孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾と中国の難しい距離感  再検討を迫られる与党・国民党、野党・民進党、そして中国

2015-01-22 22:24:06 | 東アジア

(1日 ワシントンの台北経済文化代表処に掲げられた「青天白日満地紅旗」 
中台関係が悩ましいのは、「台湾は中国の一部である」との中国の主張を認知 (acknowledgeであり、承認recognizeではありません)するアメリカも同様です。

台湾「国旗」掲揚に失望=米
台湾の在米大使館に相当するワシントンの台北経済文化代表処が1日、ワシントン市内にある旧中華民国大使公邸で「国旗」である「青天白日満地紅旗」の掲揚式を行ったことが6日、分かった。米国務省のサキ報道官は6日の記者会見で、台湾と米国の間で了解されていた行動規範を逸脱しており、失望していると表明した。【1月7日 時事】) 

国民党:新主席「2016年の総統選には出ない」】
昨年11月29日に行われた台湾・統一地方選で与党・国民党が惨敗した責任を取り、馬英九総統は12月3日、兼任する党主席を辞任しました。

これを受けて今月17日に行われた国民党主席(党首)選挙で、新北市長の朱立倫氏(53)が次期主席に当選しました。

53歳の朱氏は、先月の統一地方選挙で再選を果たし、6つの主要な市の中で唯一、国民党のポストを守り、次の世代のホープとされています。

****朱立倫氏、国民党主席に当選=総統選へ党勢回復が課題―台湾****
台湾の与党・国民党は17日、主席(党首)選挙を実施し、新北市長の朱立倫氏(53)が初当選を果たした。立候補は朱氏のみで事実上の信任投票だった。19日に正式に就任する。

任期は4年。朱氏は約1年後に迫った次期総統選に向け、低迷する党勢の立て直しを図る。

主席選は、昨年11月の統一地方選の大敗を受け、馬英九総統が兼任する党主席を引責辞任したことに伴い実施された。得票率は党員の直接投票導入後最高となる99.61%だった。

朱氏は統一地方選で新北市長に再選され、同党で唯一の直轄市長となった。次期総統選の最有力候補とみられていたが、主席選への出馬表明と同時に「2016年の総統選には出ない」と断言した。

党内基盤を固めた上で20年か24年の総統選に挑むのではといった観測が出ている。【1月17日 時事】 
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党首は引き受けるが次期総統選には出ない・・・・国民党の現状では次期総統選は戦えない、対中政策の再検討が必要という判断ではないでしょうか。

“北京に駐在する台湾人記者によれば、統一地方選で国民党が敗北した背景としては、サービス分野の市場開放を定めた中台の「サービス貿易協定」の批准を強引に進めようとしたことや、習政権が香港の民主化デモに対し強硬姿勢を示したことで、台湾民衆の間で「反中感情」が高まったことが挙げられる。”【12月3日 産経】

対中国接近を推進してきた与党・国民党は、中国との距離をどのようにとるのか、再検討を迫れています。

民進党:独立を明記した党綱領の「凍結」が議論に
中国との関係の整理を迫られているのは、統一地方選で地滑り的な大勝をおさめた野党・民進党も同様です。

民進党は党の綱領に「独立」を明記しています。
しかし、中国との経済関係なしに現在・今後の台湾経済はありえず、安全保障問題も含めて中国との関係を荒立てることは非現実的とも言える状況にあります。

そうした現状から、党綱領に明記されている「独立」について、はっきりと「凍結」すべきとの議論がありますが、一方で、独立の旗を降ろすのは・・・というところもあって、曖昧な形で処理されています。

この問題は昨年7月の党大会でも問題となっています。

****台湾独立の綱領凍結、議論棚上げ 民進党****
台湾の最大野党、民進党で、台湾独立をうたった党綱領の扱いをめぐる議論が起きた。

台湾統一を悲願とする中国との交流を進めるために凍結すべきだとの提案が20日の党大会であったが、蔡英文(ツァイインウェン)主席は議論の棚上げを決めた。

独立にこだわる支持者も多く、ないがしろにできない事情がある。

民進党は1991年に党綱領を修正し、主権が独立した「台湾共和国」の建国を掲げた。

その後、台湾を「すでに独立している」と位置づけ、台湾の前途は台湾市民で決めるとする決議文を採択。現在はこれを踏まえ、「改めて独立を唱える必要はない」との考えが主流になっている。

ただ、「台独(台湾独立)党綱」と呼ばれる条文自体は変えておらず、中国は強く警戒。中台の経済関係が緊密になる中、台湾社会には民進党が政権につけば中台関係が不安定になるとの懸念もあり、対中関係を重視する党員らが「凍結」を主張していた。

