱える可能性もある。

EUでは、外交などEUの一般政策に異論を唱えることで、ギリシャが債務削減交渉を有利に運ぼうとするのではとの懸念も出ている。(中略)

EUは来月12日の首脳会議でロシア制裁を討議する予定。追加制裁には全会一致が必要で、ギリシャが反対に回れば実現しない。

EU外交筋は「債務削減交渉は厳しいため、ギリシャが他の政策に反対して“人質”に取るのではないか」と憂慮を示した。【1月28日 毎日】
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ロシア制裁については、ロシア禁輸措置で返り血を浴びる中東欧諸国には不満がありますので、EUを揺さぶる方策としては有効かも。

ロシアになびく欧州極右勢力
ギリシャ問題をはなれても、欧州各国の極右勢力などの「反主流」勢力とロシア・プーチン政権には緊密なつながりがり、これら勢力の今後の動向次第ではEUの意思決定にも影響してきます。

****ロシアと欧州極右の蜜月****
ヨーロッパの極右政党が次々とロシアを訪問 彼らと緊密な関係を結ぶプーチンの狙いは

昨年11月、ドイツの新興極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部2人が駐独ロシア大使館に招かれた。地元メディアの報道によれば、ロシアのウラジーミル・グリニン大使が2人に戦略的助言を与えたとされる。(中略)

この数力月前にも、グリニンはAfDの政治家2人と会談していた。昨秋にはロシア系のファースト・チェコ・ロシア銀行がフランスの極右政党「国民戦線」に940万ユーロの融資を提供。同党のマリーヌ・ルペン党首はモスクワを訪問し、ロシア政府高官と協議を行っている。

オーストリア自由党のハインツクリスティアン・シュトラッヘ党首も「信頼醸成のため」と称してモスクワを訪問。昨年10月にはイタリアの極右政党「北部同盟」のマッテオ・サルビニ党首がクリミアとモスクワを訪れ、「ロシアは対話を望んでいる」と発言している。

ハンガリーの第3党である「ヨッビク」はロシア政府と特に緊密な関係を維持している。同党を率いるガボール・ボナは昨年5月にモスクワで行った演説で、アメリカを「ヨーロッパの奇形の子孫」と呼んだ。また同党の外交政策を仕切るベラ・コバクスは「ロシアのスパイ」とされている。

そのコバクスは欧州議会議員(MEP)だ。ヨッビクからはほかに2人がMEPに選ばれている。またイタリアの北部同盟は5人、オーストリア自由党は4人、ギリシヤの「黄金の夜明け」は3人、スウェーデン民主党は2人、ベルギーの「フラームス・ベラング」は1人、そしてフランスの国民戦線は24人を欧州議会に送り込んでいる。

彼らに加えて、現在の欧州議会にはロシアに対して柔軟な姿勢を示すポーランドの「ノワ・プラウィカ」やイギリス独立党の議員もいる。今の欧州議会ほど「ロシアの友人」が集まる場所はほかにない。

欧州を内側から揺さぶる
「今ではMEPの5人に1人が急進的で少数派、非主流の政党に属している」と言うのは、政治資本研究所(ブダペスト)所長で欧州における急進派勢力とロシアのつながりに詳しいぺーター・クレコだ。「これらの政党と緊密なつながりを維持することで、ロシアはヨーロッパを内側から不安定化させることができる」

両者の「友情」は、聞き心地のいい言葉だけではない。昨春には主として急進的政党に属するMEPや政治家たちがクリミアに招かれ、ロシア編入をめぐる住民投票の監視に当たり、投票は「自由で公平」に実施されたと宣言している。(中略)

クリミアの監視団にはヨッビクのコバクスやフランス国民戦線のエイメリック・ショープレード、オーストリアのエワルト・スタッドラー、さらにはドイツ左翼党やオーストリア自由党のメンバー、北部同盟その他の極右・極左政党の複数のメンバーも含まれていた。(中略)

欧州議会の5分のIといえば、過半数には程遠いが、支持者を増やす急進政党は各国の世論を動かしている。「私たち主流派は動きが取れなくなっている」とエストニアのMEPで大統領候補になったこともあるインドレク・タラントは言う。(中略)

欧州議会や欧州会議における親ロシア派の増加がヨーロッパの結束を揺るがす一方、各国レベルではさらに明白に親ロシアの立場を取る急進政党もある。

ブルガリアの極右政党アタカ国民連合は、政府がロシアヘの制裁を支持するなら政府を転覆させると誓っている。今年行われた世論調査では、国民の40%がEUを支持したのに対し、22%がロシア主導のユーラシア連合支持を表明している。

ヨーロッパ各国の極右政党はどこも東欧からの移民を嫌っているから、ブルガリアがユーラシア連合に接近するのも不思議ではない。EU加盟を申請しながら受け入れられないセルビアもロシアの友情を求めている。(中略) 

プーチンは「反主流の星
各国の急進政党の中には、戦略的にモスクワに接近する党もある。ヨーロッパ統合の夢がぼろぼろになる一方で、ロシアの多岐にわたる友好戦略は一定の成功を収めている。

違法な方法でない限り、反主流の弱小政党がロシアと友好を築くことに問題はない。外国の政治勢力に影響力を行使するのは、アメリカや中国もやっていることだ。(中略)

フランス国民戦線のルペンも、ロシアから資金を借りたのはフランスの銀行が貸してくれないからだと言う。

AfDのルーズは、同党はロシアから資金も助言も受けていないと断言する。「私たちは国民戦線ほど過激ではないし、資金援助も不要だ」

それでも彼らがロシアになびくのは、プーチンのロシアが「反主流の星」に見えるからか。【2月3日号 Newsweek日本版】
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極右勢力とロシア・・・・単に欧州主流のEU路線と共に対立しているというだけでなく、個人の権利・利益が保証されるのであれば国家主権を制約しても統合深化を目指すEUに対し、あくまでも国家主権を重視するという点で共通した価値観を有しているように思えます。

****インタビュー)フランス社会の混迷 マリーヌ・ルペンさん****
「現代の世界を二分するのは、国家かグローバル主義かです。繁栄と治安とアイデンティティーを守るために国家を重視する考えと、国家など消え去ってしまえという考えとの対立です。ただ、グローバル主義とグローバル化は別の概念。(国家が世界と交流して繁栄を追求していくような)幸福をもたらすグローバル化は、もっと進めなければなりません」

「ソ連崩壊後の苦しい時期を経たロシアが、経済復興を成し遂げた姿には、頭が下がります。米国とは異なる国家モデルをつくり上げたロシアは、戦略的関係を結ぶのに値する偉大な国家です。にもかかわらず、(制裁を求める)米国の指示に従うから、欧州連合(EU)はロシアと冷戦状態のような関係しか持てないのです」

「日本はすばらしい。フランスが失った通貨政策も維持している。日本は(国民が自国の経済をしっかりコントロールする)愛国経済に基づいたモデルを示しています」【1月27日 朝日より】
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