一方、同党内には「独立」の旗を降ろすことへの抵抗感も根強い。党大会では独立への行程表を求める提案もあり、議論に深入りすれば激しく対立する可能性もあった。

若い世代で「台湾は中国の一部ではない」との考えが強まっていることもあり、蔡氏は「審議時間が取れない」として執行部で議論を引き取り、事実上棚上げした。

これに対し、中国国務院台湾事務弁公室の報道官は21日、「台湾独立に活路はない」と批判。独立の主張を放棄するよう求めた。【2014年7月23日 朝日】
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「審議時間が取れない」という“棚上げ”で逃げただけですので、今後もことあるごとに議論が再燃することも考えられます。

****台湾野党が対中政策検討 独立掲げた党綱領の「凍結」が議題化の可能性も****
台湾の野党、民主進歩党は21日、台北市内の党本部で対中政策を検討する「中国事務委員会」を開いた。蔡英文主席が昨年5月に主席(党首)に就任してから初めて。

来年の総統選での中間票の取り込みに向け、今後は台湾独立を掲げた党綱領の「凍結」が再び議題に上る可能性がある。

この日は昨年11月末の統一地方選での躍進を受け、地方レベルでの中国との交流拡大の方針を決めた。

民進党は2012年の総統選で蔡氏が敗れた後に同委員会を設置し、敗因とされた対中政策の見直しに着手した。これまでの議論では、党綱領の凍結を求める意見も出た。ただ昨年1月の報告書では、独立を棚上げした1999年の決議文が「党の基本的な立場だ」と記述。綱領凍結問題は、昨年7月の党大会でも中央執行委員会の「預かり」となっている。

一方、中国当局は地方選で民進党が大勝した後も、綱領を問題視する姿勢を崩していない。

民進党は陳水扁政権下の2007年には独立色の強い決議文を採択している。識者からは、矛盾する内容を調整する新たな決議が必要だとの指摘も出ている。【1月21日 産経】
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中国:民進党の政権奪回もシナリオに
一方の中国も、従来は国民党・馬英九政権との関係を重視して中台接近を進めてきましたが、統一地方選での国民党大敗、次期総統選挙での民進党勝利の可能性から、台湾との関係の再検討を迫られています。

****中国、台湾野党も“両にらみ” 政権交代リスク視野に・・・****
台湾の与党、中国国民党と関係を拡大してきた中国共産党は、朱立倫新主席による対中政策の変化や、来年1月の総統選で国民党が敗北するリスクも警戒しながら、統一工作の指針として、最大野党の民主進歩党との関係にも配慮する“両にらみ”の戦術を進めている。

国営新華社通信の日刊紙、参考消息は19日付1面トップで「国民党の首脳交代は両岸関係に波及する」と評した。朱氏が昨年11月の統一地方選挙の大敗を受け、国民党の対中政策に今後、変更を加える可能性への懸念をにじませた。

中国からみれば、国民党政権による対中融和策の継続が台湾への工作のベースだった。だが、台湾の有権者の動向によっては国民党の中国離れや、民進党の政権奪回もシナリオに加えねばならなくなった。

朱氏の党運営を見極めながら、中国は今後、民進党など国民党以外の勢力をどう取り込んでいくかに関心を移す。

中国は手も打ってきた。2013年6月には国務院台湾事務弁公室の張志軍主任(閣僚級)が香港で、民進党の謝長廷元行政院長(首相)と会談。水面下では野党勢力とのパイプ作りも進めてきている。

中国の台湾問題研究者によると、08年に国民党が政権を奪還してから、共産党側は(1)台湾に貿易面でまず譲歩し、次に政治で統一工作を進める(2)アフリカや中南米などの国で台湾と外交関係の奪い合いを一時的に凍結する-といった政策をとってきた。朱氏が対中政策を変えれば、この政策も見直さざるを得ない。【1月20日 産経】
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メンツを潰された中国としては「つけあがるんじゃないぞ!」と言いたいところですが、中国が強硬な姿勢をとればとるほど、台湾の人心は中国から離れていくというのがこれまでの中台関係の歴史でもあります。

部外者的には、現在の政治情勢での中台統一なんてそもそもあり得ない・・・とも思うのですが、それは中国としては絶対に認められない考えです。
台湾としても、いたずらに中国を刺激することは避けたいところです。

はっきりさせると何かと角が立つので、曖昧な形での現状維持を・・・という立場に対し、原則を重視する左右両方が明確化を迫るというのは、中台関係に限らず、いろんな問題でも見られるところです。

与党・国民党、野党・民進党、中国・・・三者それぞれが中台の距離感について模索していますが、クリアにするのはなかなか難しい問題です。

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